JILPT『非正規雇用の待遇差解消に向けて』
JILPTの第3期プロジェクト研究シリーズNo.1『非正規雇用の待遇差解消に向けて』が刊行されました。No.1なのに出るのが3番目なのはなぜ?というのは楽屋落ち話なので、それはともかく、同一労働同一賃金が政治主導の一大重要課題となって、この秋にも法改正がされようとしているこの時期に、まさにふさわしい本が出ることになったと言えましょう。
http://www.jil.go.jp/institute/project/series/2017/01/index.html
生産年齢人口減少下の我が国で、非正規雇用労働者だけが増加し続けているなか、現在、非正規雇用労働者と正社員との間にある不合理な待遇差を解消し、同一労働同一賃金に近づけていく検討が強く求められています。本書では、正社員との賃金格差、能力開発、正社員への移行などの問題について、産業、企業の特性や共通する制度的要因を分析することで今後の非正規雇用労働者のありようを考えます。
目次をそれぞれの著者名をつけて示しておくと、
- 序章 非正規雇用の諸問題と本書のねらい 小野晶子
- 第1章 非正規化の要因を事業特性や雇用特性から考える 小野晶子
- 第2章 なぜ正規・非正規雇用者間の賃金格差が生じるのか 馬欣欣
- 第3章 非正規雇用者の能力開発 阿部正浩
- 第4章 どのような人事制度下で働いている非正規雇用者が将来に希望を持っているのか 森山智彦
- 第5章 転職による正社員転換と雇用の安定 高橋康二
- 第6章 非正規雇用者の組織化と発言効果 前浦穂高
- 結章 非正規雇用の待遇差の解消にむけて:まとめと政策示唆 小野晶子
編者である小野晶子さんによる結章の政策示唆というところが、恐らくいろいろと議論を呼ぶであろう大胆な議論を提起していますので、ちょっとだけ紹介しておきます。
・・・以上の知見と議論から政策示唆として言えることは、いかに非正規雇用を取り巻く制度を正社員のものに近づけていけるかということであろう。この両者の間の「障壁」は異なる制度の中に存在することから始まっている。
とはいえ、近づけるといっても、そんなに簡単にできるものではない。これから先も、職場の中は事業の中心となるコア人材とそれをサポートする人材に分かれることは組織として変わらないだろう。しかし、日本的雇用の崩壊の先にあるものは、二極化する働き方であったはならない。では、どうするか。非正規雇用から正社員へと、ブリッジングする制度、政策が考えられる。それは、非正規と正規の合間に存在する雇用形態を作ることで具現化される。・・・
・・・このような制度改変は、労働組合が非正規雇用者を組織化することでより現実味が出てくる。第6章の広電支部の事例で見たように、制度改変に伴って、必ず正社員と非正規労働者との間に利害対立が起こる。その時、会社と正社員と非正規労働者の間に立って利害調整する役割が必要になってくる。労働組合がうまく利害調整できれば、三者にとって有益な改変になるだろう。しかし、その利害調整を行う手腕や膨大な労力を考えると、労働組合が二の足を踏んでしまうのもわからなくもない。・・・
・・・非正規雇用が一時的・臨時的な労働力から基幹的な労働力としての存在感を増しているのであれば、その層には、職務や能力評価を伴う賃金制度の見直しや積極的な能力開発が必要になるだろう。非正規雇用者の能力が高まれば、正社員に移行することも現実味を帯びる。
不合理な待遇差を解消していくには、非正規雇用と正社員の間にある制度という「壁」を壊す-まではいかなくても低くしていく-必要があるだろう。同一労働同一賃金をめざす上で、正社員の雇用や賃金が切り崩されることが懸念されるなら、なおさら労働組合の関与は欠かせない。全ての労働者が公正な労働条件において、納得できるワークルールを作る役割を労働組合は求められている。・・・
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