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2017年5月17日 (水)

池田憲郎『ロシア革命』

28232256_1 ロシア革命100周年で岩波新書から出た本ですが、ソビエト崩壊から四半世紀たったいま、そのソビエト崩壊後の1994年に大学を卒業した研究者によってまさに歴史として書かれた本という意味で、いろんな意味で面白く読めました。

「歴史として」というのは、もはや現代史ではなくなった、つまり単なる過去の事実の再構成ではなく、今日ただ今の政治的課題をめぐる対立軸をそのまま投影する素材としての、「歴史認識」という言葉がそのまま政治的な立場の選択を迫られるような、そういうひりひりした土俵から一歩も二歩も身をひいたような、そういう意味で言っています。

という言い方は、もしかしたら著者の池田さん自身はいささか心外かも知れません。「はじめに」や「おわりに」では、池田さん自身の問題意識が熱っぽく書かれています。

なのですが、でも池田さんの叙述のタッチは、もはや今日ただ今の政治対立のどっちに付くか付かないかというような、そんなある時期まではロシア現代史や中国現代史をほぼ全面的に覆っていたような、そういう空気から遥か遠くに来ているという感覚だけは感じられます。

おそらくある時期までであれば、反革命的カデット寄り史観とか日和見メンシェビキエスエル史観とかと政治的非難を浴びたであろうその叙述も、実のところ同情的というよりはむしろ哀れみに満ちた冷ややかさに溢れていて、近世の宗教戦争を描く筆致に近いものすら感じます。

本書の中で一番面白いのはコルニーロフの陰謀という名の下手な田舎芝居を描いているところですが、一国の首相と最高総司令官の間の笑劇じみた伝言ゲームが破局をもたらしていく姿を描くその筆致は、おそらく上の世代の研究者にはできないものなのでしょう。

池田さんは1971年生まれで、少なくとも大学学部生時代まではソ連という国が存在していましたが、その下には物心ついた時にはソ連なんてなかった世代が続々と続いています。

『団結と参加』を書く時に、労働組合関係で塩川著、下斗米著、辻義昌著などに一通り目を通したとはいえ、ロシア革命自体を描いた単著を読むのは、実は大学時代のE.H.カー以来なので、その間の時代の変化を強く感じた次第です。

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コメント

ロシア革命100年ということで、下斗米 伸夫さんの『ソビエト連邦史 1917−1991 』やら広瀬隆さんの『ロシア革命史入門 』やら、いろいろ出版されていますが、臨時政府破局の8か月に焦点を当てた池田さんの本書も、分かっているつもりになっていたロシア革命を異なった視点からとらえ返して新しい知見を提供してくれるような出色の内容だと思います。そういう意味では知っているつもりでいた日本近代史を再認識させていただいた三谷太一郎さんの『日本の近代とは何であったのか』や島薗進さんの対談本『愛国と信仰の構造』『近代天皇論』と同様に、大変参考になりました。まあロシア革命もやっと「歴史」になったのかとの感慨もありますが、日本の近代の方は、まだまだ生臭いですね。
ところでGuardianがTop 10 books about the Russian Revolution というのを紹介しています。選者がタリク・アリですから価値自由な学術的な選定とは言えないでしょうが、レーニンの4月テーゼも入っており、トップは何と言っても池田さんの本でも多く参照されているトロツキーの『ロシア革命史』です。
https://www.theguardian.com/books/2017/apr/12/top-10-books-about-the-russian-revolution-tariq-ali
『ロシア革命史』といえば、山西英一訳の角川文庫版6分冊がありました。これは英語版からの翻訳だったと思いますが、その後上中下の3分冊で同文庫から再版が出て、この版では山西さんが自らのトロツキーとの因縁についても訳者解題で触れていたと思います。残念ながらいまはどちらも絶版になっています。藤井一行さんがロシア語から訳した『ロシア革命史』5分冊が岩波文庫から出たのは冷戦も終了した前世紀末2000年のことでした。この本もいまでは手に入りにくいのかも。

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