« 勤務間インターバル導入企業2.2%@『労務事情』7月1日号 | トップページ | 建設業の労働需給システム »

2017年6月27日 (火)

大室正志『産業医が見る過労自殺企業の内側』

0885iこれは本屋で見かけてすぐ買った本です。著者の大室さんは産業医科大学を卒業後、産業医として活躍してきた方で、現在30社の産業医を担当しているミスター産業医です。その人が、時代にどんぴしゃの本を出すというのは出版戦略として見事という感じです。

http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0885-i/

時流に乗った本という印象ですが、第1章「産業医とは何をするのか?」で産業医についてきちんと説明し、会社と社員に挟まれた時にどう判断すべきなのかを正面から述べているなど、とてもしっかりした本でもあります。考えてみれば、産業医そのものを取り上げた新書本って今までなかったような。

「おわりに」で、残業上限規制批判論についてこう述べています。こういう冷静な議論が必要ですね。

・・・また残業上限規制を批判する人の中には、「好きでやっていること」を規制するのはナンセンスという意見も根強く存在します。この意見は一部賛同できる部分はありますが、制度というものは何を選択するにせよ必ずマイナス面を伴うものです。残業の上限規制にもマイナス面はあるが、しなかった場合のマイナス面と比較し、「どっちがマシか?」で判断する問題と考えるべきでしょう。これまで数多くの過労死・過労自殺を生んでしまった制度を改めることに対して、「好きでやっている人への抑圧になる」という意味で批判する意見には、社会全体の「どっちがマシか?」で考えた場合やはり賛同できません。・・・

・・・長時間残業もタバコと同様、エビデンスがはっきりしている「身体に悪い行為」です。タバコと同じく我々には一定程度、「身体に悪くとも行う自由」は保障されるべきだとは思います。一方でそれを公的に推奨したり、強制することを是とする雰囲気はあってはならないものであると考えます。

企業家が自分の意思で行う長時間労働はタバコと同じく、ある意味「嗜好品」ですが、公的に認められてしまった長時間労働は、非喫煙者に対して喫煙車両に乗ることを強制するようなものです。この辺りは「タバコのマナー」と同じく、今後、長時間労働に関しての「社会的相場感覚」が変化することを期待したいと思います。・・・

なお、大室さんが登場するこの記事も参照。

https://mirai.doda.jp/series/interview/masashi-omuro-2/(「好きで長時間働くのがなぜ悪い!」という人に産業医から伝えたいこと)

|
|

« 勤務間インターバル導入企業2.2%@『労務事情』7月1日号 | トップページ | 建設業の労働需給システム »

コメント

ご紹介にあった興味深い大室氏のウェブ記事より引用します〜

「時間は100だけど、仕事は200与えられたとします。もちろん「そんな与え方をしない」「人を増やす」が望ましいことは言うまでもありません。しかし、そうも言っていられないシチュエーションも現実的にはあり得ます。それをすべてこなそうと思ったら、解像度を下げる。もしくは優先順位をつけて、なにかを切り捨てなければなりません。その「重要でないこと」を切り捨てるというのが難しいんですよね。日本人は「不安になりやすい民族」と言われますが、時間があればあるだけ使ってしまう。時間があるから際限なくやってしまうんです。それにまじめな人が多いので、クオリティを下げようとは思わない。で、根詰めて倒れてしまうというケースが多いんです。日本人は時間をきっちり守って、遅刻には厳しいけど、終了時間にはルーズなんですよ。」(引用完)

さて、一見ご尤もと思われるこれらの指摘も、まさか日本人「全体」に当てはまるという訳ではありませんよね。では誰に&どこに一番当てはまるかと言えば、おそらく競争の厳しい環境(役所や大企業。大都会など)で働き、社内の人材多様性が少ない会社、そして無限定の「正社員」という所ではないでしょうか…。

私自身、今でこそグローバル外資系企業で働いて長く経ちますが、それでも新卒後最初10年のキャリアが財閥系日系化学メーカーの人事労務だったこともあってか、いまだに自分の働き方や意識が(メンバーシップ型の日本企業で働いた経験の乏しい)大多数の外資系社員とは離れて、マッチョな昭和テイストを引き摺っている自分を日々意識させられます。

思うに、オーバータイム(残業)とアニュアルリーブ(年休)に対する意識が外資系でかくも日系と異なるのは、日本経済の厳しい競争環境や人員不足のせいもあるでしょうが、自分のロールの責任範囲が「JD」という形でお互いに共有され、上司も部下もそれ(JDという名の個別労働契約)を日々必死に遵守しようとして努めているからです。

ニッポンの長時間労働や過労問題を日本の「文化」や「民族」に安易に帰着させるのではなく、今まさに彼らをそこまで駆り立てる「制度」や「約束/契約」に注目しなくてはなりません。

その点、現行の36協定見直しなどの残業上限規制に加えて、そもそも各人の労働契約に基づいて上司と部下が率直に話し合うことができ、会社は余計な仕事を易々と労働者にアサインしないことが肝要でしょう。

投稿: 海上周也 | 2017年6月27日 (火) 22時32分

受動喫煙での喩えは時宜にもかなって秀逸ですね

投稿: 万年係員 | 2017年6月27日 (火) 23時02分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/3288/70982565

この記事へのトラックバック一覧です: 大室正志『産業医が見る過労自殺企業の内側』:

» 6月からの「産業医」制度変更を労組は知っているだろうか [シジフォス]
下村都連会長の「反論」に切り込めないメディアに苛立つが、では労組のパー券の扱い等は、と問われるとさすがに自分も「パーティ禁止を」と答えるしかない(苦笑)ので、昨日に続いて<医療>を考える。6/1から「産業医」制度の運用が一部変更されたがほとんど話題になっていない。…というか、制度そのものに関心が少ない。しかし、本来は重要な責務があり、設置義務も課せられている。労働相談等では「ブラック産業医」にも遭遇することが多々ある。しかし労組内では労働安全委員会など以外では話題にならない。連合も旧総評の...... [続きを読む]

受信: 2017年6月30日 (金) 06時05分

« 勤務間インターバル導入企業2.2%@『労務事情』7月1日号 | トップページ | 建設業の労働需給システム »