『日本の課題を読み解く わたしの構想Ⅱ』
NIRA総研編『日本の課題を読み解く わたしの構想Ⅱ』(時事通信社)をお送りいただきました。ありがとうございます。
新ビジネスの波、働き方の変革、政治への参加、世界と日本という大きく4つの領域で、全部で12の問いかけに、それぞれにほぼ5つずつ、全部で61個の回答が各界の識者から寄せられているという趣向です。
働き方改革のところでは、金丸恭文さんの「企業組織や人々の働き方はどのように変わっていくのか」という問いに、松尾豊、峰岸真澄、入山昌栄、出雲充、御手洗瑞子の諸氏が、柳川範之さんの「シニア世代の能力はどうすれば発揮できるのか」という問いに、長田久雄、原田悦子、権藤恭之、藤原佳典、伊藤由紀子の諸氏が答えています。
正直、回答者の分野がどうなのかな、というところもありますが、ここでは最後の伊藤由紀子さんの回答を紹介しておきましょう。そのタイトルは、「米国“O*NET”のような職業データベースの構築を」というものです。
・・・アメリカでは、O*NETと呼ばれる職業に関するデータベースが米労働省により整備され、これが個人と企業のマッチングを革命的に向上させた。自治体や人材紹介会社もこのデータベースを活用している。働きたい仕事に求められるスキルや企業側のニーズ、職業訓練の機会などの各種情報をウェブで提供している。複数の職業間で類似して求められるスキルを知り、転職の参考にもできる。・・・
・・・日本特有の課題は、事務職・販売職の四割以上が、自分のスキルを自覚しておらず、また自分の仕事に専門知識は不要と考えていることだ。アメリカの同職者が、高レベルの専門知識が必要と考えているのとは対照的だ。若い世代も、いずれ高齢者になるときに備えて、市場のニーズと自らのスキルを自覚し、自分を売り込めることが大切となる。
日本の労働行政も戦後すぐから職務分析を行ってきましたし、その後職業研究所、雇用職業総合研究所、日本労働研究機構、労働政策研究・研修機構と名前は変わりながらその事業は受け継がれてきましたが、民主党政権時代に事業仕分けで不要と判定されてしまいました。
自分の仕事に専門知識は不要と思っている人々の認識をそのまま政治的に代表するとそういう結論になってしまうのでしょうか。
しかし伊藤由紀子さんもいうように、これからいよいよ日本でもO*NETのような職業データベースの構築が求められてくることになるでしょう。
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コメント
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個人的に以前から興味がありましたが、今回のエントリを機に久しぶりに米国労働省が運営する包括的職業情報データベース「O*Net OnLine」(www.onetoniline.org)を覗いてみました。アメリカの全地域(労働市場)をカバーする、労働市場政策の根幹ツールともいうべきこのデータベース(職業図鑑)の充実ぶりを目にすると「これこそが「ジョブそのものの定義」であり、まさにわれわれ普通のビジネスパーソンにあてはまる「職業」なんだなぁ」という感覚が湧いてきます。
もちろん、日本にも類似の「日本職業分類」(総務省統計局 www.e-stat.go.jp )や「厚生労働省編 職業分類」(www.hellowork.go.jp )は存在します。試しに人事スタッフを探してみると、前者(総務省)では「人事事務員~採用・教育・給与・福利厚生・労務など人事の仕事に従事するものをいう」というごく簡単な説明が出てきます。
詳細な職業説明は後者(厚労省)で確認できます。たとえば同じ仕事(https://www.hellowork.go.jp/doc2/C25201jinnjikakarijimuinn.pdf ) では「人事係事務員~(どんな職業か?)企業を支える人材を活用するために、人事、労務、給与、福利厚生など社員の雇用管理に関わる事務を行う。人事関係では、社員の採用、配置、異動、昇進、退職などの事務手続きを行う。経営計画などにもとづいて社員を採用し、本人の希望や適性などを考慮して配属先を決定したり、必要な能力を持った人材を中途採用したりする。定期的に人事異動を行い、昇進の決定をすることもある。労務関係では、教育訓練や能力開発を行う。組織的に体系づけた教育訓練、自己啓発を主とした能力開発などを実施する。労働組合との折衝を行うこともある。給与関係では、毎月の給与額を算出し、出勤簿やタイムカードなどの資料と照らし合わせて、間違いがないかどうか確認を行う。福利厚生関係では、社会保険や退職年金などの事務手続きを行う。保養所や社員寮などの運営事務を行うこともある。労働基準法などの法律にもとづき、従業員が最大の能力を発揮できるように心がけて、仕事をする必要がある。職務や業績などをもとに査定を行って能力に応じた賃金を支払う新しい賃金制度の導入など、これまでの人事制度を改革する専門的な能力を求められることもある。(就くには?)大学などを卒業し、企業や団体などに採用され、人事課など人事関係の部署に配属される。労働関係の法律に適合した人事管理が求められるため、法学部出身など法律の知識を有していれば有利である。中途入社では、採用、賃金制度、社会保険関係手続きなどに精通した経験者が求められており、年齢的な制限は少ない。給与の支払いや福利厚生事務などの簡単な仕事から始めて経験を積み、採用、人事異動、賃金制度の見直しなど重要な仕事をするようになる。ベテランになるには、15~20年の経験が必要となる。様々な法規に精通していることや、社内の他部門との連携・調整力、行政官庁や他企業との折衝力などが求められる。(労働条件の特徴)~民間企業、官公庁、各種団体など、組織には人事が欠かせないため、活躍の場は全国各地にある。総務課など文書、広報などの事務と一緒の場合もある。就業者の男女比で見ると、女性の参入が増えてきている。労働時間は午前9時から午後5時まで、週休二日が一般的である。新入社員の採用期間、人事考課や異動の時期には、残業が続くこともある。関係法規の講習会、従業員の研修会などが休日に行われる場合には、休日出勤をすることもある。関連資格~ビジネス・キャリア検定 コンピュータサービス技能評価試験」というように、アメリカのO*Netに相当するものがネットで誰でも検索できます。
したがって、民主党時代の事業仕訳で職業データベースが不要と判定された結果、データベースそのものが全くなくなってしまったということではありません。
とはいえ、アメリカのO*Netと日本の職業分類には大きな違いがあります。その詳細は実際の現物(英語)を見て味わって頂くのが一番よいのですが、試しに同じ職業(人事専門職 Human Resources Specialists https://www.onetonline.org/link/summary/13-1071.00 )を見てみますと、そのシステマチックかつ分析的な記述方法に驚かされます。これはいわばJob Description(職務記述書)の元データ、アメリカ合衆国お墨付きの職業詳細紹介図鑑ともいえる内容です。そして、おそらくO*Netの一番の売りは「Wage & Employment Trends」(該当ジョブの賃金相場と雇用動向)と「Job Openings On the Web」(各州の求人情報)のWEBリンクがついています。
テレビの経済ニュースでもよく見る毎月発表される米雇用統計データは、個人所得や消費のみならず景気動向に大きな影響を与える指標として有名ですが、こうした米国労働省の統計データの有益性と信頼性に日本もまだまだ見習うべき点が多々あるように思われます。
投稿: 海上周也 | 2017年4月 6日 (木) 17時50分