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2017年7月23日 (日)

ドイツの労働者参加法はEU条約違反にあらず

去る7月18日、EU司法裁判所が注目されていた事件の判決を下しました。ドイツの集団的労使関係システムの一つの基軸をなす労働者参加法制がEU条約違反だという訴えを退けたのです。

判決文はこちらですが、

http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf;jsessionid=9ea7d2dc30d61d3ce382bb214649946dff78f76ef5f4.e34KaxiLc3qMb40Rch0SaxyMaNj0?text=&docid=192888&pageIndex=0&doclang=EN&mode=lst&dir=&occ=first&part=1&cid=83457

世の東西を問わず判決文というのは読みにくいものと相場が決まっているので、EU司法裁判所が作ったプレスリリースが比較的分かり易いので、そっちを見ていきましょう。

https://curia.europa.eu/jcms/upload/docs/application/pdf/2017-07/cp170081en.pdf

The German Law on employee participation is compatible with EU law

The exclusion of employees of a group, employed outside of Germany, from the right to vote and stand as a candidate in elections of employees’ representatives on the supervisory board of the German parent company is not contrary to the free movement of workers

ドイツの親会社の監督役会の従業員代表の選挙に投票し、その候補者として立候補する権利からドイツ国外で雇用されている従業員グループを除外することは、労働者の自由移動に反するものではない。

ドイツの監督役会(Aufsichtsrat)はしばしば監査役会と訳されていますが、日本のしょぼい監査役とは違い、執行役会(Vorstand)の上位にあってこれを監督する存在です。その監督役会に従業員代表が半分参加しているというのがドイツの労働者参加法制の特徴であることは周知のところですが、それに株主が文句をつけたという事案です。

その文句の付け方が、この企業グループの従業員のうちドイツ国内の親会社の従業員は監督役会の従業員代表の選挙権、被選挙権があるのに、ドイツ国外の子会社の従業員は、その国はドイツ風の労働者参加法制がないので、その選挙権、被選挙権がないのはおかしいじゃないか、国籍による差別であり、EU条約の保障する労働者の自由移動の原則に反するという、絡めてからのものであったわけです。

EU司法裁判所は結論としてこの訴えを退けているんですが、経済統合は熱心に追求してきた一方で、労働社会政策は控えめで、とりわけ集団的労使関係については加盟国の歴史と伝統を尊重してその調和化には極めて消極的であったことの一つの帰結がここにも露呈していると言えるのかも知れません。

Article 45 TFEU must be interpreted as not precluding legislation of a Member State, such as that at issue in the main proceedings, under which the workers employed in the establishments of a group located in the territory of that Member State are deprived of the right to vote and to stand as a candidate in elections of workers’ representatives to the supervisory board of the parent company of that group, which is established in that Member State, and as the case may be, of the right to act or to continue to act as representative on that board, where those workers leave their employment in such an establishment and are employed by a subsidiary belonging to the same group established in another Member State.

この判決を受けて、欧州労連は7月19日、欧州委員会は労働者参加に向けて行動すべきだという声明を発表しました。

https://www.etuc.org/press/ecj-ruling-commission-should-act-workers-participation-says-etuc#.WXSfaIjyjDd

The European Trade Union Confederation has already called for an EU framework for workers’ participation and says the ECJ ruling should prompt the European Commission to create EU rules on board-level representation as well as updated rules on information, and consultation of workers.

今から40年前の1970年代には、まさにドイツ式の労働者参加を義務づける欧州会社法案が話題になっていたのですが、その後一定の情報提供と協議は立法化にこぎ着けたものの、会社の最高決定機関に従業員代表の参加を義務づけるというドイツ型のシステムは、事実上アジェンダから捨てられて久しいのが実情で、欧州労連としてはここでもう一度訴えたいというところでしょう。

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コメント

この分野は全く素人同然ですが…ドイツの労働法制は(アメリカとも日本とも違い)大変興味深いですね。

件の事業所委員会の話はあまり分かりませんが、労働契約法制に関しては「労働協約」が法律と同等の効力を持って「職種/地域別賃金表」を作っている点、労組加盟有無に関わらず労働協約が多くの労働者(約7割)に広く適用されている点など、人事屋の観点から興味津々です。

ところで、これまで日本の雇用システムはすっかり社会主義的な特徴が強いものかと思っていましたが、昨今の非正規も含めた雇用社会全体のリアリティを見るにつけ、EUのソーシャル中心国ドイツよりもむしろ英米コモンロー寄りなドライな感じがするのですが、そこは実際の所どうなのでしょうか…。

投稿: 海上周也 | 2017年7月25日 (火) 18時03分

大陸欧州型ソーシャルでもなければ、アングロサクソン国型リベラルでもないと思います。
しいてゆうなら、日本特有のパターナル(温情)に基づいだ法制度なのではないのでしょうか。
日本では労働は契約関係では(少なくとも大企業を中心としたとした正社員には)観念されておらず、主従関係と観念されているのです。(是非は置きます)
労働法も、人的資源管理も高度に学んでいないので、理論的な裏付けはないのですが、この間ご紹介いただいた、マネージメント層に労組の役割を担わせるというのも、80年代までの日本社会(温情主義的労務管理)の星光に着想を得ているのではないのでしょうか?

ただ、それに該当しない非正規をふやし始めた時代から、日本型雇用は制度疲労を起こしていてリペア又はレストアが必要なことは間違いないと思います。

レストアが必要な箇所は、ジョブディスクリプション以前に、主従ではない契約関係の普及であり、正当な労使関係の構築であるのかもしれません。

投稿: 万年係員 | 2017年7月26日 (水) 23時43分

上記コメントありがとうございます。

封建的な身分社会から民主的な契約社会へ…このパラダイム変換は、いざイデオロギーとして大風呂敷を広げてしまうと個々人の力では全く太刀打ちできないアンコントローラブルな無理難題にしか見えませんが、こと雇用社会のルールあるいは自社の人事施策に関しては(超難解なパズルでも必ず取っ掛かりがあればいつかは崩せるように)、われわれ現在を生きている当事者たる人間が必要な施策を練り、意思決定していくことが出来るはず、すなわち「影響の輪」の中のコントローラブルな領域にあるものだと思いたいのです。

私の好きな英語に「on the same page」〜関係者全員を同じ頁(土俵)に載せる、お互いに共通認識をもつ〜という意味の慣用句があります。このHamachan ブログを通じて立場の異なる個人がワイガヤと議論を交わし、真っ当な共通認識にいたると嬉しいですね。

投稿: 海上周也 | 2017年7月27日 (木) 08時19分

念のためご参考まで~上記拙コメントで言及の「影響の輪」や「コントローラブル/アンコントローラブル」…は全て、有名な「7つの習慣」で議論されているテーマです。といいますのも本日、友人から「今回のHamachanコメントがややわかりづらい」という指摘がありましたので、同様に感じられたブログ読者のご参考にと思い、その出典を記載しました。

(追伸)もし未読の方で同書に興味おありの方は、拙ブログ life-work-rowing 「読書ノート~S・コヴィー「7つの習慣」を精読する」(3/25/2017 投稿)等をご参照下されば嬉しいですね。

投稿: 海上周也 | 2017年7月27日 (木) 18時17分

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