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2017年5月

2017年5月29日 (月)

メンバーシップ型とルーティンタスク

28407975_1最近、AIと労働をめぐる議論が盛んですが、たまたま労働経済学者の山本勲さんの『労働経済学で考える人口知能と雇用』(三菱経済研究所)をパラパラと読んでいたら、大変興味深い一節がありました。

https://www.amazon.co.jp/dp/toc/4943852599

第1章 人工知能やロボットの普及による労働市場への影響
第2章 1980年代以降の技術革新と労働市場:観察事実と理論モデル(賃金格差の拡大とスキルプレミアムモデル
雇用の二極化の進展とタスクモデル)
第3章 人工知能やロボットなどの技術革新の労働市場への影響予測:AI技術失業仮説(タスクモデルに基づくインテリジェントICT化の労働市場への影響
AI技術失業に関する指摘
AI技術失業説の留意点)
第4章 日本の労働市場の特性と技術革新との関係(日本の労働市場でのRoutinization仮説
日本的雇用慣行とインテリジェントICT
非正規雇用とインテリジェントICT
インテリジェントICTの利活用と雇用
超高齢社会におけるインテリジェントICTの利活用)
第5章 結びに代えて(これまでの議論のまとめ
今後の研究課題と若干の政策含意)

山本さんは黒田祥子さんと一緒に『労働時間の経済分析』(日経新聞社)を書かれ、先日の産業衛生学会のインターバル規制のシンポジウムでも壇上でご一緒しました。本書はタスクモデルに基づいてAI等が労働市場に与える影響を分析していますが、特に第4章において、日本の雇用特性に着目して分析がされています。そこで、「メンバーシップ型」概念が使われているのですが、他の多くの本が、基本的にわたしの概念をそのまま説明概念として使っているだけなのに対して、それをタスクモデルと組み合わせて、大変スリリングな説明を引き出しています。

・・・こうした日本的雇用慣行の存在は、日本の労働市場でルーティンタスクが他国よりも多く残されている理由の一つになっていると考えられる。というのも、技術革新によって正規雇用者のルーティンタスクが代替されうる状況にあったとしても、ルーティンタスクに従事する正規雇用者を解雇すると、解雇費用が生じるとともに、それまでに人的投資した費用が埋没化するため、企業にとって新しい技術で正規雇用者を代替することは必ずしも合理的ではないからである。

前章で述べたように、IT資本との代替可能性は、タスクの遂行能力だけでなく、新しい技術の価格が労働者の賃金を下回るかによって決まる。ただし、日本的雇用慣行によって既に企業特殊的人的投資を受けた労働者のタスクを新しい技術で代替する場合には、解雇費用や人的投資の埋没費用といった雇用の調整費用(あるいはスイッチングコスト)が生じるため、新しい技術の価格低下はもっと必要になる。このために日本ではルーティンタスクのITによる代替が必ずしも本格的に起こらなかったと考えることができよう。つまり、日本的雇用慣行のある企業では長期的な人材育成を行っているため、IT技術革新の影響が雇用には生じにくかった可能性が指摘できる。

さらに、日本的雇用慣行の下では正規雇用者がジェネラリストとして働くことが多く、一人の正規雇用者が多様なルーティンタスクとノンルーティンタスクを様々な組み合わせで遂行していると考えられる。日本の正規雇用者の仕事は、欧米と違って明確なジョブディスクリプション(職務記述書)が雇用契約で示されていないことが一般的であり、正規雇用者は様々なタスクを柔軟にこなすことが求められる。濱口(2013)などではこうした仕事の進め方を「メンバーシップ型」と整理し、遂行するタスクが予め決められている欧米の「ジョブ型」と区別している。

ジョブ型の雇用システムの下では、タスクと労働者の対応が明確なため、技術革新によってルーティンタスクがITで代替できるようになると、そのルーティンタスクを担当している労働者を解雇してITを導入することが容易にできる。これに対して、日本の正規雇用のようなメンバーシップ型の雇用システムの下では、タスクと正規雇用者の紐付けが曖昧なため、雇用者をITにそのまま置き換えることが難しい。つまり、タスクと労働者との対応が複雑になっていることも、日本的雇用慣行のある企業でIT技術の代替が進みにくかった要因になっていた可能性がある。

情報技術革新と雇用の問題は今まで何回も議論がブームになったことがありますが、とりわけ1980年代のME(マイクロエレクトロニクス)が話題になった頃の議論の主流は、日本型雇用慣行はジョブを明確にしないがゆえに、それゆえにこそ、欧米と違って労働者が技術革新に抵抗せず、すいすいとロボットも導入できるんだ、日本型最強!というようなものでした。

日本型雇用システムの中身についての説明はその時と全く何も変わっていないのに、技術革新への適合性のプラスマイナスの符合が、符合の向きだけが、きれいに正反対になってしまっている点が、30年前頃の「日本型雇用こそ技術革新に適合的な未来型雇用だ」という議論も覚えている年齢の人間からすると、何とも言えず感慨深いものがあります。

しかし山本さんは、日本型雇用の下でのこの「遅れ」は、あるところまで行くと一気に進むと予測します。

・・・しかしながら、ITよりもさらに技術革新が進み、AIやロボットなどのインテリジェントICTが低価格で利活用できるようになると、日本的雇用慣行のある企業でも、正規雇用者とインテリジェントICTとの代替が進むことは十分に考えられる。短期的にはITのときと同様、人的投資からのリターンを回収する前に正規雇用者を代替することは企業にとって得策ではないため、インテリジェントICTが正規雇用に与える影響は日本では当面少ないと予想される。しかし、インテリジェントICTの価格が十分に低下し、正規雇用者への人的投資を埋没費用化させたとしてもインテリジェントICTを導入する方がトータルのコストが低くなれば、正規雇用者の代替は生じることになる。また、スピードの早い技術革新が起きることで、それまでに企業が人的投資した正規雇用者のスキルが通用しなくなることもあり得る。そうしたスキルの陳腐化が生じれば、人的投資からのリターンの回収はそもそもできなくなるため、正規雇用者との代替を阻む理由がなくなる。

加えて、インテリジェントICTが多くの企業に普及することで、必要となる労働者のスキルが企業特殊的なものでなくなり、AIやロボットを利活用しながら仕事を進める一般的なものになる可能性もある。そうなると、労働者のスキルはどの企業でも活用できるため、雇用の流動性が高まり、日本的雇用慣行そのものが崩壊し、正規雇用者とインテリジェントICTとの代替が進むとも予想される。

つまり、短期的には日本的雇用慣行が存在するために、日本の労働市場では正規雇用者とインテリジェントICTの代替可能性は低いと予想できるものの、中長期的には、一気に代替が進むリスクを抱えていると整理できる。特に留意すべきは、ITやインテリジェントICTとの代替が遅い分だけ、正規雇用者の従事するルーティンタスクが多く残されていることである。このため、今後の技術革新によって日本でもインテリジェントICTへの代替が進められるようになった際には、その影響度合は欧米諸国よりも甚大なものになる可能性がある。

この将来予測がどこまで的中するかどうかは別として「ITやインテリジェントICTとの代替が遅い分だけ、正規雇用者の従事するルーティンタスクが多く残されている」という指摘は、どきっとするものがあります。

『EUの労働法政策』好評につき増刷

33565524しばらく品切状態でしたが、拙著『EUの労働法政策』が好評につき増刷されました。

http://www.jil.go.jp/publication/ippan/eu-labour-law.html

ご好評いただき増刷しました! ご注文を承っております

着実に進展を続けるEUの労働法について、労使関係法や労働条件法、労働人権法など労働法政策に係わる最新情報に基づき全体像がわかるよう1冊にまとめた決定版

詳細な目次は以下の通りです。ご関心に合うところがあれば幸いです。

目次
 
第1章 EU労働法の枠組みの発展
 第1節 ローマ条約における社会政策
  1 一般的社会規定
  2 ローマ条約における労働法関連規定
   (1) 男女同一賃金規定
   (2) 労働時間
  3 その他の社会政策規定
   (1) 欧州社会基金
   (2) 職業訓練
 第2節 1970年代の社会行動計画と労働立法
  1 準備期
  2 社会行動計画指針
  3 社会行動計画
  4 1970年代の労働立法
  5 1980年代前半の労働立法
 第3節 単一欧州議定書と社会憲章
  1 単一欧州議定書
   (1) 域内市場の確立のための措置
   (2) 労働環境のための措置
   (3) 欧州労使対話に関する規定
   (4) 労使対話の試みとその限界
  2 1980年代後半の労働立法
  3 社会憲章
   (1) 域内市場の社会的側面
   (2) 社会憲章の採択に向けて
   (3) EC社会憲章
  4 社会憲章実施行動計画
  5 1990年代初頭の労働立法
   (1) 本来的安全衛生分野の立法
   (2) 安全衛生分野として提案、採択された労働条件分野の立法
   (3) 採択できなかった労働立法
   (4) 採択された労働立法
   (5) 非拘束的な手段
 第4節 マーストリヒト条約付属社会政策協定
  1 マーストリヒト条約への道
   (1) EC委員会の提案
   (2) ルクセンブルク議長国のノン・ペーパー
   (3) ルクセンブルク議長国の条約案
   (4) 欧州経団連の方向転換と労使の合意
   (5) オランダ議長国の条約案
  2 マーストリヒト欧州理事会と社会政策議定書、社会政策協定
   (1) 社会政策議定書
   (2) 社会政策協定
   (3) 対象事項
   (4) 労使団体による指令の実施
   (5) EUレベル労働協約とその実施
   (6) その他
   (7) 附属宣言
  3 社会政策協定の実施
   (1) 労使団体の提案
   (2) 社会政策協定の適用に関するコミュニケーション
   (3) 欧州議会の要求
  4 1990年代中葉から後半の労働立法
   (1) マーストリヒト期の労働立法の概要
   (2) EU労働協約立法の問題点
 第5節 1990年代前半期におけるEU社会政策の方向転換
  1 雇用政策の重視と労働市場の柔軟化の強調 
   (1) ドロール白書
   (2) ドロール白書以後の雇用政策 
  2 社会政策のあり方の再検討
   (1) ヨーロッパ社会政策の選択に関するグリーンペーパー
   (2) ヨーロッパ社会政策白書
  3 中期社会行動計画
 第6節 アムステルダム条約
  1 アムステルダム条約に向けた検討
   (1) 検討グループ
   (2) IGCに向けたEU各機関の意見
   (3) 条約改正政府間会合
  2 アムステルダム条約
   (1) 人権・非差別条項
   (2) 新・社会条項
   (3) 雇用政策条項
 第7節 世紀転換期のEU労働社会政策
  1 社会行動計画(1998-2000)
  2 世紀転換期の労働立法
   (1) ポスト・マーストリヒトの労働立法の特徴
   (2) ポスト・マーストリヒト労働立法の具体例
   (3) 人権・非差別関係立法
   (4) 欧州会社法の成立
 第8節 ニース条約と基本権憲章
  1 ニース条約に向けた検討
   (1) 欧州委員会の提案
   (2) 条約改正政府間会合
  2 ニース条約
   (1) 人権非差別条項
   (2) 社会条項
  3 EU基本権憲章に向けた動き
   (1) 賢人委員会報告
   (2) EU基本権憲章を目指して
   (3) EU基本権憲章
 第9節 2000年代前半のEU労働社会政策
  1 社会政策アジェンダ
   (1) 社会政策アジェンダ(2000-2005)
   (2) 社会政策アジェンダ中期見直し
  2 2000年代前半の労働立法
   (1) 労使団体への協議と立法
   (2) 自律協約の問題点
   (3) 人権・非差別関係立法
 第10節 EU憲法条約の失敗とリスボン条約
  1 EU憲法条約に向けた検討
   (1) 社会的ヨーロッパ作業部会
   (2) コンヴェンションの憲法条約草案とEU憲法の採択
  2 EU憲法条約の内容
   (1) 基本的規定
   (2) 基本権憲章
   (3) EUの政策と機能
  3 EU憲法条約の蹉跌とリスボン条約
   (1) EU憲法条約の蹉跌
   (2) リスボン条約とその社会政策条項
 第11節 2000年代後半以降のEU労働社会政策
  1 新社会政策アジェンダ
   (1) 社会政策アジェンダ
   (2) 刷新社会政策アジェンダ
  2 フレクシキュリティ
   (1) 「フレクシキュリティ」の登場 
   (2) フレクシキュリティのパラドックス 
   (3) フレクシキュリティの共通原則とその後
  3 労働法の現代化
   (1) グリーンペーパーに至る労働法検討の経緯
   (2) グリーンパーパー発出をめぐる場外乱闘
   (3) グリーンペーパーの内容
   (4) その後の動き
  4 2000年代後半以降の労働立法
   (1) 労使団体への協議と立法
   (2) 一般協議の拡大
 
第2章 労使関係法政策
 第1節 欧州会社法等
  1 欧州会社法
   (1) 欧州会社法規則第1次案原案
   (2) 欧州会社法規則第1次案原案への欧州議会修正意見
   (3) 欧州会社法規則第1次案修正案
   (4) 議論の中断と再開
   (5) 欧州会社法第2次案原案(規則案と指令案)
   (6) 欧州会社法第2次案修正案(規則案と指令案)
   (7) 欧州会社法案の隘路突破の試み
   (8) 欧州会社法案に関するダヴィニオン報告書
   (9) 合意まであと一歩
   (10) 一歩手前で足踏み
   (11) 欧州会社法の誕生
   (12) 欧州会社法規則と被用者関与指令の概要
   (13) 欧州会社法被用者関与指令の見直し
  2 他の欧州レベル企業法制における被用者関与
   (1) 欧州協同組合法
   (2) 欧州有限会社法案
 第2節 会社法の接近
  1 会社法接近各指令の概要
  2 会社法第5指令案
   (1) 会社法第5指令案原案
   (2) EC委員会のグリーンペーパー
   (3) EC委員会の作業文書
   (4) 欧州議会の修正意見
   (5) 会社法第5指令案修正案
   (6) 撤回
  3 会社法第3指令
   (1) 会社法第3指令案
   (2) 会社法第3指令
 第3節 労働者への情報提供・協議
  1 フレデリング指令案
   (1) 多国籍企業問題への接近
   (2) フレデリング指令案原案
   (3) 原案提出後の推移
   (4) フレデリング指令案修正案
   (5) 修正案提出後の推移
   (6) アドホックワーキンググループの「新たなアプローチ」
   (7) その後の経緯
  2 欧州労使協議会指令
   (1) 議論の再開
   (2) 欧州労使協議会指令案原案
   (3) 欧州労使協議会指令案修正案とその後の推移
   (4) ベルギー修正案
   (5) 欧州労使団体への第1次協議
   (6) 欧州労使団体への第2次協議
   (7) 欧州委員会の指令案
   (8) 欧州労使協議会指令の概要
   (9) 国内法への転換に関するワーキングパーティ
   (10) 先行設立企業の続出
   (11) イギリスのオプトアウトの空洞化
   (12) ルノー社事件
   (13) 指令の見直しへの動き
   (14) 欧州労使協議会指令の改正 
  3 一般労使協議指令
   (1) 中期社会行動計画
   (2) 労働者への情報提供及び協議に関するコミュニケーション
   (3) 一般労使協議制に関する第1次協議
   (4) 一般労使協議制に関する第2次協議
   (5) 欧州経団連の逡巡と交渉拒否
   (6) 指令案の提案
   (7) 理事会での議論開始
   (8) 一般労使協議指令の概要
   (9) 一般労使協議指令のインパクト
  4 情報提供・協議関係諸指令の統合
  5 新たな枠組みへの欧州労連提案
 第4節 被用者の財務参加
 第5節 EUレベルの紛争解決と労働基本権
  1 欧州レベルの労使紛争解決のための斡旋、調停、仲裁の自発的メカニズム
  2 EUレベルの労働基本権規定の試み
   (1) EUにおける経済的自由と労働基本権
   (2) 問題が生じた法的枠組み
   (3) 4つの欧州司法裁判所判決
   (4) 判決への反応
   (5) 団体行動権に関する規則案
   (6) 規則案に対する反応とその撤回
 第6節 多国籍企業協約
   (1) EUレベルの労働協約法制の模索
   (2) 多国籍企業協約立法化への動き
   (3) 専門家グループ報告書
   (4) 非公式の「協議」
   (5) 労使団体の反応
   (6) 欧州労連の立法提案
 
第3章 労働条件法政策
 第1節 リストラ関連法制
  1 集団整理解雇指令
   (1) ECにおける解雇法制への出発点
   (2) EC委員会の原案
   (3) 旧集団整理解雇指令
   (4) 1991年改正案とその修正案
   (5) 1992年改正
  2 企業譲渡における被用者保護指令
   (1) 前史:会社法第3指令案
   (2) EC委員会の原案
   (3) 旧企業譲渡指令
   (4) 欧州委員会の1994年改正案
   (5) 1997年の修正案
   (6) 1998年改正指令
  3 企業倒産における被用者保護指令
   (1) EC委員会の原案
   (2) 1980年指令
   (3) 2001年の改正案
   (4) 2002年改正指令
 第2節 安全衛生法制
  1 初期指令
  2 危険物質指令群
   (1) 危険物質基本指令
   (2) 危険物質基本指令に基づく個別指令
  3 単一欧州議定書による条約旧第118a条
  4 安全衛生枠組み指令
   (1) 使用者の義務
   (2) 労働者の義務
  5 枠組み指令に基づく個別指令
  6 安全衛生分野における協約立法
   (1) 注射針事故の防止協約指令
   (2) 理美容部門における安全衛生協約
   (3) 筋骨格障害
  7 自営労働者の安全衛生の保護の問題
  8 欧州職業病一覧表
  9 職場の喫煙
  10 職場のストレス
   (1) EU安全衛生戦略
   (2) 職場のストレスに関する労使への協議
   (3) 職場のストレスに関する自発的労働協約の締結
  11 職場の暴力とハラスメント
   (1) 欧州生活労働条件改善財団の調査結果
   (2) 欧州議会の決議
   (3) 労働安全衛生諮問委員会の意見
   (4) 欧州委員会の新安全衛生戦略
   (5) 職場のいじめ・暴力に関する自律労働協約 
   (6) 職場における第三者による暴力とハラスメントに取り組むガイドライン
   (7) 学校における第三者暴力・ハラスメント
 第3節 労働時間法制
  1 労働時間指令以前
   (1) ローマ条約上の規定
   (2) 週40時間労働及び4週間の年次有給休暇の原則に関する理事会勧告
   (3) ワークシェアリング
   (4) 労働時間の適応に関する決議
   (5) 労働時間の短縮と再編に関するメモランダム
   (6) 労働時間の短縮と再編に関する理事会勧告案
  2 労働時間指令の形成
   (1) 社会憲章と行動計画
   (2) 労使団体への協議文書
   (3) EC委員会の原案
   (4) 欧州経団連の批判
   (5) 経済社会評議会と欧州議会の意見
   (6) 第1次修正案
   (7) 理事会の審議(1991年)
   (8) 理事会の審議(1992年)
   (9) 共通の立場から採択へ
   (10) 旧労働時間指令
   (11) イギリス向けの特例規定
   (12) イギリスの対応
   (13) 欧州司法裁判所の判決
   (14) 判決の効果とイギリスへの影響
  3 適用除外業種の見直し
   (1) 適用除外業種の見直しに関するホワイトペーパー
   (2) 第2次協議
   (3) 業種ごとの協約締結の動き
   (4) 欧州委員会の指令改正案
   (5) 諸指令の採択
   (6) 改正労働時間指令
   (7) 道路運送労働時間指令
   (8) 船員労働時間協約指令
   (9) EU寄港船船員指令
   (10) 民間航空業労働時間協約指令
   (11) その後の業種ごとの労働時間指令
  4 難航する労働時間指令の本格的改正
   (1) 欧州委員会の第1次協議
   (2) 欧州委員会の第2次協議
   (3) 労働時間指令案の提案
   (4) 欧州議会の意見
   (5) 欧州委員会の修正案
   (6) 理事会における議論
   (7) 閣僚理事会の共通の立場
   (8) 欧州議会の第二読意見と決裂
   (9) 再度の労使団体への協議、交渉、決裂
   (10) 労働時間指令に関する一般協議
  5 自動車運転手の運転時間規則
 第4節 非典型労働者に関する法制
  1 1980年代前半の法政策
   (1) テンポラリー労働、パートタイム労働に関する考え方の提示
   (2) 自発的パートタイム労働に関する指令案
   (3) テンポラリー労働に関する指令案
   (4) 理事会等における経緯
   (5) 派遣・有期労働指令案修正案
  2 1990年代前半の法政策
   (1) 社会憲章と行動計画
   (2) 特定の雇用関係に関する3指令案
   (3) 労働条件との関連における特定の雇用関係に関する理事会指令案
   (4) 競争の歪みとの関連における特定の雇用関係に関する指令案
   (5) 有期・派遣労働者の安全衛生改善促進措置を補完する指令案
   (6) 修正案
   (7) 理事会での経緯
   (8) 有期・派遣労働者の安全衛生指令
  3 パートタイム労働指令の成立
   (1) 欧州労使団体への第1次協議
   (2) 欧州労使団体への第2次協議
   (3) パートタイム労働協約の締結
   (4) 協約締結後の推移
  4 有期労働指令の成立
   (1) 有期労働に係る労使交渉
   (2) 有期労働協約の内容
   (3) 欧州委員会による指令案
   (4) 指令の採択
  5 派遣労働指令の成立
   (1) 派遣労働に関する交渉の開始と蹉跌
   (2) 幕間劇-欧州人材派遣協会とUNI欧州の共同宣言
   (3) 提案直前のリーク劇と指令案の提案
   (4) 欧州委員会の派遣労働指令案
   (5) 労使の反応と欧州議会の修正意見
   (6) 理事会におけるデッドロック
   (7) フレクシキュリティのモデルとしての派遣労働
   (8) ついに合意へ
   (9) 指令の内容
  6 テレワークに関する労働協約
   (1) 労働組織の現代化へのアプローチ
   (2) 情報社会の社会政策へのアプローチ
   (3) 雇用関係の現代化に関する労使団体への第1次協議
   (4) 労使団体の反応とテレワークに関する労使団体への第2次協議
   (5) 産業別レベルのテレワーク協約の締結
   (6) EUテレワーク協約の締結
   (7) EUレベル労働協約の法的性格
  7 経済的従属労働者
   (1) 雇用関係の現代化に関する第1次協議
   (2) 労働法現代化グリーンペーパー
 第5節 その他の労働条件法制
  1 海外送出労働者の労働条件指令
   (1) 指令案の提案
   (2) 理事会における経緯
   (3) 指令の内容
   (4) 海外送出指令実施指令
   (5) 元請の連帯責任
   (6) 海外送出指令改正案
   (7) 海外送出指令改正案をめぐる加盟国議会の反発
  2 年少労働者指令
   (1) 指令案の提案
   (2) 理事会での検討
   (3) 指令の内容
  3 雇用条件通知義務指令
   (1) EC委員会の原案
   (2) 指令の内容
   (3) 指令見直しへの一般協議
  4 労働者の個人情報保護
   (1) 個人情報保護指令
   (2) 労働者の個人情報保護に関する検討
   (3) 労使団体への第1次協議
   (4) 労使団体への第2次協議
   (5) 新個人情報保護規則
  5 トレーニーシップ上質枠組勧告
   (1) トレーニーシップに関する一般協議と労使への協議
   (2) トレーニーシップ上質枠組勧告
 
第4章 労働人権法政策
 第1節 男女雇用均等法制
  1 男女同一賃金
   (1) ローマ条約の男女同一賃金規定
   (2) 男女同一賃金指令
   (3) 男女同一賃金行動規範
  2 男女均等待遇指令の制定
   (1) EC委員会の原案
   (2) 男女均等待遇指令
  3 社会保障における男女均等待遇
   (1) 公的社会保障における男女均等待遇指令
   (2) 職域社会保障制度における男女均等待遇指令
   (3)公的・職域社会保障制度における男女均等待遇指令案
   (4) 欧州司法裁判所の判決とその影響
  4 自営業男女均等待遇指令
   (1) EC委員会の原案
   (2) 自営業男女均等待遇指令
   (3) 2010年改正指令
  5 性差別事件における挙証責任指令
   (1) EC委員会の原案
   (2) 欧州司法裁判所の判決
   (3) 欧州労使団体への協議
   (4) 欧州委員会の新指令案と理事会の審議
   (5) 性差別事件における挙証責任指令
  6 ポジティブ・アクション
   (1) ポジティブ・アクションの促進に関する勧告
   (2) カランケ判決の衝撃
   (3) 男女均等待遇指令の改正案
   (4) ローマ条約における規定
   (5) マルシャル判決
  7 セクシュアルハラスメント
   (1) 理事会決議までの前史
   (2) 理事会決議
   (3) EC委員会勧告と行為規範
   (4) 労使団体への協議
   (5) 1998年の報告書
   (6) 男女均等待遇指令改正案
  8 男女均等待遇指令の2002年改正
   (1) ローマ条約の改正
   (2) 欧州委員会の改正案原案
   (3) 理事会における議論
   (4) 欧州議会の第1読修正意見
   (5) 欧州委員会の改正案修正案と理事会の共通の立場
   (6) 欧州議会の第2読修正意見と理事会との調停
   (7) 2002年改正の内容
  9 男女機会均等・均等待遇総合指令
   (1) 男女均等分野諸指令の簡素化
   (2) 男女機会均等・均等待遇総合指令案
   (3) 労使団体等の意見
   (4) 欧州議会の意見と理事会の採択
 第2節 その他の女性関係法制
  1 母性保護指令
   (1) EC委員会の原案
   (2) EC委員会の修正案
   (3) 理事会での検討
   (4) 母性保護指令
   (5) 母性保護指令の改正案とその撤回
  2 育児休業指令
   (1) 1983年の原案
   (2) 理事会におけるデッドロック
   (3) 労使団体への協議
   (4) 欧州レベルの労使交渉
   (5) EUレベル労働協約の内容
   (6) 協約締結後の推移
   (7) 労使団体への協議と改正育児休業協約
   (8) ワークライフバランスに関する労使団体への協議
  3 雇用・職業以外の分野における男女均等待遇指令
   (1) EC条約及び基本権憲章における男女均等関係規定
   (2) 指令案の予告
   (3) 男女機会均等諮問委員会のインプット
   (4) 指令案の遅滞
   (5) 指令案の提案
   (6) 理事会での審議 
   (7) 採択に至る過程
 第3節 性別以外の均等法制 
  1 特定の人々に対する雇用政策 
   (1) 障害者雇用政策 
   (2) 高齢者雇用政策 
  2 一般雇用均等指令 
   (1) EU社会政策思想の転換
   (2) 一般雇用均等指令案
   (3) 使用者団体の意見
   (4) 理事会における議論
   (5) 採択に至る過程
   (6) 一般雇用均等指令の内容
  3 人種・民族均等指令
   (1) 人種・民族均等指令案
   (2) 理事会における議論
   (3) 採択に至る過程
   (4) 人種・民族均等指令の内容 
  4 雇用・職業以外の分野における一般均等指令案 
   (1) 雇用・職業以外の分野における一般均等指令案

 

 

 

2017年5月27日 (土)

第133回日本労働法学会

明日、京都の龍谷大学で、第133回日本労働法学会が開かれます。

http://www.rougaku.jp/contents-taikai/133taikai.html

Headerimg02 受付開始 8:15〜

個別報告 9:00〜11:10

第一会場

日野勝吾(淑徳大学)「公益通報者保護制度の役割と制度活用に向けた課題」

司会:鎌田耕一(東洋大学)

河野奈月(明治学院大学)「労働者の個人情報の収集をめぐる規制―犯罪歴の調査に関する米仏の規制を中心に」

司会:荒木尚志(東京大学)

第二会場

地神亮佑(滋賀大学)「労働保険における労働者の「従前業務」に対する法的評価―アメリカ法を参考に」

司会:水島郁子(大阪大学)

古賀修平(早稲田大学大学院)「フランスにおける合意解約法制化の意義」

司会:島田陽一(早稲田大学)

特別講演 11:15〜12:00

報告者:菅野和夫(東京大学名誉教授)

演題:「労働政策の時代に思うこと」

昼食・休憩 12:00〜12:50

総会 12:50〜13:20

ミニ・シンポジウム 13:30〜17:30

第1会場「委託型就業者の就業実態と法的保護

司会・趣旨説明:鎌田耕一(東洋大学)

報告者:

長谷川聡(専修大学)

田中建一(東洋大学)

内藤忍(労働政策研究・研修機構)

第2会場「不当労働行為救済法理を巡る今日的課題」

司会・趣旨説明:石田眞(早稲田大学)

報告者:

川口美貴(関西大学)

古川景一(弁護士)

田中誠(弁護士)

第3会場「女性活躍推進と労働法」(ワークショップ方式)

司会:野川忍(明治大学)

趣旨説明:小畑史子(京都大学)

コメント:山極清子(非会員・昭和女子大学客員教授)

多分、ミニシンポでは第1会場に行くことになると思います。働き方改革実行計画でも非雇用型テレワークという名前で雇用類似の働き方を推進していくということになっていますし、先日のILOとの労働政策フォーラムでも話題になったように、これからの労働法政策の注目点であることは間違いありません。

EUでも10年ほど前に経済的従属労働者の議論が立ち消えになったままの状態ですが、つい最近また「新たな就業形態」に対応して書面通知指令の見直しをするという労使団体への第1次協議が、彼らへの社会保護のあり方に関する協議と一緒に始められたところであり、新たな動きが始まっています。これについては、『労基旬報』で来月簡単に紹介するつもりですが、日本でもそろそろ有識者検討会が始まるらしいので、注目してみていきたいところです。

2017年5月26日 (金)

『働く女子の運命』感想いくつか

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5ツイッター上に拙著『働く女子の運命』の感想が連投されていたので。「ようこ」さん。

https://twitter.com/98126yu

「働く女子の運命」読了。富岡製糸場黎明期から育休世代のジレンマまで、読み応えあった!↓対談記事見つけたのでペタっと。

対談の後編。私は「スカートをはいたオッサン」を待ち構える企業の姿勢はこの5、6年で終わるような気がしてる。無限定社畜な働き方が出来る正社員割合がガクンと減るから。目指すモデルが変わる、きっと。

「モーレツ長時間労働こそ尊い」思想は、やはり緩やかに崩壊しつつあるよ。最近、在宅勤務とフレックス勤務が導入された我が社。それら制度利用者がジワジワ増えてるのね。そのことが、「モーレツ最高!」の城をぬるま湯でふやかして溶かしちゃうみたいに空気を少しずつ変えてるんだ。

こういう空気がもっともっと広く深く社内に浸透すれば「コアタイム以外の会議の設定、やめない?」って自発的に意見が出るんじゃないかな。これまではフレックスのデメリットとしての「会議に人が揃わない」だけど、会議を厳選するキッカケにすればいいかと。

かけられる時間の違いで、業務量・質って人によって偏りが出ることはある程度そのとおりで。だとすると濱口さんの言うとおり、一部のグローバル活躍社員(エリート)と、大多数のローカル社員に棲み分けした方が、企業としては安定するのかもしれない。全員島耕作を目指せないもん。特に女性は。

話がポンポン飛んで申し訳ない。「働く女子の運命」読んで1番の感想は、自分が雇均法第1世代やBG・OL全盛期に当たらなくてよかった!ということだ。女性だというだけど、絶対にドロップアウトしていると思うから。それと比べれば今は格段に良くなったと思う。

02年に総合職として新卒入社した時は、女性総合職採用2年目で、社食に行くと制服組の女性から好奇の視線が寄せられるのを感じた。圧倒的な「浮き」感。電話を取れば「あー、男性に変わってくれる?」という状態。一般職の制服はあれからすぐに廃止され、一般職の新規採用もなくなり→

女性総合職の採用割合も10?20%から、近年では40%強に増えて来た。数自体もマイノリティではなくなってきた。電話で「女の子」扱いされることも減った。会社にダイバーシティ推進グループできた。働き方改革、在宅勤務、フレックス導入!この15年はすんごい変化が起きたのだと思う。

ただ、濱口氏が言うとおり、一般職的なポジションも必要だといえことが最近再確認されて、男女問わず「SS職」というカテゴリが出来た。が、やはりこのカテゴリには女性しかいないんだなー。もちろん現役社員でSSに変更も可能なんだけど。介護でSSに移る社員はこれから出てくるかもな。

あと、「本のアプリStand」というサイトにも、拙著への書評が。「chou」さん。

https://standbk.co/b/%E5%83%8D%E3%81%8F%E5%A5%B3%E5%AD%90%E3%81%AE%E9%81%8B%E5%91%BD-%E6%BF%B1%E5%8F%A3%20%E6%A1%82%E4%B8%80%E9%83%8E/41941/p/196160

働く女子の”これから”の運命というより、”歴史”がメイン。ちょっとイメージした内容とは違かった。

日本の雇用制度の歴史はおおまかには知っているけど、知らなかった衝撃の歴史もあってそれなりに面白かった。
1950年代の、28歳女子定年制とか!
結婚が決まったら退職する旨の誓約書を出して入社とか!

まだまだ女性の職業人生って、男性と比べると色々な壁はあるけれど、その時代から比べれば、独身女性である私が、40歳を過ぎて管理職として他社に転職しているのだから、時代は徐々に変わりつつある…

奇しくも、どちらもアラフォー女性で、世の中は変わりつつあるという認識のようです。

2017年5月25日 (木)

佐藤信之『通勤電車のはなし』

102436 さて、下の白波瀬達也『貧困と地域』と一緒に送られてきたのが同じ中公新書の佐藤信之『通勤電車のはなし 東京・大阪、快適通勤のために』なんですが、実は正直言って、なんでこの本をわたくしにお送りいただいたのかよくわからないのです。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/05/102436.html

通勤時間はムダである。この苦痛に耐える時間を有意義に利用すれば年間7兆円もの価値が生まれるといわれる。どうすれば満員電車を少しでも快適に出来るのか。新線の建設、ダイヤの工夫、新型車両の導入など、鉄道会社は努力を重ねてきた。人口減少社会の現在も、なお改善は必要である。混雑率200%に達する総武線や田園都市線をはじめ、主要路線の問題点と対策を解説。過去から将来まで、通勤電車のすべてが分かる。

いや結構面白いんですよ。特に第2章の東京、第3章の大阪、いずれもWikipedeaあたりに書かれていそうなマニア好みのとリビアな知識が満載で、読みながらふむふむと頷くところが多いんですけど、それにしても私にお送りいただいた趣旨がよくわかりません。

こうして拙ブログに紹介を書いていますけど、拙ブログの熱心な読者の方に対してそれほど訴求力がありそうな本とも思えず、中公新書編集部の方の意図が今ひとつつかめないまま、とりあえずこうして紹介させていただいております。

白波瀬達也『貧困と地域』

102422中央公論社から白波瀬達也『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(中公新書)をお送りいただきました。副題の通り、俗に「釜が崎」と呼ばれるあいりん地区について、その歴史と現状を、労働、福祉、住居などさまざまな視点から解説した本であり、これも何回目かですが、新書というのはこういう本だというお手本のような本になっています。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/02/102422.html

「日雇労働者の町」と呼ばれ、高度経済成長期に頻発した暴動で注目を集めた大阪のあいりん地区(釜ヶ崎)。現在は高齢化が進むなか、「福祉の町」として知られる。劣悪な住環境、生活保護受給者の増加、社会的孤立の広がり、身寄りのない最期など、このエリアが直面している課題は、全国の地域社会にとっても他人事ではない。本書は、貧困の地域集中とその対策を追った著者による現代のコミュニティ論である。

51ofieewurl_sx344_bo1204203200_あいりん関係の本と言えば、昨年10月に本ブログで取り上げた鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』が橋下市長による西成特区構想のまさに中心人物による叙述であるのに対し、本書の著者の白波瀬さんは2007年から2013年まで西成市民館でソーシャルワーカーとして活動しつつ、あいりん問題のフィールドワークを続けてきたまさに現場の目の研究者です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/10/post-9efc.html(鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』)

叙述の主力は日雇労働者のドヤの街からホームレス溢れる地域となり、そして生活保護受給者の町から再開発の焦点となりゆくここ十数年の動きですが、わたしにとって興味深かったのはそれよりももっとむかしの歴史、かつては家族持ちも多いスラム街だった釜が崎が、高度成長期の建設労働力需要に引きずられるように急速に単身男性たちが簡易宿泊所に暮らすドヤ街になっていったというあたりの叙述です。

貧しい家族持ちが暮らすスラム街というのは、じゃりン子チエの世界ですね。スラムとドヤがどう違うかは、本書24ページに表にしてあります。

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この写真は、湯浅誠さんとの対談から持ってきましたが、この対談も興味深いです。

https://news.yahoo.co.jp/feature/582

あと、本書25ページには、約60万枚を売り上げたという三音英次のヒット曲「釜ケ崎人情」も紹介されています。

ふむ、確かに、同じドヤ街の唄とはいえ、岡林信康の「山谷ブルース」とはだいぶ趣が違いますね。

2017年5月24日 (水)

使用者の労働法知識向上の促進@規制改革推進会議

昨日、規制改革推進会議の第1次答申が出されたようです。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20170523/170523honkaigi01.pdf

いろんな分野のいろんなことが書いてありますが、労働関係では例の労働基準監督業務の民間活用の話があまり懸念されるような変な形にならないように決着したので、それほど目立つような項目はありません。

2. 人材分野

(1) 規制改革の目的と検討の視点

(2) 具体的な規制改革項目

① 転職先がより見つけやすくなる仕組みづくり

ア ジョブ型正社員の雇用ルールの確立

イ 職業紹介事業を行う場合における行政手続の簡素化

② 転職して不利にならない仕組みづくり

ア 法定休暇付与の早期化

③ 安心して転職できる仕組みづくり

ア 使用者の労働法知識向上の促進

(3) 重点的にフォローアップに取り組んだ事項

① 労使双方が納得する雇用終了の在り方

この中で、おやおや規制改革推進会議がそれを言い出しますか、というのが「使用者の労働法知識向上の促進」という項目です。曰く、

ア 使用者の労働法知識向上の促進

【平成 29 年度検討・結論、結論を得次第速やかに措置】

職業安定法(昭和 22 年法律第 141 号)では、職業紹介事業者に職業紹介責任者の選任を義務付け、その選任対象者には、必要な知識を習得させるための講習の修了を必要とすることにより、一定の知識水準を担保する仕組みが存在する。また、労働安全衛生法(昭和 47 年法律第 57 号)や労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和 60 年法律第 88 号)においても、一定の知識水準を担保する類似の仕組みが存在する。

しかし、労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)といった基本的な労働法の知識向上については、同様の仕組みが存在しない。すなわち、同法第 105 条の2において、「厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、この法律の目的を達成するために、労働者及び使用者に対して資料の提供その他必要な援助をしなければならない」とされているだけであり、使用者の自発的な取組に任されている。

したがって、使用者が基本的な労働法の知識を十分に得るための方策について、幅広く検討を行い、必要な措置を講ずる。

Rodoho ええっと、これってもしかして、およそ事業主が人を雇って働かせようとする場合には、労働法のテストを受けて、もし不合格だったら、所定の労働法講習をちゃんと受けなければならないとかという仕組みを導入しようという話とか?

なかなかすごい規制強化ですが、いやもちろん規制改革とは往々に誤解されるように規制緩和のことではなく、規制のあり方を(強化の方向にも、緩和の方向にもそれぞれの状況に応じて適切な方向に)変えていくことなのですから、別に特別変なことを言っているわけでもありません。

例の労働法教育の研究会を立ち上げたのは2008年ですからもう9年前になりますが、少しずつ世の中に広まってきて、ついに規制改革推進会議もこういうことを言うようになったかという感じです。

岸健二編『業界と職種がわかる本 ’19年版』

9202_1494547957毎年恒例ですが、岸健二編『業界と職種がわかる本 ’19年版』 (成美堂出版)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415224787/

就職活動をする学生のために、業界や職種を11業種・8職種にまとめ、業界の現状、仕事内容などを紹介。
就職活動の流れや最新採用動向も掲載。就職活動の基本である業界職種研究の入門書として最適な一冊。
自分に合った業界・職種を見つけ就職活動に臨む準備ができる。

ということで、就活用のガイドブックですが、業界研究に「業界を理解しよう」と並んで「各業界の働く環境を知っておこう」がちゃんと入っていたり、業界研究と並んで職種研究があったりと、結構本格派の本になっています。

 ◇ 将来を見据えた企業選びのために
 ◇ 最新動向を1ページでおさらい 就職活動ポイントチェック
 ◇ 本書の構成と使い方

【第1章】 業界研究
 1 業界を理解しよう
 2 各業界の働く環境を知っておこう
 3 各業界の仕事を理解しよう

【第2章】 職種研究
 1 企業のしくみを知っておこう
 2 職種への理解を深めよう
 3 企業が求める人物像とは?

【第3章】 就職活動シミュレーション
 1 就職活動の流れを知っておこう
 2 準備なくして勝機なし
 3 いざ、企業にアプローチ
 4 山あれば谷ありの就職戦線
 5 先輩たちの就職活動日記
 6 スケジュールチェックシート

【第4章】 最新採用動向
 1 学生確保の競争が激化
 2 活動期間見直しは続く

【インタビュー】 先輩に聞いた就職活動の極意

♦ 「内定」を得た先に ― 将来を見すえたキャリアデザインをしよう

ちなみに、岸健二さんは長く日本人材紹介事業協会でこの分野に携わり、最近では労働調査会のサイトで「労働あ・ら・かると」というコラムの執筆者の一人としても活躍しています。

最近のコラムを紹介しておきますと、

http://www.chosakai.co.jp/information/alacarte/18919/(新社会人のみなさんへ 10年前20年前新人だった先輩をよく観察しましょう)

・・・もっとも、今皆さんの目の前にいる先輩社員や上司たちにも、新人だった時代は当然あったわけで、ちなみに目の前にいる昨年入社した1年先輩は、「ドローン型」、5年前(平成24年入社)は「奇跡の一本松型」、10年前は「デイトレーダー型」、20年前「形態安定シャツ型」などと名付けられていたそうです。
 それぞれの特徴がある先輩たちが、社会人になった後の環境変化にどのように対処し適応してきたのでしょうか。じっと観察するもよし、飲食の場面で質問するのもよしです。それぞれの世代の「苦労話」から、皆さんがこれから遭遇するであろう「環境変化」にどう対処すべきなのか、そのヒントを是非獲得してほしいと思います。・・・

・・・・当面先輩から習うのは、今目の前にある仕事の処理のしかた(マニュアル)でしょうが、その先輩たちが努力してきた「適応力・生存力のコツ」も是非観察して自分のものにしていただきたいと思うのです。

このコラムの書き手の中では、いつも結構洒脱な文章を書かれるので、愛読者も多いと思います。

2017年5月23日 (火)

「民進党のパワハラ防止法案?」@『労基旬報』2017年5月25日号

『労基旬報』2017年5月25日号に「民進党のパワハラ防止法案?」を寄稿しました。内容は、『情報労連REPORT』4月号に載っていた石橋通宏参議院議員のインタビュー記事のほぼ忠実な紹介です。ちょうど先週金曜日に厚生労働省で職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会が開始されたところでもあり、一つの議論の素材として有用ではないかと思います。

1704_sp05_face 2001年に施行された個別労働紛争解決促進法に基づく相談件数等では、長く解雇がトップを占め続けてきましたが、近年ではいじめ・嫌がらせの方が多くなっていることは周知の通りです。2015年度には、民事上の相談245,125件のうちいじめ・嫌がらせが66,566件、解雇が37,787件、労働局長による助言・指導8,925件のうちいじめ・嫌がらせが2,049件、解雇が1,180件、さらにあっせん申請4,775件のうちいじめ・嫌がらせが1,451件、解雇が1,318件と、遂にあっせんでも解雇を追い抜いてしまいました。
 これに対して労働政策の方面では、2011年7月に設置された職場におけるいじめ・嫌がらせ問題に関する労使円卓会議が、2012年1月にまとめた提言において、「パワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義し、パワハラを予防するためにとるべき措置について示しただけで、その後特段の動きは見られませんでした。
 ところが、去る3月に取りまとめられた働き方改革実行計画の策定過程において、長時間労働の是正をめぐって労使の直接交渉が行われ、その中からやや瓢箪から駒のような形で、「職場のパワーハラスメント防止に向けて、労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」という一項が盛り込まれ、検討会が設置されることとなりました。あくまで「対策の検討」といっているだけなので法制化につながるかどうかは未確定ですが、その際に議論に素材になる可能性が高い考え方が、最近刊行された情報労連の機関誌『REPORT』4月号に載っています。
 同号は「パワハラをなくそう」という特集に研究者、運動家、弁護士などさまざまな人が寄稿していますが、その中に民進党の参議院議員である石橋通宏氏の「パワハラ防止措置の法制化を」というインタビュー記事があります。それによると、パワハラ防止に関する法規制がない中で、石橋議員が主担当となって防止措置を法制化する動きが民進党内でスタートしているとのことです。以下、石橋氏の発言をもとに、民進党のパワハラ防止法案の現段階での考え方を見ていきましょう。
 まず、大きな方向性としては、労働安全衛生法を改正して、パワハラを定義し、その防止措置や対策に関して雇用管理上の責務を事業者に課すことを想定しています。最大のポイントはどこまでを規制対象とするかです。石橋氏は3つの類型を上げています。第1は同一企業・事業所内のパワハラで最低限含まれますが、第2として異なる企業間のパワハラ、たとえば親会社の社員から子会社の社員へ、発注元から下請企業の社員へといったものを挙げています。これは上記提言には含まれていない類型ですが、石橋氏らは検討課題にしています。さらに第3として、これは提言でも触れられていましたが、消費者や公共サービス利用者から労働者や公務員に対して起きるパワハラがあり、これを議論の俎上に載せています。石橋氏自身、第2や第3の類型は定義の問題など法規制が困難であることを承知しつつ、できるだけ対象範囲を拡げる方向で検討しているということです。
 具体的な法規制のあり方ですが、まず国に対して、パワハラ対策として事業主が講ずべき措置に関する指針を策定させ、その上で、事業者に対し、国の指針に基づいた行動計画の策定と、対策を実行するための部署の設置または担当者の任命を求めます。こうしたスキームを通じて、①予防的措置、②問題の早期発見、③問題発生後の迅速かつ適切な対応策を講ずることを求めます。適切な措置をとらない事業者に対しては、セクハラやマタハラと同じように、指導・勧告、そして企業名公表などの措置を想定しています。また、紛争解決処理に関しては、個別労働紛争解決促進法に基づくあっせんに加えて、その他の中立的な第三者機関を想定しているとのことです。これは、上記第2類型、第3類型は個別労働紛争の枠を超えるからとのことです。しかし、そのためにわざわざ新たな組織を作るのかというのは、なかなか突破するのが難しいところかも知れません。
石橋氏が課題として挙げるのは、やはり第2類型や第3類型を事業者の雇用管理責任という切り口で位置づけることの難しさです。第2類型の場合、被害者と加害者が別の企業に属しているので、事業者が親会社や取引先企業に属する加害者に対して雇用管理責任を果たすことはできません。そこで、加害者が誰であっても、被害者側の事業者には自社の社員をパワハラから守るという雇用管理上の責務があると位置づけ、加害者側の事業者に対してパワハラ被害を通知するところまで義務づけて、その上で加害者側の事業者に雇用管理上の責務としての対応を求めるということを考えているようです。
 第3類型はもっと難しく、消費者保護法など現行法体系では消費者は弱い立場と位置づけられているため、消費者を加害者と位置づけること自体にハードルが高いのです。とはいえ、さまざまな分野で悪質クレーマーへの対策に要請があることから、何らかの対策を講じることができないか引き続き検討していきたいと述べています。ここは大変難しそうですが、どういう結論に至ることになるか、注目していきたいと思います。
 これはもちろん、民進党という野党内部での検討作業ですが、上述のように政府でパワハラ対策の検討会が立ち上げられることになると、その素材として議論の対象となっていくことが予想されます。第2類型やとりわけ第3類型を最初から規制対象にフルに取り込んでいくのは難しいかも知れませんが、大きな枠組としては石橋氏らが考えている方向性がかなりの影響力を及ぼしていくことも考えられ、人事労務関係者としては注目していく必要があるでしょう。

2017年5月22日 (月)

海老原嗣生著・飯田泰之解説『経済ってこうなってるんだ教室』

002231こないだ、数人で呑んだ時に海老原さんが言ってた本がこれですね。海老原嗣生著・飯田泰之解説『経済ってこうなってるんだ教室』(プレジデント社)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://presidentstore.jp/books/products/detail.php?product_id=2898

日経新聞は読んでいるけど
わからないという人、もう大丈夫です!
小学生の算数と国語の力があればわかる
経済・金融の超入門書!

「おわりに」によると、これはリクルートの営業スタッフ向けの勉強会で長年喋ってきた内容をまとめたものとのことで、確かに本当にわかりやすくできています。はじめの為替のあたりはなんだか公文式の計算をやらされている感すらありますが、第3章のGDPとは何かってあたりは、よくわかってない人が多そうなので、結構役に立ちそうです。

さて、本書は第4部の第8章までは海老原さんの著述ですが、最後の第5部は「それでも分からないことはプロに聞く」と題して、飯田泰之さんによるちょっと進んだ解説編になっています。ここはそれこそリフレ派(「りふれは」に非ず)の代表としての飯田さんの見解が前面に出ていて、むしろエコノミストの中でいろいろと議論のあるところではないかと思います。

私はそのうち、労働経済学で論点になり得る「金融政策で雇用も改善するといいます。それはなぜですか?」という問いに対する飯田さんの答えが興味深かったです。

金融政策で雇用が改善すると言っても、記入政策で景気が回復して雇用が拡大するという話ではありません。それは当然の前提として、それではなく「インフレ率や期待インフレ率が上がること自体が雇用を改善する」という議論のことです。物価が高くなると名目賃金が下がらなくても実質賃金が下がるから、企業家が安く人を雇えるようになるので雇用が拡大するという議論ですね。同じイニシアルがIの人がよくいうロジックですが、飯田さんはこれに否定的です。

・・・わたし自身は、この物価と雇用の関係は、疑似相関ではないかと考えています。インフレになってPが上がると為替や資産価格の影響などから企業のバランスシートが改善し、需要が増加する。これによって経済全体が上向くので失業率が下がる。その始点と終点だけを見ると、確かに物価が上がると雇用が改善するように見えるわけですね。

 賃金の金額は下がりにくい(名目賃金の下方硬直性)ので、デフレが実質賃金の上昇を通じて雇用を悪化させることは多いでしょう。しかし、インフレ時にその議論が成り立っているかは疑問が残ります。

ただ、なぜか「物価が上がる(=インフレ)ことによる実質賃金低下が雇用を拡大する」という説が教科書では主流になっています。

これはもうど素人や初心者には何が問題になっているのかよくわからないハイレベルな話でしょうね。

ロスタイム?

連合がこういう動画を作って流しているんですが・・・・、

うーーん、ロスタイムは残業かね、とついつい本質的なことを考えてしまうからいけないんでしょうか。

『EUの労働法政策』は5月30日入荷予定

33565524 現在品切れ中でご迷惑をおかけしておりますが、『EUの労働法政策』は5月30日入荷予定ですので、いましばらくお待ちいただくようお願い申し上げます。

http://www.jil.go.jp/publication/ippan/eu-labour-law.html

着実に進展を続けるEUの労働法について、労使関係法や労働条件法、労働人権法など労働法政策に係わる最新情報に基づき全体像がわかるよう1冊にまとめた決定版。

2017年5月21日 (日)

必要なのは国家主権の進歩的なビジョン

例によって、ソーシャル・ヨーロッパ・マガジンから。

https://www.socialeurope.eu/2017/05/needed-progressive-vision-national-sovereignty/

Thomasfazi What Is Needed Is A Progressive Vision Of National Sovereignty

The last year has seen the Right and extreme Right capitalise on the dissatisfaction and despair fostered by neoliberalism – and usher in a ‘post-neoliberal order’. Their success is based on championing and monopolising the idea of national sovereignty, but only of a certain kind. The Left has accepted their discourse that national sovereignty goes hand in hand with exclusivist and right-wing ideas, rather than attempting to reclaim it as vehicle for change ・・・

昨年は右翼と極右が、ネオリベラリズムによって助長された不満と絶望をうまく利用し、「脱ネオリベラル時代」の到来を告げた。彼らの成功は国家主権の理念を掲げ、独占したことに基づくが、しかしそれは特定の種類の国家主権に過ぎない。左翼は、国家主権が排他主義と右翼思想と一体だという彼らの議論を受け入れてきた。それを変化のための手段として取り戻そうと試みることもせずに・・・。

So why has the mainstream left not been able to develop an alternative, progressive view of national sovereignty in response to neoliberal globalisation? The answer largely lies in the fact that over the course of the past 30 years, most strands of left-wing or progressive thought have accepted the false narrative that nation states have essentially been rendered obsolete by neoliberalism and/or globalisation and thus that meaningful change can only be achieved at the international/supranational level,・・・. Furthermore, most leftists have bought into the macroeconomic myths that the Establishment uses to discourage any alternative use of state fiscal capacities. For example, they have accepted without question the so-called household budget analogy, which suggests that currency-issuing governments, like households, are financially constrained, and that fiscal deficits impose crippling debt burdens on future generations. This is particularly evident in the European debate, where, despite the disastrous effects of the EU and monetary union, the mainstream left continues to cling on to these institutions and to the belief that they can be reformed in a progressive direction, despite all evidence to the contrary, and to dismiss any talk of restoring a progressive agenda on the foundation of retrieved national sovereignty as a ‘retreat into nationalist positions’ inevitably bound to plunge the continent into 1930s-style fascism.

ではなぜ主流派左翼はネオリベラルなグローバル化に対する対応としてそれに代わる進歩的な国家主権の見方を展開できなかったのだろうか?その答えは大幅に過去30年間にわたって左翼や進歩派の思想の流れが、国民国家はネオリベラリズムやグローバル化によって本質的に時代遅れになり、それ故意味のある変化は国際的ないし超国家レベルでのみ達成しうるという間違ったおとぎ話を受け入れてきたからだ。・・・さらに、多くの左翼は体制は国家の財政能力のいかなる代替的な活用にも反対だというマクロ経済神話を買い込んできた。たとえば、彼らは疑うこともなくいわゆる家計財政アナロジー、つまり通貨発行政府は家計と同様財政的に制約され、財政赤字は将来世代に債務の負担を課すという考え方を受け入れてきた。・・・

This, however, is tantamount to relinquishing the discursive and political battleground for a post-neoliberal hegemony – which, as we have seen, is inextricably linked to the question of national sovereignty – to the right and extreme right. It is not hard to see that if progressive change can only be implemented at the global or even European level – in other words,

if the alternative to the status quo offered to electorates is one between reactionary nationalism and progressive globalism– then the left has already lost the battle

これがしかし、ポストネオリベラル覇権の散漫な政治的戦場-上述のように国家主権の問題と密接にリンクしているのだが-を右翼と極右に譲り渡すに等しい。・・・もし選挙民に提示される現状維持に対する代替案が反動的ナショナリズムと進歩的グローバリズムの間であるならば、その時左翼は既に闘いに負けているのだ。

国家主権を(右翼の手から)取り戻せ、という危機感溢れる主張です。

2017年5月19日 (金)

日中雇用・労使関係シンポジウム(再掲)

明日、明後日に明治大学で日中雇用・労使関係シンポジウムが開かれます。再度の告知になりますが、興味のある方は是非。

http://www.meiji.ac.jp/osri/topics/2017/6t5h7p00000o96nb.html

この度、われわれ明治大学現代中国研究所は、非正規労働をめぐる日中間での国際シンポジウムを開催することになりました。

北海道大学で5年前に第1回が開かれ、北京首都経済貿易大学で開催された2年前の第2回に引続き、今回第3回目の開催となります。

2日間にわたる過密スケジュールで誠に恐縮ですが、ご関心のあるセッションの参加だけでも、心から歓迎いたします。

皆様のご参加をお待ち申し上げております。(1日目と2日目の会場が異なるのでご注意ください)

明治大学現代中国研究所主催、明治大学労働教育メディア研究センター後援

第三回 日中雇用・労使関係シンポジウム ——非正規時代の労働問題——

(第三届劳动关系与劳工问题 日中学术研讨会——非正规雇佣时代的课题)

日程:2017 年5月20日(土)~21日(日)

会場:明治大学駿河台校舎リバティタワー1階 1012教室(5月20日)

    明治大学グローバルフロント1階 グローバルホール(5月21日)

司会:鈴木賢(明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授)

通訳:及川淳子(桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群専任講師)

   徐行(東京大学東洋文化研究所助教)

<5月20日>

会場:明治大学駿河台校舎リバティタワー1階 1012教室

9:00-9:30 参加者受付、資料配布

9:30 開幕

9:30-9:35

 日本側代表挨拶:石井知章(明治大学商学部教授)

9:35-9:40

 中国側代表挨拶:楊河清(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

9:40-10:40

 記念講演1 花見忠(上智大学名誉教授) 

 演題:「過労死問題の法文化的考察」

10:40-10:55 休憩

10:55-11:55

 記念講演2 常凱(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

 演題:「中国における非正規労働政策と課題」

11:55-12:20 質問と討論

12:20-13:20  お昼休み

13:20-15:00 <セッション1 非正規雇用と法規制>

コーディネーター 馮喜良(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

(発表時間:1人10分、通訳を含め20分以内)

1、濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構労使関係部門統括研究員)

  テーマ:「日本における非正規雇用の歴史」

2、陶文忠(首都経済貿易大学労働経済学院副教授)

  テーマ:「中国の非正規雇用労働についての境界設定」

3、劉誠(上海師範大学教授)

  テーマ:「Analysis on Anti-Labor Contract Law Viewpoints(反労働契約法的観点についての分析)」

4、範囲(首都経済貿易大学労働経済学院副教授)

  テーマ:「独立請負人、あるいは労働者:中国ネット予約タクシーの法律身分に関する境界設定————判例を基礎として」

15:00-15:20 質問と討論

15:20-15:35 休憩

15:35-17:15 <セッション2  労使関係と団体労使争議の処理>

コーディネーター  藤川久昭(青山学院大学法学部教授)

1、鈴木賢(明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授)

  テーマ:「日本における非正規労働者の増加と労働組合」

2、早川智津子(佐賀大学大学院地域デザイン研究科・経済学部教授)

  テーマ:「日本の労使関係と紛争処理制度」

3、戸谷義治(琉球大学法文学部准教授)

  テーマ:「非正規労働者と団結権保障」

4、石井知章(明治大学商学部教授)

  テーマ:「非正規雇用問題に関する日中比較研究」

17:15-17:35 質問と討論

<5月21日>

会場: 明治大学グローバルフロント・グローバルホール

9:30-11:40 <セッション3 非正規就業労働者の権利保護>

コーディネーター  楊河清(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

1、龍井葉二(前連合非正規労働センター長)

  テーマ:「非正規雇用と労働運動~連合の取り組みを中心に」

2、高須裕彦(一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センタープロジェクトディレクター)

  テーマ:「日本の非正規労働者と労働組合・労働NGOの取り組み」

3、馮喜良(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

  テーマ:「インタネット・プラットホーム雇用モデルにおける労働者権益の保護研究」

10:30-10:40 休憩

4、山下昇(九州大学法学部教授)

  テーマ:「能力不足を理由とする解雇の日中比較」

5、阿古智子(東京大学総合文化研究科准教授)

  テーマ:「戸籍をめぐる雇用差別から考える中国の労働者の権利」

11:40-12:00 質問と討論

12:00-13:00 お昼休み    

13:00-15:00 <セッション4 労働力市場の法規制>

コーディネーター  早川智津子(佐賀大学大学院地域デザイン研究科・経済学部教授)

1、梶谷懐(神戸大学大学院経済学研究科教授)

  テーマ:「中国の労働問題と日中関係—歴史的視点から」

2、小玉潤(社会保険労務士法人J&Cマネジメントパートナー代表社員、特定社会保険労務士)

  テーマ:「日本における過労死問題と法規制」

3、呂学静(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

  テーマ:「中国における新業態就業と失業保険問題に関する研究」

4、王晶(首都経済貿易大学労働経済学院副教授)

  テーマ:「中国における経済の労働関係享有に対する挑戦」

5、崔勛(南開大学商学院教授、博士課程指導教官)

  テーマ:「非典型労働者における雇用の安全感と公平感の組織アイデンティティに対する影響研究」

15:00-15:20 質問と討論

15:20-15:30 休憩

15:30-16:50 <セッション5 日中間における労働関係のホットイシュー>

コーディネーター  阿古智子(東京大学総合文化研究科准教授)

1、藤川久昭(青山学院大学法学部教授)

  テーマ:「労働裁判・労働審判手続において労働法学は有用か」

2、楊河清(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

  テーマ:「中日両国における過労問題研究状況の比較」

16:50-17:10 質問と討論

17:10-17:30 

 総括コメント:常凱(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

17:30-17:35

 閉幕のあいさつ:鈴木賢(明治大学法学部教授)

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2017年5月17日 (水)

池田憲郎『ロシア革命』

28232256_1 ロシア革命100周年で岩波新書から出た本ですが、ソビエト崩壊から四半世紀たったいま、そのソビエト崩壊後の1994年に大学を卒業した研究者によってまさに歴史として書かれた本という意味で、いろんな意味で面白く読めました。

「歴史として」というのは、もはや現代史ではなくなった、つまり単なる過去の事実の再構成ではなく、今日ただ今の政治的課題をめぐる対立軸をそのまま投影する素材としての、「歴史認識」という言葉がそのまま政治的な立場の選択を迫られるような、そういうひりひりした土俵から一歩も二歩も身をひいたような、そういう意味で言っています。

という言い方は、もしかしたら著者の池田さん自身はいささか心外かも知れません。「はじめに」や「おわりに」では、池田さん自身の問題意識が熱っぽく書かれています。

なのですが、でも池田さんの叙述のタッチは、もはや今日ただ今の政治対立のどっちに付くか付かないかというような、そんなある時期まではロシア現代史や中国現代史をほぼ全面的に覆っていたような、そういう空気から遥か遠くに来ているという感覚だけは感じられます。

おそらくある時期までであれば、反革命的カデット寄り史観とか日和見メンシェビキエスエル史観とかと政治的非難を浴びたであろうその叙述も、実のところ同情的というよりはむしろ哀れみに満ちた冷ややかさに溢れていて、近世の宗教戦争を描く筆致に近いものすら感じます。

本書の中で一番面白いのはコルニーロフの陰謀という名の下手な田舎芝居を描いているところですが、一国の首相と最高総司令官の間の笑劇じみた伝言ゲームが破局をもたらしていく姿を描くその筆致は、おそらく上の世代の研究者にはできないものなのでしょう。

池田さんは1971年生まれで、少なくとも大学学部生時代まではソ連という国が存在していましたが、その下には物心ついた時にはソ連なんてなかった世代が続々と続いています。

『団結と参加』を書く時に、労働組合関係で塩川著、下斗米著、辻義昌著などに一通り目を通したとはいえ、ロシア革命自体を描いた単著を読むのは、実は大学時代のE.H.カー以来なので、その間の時代の変化を強く感じた次第です。

第1回勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会

ということで、先週土曜日(5月13日)に開かれた産業衛生学会のシンポジウムのトピックであった勤務間インターバル制度が、3月末の働き方改革実行計画に書き込まれ、それを受けて昨日(というか昨晩かな、17:00-18:30てのは)、第1回勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会が開かれたようで、その関係資料がアップされています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000165043.html

今後の進め方を見ると、7月頃の第2回で企業の事例、9月頃の第3回で労働組合の事例、その後1,2か月に1回開催して導入マニュアルの作成を考えているようです。

TakahashiKubo「勤務間インターバル制度を取り巻く状況等」にも、先のシンポに出ていたKDDIに加えて、ユニチャーム、本田技研などいくつかの企業の事例が載っていますし、もっと詳しい事例集の方には、先のシンポに出た安衛研の高橋正也さんと久保智英さんの対談が載っていて、この問題を考える上でのいい参考資料になっています。

2017年5月16日 (火)

労働政策フォーラム「The Future of Work」基調報告スライド

先週金曜日に国連大学で行われた労働政策フォーラム「The Future of Work」で、わたくしが行った基調報告のスライドがアップされていますので、ご関心のある方はどうぞ。

http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20170512/resume/01-kicho-hamaguchi.pdf

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徳川家光の母

253537実は私は人に言えない黒歴史がありまして、中学生時代、八切止夫の本にはまって、何十冊もむさぼるように読み、挙げ句の果てに学校の社会科の教師に「これが真実の歴史だ、さあこれを読め」みたいなことをやらかしたりしたことがあるんですが、さすがにその後成長するにつれ、さすがに信長殺し光秀ではないとか、徳川家康は二人いたとか、上杉謙信は女だったとか、そういうのはないやろと思うようになり、若気の至りは深く心に中に秘め隠してきたのですが、さはさりながら、いくつかいやいやそれはありかも知れないというネタがあり、その一つが徳川家光の生母は江ではなく春日局だというのがあったんですね。

41euu6zosbl__sx316_bo1204203200_最近出た福田千鶴さんの『春日局』(ミネルヴァ書房)が話題ですが、実は福田さんは既に大河ドラマに合わせて出した『江の生涯』(中公新書)で、家光の生母は江ではないと言っていたので、その時に結構話題になっていたのですが、今回の本について、『文藝春秋』6月号の鼎談書評(山内昌之×片山杜秀×柳田邦男)で、片山さんが実は小学校の頃八切止夫が云々というのを見て、一瞬にして45年前の記憶が蘇ってきたでござるよ。

『EUの労働法政策』品切中

Eulabourlawhttps://twitter.com/aokikatsuya/status/864084098242838528

『EUの労働法政策』の重刷はまだかい

はあ、もうしわけありません。こんな小さな字で山のような情報を詰め込んだ本がなんで売れるのかよくわからないのですが、現在在庫品切中です。重刷銃殺を予定しておりますので、今しばらくお待ち下さい。

労働基準監督業務の民間活用@WEB労政時報

WEB労政時報に「労働基準監督業務の民間活用」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=656

去る5月8日、規制改革推進会議の労働基準監督業務の民間活用タスクフォースが「取りまとめ」を行いました。これは、3月9日の規制改革推進会議(本会議)で設置が決まり、八代尚宏委員(昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授)を主査として3月16日に第1回目が開かれたものです。
同日は八代案の説明と厚生労働省からのヒアリングが行われ、4月6日の第2回目には厚労省に加えて全国社会保険労務士連合会からのヒアリングも行われ、5月8日の第3回で取りまとめが行われました。今後6月に取りまとめられる答申に盛り込まれる予定とのことなので、その中身を見ておきたいと思います。
 まず当初の八代案ですが、「労働基準監督官が定めた様式の定期監督業務について社会保険労務士等の資格者を雇用する民間事業者に委託することで、本来の基準監督官をより重大な違反の可能性の大きな申告監督業務に重点的に配置できるのではないか」というもので、・・・

2017年5月13日 (土)

石井・緒形・鈴木編『現代中国と市民社会』

既にご案内のように、来週土日には明治大学現代中国研究所主催の「第三回 日中雇用・労使関係シンポジウム──非正規時代の労働問題」というのに出てちょっと喋る予定ですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-906a.html (明治大学現代中国研究所日中雇用・労使関係シンポジウム)

その主催者である明治大学現代中国研究所が中心になって作られた石井知章・緒形康・鈴木賢編『現代中国と市民社会──普遍的《近代》の可能性』(勉誠出版)を、編者の一人石井知章さんよりお送りいただきました。いつもありがとうございます。本書は639ページという分厚い大冊です。

http://www.kisc.meiji.ac.jp/~china/book/book03_2017.html

グローバルな市民社会に向かう中国。そしてその不可避の動きを引き戻そうとする力

多様かつ複雑な思想史的背景をもつ中国の市民社会論を、歴史的現実を踏まえつつ理論的に再検討する。この共通テーマをめぐっては、いまだに戦後日本の社会科学を代表する市民社会論との理論的「接点」がまったく見出せていない。

日中間の社会科学者による共同作業を通し、市民社会をめぐる言説空間を構築する。

党国体制の下にあって、欧米や日本のような意味での市民社会が存在し得ない中国社会の中に「普遍的近代の可能性」を探し求めようとする日中両国の研究者の苦闘の痕がしみ出してくるような本です。

序章 中国における「市民社会」論の現在 石井知章

第Ⅰ部 現代中国における「市民社会」論

  第1章 市民社会の理論研究 徐友漁

  第2章 国家と社会 鄧正来

  第3章 中国市民社会論研究の現状と課題・展望 馬長山

  第4章 中国公民社会の制度的環境 俞可平

  第5章 マルクス主義とアジア社会発展理論の時代的価値 秦国栄

  第6章 市民社会の理念と中国の未来 陳弘毅

  第7章 公民儒教の進路 陳宜中

  第8章 天国のティートーク 劉軍寧

第Ⅱ部 現代日本における「市民社会」論

  第9章 市民社会と階級独裁 平田清明

  第10章 厳復(1854-1921)による『国富論』中国訳(1901-2)について 水田洋

  第11章 革命の社会学再論 湯浅赳男

  第12章 現代中国の「市民社会問題」への視座 内田弘

  第13章 市民社会と資本主義、社会主義、共同体 野沢敏治

  第14章 脱西欧中心主義的な「市民社会」の発展と平等主義的自由主義 今井弘道

  第15章 アジア的生産様式と市民社会 福本勝清

  第16章 中国社会理論は何を前景化したのか? 緒形康

  第17章 権力に従順な中国的「市民社会」の法的構造 鈴木賢

  第18章 フランスの思想家から見た中国と市民社会(Civil Society) 王前

  第19章 K・A・ウィットフォーゲルの「市民社会」論 石井知章

あとがき 石井知章・緒形康

石井さんは例によってウィットフォーゲル論ですが、本書のうち前半の中国側研究者によるものは、なかなか読みにくい面はありますが、面白いのがいくつかあって、とりわけ第8章の劉軍寧さんの「天国のティートーク」てのは、孔子と老子の対話篇という構成で、孔子に

私の政治に対する理解は誤っていたようです。私は政治をずっと善なる事業と思っていた。

とか、

我々儒家は、私が公に服従するようずっと主張してきましたが、現在から見ると問題が多く、真剣に再検討すべきです。

とか言わせてますね。

2017年5月12日 (金)

28度

https://twitter.com/dig_nkt_v2/status/862541581894557696

Bfxrbayf_bigger 国が「28度」なんて戯言ぬかすから、どこもかしこもエアコンの室温設定を28度にしやがって、そのせいで、湿度やPC、コピー機、蛍光灯などの温度で蒸し風呂状態になり、結果として、オフィスを抜け出してスタバで仕事する奴が続出したので、あれは環境省によるスタバ支援政策だったんですよ(迫真

いやそもそも、労働安全衛生法に基づく事務所衛生基準規則では、

事務所衛生基準規則(昭和四十七年九月三十日労働省令第四十三号)

(空気調和設備等による調整)

第五条 ・・・

3 事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない

17度以上28度以下にしろと、言い換えれば28度を超えないようにしろと言っているのであって、28度を下回ってはいけないなどという馬鹿げたことは言っていないのですけど、それがいつの間にか設定を28度にしろ、それよりも涼しくするのはまかりならぬという話になってしまうのですね。

こういう国民性だから、労働基準法が40時間を超えて働かせてはいけないという話が、40時間までは働かなくてはいけないという話になり、時間外労働の絶対超えてはならない上限が月100時間だという話が、月100時間まで働くのが当たり前にする陰謀だなどいう話になってしまうのでしょうかね。

『エルダー』5月号に『EUの労働法政策』の書評

Elder 雑誌『エルダー』は、わたくしの連載が4月号でちょうど終わったところですが、その後の5月号に、拙著『EUの労働法政策』の書評が載っております。

http://www.jeed.or.jp/elderly/data/elder/q2k4vk000000vc38-att/q2k4vk000000vc5s.pdf

Eulabourlaw


最新のEU労働法の体系を歴史的・網羅的に解説
EUの労働法政策
濱口(はまぐち)桂一郎 著/
独立行政法人
労働政策研究・研修機構/
2500円+税
 本書の著者は、評判のブログ「EU労働法政策雑記帳」で日々発信を続ける濱口桂一郎氏。雇用・労働問題のブロガーとして著名だが、日本で数少ないEU労働法の研究者でもある。本書は、1998年に刊行した『EU労働法の形成』を全面的に改訂し、EUの労働法政策に関する最新の情報を盛り込んだ。本文500ページを超える大著である。
 著者は、EU労働法の全領域にわたり、指令として結実したもの、あるいは結実していないものも含めて、法政策として取り上げられたほとんどのトピックを、公刊資料などをもとに「歴史的視座に立って叙述した」としている。現在のEU労働法の全貌を、歴史的な側面からとらえるためにも、本書の価値は高い。
 EU労働法は、非正規労働者の均等待遇や労働時間規制問題など、日本が労働法制の見直しをする場合、たびたび引用され、比較される重要資料である。しかし、その全貌を理解するには、骨が折れることもまた事実。本書は、EU諸国に進出する企業の担当者にとって必読の書でもあるが、同時に、EU労働法が日本の労働法制に与えている影響に関心のある人にとっても一読の価値がある。

Euelder

2017年5月11日 (木)

ヨーロッパ社会モデルは崩壊したか@『DIO』326号

Dio 連合総研の機関誌『DIO』の326号が届きました。特集は「ヨーロッパ社会モデルは崩壊したか」です。おやおや、私のペットテーマではないですか。

http://www.rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio326.pdf

ヨーロッパ社会モデルは崩壊したか ヨーロッパ社会モモデルと民主主義の行方 新川 敏光

欧州債務危機以降の福祉国家と財政金融政策−ユーロ・システムの限界から学ぶべきもの− 岡本 英男

「ヨーロッパ社会モデル」とEU集団的労働法 井川 志郎

政治学、経済学、そして労働法の3つの方面から、かつて輝いていた、そしていまや水に落ちた犬のごとくいわれているヨーロッパ社会モデルを論じています。

このうち、井川志郎さんは、実は旧姓山本、そう、EUの国際労働法を研究している若手として注目されている山本志郎さんのことです。彼の論文は、私も何回か書いてきたテーマ、ラヴァル・カルテットをめぐる相克です。

が、ここでは岡本さんの論文の最後の節に注目しておきたいと思います。

4.むすびに代えて−ヨーロッパ労働運動の悲劇−

そう、岡本さんは例のシュトルムタールの名著を引用して、こう述べているのです。

 このような大胆な経済政策こそが、デフレ下で高失業に悩むヨーロッパ諸国が必要とするものであり、それはヨーロッパ社会民主主義の復活にとっても必要不可欠である。さらには、真の完全雇用を目指す大胆な経済政策こそ、長らく低迷に苦しむ、わが国の労働運動と社会民主主義の復活にとってカギとなると筆者は考えている14)。

(参考)

Sturmthal_2 http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/01/dio-8ff3.html (シュトゥルムタール『ヨーロッパ労働運動の悲劇』からの教訓@『DIO』289号)

連合総研の機関誌『DIO』289号が「古典から現代の労働問題を読み解く」という特集をしていまして、

私は、本ブログで何回か嫁嫁言ってきたシュトゥルムタールを取り上げています。

「日本の雇用システムの課題」 @『経営法曹研究会報』88号

『経営法曹研究会報』88号が届きました。中身は、今年2月17日に大阪で開催された経営法曹会議と関経連による労働法実務研究会の記録です。

そこでわたくしは「日本の雇用システムの課題」というあまり実務的とは言えないやや迂遠な話をしております。

濱口桂一郎 今ご紹介いただきました濱口でございます。

 本日はこの関経連と経営法曹会議の労働法実務研究会にお招きいただきまして、ご出席の皆様方も企業の人事実務に携わっておられる方々、そしてより多くの経営法曹の皆様方の前で「日本の雇用のシステムの課題」などという大変迂遠なことをお話しすることになっておりまして、どこまでお役に立てるかどうか、よくわかりません。
 ただ、逆に言いますと、今、政府、官邸主導で行われております同一労働同一賃金であれ、あるいは長時間労働の是正であれ、もちろん実務的な問題がありますし、それは後のパネルディスカッションでもいろいろ議論されるところだろうと思いますが、ある意味では日本の雇用システムのあり方そのものに関わる問題であろうと思いますし、1時間といういただいた時間の中で、そこのところを私なりの観点からお話ししたいと思っております。・・・・・

2017年5月10日 (水)

『日本労働法学会誌129号』

9784589038531

『日本労働法学会誌129号 労働法における立法政策と人権・基本権論』(法律文化社(法律文化社)が届きました。中身は昨年10月16日に獨協大学で開かれた第132回大会の大シンポジウムです。

http://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03853-1

<シンポジウム>労働法における立法政策と人権・基本権論―比較法的研究―

労働法における立法政策と人権・基本権論を比較法的に検討する今日的意義―報告全体の趣旨 浜村彰

イギリスにおける労働立法政策と人権・基本権論―労働市場の効率性と憲法化・シティズンシップ論― 有田謙司

ドイツ労働法における立法政策と人権・基本権論―最近の立法動向を中心に― 川田知子

フランス労働法における立法政策と人権・基本権論―合憲性審査における『雇用の権利』の意義と課題を中心に 細川良

日本の労働立法政策と人権・基本権論―労働市場政策における人権・基本権アプローチの可能性― 沼田雅之

総括―労働法における立法政策と人権・基本権論の比較法的研究から得られたもの 有田謙司

シンポジウムの議事録の冒頭に、わたくしの質問とそれに対する回答が載っています。

2017年5月 8日 (月)

講座労働法の再生(再掲載)

(第3巻の案内もアップされたので、改めて再掲載します)

日本評論社のHPに『講座労働法の再生』の1巻から3巻の案内がアップされています。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7438.html (第1巻 労働法の基礎理論)

07438_3 様々な社会経済状況の変化の中で生じた、労働法の位置づけや役割にかかわる基礎理論上の新たな課題について検討を行う。

第1部 労働法の体系

第1章 労働法の現代的体系…………荒木尚志

第2章 憲法と労働法…………倉田原志

第3章 民法と労働法…………山川隆一

第2部 労働関係の当事者

第4章 労働法における労働者…… ……皆川宏之

第5章 労働契約上の使用者…………本久洋一

第6章 不当労働行為における使用者…………池田 悠

第7章 労働組合の概念、意義、機能…………木南直之

第8章 従業員代表制と労使協定…………竹内 寿

第3部 労働紛争の解決と実効性の確保

第9章 個別的労働紛争解決システムの展開と課題…………村中孝史

第10章 集団的労働紛争解決システムの展開と課題…………岩村正彦

第11章 労働法の実効性確保…………鎌田耕一

第4部 公務労働

第12章 公共部門労使関係法制の課題…………下井康史

第13章 非常勤公務員制度の課題…………川田琢之

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7443.html (第2巻 労働契約の理論)

07443 雇用形態の多様化・流動化により従来の労働法が危機に瀕しており、「再生」のために必要性が増している労働契約論を論究する。

第1部 労働契約の意義と機能

第1章 労働契約の多面的機能…………野田 進

第2章 労働契約における合意…………奥田香子

第2部 労働契約の成立と展開

第3章 労働契約の成立…………所 浩代

第4章 労働契約の期間…………橋本陽子

第3部 契約内容の決定と変更

第5章 就業規則と労働契約…………山下 昇

第6章 合意による労働契約の変更…………新屋敷恵美子

第7章 就業規則の変更による労働条件の不利益変更…………石田信平

第4部 労働契約の展開

第8章 労働契約上の権利・義務…………川口美貴

第9章 使用者の人事権と労働者の職業キャリア・個人の生活および事情……小畑史子

第10章 懲戒処分と労働契約…………淺野高宏

第11章 休職・休業と労働契約停止の理論…………キョウ 敏

第5部 企業と労働契約

第12章 労働契約論における企業組織…………矢野昌浩

第13章 企業変動・企業倒産と労働契約…………成田史子

第6部 労働契約の終了

第14章 解雇の規制…………高橋賢司

第15章 辞職・合意解約・定年制…………石崎由希子

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7444.html (第3巻 労働条件論の課題)

07444 基本的労働条件である賃金、労働時間、安全衛生に関する法制度と法理論の現代的課題を明らかにして、新たな展望を試みる。

第1部 賃金

第1章 賃金の法政策と法理論…………唐津 博

第2章 労基法上の賃金規制…………浜村 彰

第3章 退職金と賞与…………島村暁代

第4章 企業年金…………河合 塁

第5章 最低賃金…………神吉知郁子

第2部 労働時間

第6章 労働時間の法政策…………緒方桂子

第7章 労働時間の法理論…………長谷川珠子

第8章 多元的な労働時間規制…………柳屋孝安

第9章 時間外・休日労働規制…………沼田雅之

第3部 安全衛生と労災補償

第10章 安全衛生・労災補償の法政策と法理論…………有田謙司

第11章 過労死と安全衛生・労災補償…………川田知子

第12章 職場におけるメンタル・ヘルス不調による精神障害・自殺の補償と予防……青野 覚

第13章 使用者の健康・安全配慮義務…………三柴丈典

今月刊行されるのはこの3冊で、その後『第4巻 人格・平等・家族責任』『第5巻 労使関係法の理論課題』『第6巻 労働法のフロンティア』は6月刊行ということです。

上の目次を見てもわかるように、執筆者がかなり若返っています。

ちなみに、わたしは第6巻に「労働法改革の国際的展開」という小論を書いております。

働き方改革実行計画と派遣労働@『月刊人材ビジネス』5月号

201705『月刊人材ビジネス』5月号に「働き方改革実行計画と派遣労働」を寄稿しました。

https://www.jinzai-business.net/gjb_details201705.html

 去る3月28日、官邸の働き方改革実現会議が「働き方改革実行計画」を決定しました。今後これに基づいて各種の法改正等が早急に進められていくことになります。マスコミ等の注目はやはりその直前に政労使で合意された長時間労働の是正策、とりわけ時間外労働の法的絶対上限の設定に集まりましたが、同一労働同一賃金という標語で注目されていた非正規労働者の処遇改善についても、とりわけ派遣労働に関して新たに興味深い基準が設けられており、その内容を注意深く検討する必要性があります。 ・・・・・

2017年5月 7日 (日)

陸軍省『国政刷新要綱案』

000404641_160362a372a8a7b3932935fe3 陸軍省が1936年に策定した『国政刷新要綱案』を読むと、この武力機関が提示した社会のあるべき姿が、いかにそれに先立つ時代に希求されながら実現に至らなかったものであるかがよくわかります。

http://ci.nii.ac.jp/els/110008793490.pdf?id=ART0009844656&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=&lang_sw=&no=1494131330&cp=

いろんな意味で苦い思いとともに再三読み返されるべき歴史文書であることは間違いないのでしょう。

ここでは、本ブログが関心を有する「其五、労働政策」から一部を。

二、労働組合法ノ制定

 我力国産業、労働ノ実状二適応シ、且日本精神二基ク労働組合法ヲ制定シ、以テ其発達ヲ堅実ナラシムル如ク保護助長ヲ図ル、而シテ其組織ハ産業別連合体トナス。

三、勤労保護方策

(1)勤労機会保障策

2. 強行規定ヲ以テ解雇ヲ制限ス、 特ニ技術工於テ然り

3.婦人勤労者ハ努メテ家庭二還シ、男子二就職ノ機会ヲ与フルト共二、婦人ノ健康ヲ保護ス

(2)勤労力維持策

1.最低賃金制度ヲ確立シ、勤労者ノ生活ヲ保障ス

2. 一日ノ勤労時間ハ、八時聞(鉱山七時間)ヲ定時間トシ、実働十一時間休憩時間ヲ合シテ十二時間ヲ超ユルコトヲ得サラシメ、産業別、職別二更二就業時間ヲ制限ス

(4)労資関係調整策

1. 工場懇話会制度ヲ創設シ、企業者側ト従業者側トノ交渉ヲ整調ス

2.労働監督機関ノ任務ノ拡大及権限ノ強化二依リ、労働監督制度ノ統一強化ヲ図ル

女性労働者を家庭に帰せとはなんたる反動などとフェミニズム的批判をする前に、これら項目はまさに当時の社会民主主義者や労働運動が要求しながらも、当時のブルジョワ政党の政治家によって退けられていた「ソーシャルアジェンダ」であったことを考え、それを政府部内で平然と打ち出すことができたのは、武力でもって政治家を威圧できた陸軍だけであったということの意味を、苦みとともに深く考えるべきでしょう。

もちろん、これらは軍部の国民への人気取りであり、本気じゃなかったという批判は十分可能で、その証拠に、戦争が激化すると、家庭に返せといっていたはずの女子労働力を女子挺身隊として引っ張り出すわけですが、それにしても、成人男子労働者について1日の上限12時間を初めて打ち出しており、これを受けて1939年の工場就業時間制限令で、一部業種についてのみですが、1日12時間の上限が設定されることになるのです。

(参考までに)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_a88b.html

ま、ここくらいまでは、ちょいとモノの分かったブロガーなら書いてるでしょうけど、その先があります。じゃ、なぜその日本が戦争に突入していったのか。多くの一見穏当な歴史観はそこで間違う。戦前の日本は立派にリベラルだったのに、軍国主義に席捲されたとか、そういう類のね。

戦前の日本が過剰にリベラルだったから、それに対するソーシャルな対抗運動が「革新派」として拡大していったからなんでね。まさに、ポランニーの云う「社会の自己防衛運動」。戦前の二大政党制の下では、本来そっちを取り込むべき立場にあった民政党は、確かに社会政策を重視し、労働組合法の制定に努力したりしたけれども、同時に古典派経済学の教義に忠実に従うあまりに金解禁を断行し、多くの労働者農民を不況の苦痛に曝すことを敢えて行うほどリベラルでありすぎたわけで。どっちにも期待できない労働者たちは国家主義運動に期待を寄せるしかなくなったわけで。

この辺、二大政党制に舞い上がりかけている民主党さんによーく歴史を勉強し直して貰わなければならないところでっせ。

夏休みの課題図書を増やすのは心苦しいのですけど、

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480061577/

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坂野潤治『昭和史の決定的瞬間』ちくま新書

この中味を簡単に喋ったものが、連合総研のDIOに載っていますので、そっちをリンクしておきます。

http://www.rengo-soken.or.jp/dio/no156/leadersseminar.htm

(追記)著者と書名を書くのを忘れていました。

ちくま新書は玉石混淆ですが、これはもっとも読むに値する名著です。

せっかくなので、決定的瞬間、つまり広田弘毅内閣が退陣して、宇垣一成内閣が流産するあたりの記述をいくつか引用しておきます。

>「平和」と「反ファッショ」を掲げる「人民戦線派」は宇垣内閣の成立を期待し、「戦争」と「社会主義」を求める「広義国防派」は、宇垣内閣反対、林銑十郎内閣支持の立場

>筆者が近年、「平和」と「改革」の背反性という難問に直面しているからである。仮に「ファシズム」という便利な概念が存在しなかったとすれば、昭和12年1月の日本で、社会大衆党と既成政党のどちらをとるかは、大問題であったはずである。

>さらに、「戦争」と「平和」の問題に目をつぶれば、陸軍と結んでも資本家に打撃を与えようとする社会大衆党の立場は、十分に社会主義的であった。労働組合法はもちろん退職手当の法的保障にすら応じない資本家側の全国産業団体連合会の立場を、民政党も政友会も衆議院で忠実に代弁していたのである。

>そのような政友会と民政党が、「ファシズム」と「戦争」に反対するために宇垣一成内閣を支持しようと呼びかけても、社会主義者は簡単にはその呼びかけには乗れなかったのである。

>戦後の歴史学にあっては、一方の極に「平和と反ファシズムと資本主義」があり、他方の極には「戦争とファシズム」があったことが前提とされてきた。この図式を「ファシズム」抜きに歴史的事実に即して描き直せば、一方の極には「平和と資本主義」が、他方の極には「戦争と社会主義」があったことになる。宇垣一成内閣構想は前者を代表し、林銑十郎内閣構想は後者の支持を得ていたのである。

>社会大衆党の改革要求、資本主義批判を「ファシズム」の側に組み込んでしまっては、当時の日本の政治社会を理解できないのである。

(再追記)

ついでに、戦後歴史学では反戦平和の闘士としてもてはやされている斉藤隆夫、帝国議会で軍部を痛烈に批判した粛軍演説ですが、彼はその冒頭こういういい方をしているんですね。

>一体近頃の日本は革新論及び革新運動の流行時代であります。

>しからば進んで何を革新せんとするのであるか、どういう革新を行わんとするのであるかといえばほとんど茫漠として捕捉することはできない。

>畢竟するに、生存競争の落伍者、政界の失意者ないし一知半解の学者等の唱えるところの改造論に耳を傾ける何ものもないのであります。

生存競争の落伍者」ごときのいうことに耳を傾けることなんぞできるか!

とまで罵られて、反ファシズムのため連帯しませうと云えるほど、日本の社会主義者たちは心広くはなかったわけです。

赤木君ではないが、「ひっぱたきたい」と思ったであろうことは想像に難くありません。

2017年5月 3日 (水)

憲法記念日に憲法27条2項を考える

ここ数年、憲法記念日になるとお蔵出ししている記事ですが、9年前にこんなエントリを書きました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-807a.html (休息時間なくしてワーク・ライフ・バランスなし)

・・・興味深いのは、休息時間規制は労働基準法にはないけれども、

第二十七条  すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

2  賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

と、憲法にははっきりと明示されていることを指摘していることです。・・・

(追記)

参考までに、英文でいうと、

Article 27.

All people shall have the right and the obligation to work.

Standards for wages, hours, rest and other working conditions shall be fixed by law.

レスト(休息)であって、ブレイク(休憩)ではありませんね。

憲法施行70年ということで、いろんな方々がいろんなことを論じる中で、おそらく一番論じてもらえそうもない条項ではありますが、しかし施行後70年間、無制限の時間外・休日労働が認められる中で、実質的に空文化していたこの規定が、ようやく70年ぶりに実定法上の根拠を得られるようになるかも知れないというのは、憲法学者や新聞政治部記者にとってはどうでも良いことかも知れませんが、労働関係者にとってはやはりいろいろと思いをもって噛みしめる値打ちのあることのようにも思われます。

2017年5月 2日 (火)

第90回日本産業衛生学会

今月11日~13日に東京ビッグサイトで開かれる第90回日本産業衛生学会の公募シンポジウム「過重労働対策から考える労働時間と休息確保のあり方~わが国の勤務間インタ-バル制度」に出ます。

Top2

Anei

座長の言葉

 某企業の新人女性社員の自殺が昨今話題となっている。有名企業に勤める若い女性が過重労働によって精神的に追い詰められ自死されたということで、より注目されたものと思われる。わが国では、このような過重労働に伴う脳心血管疾患や精神疾患問題が長く議論され、その対策は産業保健分野の重要な課題となってきた。国は2002 年に「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定して以来、ガイドラインや安衛法によって過重労働対策を図ってきた。現在、過重労働対策の主たるものは労働時間規制であるが、36 協定による「合法的な残業」やサービス残業など長時間労働はなお残存している。それに加えて、最近の雇用情勢の中で勤務形態、雇用形態など働き方も大きく変化しており、単純な労働時間規制だけでは過重労働対策、疲労対策がうまく機能しない場面も多くなってきている。実際、過重労働による脳・心疾患の年間労災支給件数は、この 10 年間、ほぼ 300 件前後で推移しており、精神疾患の労災支給件数も最近 5 年間は 400 件以上であり、ともに減少する傾向は認められない。2014 年に施行された過労死防止法でも過労死予防対策の充実が求められており、過重労働に対する有効な対策の着想と活動のいっそうの強化が重要と考えられる。

 そのような背景を基にして、現在行われているような負荷・負担対策としての労働時間規制という発想から個人生活・休息時間(疲労回復時間)を確保しつつ疲労対策、特に慢性疲労対策を進めていこうという考え方が生まれてきた。その一つの例が勤務間インターバル制度といえよう。一昨年の第 88 回大会では、産業疲労研究会提案シンポジウムで勤務間インターバル制度の概要について紹介した。今回のシンポジウムにおいては、さらに、勤務間インターバル制度の疲労対策としての有用性について、わが国で実際に導入されている企業での調査や欧州における実例を参考にしながら科学的な洞察をしていきたいと思っている。

島貫智行『派遣労働という働き方』

L16497島貫智行さんから『派遣労働という働き方--市場と組織の間隙』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641164970

制度改正等にも促される形で増加傾向にある派遣労働者は,分離した指揮命令関係と雇用関係のもと,いかなる困難に直面し,それをどう乗り越えようとしているか。質的調査で当事者視点に迫りつつ,「仕事の質」概念によって,その多様な側面を総合的に検討する。

派遣労働者の丹念な研究という意味では、JILPTの小野晶子さんと共通しますが、本書の特徴は「仕事の質」をキー概念にして、派遣労働者の仕事の質が劣るのは、労働契約(有期契約か無期契約か)のせいなのか、雇用関係(二者関係か三者間関係か)のせいなのかを分析しているところでしょう。

第1部 派遣労働の捉え方
 第1章 問題設定──派遣労働とは何か
 第2章 先行研究の検討──どのように議論されてきたか
 第3章 分析の視点・枠組み・方法──どのように捉えるか
第2部 派遣労働者が経験する困難
 第4章 賃金と付加給付
 第5章 雇用の安定性と能力開発機会
 第6章 仕事の自律性と労働時間
第3部 派遣労働者が困難に対処する方策
 第7章 派遣労働の受容──派遣労働者のジレンマ
 第8章 派遣労働の回避──正規労働者への転換とフリーランスとしての独立
 第9章 派遣労働の克服──雇用関係とネットワーク
第4部  派遣労働者が従事する仕事の質
 第10章 就業形態による比較──正規労働よりも劣るか
 第11章 労働契約と雇用関係による比較――なぜ劣るか
 終 章 派遣労働とはどのような働き方か

もちろん第2部、第3部で丁寧なヒアリング結果から派遣労働者の肉声でその直面する諸問題を語らせているところも、実に読み応えがあります。面白いです。

さて、本書の副題は「市場と組織の間隙」となっていて、ちょっと意味が分かりにくいですね。その種明かしは終章の理論的解釈のところでされます。ここだけでも立ち読みする値打ちはあります。ただ、派遣という働き方が自営と雇用の中間であり、外部労働市場と内部労働市場の中間であるというのは分かるのですが、そして市場と組織の中間だというのも分かるのですが、それがネットワークだというのは若干違和感がありました。

ネットワークという言葉はある程度日常用語でありながらいろんな学問分野でそれぞれのニュアンスを持って学術用語としても用いられるので、派遣元と派遣先と派遣労働者の三者のネットワークという意味だと書かれても、同じような違和感を感じる人は多いのではないでしょうか。

いやその先では、派遣労働者の人的ネットワークが職業コミュニティとして活用されているという話にもなっていくのですが、いやそれは派遣労働者だけの話ではないのでは、と。

それにしても、終章の「3 派遣労働のこれから」で書かれているこれからの派遣労働のあるべき姿の見取り図は、とりわけ派遣業界の人々はじっくりと読んでどう活かしていくかを考えるよすがになるはずです。

日本NPO学会第19回年次大会

日本NPO学会第19回年次大会が、今月13,14日、東京学芸大学で開かれるそうです。

http://janpora.org/meeting/

http://janpora.org/meeting/pdf/170426.pdf

土曜日の14:30から「変わりゆく「家族」:格差・孤立・貧困を超えて」という公開シンポジウムをやるそうで、そこにJILPTの周燕飛さんもパネリストとして出るほか、小野晶子さんが司会をするとのことです。

関心のある方は是非。

ちなみにわたしは当日その時間は、日本産業衛生学会のシンポジウムで勤務間インターバルの話をしているはずです。

Npo

2017年5月 1日 (月)

日本弁護士連合会『女性と労働』

Josei 日本弁護士連合会第58回人権擁護大会シンポジウム第1分科会実行委員会『女性と労働 貧困を克服し男女ともに人間らしく豊かに生活するために』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/1170?osCsid=5k9cno58ilb8bf9djdurjp0v72

なぜ貧しいのか? どうしたら解決できるのか? 非正規、シングルマザー、セクハラ、マタハラ、性産業、生活保護……多様な問題を取り上げ、解決のための実践を提案。女性問題に関心を持つ全ての人に! 女性労働先進国オランダの調査報告収録

ということで、下記のような非常に広範な分野にわたって記述されています。正直、全体として総花的に何でも書き込んだ感はありますが、逆に漏れなく触れられているという意味で便利なのかも知れません。

読んで面白いのは、巻末にまとめられているオランダのいろんな組織や人々のインタビュー記録です。ちなみに、最後の調査報告23「P&G 292」というのは、アムステルダムのセックスワーカーの支援センターで、調査団とのやりとりが興味深いです。

序 章~社会を変える力

1 顕在化する女性の貧困

2 女性の活躍を求める最近の動きとその狙い

3 女性も男性もともに活躍できる社会への処方箋

第1章 女性がおかれている労働現場の実態

1 女性の貧困の実情

 (1) はじめに

 (2) 貧困が引き起こす事件

 (3) 女性の貧困の実情

  1) 日本の相対的貧困率

  2) 女性の貧困

  3) 諸外国との比較

 (4) 女性労働者の貧困

  1) 日本の女性労働者の収入

  2) 女性労働の非正規化

2 女性労働者の就労実態

 (1) シングルマザーの就労実態

  1) はじめに

  2) シングルマザーに関する経済状況の概観

  3) シングルマザー世帯間における格差

  4) シングルマザー自身の意識

  5) まとめ

 (2) 福祉職(介護・保育)

  1) 介護労働者

  2) 保育士

 (3) 教員(小・中学校)

 (4) 婦人相談員

 (5) 看護職員(保健師・助産師・看護師・准看護師)

 (6) サービス業について

  1) サービス業の概況

  2) サービス業従事者における女性の数、割合

  3) サービス業に関する賃金格差について

  4) サービス業に就業する女性の状況

 (7) 性産業

  1) 性産業とは

  2) 性産業に従事している労働者

  3) 売春防止法の問題点

  4) まとめ

3 非正規雇用に追い込まれる女性たち

 (1) 女性と非正規雇用

  1) はじめに

  2) コース別雇用管理制度

  3) 狭い再就職市場

 (2) 非正規であることによる格差

  1) 正規雇用と非正規雇用

  2) 統計数値に表れる女性の非正規雇用の現状

  3) 法的観点からみた非正規雇用の地位の不安定

  4) 法的観点から見た非正規雇用の差別的待遇

  5) まとめ

 (3) 待遇面での男女間格差

  1) 女性の待遇の実態

  2) 賃金

  3) 均等待遇

  4) 「マミートラック」の問題

 (4) 長時間労働の問題

  1) はじめに

  2) 依然として多い長時間労働

  3) 事実上、無制限な時間外労働限度基準

  4) 長時間労働と低い年次有給休暇の取得率

  5) 過労死の実態

  6) 女性労働者の長時間労働

  7) 男女共通の労働時間規制が必要

 (5) ハラスメント

  1) ハラスメント総論

  2) セクシュアル・ハラスメント

  3) マタニティ・ハラスメント

第2章 労働現場での女性差別はなぜなくならないのか

1 女性労働をめぐる政策の変遷

 (1) 憲法の労働に関する規定

  1) 憲法で勤労権等を規定

  2) 労働基準法の女性の労働基準に関する規定

 (2) 高度経済成長を支えた女性労働者

  1) 女性労働者の増大

  2) 男女差別の是正を求める裁判と「男女平等法」の制定を求める運動

 (3) 女性差別撤廃条約の批准および男女雇用機会均等法の制定と改正

  1) 女性差別撤廃条約の採択

  2) 条約の基本的な考え方・理念

  3) 条約の批准と「男女平等法」の制定を求める国民の声

  4) 「小さく産んで大きく育てよう」といわれた男女雇用機会均等法の成立

  5) 男女雇用機会均等法の改正

  6) 現行の男女雇用機会均等法の内容

 (4) 男女雇用機会均等法制定後の職場での女性の働かせ方

 (5) 女性非正規労働者の急増

  1) 主婦パートの急増――専業主婦から兼業主婦へ

  2) 総人件費の抑制と非正規労働者の拡大

  3) 不安定で低賃金の非正規拡大とそれを支えた規制緩和路線

  4) 女性の貧困化のもとで必要な施策

 (6) 少子高齢化・人口減少社会を迎えて

  1) 崩壊しつつある標準世帯モデル

  2) 人口減少社会

  3) 真のワークライフバランスの確立を

 (7) 政府の女性労働力政策

  1) 安倍内閣の成長戦略での女性の位置づけ

  2) 成長戦略で女性は「輝く」か?

2 性別役割分担(意識)の問題

 (1) 性別役割分担とは

 (2) 性別役割分担がもたらすもの

 (3) 性別役割分担の歴史的背景

  1) 性別役割分担が生まれた背景

  2) 日本における性別役割分担

 (4) 家事労働負担の実態や人々の意識

    ――内閣府「平成25年版男女共同参画白書」から

  1) 家事の分担の実態

  2) 性別役割分担に関する人々の意識

 (5) 性別役割分担からの脱却をめざして

3 無償労働と女性の地位

 (1) 無償労働の評価の目的

 (2) 日本における初めての「無償労働の貨幣評価」の発表

  1) 「無償労働の貨幣評価」の発表

  2) 「無償労働の貨幣評価」の方法

  3) 「無償労働の貨幣評価」の結果

  4) 「専業主婦の家庭内労働の評価」と問題点

 (3) 「無償労働の貨幣評価」の前進

 (4) 専業主婦優遇政策による無償労働への女性の囲い込み

 (5) 今後の課題

4 有償労働における男女格差

 (1) 男女の賃金格差の存在

  1) 正社員・正職員の男女格差

  2) 雇用形態別の男女格差

 (2) 賃金格差の要因

 (3) 賃金格差の国際比較

第3章 問題の解消に向けた制度改革

1 はじめに

2 新たな法制度の構築

 (1) はじめに

 (2) 正規雇用原則の重要性

 (3) 同一価値労働同一賃金の原則

  1) はじめに

  2) 職務分析・職務評価の制度確立の必要性

 (4) 男女雇用機会均等法の改正の必要性

 (5) 長時間労働の規制

  1) 諸外国の規制

  2) 労働基準法改正法案について

  3) あるべき労働時間規制

 (6) 最低賃金・公契約条例

  1) 最低賃金引上げの重要性

  2) 公契約条例による最低賃金規定の意義

 (7) 労働者派遣法の改正

 (8) 有期労働契約の規制

  1) 有期労働契約が増大した背景

  2) 有期労働契約の規制について

3 ポジティブアクション(積極的差別是正措置)の創設

 (1) はじめに

  1) 女性の活躍推進に関する政策

  2) 政策に対する疑念の声

 (2) ポジティブアクションとは

  1) ポジティブアクションの定義

  2) ポジティブアクションに関する条約・法律

 (3) ポジティブアクションの必要性

  1) 実質的な機会の平等の確保

  2) 民主主義の要請

  3) 国際指標における著しい低位

  4) 女性差別撤廃委員会による度重なる勧告

  5) まとめ

 (4) ポジティブアクションと能力主義との関係

  1) 能力主義に反するという意見

  2) 能力主義の限界

 (5) 諸外国の雇用に関するポジティブアクションに関する取り組み

  1) 諸外国におけるポジティブアクション

  2) 女性管理職に関する諸外国の取り組み

 (6) 日本の現状

  1) 民間企業

  2) 行政分野

  3) 労働組合

  4) ポジティブアクションは女性の貧困の解決策となりうるか

4 社会保障制度の構築

 (1) 「標準モデル世帯」の見直しと所得再分配機能の強化

  1) はじめに

  2) 女性と税制

  3) 女性と年金

  4) 現金給付

  5) 女性にとっての健康保証と人権としてのリプロダクティブライツの保障

  6) 住宅政策

 (2) 育児・介護・教育の支援

  1) 保育制度の充実

  2) 介護の支援

  3) 教育費の負担の軽減

5 税と社会保険料についての問題

 (1) 所得再分配機能の回復

 (2) 財政の憲法原理

 (3) 応能負担に反する税制

 (4) 不公正税制による影響

 (5) あるべき税制

  1) 所得税

  2) 住民税

  3) 相続税

  4) 消費税

  5) 法人税

  6) 基礎控除

  7) 負担軽減の手法

 (6) 所得の海外移転への対策

 (7) 税財政における民主主義の回復

終 章~もう一歩先へ進むために大切なこと

資 料① 全ての女性が貧困から解放され、性別により不利益を受けることなく働き生活できる労働条件、労働環境の整備を求める決議

資 料② オランダ調査の報告~法制度の光と影

 調査報告① アムステルダム大学ヒューゴ・ジンツハイマー研究所(1)

 調査報告② アムステルダム高等裁判所

 調査報告③ 人権研究所

 調査報告④ クララ・ウィッチマン研究所

 調査報告⑤ ウイレム・フィッサート・ホーフト博士のレクチャー

 調査報告⑥ オランダ労働組合連盟

 調査報告⑦ 社会経済評議会

 調査報告⑧ オランダ全国使用者連合

 調査報告⑨ アムステルダム大学ヒューゴ・ジンツハイマー研究所(2)

 調査報告⑩ ハウストフ・ブルマ法律事務所

 調査報告⑪ 子どもオンブズマン

 調査報告⑫ リヒテルズ直子さんによるレクチャー

 調査報告⑬ アトリア

 調査報告⑭ ストリートコーナーワーク

 調査報告⑮ 保険医へのインタビュー

 調査報告⑯ リーヒゥンボーヒ小学校

 調査報告⑰ ダク保育園

 調査報告⑱ ゼブラ福祉財団

 調査報告⑲ 児童虐待防止センター

 調査報告⑳ 元ホームレスのガイドによるアムステルダムツアー

 調査報告21 ボランティア・アカデミー

 調査報告22 社会文化局

 調査報告23 P&G 292

佐々木亮・新村響子『ブラック企業・セクハラ・パワハラ対策』

144432佐々木亮・新村響子さんの『ブラック企業・セクハラ・パワハラ対策』(旬報社)を お送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/1171?osCsid=g5av72if3eubv7dsifpi5fbv93

職場での「いじめ・嫌がらせ」や労働法を無視した働かせ方をなくすために!
パワハラ、セクハラ、マタハラからブラック企業まで。
経験豊かな第一線の弁護士が最新の法律と裁判例を解説する実務家必備の一冊!

正直言うと、パワハラ、セクハラ、マタハラの3ハラスメントの法律実務解説に、ブラック企業とブラックバイトに関するやや一般的な叙述をつけ合わせして作ったという感じの本です。

第2章の章末に付いているパワハラ裁判例一覧が大変便利です。

はじめに
第1章 現代社会のいじめ・ハラスメント
01 増え続ける相談件数
02 なぜ「いじめ・ハラスメント」の相談が増えるのか
  (1)労働現場の過酷な現状
  (2)労働問題としての認識の深まり
  (3)権利意識の上昇
03 職場における「いじめ・嫌がらせ」とは何か
  (1)セクハラ
  (2)パワハラ
  (3)マタハラ
  (4)職場いじめ
04 社会問題化する「職場におけるいじめ・ハラスメント」
  (1)労働者側
  (2)使用者側
  (3)社会問題として
  (4)国の取り組み
05 現行法の規制ととり得る手段
06 立証に向けて
07 使用者に求められる対策・役割

第2章 職場におけるいじめ・パワーハラスメント
01 パワーハラスメントとは
  (1)増加する職場いじめ・パワハラ相談
  (2)パワハラの定義・行為類型
02 パワーハラスメントに対する民事損害賠償請求
  (1)職場において保護されるべき労働者の権利
  (2)違法性の判断基準をどう見るべきか
  (3)加害者に対する損害賠償請求
  (4)使用者(企業、国、地方公共団体等)に対する損害賠償請求
  (5)損害
03 人事権行使への対応
  (1)人事権行使の適法性が問題となるケースとは
  (2)人事権行使が濫用となる判断基準
  (3)人事権濫用・逸脱が認められた裁判例
04 裁判例から見るパワーハラスメント
  (1)行為類型ごとの裁判例
  (2)適正な職務指導との境界線
05 パワーハラスメントと労災
  (1)労災保険制度
  (2)パワハラが労災と認められるための基準
  (3)労災と認定した裁判例
06 パワーハラスメントを受けた場合の対応策
  (1)証拠収集
  (2)紛争解決手段

第3章 セクシャルハラスメント
01 セクシャルハラスメントとは
  (1)セクハラの定義
  (2)事業主の措置義務
  (3)セクハラの実態
02 セクシャルハラスメントに対する民事損害賠償請求
  (1)職場において保護されるべき労働者の権利
  (2)違法性の判断基準――民事責任を問いうるセクハラとは
  (3)加害者に対する損害賠償請求
  (4)使用者(企業、国、地方公共団体)に対する損害賠償請求
  (5)事実認定――被害者の供述の信用性
  (6)同意・恋愛の抗弁
  (7)損害
03 刑事責任の追及
04 セクハラを理由とする懲戒処分
  (1)セクハラに対する厳正な対処の必要性
  (2)懲戒処分の有効性に関する争い
05 セクハラによる精神障害に対する労災申請
  (1)労災認定基準の改訂
  (2)精神障害の労災認定要件
  (3)セクハラが「業務による強い心理的負荷」かどうかの判断基準
  (4)セクハラ事案の労災留意事項

第4章 マタニティハラスメント
01 マタハラとは
  (1)マタハラの定義
  (2)マタハラの実態
02 妊娠、出産、育児、介護に関する法制度
  (1)多岐にわたる妊娠、出産、育児、介護に関する法制度
  (2)妊娠・出産に関する権利・制度
  (3)育児に関する権利・制度
  (4)介護に関する権利・制度
03 マタハラに関する法規定
  (1)マタハラに関連する法律上の規定
  (2)育児・介護ハラスメントに関連する法律上の規定
04 広島中央保健生協(C生協病院)事件最高裁判決の意義と活用
(1)広島中央保健生協(C生協病院)事件・最判平26.10.23判決の意義
  (2)育児・介護を理由とする不利益取扱いについても同様に解されること
     ――櫻井補足意見の活用
  (3)厚生労働省による解釈通達
  (4)妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い全般への汎用性
05 マタハラに対する法的対応
  (1)違法無効な不利益取扱いに対する法的請求
  (2)人格権侵害に対する損害賠償請求
06 マタハラの被害者・加害者にならないために
  (1)知識をつける
  (2)意識改革の必要性
  (3)働き方改革・環境の整備の必要性

第5章 「ブラック企業」問題
01 ブラック企業とは何か
  (1)用語としての「ブラック企業」の誕生
  (2)ブラック企業の定義――中核と外縁
02 ブラック企業はなぜ生まれるのか
  (1)理由① 若者を取り巻く社会構造上の問題
  (2)理由② 労働のルールに対する知識・意識の欠如
  (3)理由③ 近視眼的な経営とその模倣
  (2)理由④ 労働組合の組織率の低下
03 ブラック企業では何が起きているのか
  (1)類型――よくある“手口”
  (2)詐欺求人
  (3)入社後選別
  (4)戦略的パワハラ
  (5)長時間労働と残業代不払い
  (6)職場崩壊
  (7)退職妨害
04 再び社会問題としてのブラック企業

第6章 ブラックバイト
系統別に見るブラックバイトの法律問題
  (1)無賃労働系
  (2)ノルマ系
  (3)罰金・損害賠償系
  (4)シフト系

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