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« 労政審と三者構成原則 | トップページ | 「違法な時間外労働43.9%」@『労務事情』2017年4月1日号 »

2017年4月 2日 (日)

副業・兼業と過労死認定

先日策定された働き方改革実行計画には、同一労働同一賃金や時間外労働の上限規制のようにホットな議論の的となったものもありますが、必ずしもそれほど議論されないで盛り込まれたものもあります。そのうち、副業・兼業の促進について、労働ジャーナリストの溝上憲文さんがプレジデント・オンラインで「過労死・残業を認めない「副業推進」の罠」と題して論じています。

http://president.jp/articles/-/21768

このうち、労働時間の通算問題や労災保険の給付基礎日額の問題については政策論としても結構議論されており、私も昨年7月にWEB労政時報で簡単な解説を書いています。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=557

ただそのうち一つの項目については、実はあまりきちんと議論がされているとは言えず、かなり問題が残っているように思われます。それは、二重就業者の過労死認定における労働時間の算定はどうするのかという問題です。

溝上さんはこう述べています。

だが、過重労働で過労死したらどうなるのか。労災保険の補償が受けられる過労死認定基準は月平均80時間を超えて働いていた事実などが要件になる。ところが2社の合計残業時間が80時間を超えていても認定されない。現状では1つの会社の労働時間でしか判断されない仕組みになっており、本人が亡くなっても労災認定を受けられず、残された本人の遺族は救済されないことになってしまう。

ただこれは私の知る限りどこにも明示されていないように思います。下記裁判例からすると、厚生労働省はそのような立場に立っていると思われますが、処分庁(監督署長)は逆の判断をしていたことからすると、必ずしも明確なものではなかったようです。

もう8年前ですが、元監督官の社労士である北岡大介さんがブログでこう書かれていたことがあり、

http://kitasharo.blogspot.jp/2009/02/blog-post.html (人事労務をめぐる日々雑感)

・・・ここまでは労基法のおさらいですが、難問は同就労が1か月以上にわたり長期化した場合において、通算月間残業時間が80時間以上となっているケースです。仮に同ケースにおいて、過労死・自殺事案が生じた場合、副業先であるB社またはA社がどのような法的責任を負うことになるのでしょうか。とくに副業元・先がその事実を把握していない場合が問題です。大変な難問ですが、おそらくは労基署にしても裁判所にしても、まずは合算時間外労働時間数等を基に業務上外判断をすることになるのではないでしょうか。民事損害賠償の場合はA社・B社の責任割合が問題となりますが、一つの試論としては、損害発生への寄与度合などを考慮の上、責任按分を決することになると考えます(先例見当たらず)。

先例のない難問であったわけです。

国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地判平成26年9月24日)(労働判例1112号81頁)は、主として給付基礎日額の算定問題が論点となっていますが、この問題にも若干触れています。

給付基礎日額の問題はこの分野の専門家にはよく知られていると思いますが、2004年の労災保険研究会報告で合算という方向性が示されながら、2005年の法改正では盛り込まれず、、今に至っているものです。上記裁判例でも合算しないという立場が維持されていて、それはそれで今後立法論上の問題として審議されていくことになります。

なのですが、それとは別の、そもそも過労死として認定するかどうかという時に、複数勤務先における労働時間を合算するべきか否かという問題について、裁判に持ち込まれる以前の行政段階において、処分庁たる監督署長は合算し、厚生労働省はそれを否定していたようなのです。

この裁判例については、一昨年11月に東大の労働判例研究会で報告したことがあります。『ジュリスト』には掲載しなかったのですが、報告時のレジュメを拙ホームページに載せておりますが、その中で判決文にこういう一節があります。

http://hamachan.on.coocan.jp/rohan151113.html

・・・なお、確かに、Xが主張するとおり、処分行政庁は本件各処分の際に、A興業における労働時間とB社における労働時間を合算しているところ、これは、処分行政庁が判断を誤ったものというほかないが、訴訟において、Yが処分行政庁の判断と異なる主張をすること自体が許されなくなるものではない。

この問題については、正面から議論したものは殆ど見当たらないのですが、確かに労災保険法の労災補償は労働基準法の災害補償の担保なのですが、その労働基準法上の労働時間が複数企業でも通算すると(少なくとも現時点では)していることをどう考えるのかとか、今後副業・兼業を促進していくためにもそんな通算規定は廃止すべきだという議論との関係をどう考えるのかとか、いろいろとこんがらがるような論点が絡み合って、なかなか整理が付きにくいところがあります。

・・・ある事業場での勤務時間以外の時間について、労働者がどのように過ごすのかについては、当該労働者が自由に決定すべきものであって、当該事業場は関与し得ない事柄であり、当該事業場が労働災害の発生の予防に向けた取組みをすることができるのも自らにおける労働時間・労働内容等のみである。そうすると、当該事業場と別の事業場が実質的には同一の事業体であると評価できるような特段の事情がある場合でもない限り、別の事業場での勤務内容を労災の業務起因性の判断において考慮した上で、使用者に危険責任の法理に基づく災害補償責任を認めることはできない。したがって、先に挙げた場合には、いずれの事業場の使用者にも災害補償責任を認めることはできないにもかかわらず、両事業場での就労を併せて評価して業務起因性を認めて労災保険給付を行うことは、労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合に保険給付を行うと定めた労災保険法12条の8の明文の規定に反するというほかない。この点、Xは、そのうち少なくとも災害補償責任を肯定できる事業場が認められる場合には、災害補償責任が認められない他の事業場における平均賃金をも合算することができると主張するが、個別の事業場においていずれも災害補償責任が認められない場合との理論上の統一性を欠き、採用できない。そして、本件において、A興業とB社が実質的には同一の事業体であると評価できるといった特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

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