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2017年6月 9日 (金)

伊原亮司『ムダのカイゼン、カイゼンのムダ』

287333伊原亮司さんの『ムダのカイゼン、カイゼンのムダ トヨタ生産システムの〈浸透〉と現代社会の〈変容〉』(こぶし書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.kobushi-shobo.co.jp/book/b287333.html

27869994_1おそらく、以前伊原さんの『トヨタと日産にみる〈場〉に生きる力:労働現場の比較分析』(桜井書店)を読んだ感想をアップしたことがあるので、お送りいただいたのだと思います。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/post-52f2.html

今回の本はタイトル通り、トヨタ生産システム(TPS)に焦点を当てて、トヨタ自体におけるその発展の軌跡、一次下請への、そして二次下請への拡大、さらには多業種や公的機関などへの広がりを描き出したものです。

TPSとはシステムであり、全てがTPSで回っている限りうまくいくけれども、トヨタからの距離が大きくなるにつれてそういう条件は少なくなるので、どうしてもそこに無理が生ずる、という構造をうまく描き出していると思いました。

いい例が、二次下請のa工業所です。ここの受注先のほとんどはA車体であり、安定した注文を受けてきました。だからこそ、現場にものすごい無理を掛けるTPSをこなせてきたのです。ところが、オールトヨタ内のA車体の位置づけが変わり、A車体からの注文が激減し、a工業所は新たな受注先を開拓したのですが、日によって注文が大幅に増減するようになったため、カンバンシステムが大混乱に陥ったというのです。

トヨタというミクロコスモスの中にいる限り在庫を抱える必要はないし、それは厳しく禁止されるのですが、その外側と取引しようとすると在庫を抱えないと仕事が回らない。結果、長時間労働や人を急に増やして対応し、売上げの割に利益が出ず、この混乱の余波はA車体向けの部品にも及び、深刻な不良が流出したというのです。伊原さんは、

TPSは作り込まれたシステムであるがゆえに、作り方を変えようとすると「乗り換えコスト」が高くつく。それらの「コスト」は、作り方を半ば強要したトヨタやその大手取引先ではなく、弱小の下請企業が払わされるのである。

と述べています。

二次下請ですら、ミクロコスモスの内部というよりはこういう境界領域にいるわけなので、その完全に外側にいる企業が、カイゼンを称賛する人々の声に乗ってうかつに始めると、そのまわりは別にTPS化しているわけではないので、大体においてうまくいかず、失敗するというのが伊原さんの観察です。

トヨタがある程度の範囲までそういうTPSの世界を確立できるのは、トヨタに取引先や市場をコントロールする力があるからで、販売先にも生産・供給の平準化を受け入れさせる力があってこそ、在庫を最小限に減らしてもシステムが破綻しないのだ、というわけです。

このあたりは、テクニカルな面に着目したカイゼン論のほとんどすべてが見落としている重要なポイントであるように感じました。

本書の最重要論点はこれで、最後のところで若干論じられているTPSが現場に無理を強要していて「誰もが無理なく働ける職場」になっていないという、より労働論的な側面は、ちょっと触れただけの感じですが、そちらはむしろ前著の主要テーマでした。

はじめに トヨタ流の「ダイエット」

序章 先行研究の整理と本研究の課題
 1 問題関心―トヨタにならえ
 2 TPSに関する啓蒙書および先行研究の整理
 3 本研究の視座と課題―開発・導入・定着・拡散の過程を社会関係から捉え直す
 4 本書の概要

第一章 実践
 1 カイゼン活動
 2 カイゼンは自分の職場から始められるが

第二章 トヨタ本体におけるTPSの開発―解体と「再生」
 1 TPSの開発の経緯
 2 TPSの定着・普及活動の組織化―生産調査室(部)
 3 労働組合、現場労働者、他部署からの反発
 4 「信念」を持ったトップと「実行力」のあるリーダーとは
 5 マネジメントによる現場の解体
 6 マネジメント主導の現場の「再生」
 7 トヨタが標榜する「現場主義」の内実とは

第三章 一次下請企業の定着活動―強要と教育
 1 オールトヨタの協力体制
 2  TPSの導入事例
 3 トヨタ自主研究会―相互学習を通したTPSの浸透
 4 一次下請企業によるTPSの運営実態
 5 強要とフォロー、競争と相互学習―「上」から組織された「下」での定着努力

第四章 二次下請企業への導入事例―格差と包摂
 1 一次下請企業の協力会
 2 A車体工業の下請会社の事例―株式会社a工業所
 3 B製作所の下請企業の事例―株式会社b工業所
 4 TPSの浸透―ヒエラルキーの「末端」を支える人たちの視点から
 5 格差と包摂

第五章 「進化」―管理・協力体制の完成と「独り立ち」
 1 深化と拡張の力―解体と再生、強要と教育、格差と包摂
 2 管理の構造と協力の体制―一定の合理性
 3 「下」にかける合理化圧力の強化
 4 地道なカイゼンだけでは対処しきれない
 5 コミットメントと「独り立ち」との矛盾を押しつけられた現場
 6 地域社会も無理や矛盾を抱えきれない―企業城下町? 自殺の街?
 7 〈全体の成長〉という社会像の限界

第六章 地域社会への広がり―新自由主義時代のカイゼン
 1 カイゼン活動の概要
 2 導入手順
 3 TPS化を徹底できない事例
 4 TPS化活動を継続している事例

第七章 TPSの限界を乗り越える
 1 トヨタ流の〈モノ〉づくりのジレンマ
 2 限界を乗り越えようとする事例
 3 誰もが働けるトヨタの会社

終章 TPSを読み替えて、〈無理のない社会〉を展望する
 1 誰もが無理なく働ける職場づくり
 2 人の「むら」を受け入れる
 3 無駄の多義性―「含み」のある社会に

おわりに 〈現場の賢さ〉とは

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コメント

詳細はこれから本書をしっかり読んでみたいと思いますが…上で引用されている目次だけを見ても、仮にトヨタを日本企業、TPS をメンバーシップ型雇用と置き換えても面白いアナザーストーリーが語れそうです。すると、最終章の「誰もが無理なく働ける」「人のむらを受け入れる」もまた違った含意を帯び、トヨタ一社の分析を通して広く日本の会社全体のあり方を垣間見れる、極めて現代的なテーマへ変貌するかのようです。

想像するに、日本における名古屋(の特異性)は世界における日本のそれに近いかもしれませんので…。

>想像するに、日本における名古屋(の特異性)は世界における日本のそれに近いかもしれませんので…。

名古屋(尾張)というより「三河」ですね。

Executor殿

>名古屋(尾張)というより「三河」ですね。

江戸時代が現代日本人の考え方の基本になっている(織田信長(尾張出身)が本能寺で死ななければ、日本はもっと個人の能力重視の国になっていた)という意見もありますが、江戸時代の基礎を築いた徳川家康は三河出身ですね。

いまから20年前、ブリュッセルのEU日本政府代表部に勤務していた頃、カウンターパートの欧州委員会労働総局の連中が、レギュラシオン理論にどっぷりつかったフランス人が多かったので、何かというと、「トヨティズム」という言葉で日本型労働社会を語ろうとするので、「いや、トヨタは日本の中でも結構特殊なんだけど」と思ってもなかなかうまく伝えられなかったことを思い出します。
当時はまだ日本型モデルが結構注目を集めていた最後の頃で、日本経済のすごさの源泉がこれだみたいな感じで、やや一知半解気味に使われていたと思います。
その後日本が長期停滞にのたうつ中で、そういう関心もどんどん薄れていき、いまではトヨティズムなんていう言葉も殆ど使われなくなりましたが、それでも、他の日本企業が軒並み沈滞している中でトヨタだけは快進撃を続けてきたわけで、これを見ても、日本型モデルを代表する言葉としてトヨティズムとかオオノイズムとか言っていたフランス人エコノミストの浅さが露呈している感じです。
日本の大部分は日本型ではあっても、トヨティズムじゃなかったわけで。

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