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2017年6月 4日 (日)

『DIO』327号

Diodio 連合総研の機関誌『DIO』327号は「ポスト正規・非正規の労働課題~「個別化」に対応し働くものの自己決定を支援する改革へ」が特集です。

http://www.rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio327.pdf

特集記事は次の3本ですが、

労働者の主体的なキャリア形成を支援する法的課題 〜あらためてキャリア権を整理する 諏訪康雄

企業主導型キャリア管理から企業・社員調整型キャリア管理への転換の可能性 〜ジョブ型雇用・限定雇用の議論を踏まえて 佐藤博樹

有期雇用の無期転換への実務対応と期待される労働組合の取組と課題~無期転換は組織化の好機、現場対応が今後の方向を左右する! 棗一郎

ここではやはり佐藤博樹さんの論文を。

はじめの方は、例の三菱UFJリサーチ&コンサルティングの報告書をベースにした「ジョブ型論批判」で、後半はそれを踏まえての日本の雇用システム改革への示唆というところ。

やや長いですが、重要なことをさりげに語っているので、この節を引用しておきます。

4.日本の雇用システム改革への示唆

 日本では、ダイバーシティ経営やワーク・ライフ・バランスを実現することなどを目的として、雇用区分を多元化することでジョブ限定や勤務地限定など無限雇用の「限定雇用」化が提起されている(今野2012;「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会2014)。しかし、欧米4カ国の企業における雇用システムの実態は、日本との比較では、理念型としての限定雇用に近いと言えるが、理念型にすべてが該当するわけでない。とりわけ、職務記述書などで職務内容が詳細に規定され、従業員が担当する業務が事前に固定化されているわけではなく、必要に応じて柔軟に変更可能であった。この点は、日本の雇用システムにおける場合と同様と言える。また、職務記述書などで具体的に担当する業務を限定化・特定化することは、急激な企業環境の変化や技術革新などがある場合には難しい。そのため、日本で限定雇用を導入するために職務内容を限定化・特定化する場合でも、欧米企業と同様に、一般的・概念的・抽象的にならざるをえないであろう。日本においては、職務記述書などにより従業員が担当する職務内容が限定化・特定化されているわけではないものの、キャリア形成の実態を調べると、経理畑・営業畑・人事畑などの表現が使われることからも理解できるように、特定の職能領域に担当業務が限定されている場合が多い5。つまり、職能分野の限定化は、日本でも実態としては存在する。

 一方、欧米4カ国の企業では、企業内の異動について、会社が包括的な人事権を持って実施するのではなく、社員の同意が必要なことも明らかになった。社内公募や会社提案による異動のいずれにしても、企業内における従業員のキャリア形成は、社員の自己選択によっている。この点は、欧米と日本の雇用システムとの大きな違いと言える。言い換えれば、無限定雇用と限定雇用の違いは、企業の人事権のあり方による部分が大きいのである。

 以上を踏まえると、日本においても、従業員が担当する職務の範囲に関して職務記述書などで一般的・概括的・抽象的に規定することができれば、限定雇用のような自己選択型のキャリア形成の仕組みを導入できる可能性がある。それが実現できれば、担当する職務だけなく、勤務地も従業員の自己選択とすることができよう。さらに、職務記述書などによって従業員が担当する職務を一般的・概括的・抽象的に記述できれば、ブロードバンディング化した職務等級制度による賃金制度を前提にすると、日本の職能給制度をそうした職務等級制度へ転換することは、近年における職能給から役割給への移行などの動きも踏まえると、十分に検討に値すると考えられる。問題が、日本企業の人事が、従来の人事権を手放すかその点に大きな課題がある。

 他方で、欧米企業のように、職務内容を職務記述書などで一般的・概括的・抽象的に規定した内容を提示した採用や異動を日本企業で行おうとする場合には、新卒採用において大きなハードルが生じよう。日本企業は、担当する職務内容を明示せずに新卒を採用していることによる。この点に関して日本の企業における改革の選択肢は以下の2つであろう。1つは、欧米企業のような在学中のインターンシップと卒業後のトレーニング・プログラムを導入し、新卒採用者に関して職務内容を限定した採用に移行する方法である。もう1つは、現状の職務内容を限定しない新卒採用を継続し、採用後3年あるいは5年ほどの間は、会社が人事権をもち従業員に異なる部門や異なる職務を経験する機会を提供し、その後、企業と従業員で担当職務に関して調整・合意し、企業・社員調整型異動へ移行する方法である。この2つの方法では、後者の仕組みの方が現状からの乖離が少ないと思われる(海老原2013;2016も参照されたい)。

 以上を踏まえると、日本の雇用システム改革の鍵は、従業員が担当する職務内容(ジョブ)について、職務記述書などにより一般的・概括的・抽象的に規定された限定正社員を導入することに加えて、企業の包括的な人事権を基盤とした採用や異動(企業主導型キャリア管理)から、企業と従業員の間の調整・合意に基づいた採用・異動(企業・社員調整型キャリア管理)へと変革できるかどうかが課題となる。その際には、調整型キャリア管理の前提として、社員自身が自分の将来のキャリアを描けるかどうかが問われることになる。企業主導型キャリア管理が確立している日本の大企業から、社内公募での異動を主とするなど企業・社員調整型キャリア管理を採用している外資系企業に転職した社員へのヒアリングによると、希望するキャリアを実現するために、社内のキャリアに関する情報を収集し、常に空きポストを探すことに疲れるとの意見も少なくない。これは、雇用システム変革の過渡期の課題と言えるかもしれないが、無限定雇用から限定雇用への雇用システムの転換は、社員に新しい課題をもたらすことにもなろう。

 他方で、従業員が担当する職務内容について、職務記述書などで一般的・包括的・抽象的に記述され、かつ調整型キャリア管理へ転換した場合に、従業員が所定労働時間で仕事を終えて帰宅したり、転勤を必要とする異動を選択しなくなったりするかどうかは、従業員の価値観に依存する可能性が高い。この点は、さらなる検討が必要となろう。

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コメント

引用の佐藤俊樹氏の論考を興味深く拝読しました。忘れない内に思いつくポイントを少々…。

1) 「人事権を手放せるかどうか」という点
戦後型日本大企業の人事管理の根本思想は「動かせる人(総合職社員)」の次の社内ジョブを会社が探し、全社的に淀みなく彼らを動かすことでした。言わずもがな、大多数の社員を効率的に異動させて全社最適でジョブアサインするためには会社(人事部)が中央集権的に異動の運営権限を保持することが重要でした。すると、今後重要なポジションでジョブ型を導入していくとなると、従来と何が一番変わるかというと、労働者個人が自分自身の人事権(キャリア権)を「持たされる」という側面です。ただ、もしかすると未だ日本企業で働く大多数の社員(特に中高年)はそうした自分のジョブに関する自己決定権を持ちたくない、出来ることならいっそ棚上げして別の誰か他人(会社、人事部)に決めてもらいたいと感じている可能性もありますね。したがって、会社側が持ち続けて来た強大な人事権を部分的にも手放せるかどうかは、逆にそれを受け入れる(持たされる)労働者側の意識次第ということも言えるのかと。その点、ジョブ型の導入にあたっては、誰を対象にするかという考察を起点に、社内のどのポジションをジョブ型へ移行させるかという点が考察されるべきでしょうか。私見では、市場価値のある専門職(スペシャリスト)はもとよりマネジャーポジション(特に上位職)もジョブ型へ移行させ、広く社内外公募によって最適な人材をアサインしていくことがマネジメント上、望ましいと。ドラスチックな移行を避けるためには、例えば管理職の社内登用比率を80パーセントなどと数値目標で指標化し、外部人材の流入をうまくコントロールしていくのもありでしょう。

2)ジョブディスクリプションについて
たとえ社内の一部ポジションであっても人事部の管理対象の主体が従来の労働者(人材一辺倒)から、人と職務(人材とそのアサインメント)に移ることによる副作用は、ある一定年数を超えて「動かない」「動けない」総合職社員が大量に出てくることでしょう。すると、今後は「動かない、動けない総合職」社員を放置すると、一方で「動かせない一般職」社員との見分けなり人事管理が混同し、不公平感を助長するかもしれません。人材登用のポリシーを見直す必要があるでしょう。

投稿: 海上周也 | 2017年6月 5日 (月) 08時37分

日本企業の実情からすると、人事部が強力な人事権を発揮して従業員を各部署に配置している、というわけではないと思うのですよね。むしろ、人事部を含めた各部署の長が合議で決めている、という方が実情に近いのではないかと思います。

いわゆる「問題社員」や「ローパフォーマンス社員」の扱いで、各部署で押し付け合いの末、人事部預かりに、ということになったりするわけでして。まあ、若くて有能な人はどこも欲しがり、そうでない人はどこも遠慮する、ということですね。「はないちもんめ」の世界です。

新卒で最初に配属されたところの上司が最後の引き受け手となることが多く、その辺はまだまだ義理人情の世界ですね。その上司が異動になったり、退職したりすると、各部署の長の間で話し合いがなされ、上のようなことになるわけですね。

投稿: IG | 2017年6月 5日 (月) 22時25分

>現状の職務内容を限定しない新卒採用を継続し、採用後3年あるいは5年ほどの間は、会社が人事権をもち従業員に異なる部門や異なる職務を経験する機会を提供し、その後、企業と従業員で担当職務に関して調整・合意し、企業・社員調整型異動へ移行する方法

日本の現状からすれば、この方向性しかないでしょうね。しかし、これをまともに運用できるのは大企業だけでしょう。中小企業は欧米型の職務限定採用にならざるを得ないのではないでしょうか。そもそも中小企業は社内にそれほど多種の職務を内包していないでしょうし。高等教育における職業教育の拡大もこちらをターゲットにすることになるでしょうが、しかし学生の大企業志向は根強いでしょうから、どう水路づけるかが課題でしょうね。大企業が幹部候補生のみ職務無限定採用するとはっきり打ち出せば話は違ってくるでしょうが、「差別だ」という社会的非難がおこるでしょうしね・・・

投稿: 通りすがり2号 | 2017年6月 5日 (月) 23時20分

皆さんの様々な観点からのコメント、大変参考になります…。いずれにせよ「会社」主導の広範な人事異動という制度こそがメンバーシップ型雇用のキモですから、そこを一部でも見直すきっかけとなる職務記述書(ジョブ型)の導入と社内外への候補者ソーシングは従来の人事管理に新しい視野〜柔軟性と機動性をもたらすものと考えます。最近の雇用統計を見ても徐々に中高年の転職市場も活性化してきているようですから、変化が始まれば意外にあっという間にこれがデファクトになるのかもしれません。

ご指摘の通り中小企業こそ一早くジョブ型を導入して外部から積極的にマネジャーや専門職人材を取り込んでいくことが必要でしょう〜これももうすでに始まっているかとは思いますが。またどこにも動けない総合職(あるいは問題社員)の場合、外資系ではそのまま同じポジションで長く力を発揮して頂くかそれも難しい場合はPIPで合意退職ということになるかと…。

外資系&日本企業を問わず、社内である一定年数の経験を積んだ社員に対しては次の職務のアサインメントに関する主導権を少しずつ本人側に持たせ、(遅くとも40代になる前に)会社と社員との距離感を本来あるべき姿に調整していくことではないかと(抽象的な表現ですみません)…。

投稿: 海上周也 | 2017年6月 6日 (火) 12時16分

人は他人からお前は次にこの仕事をやれと言われてやるよりも、自らの意思で次はこれをやると決めたことの方に責任感と使命を持って(ズルせずに)最後までやり抜くもの…。この点、すなわち「自らの仕事に主体性を持って取り組む」ことは、これまでのメンバーシップ型とジョブ型の比較議論の際にあまり重要視されてこなかったようですが、なかなかどうして…実のところ、今後日本人の働き方の「中身」を今後議論したりエンゲージメントを高めたりする観点からも、本人の主体性を問うことは結構重要なポイントだと思うのです。

天才でもない我々多くの一般人は、各人のなすべき事、期待される仕事すなわちジョブを限定してあげた方が能力や関心を集中させることができ、経験やノウハウも蓄積され、生涯にわたってかえって実力を高めていくことが出来ます。

日頃、外資系の職場で働く多くの女性専門職を見るにつけ、このように感じています。

投稿: ある外資系人事マン | 2017年10月10日 (火) 21時02分

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