前田正子『保育園問題』
前田正子さんの『保育園問題 待機児童、保育士不足、建設反対運動』(中公新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/04/102429.html
毎年2万人以上の待機児童が生まれる日本。厳しい「保活」を経ても、保育園に入れない子どもが多数いる。少子化の進む日本で、保育園が増えてもなぜ待機児童は減らないのか。なぜ保育士のなり手が少ないのか。量の拡充に走る一方、事故の心配はないのか。開設に反対する近隣住民を説得できるのか――。母親として、横浜副市長として、研究者として、この課題に取り組んできた著者が、広い視野から丁寧に解き明かす。
前田正子さんといえば、先月『大卒無業女性の憂鬱』を紹介したばかりですが、今度の本は前田さんの本領中の本領、保育所問題をこの上なく見事にまとめた一冊になっています。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/post-1111.html
最近、中公新書こそがあらゆる新書の保守本流になっているという声をよく聞きますが、本書などまさにその典型、ちょっと斜め後ろから批判しているような本も良いけれど、この問題だったらこの一冊と何のためらいもなく人に勧められる本というのも、新書本の果たすべき一つの役割なのでしょう。
第1章で日本の保育制度を簡潔明瞭に説明したあと、第2章「待機児童はなぜ解消されないのか」、第3章「なぜ保育士が足りないのか」と、今日の保育制度が抱える難題を手際よく解き明かし、第4章「量も質ものジレンマ」では、副題にもある建設反対運動の問題から始まって、保育事故の問題にも言及し、親が過敏になっていることの問題点も指摘するという目配りの良さです。この章の最後では、ある種の経済学者が唱道したがるバウチャー制がもたらす問題点も見事に指摘されています。
第5章「大人が変われば子育てが変わる」は、大人たちの働き方に矛先が向かい、育児休業と0歳児保育の問題にも論究しています。
その中でちらちらと前田さん自身の体験に基づく記述が挟み込まれ、説得力を増しています。
保育所問題についてこの一冊といえば疑いなくこの一冊、と言える本でしょう。
一点だけよくわからないのは、本書の中では一貫して「保育所」と呼ばれているにもかかわらず、なぜか本のタイトルでだけ「保育園」になっていることです。
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