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2017年5月23日 (火)

「民進党のパワハラ防止法案?」@『労基旬報』2017年5月25日号

『労基旬報』2017年5月25日号に「民進党のパワハラ防止法案?」を寄稿しました。内容は、『情報労連REPORT』4月号に載っていた石橋通宏参議院議員のインタビュー記事のほぼ忠実な紹介です。ちょうど先週金曜日に厚生労働省で職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会が開始されたところでもあり、一つの議論の素材として有用ではないかと思います。

1704_sp05_face 2001年に施行された個別労働紛争解決促進法に基づく相談件数等では、長く解雇がトップを占め続けてきましたが、近年ではいじめ・嫌がらせの方が多くなっていることは周知の通りです。2015年度には、民事上の相談245,125件のうちいじめ・嫌がらせが66,566件、解雇が37,787件、労働局長による助言・指導8,925件のうちいじめ・嫌がらせが2,049件、解雇が1,180件、さらにあっせん申請4,775件のうちいじめ・嫌がらせが1,451件、解雇が1,318件と、遂にあっせんでも解雇を追い抜いてしまいました。
 これに対して労働政策の方面では、2011年7月に設置された職場におけるいじめ・嫌がらせ問題に関する労使円卓会議が、2012年1月にまとめた提言において、「パワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義し、パワハラを予防するためにとるべき措置について示しただけで、その後特段の動きは見られませんでした。
 ところが、去る3月に取りまとめられた働き方改革実行計画の策定過程において、長時間労働の是正をめぐって労使の直接交渉が行われ、その中からやや瓢箪から駒のような形で、「職場のパワーハラスメント防止に向けて、労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」という一項が盛り込まれ、検討会が設置されることとなりました。あくまで「対策の検討」といっているだけなので法制化につながるかどうかは未確定ですが、その際に議論に素材になる可能性が高い考え方が、最近刊行された情報労連の機関誌『REPORT』4月号に載っています。
 同号は「パワハラをなくそう」という特集に研究者、運動家、弁護士などさまざまな人が寄稿していますが、その中に民進党の参議院議員である石橋通宏氏の「パワハラ防止措置の法制化を」というインタビュー記事があります。それによると、パワハラ防止に関する法規制がない中で、石橋議員が主担当となって防止措置を法制化する動きが民進党内でスタートしているとのことです。以下、石橋氏の発言をもとに、民進党のパワハラ防止法案の現段階での考え方を見ていきましょう。
 まず、大きな方向性としては、労働安全衛生法を改正して、パワハラを定義し、その防止措置や対策に関して雇用管理上の責務を事業者に課すことを想定しています。最大のポイントはどこまでを規制対象とするかです。石橋氏は3つの類型を上げています。第1は同一企業・事業所内のパワハラで最低限含まれますが、第2として異なる企業間のパワハラ、たとえば親会社の社員から子会社の社員へ、発注元から下請企業の社員へといったものを挙げています。これは上記提言には含まれていない類型ですが、石橋氏らは検討課題にしています。さらに第3として、これは提言でも触れられていましたが、消費者や公共サービス利用者から労働者や公務員に対して起きるパワハラがあり、これを議論の俎上に載せています。石橋氏自身、第2や第3の類型は定義の問題など法規制が困難であることを承知しつつ、できるだけ対象範囲を拡げる方向で検討しているということです。
 具体的な法規制のあり方ですが、まず国に対して、パワハラ対策として事業主が講ずべき措置に関する指針を策定させ、その上で、事業者に対し、国の指針に基づいた行動計画の策定と、対策を実行するための部署の設置または担当者の任命を求めます。こうしたスキームを通じて、①予防的措置、②問題の早期発見、③問題発生後の迅速かつ適切な対応策を講ずることを求めます。適切な措置をとらない事業者に対しては、セクハラやマタハラと同じように、指導・勧告、そして企業名公表などの措置を想定しています。また、紛争解決処理に関しては、個別労働紛争解決促進法に基づくあっせんに加えて、その他の中立的な第三者機関を想定しているとのことです。これは、上記第2類型、第3類型は個別労働紛争の枠を超えるからとのことです。しかし、そのためにわざわざ新たな組織を作るのかというのは、なかなか突破するのが難しいところかも知れません。
石橋氏が課題として挙げるのは、やはり第2類型や第3類型を事業者の雇用管理責任という切り口で位置づけることの難しさです。第2類型の場合、被害者と加害者が別の企業に属しているので、事業者が親会社や取引先企業に属する加害者に対して雇用管理責任を果たすことはできません。そこで、加害者が誰であっても、被害者側の事業者には自社の社員をパワハラから守るという雇用管理上の責務があると位置づけ、加害者側の事業者に対してパワハラ被害を通知するところまで義務づけて、その上で加害者側の事業者に雇用管理上の責務としての対応を求めるということを考えているようです。
 第3類型はもっと難しく、消費者保護法など現行法体系では消費者は弱い立場と位置づけられているため、消費者を加害者と位置づけること自体にハードルが高いのです。とはいえ、さまざまな分野で悪質クレーマーへの対策に要請があることから、何らかの対策を講じることができないか引き続き検討していきたいと述べています。ここは大変難しそうですが、どういう結論に至ることになるか、注目していきたいと思います。
 これはもちろん、民進党という野党内部での検討作業ですが、上述のように政府でパワハラ対策の検討会が立ち上げられることになると、その素材として議論の対象となっていくことが予想されます。第2類型やとりわけ第3類型を最初から規制対象にフルに取り込んでいくのは難しいかも知れませんが、大きな枠組としては石橋氏らが考えている方向性がかなりの影響力を及ぼしていくことも考えられ、人事労務関係者としては注目していく必要があるでしょう。

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