日本版O-NETの創設
昨日のエントリに、海上周也さんが詳細なコメントをつけていただきましたが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-2183.html#comments
実は、日本でも再び職業情報システムを構築しようという動きがあります。
先月末に決定された「働き方改革実行計画」の中に、同一労働同一賃金や時間外労働の上限規制のように目立つ形ではないですが、こういう一節が盛り込まれています。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai10/siryou1.pdf(25ページ)
( 2)転職・再就職の拡大に向けた職業能力・職場情報の見える化
AI 等の成長分野も含めた様々な仕事の内容、求められる知識・能力・技術、平均年収といった職業情報のあり方について、関係省庁や民間が連携して調査・検討を行い、資格情報等も含めて総合的に提供するサイト(日本版O-NET)を創設する。あわせて、これまでそれぞれ縦割りとなっていた女性活躍推進法に基づく女性が働きやすい企業の職場情報と、若者雇用促進法に基づく若者が働きやすい企業の職場情報を、ワンストップで閲覧できるサイトを創設する。
また、技能検定を雇用吸収力の高い産業分野における職種に拡大するととともに、若者の受検料を減免する。
後ろの方の工程表を見ると、
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さすがに国もこれは大事なパーツとして確実に布石を打っているのですね。そこでこの「日本版O−Net」ですが、そもそも「職業能力(職場情報)の見える化」という大目的を達成するための手段です。ただ前述の通り、実は今でも似ている物(職業分類)は存在します。加えて、10年以上前から中央職業能力開発協会(JAVADA)さんも似たような「職業能力評価基準」という名の業種別スキルスタンダードの構築(能力の見える化。「日本版NVQ」を目指したもの)を粛々と進めてきました。
私の懸念は、国が良かれと思って(来たるべき時に備えて)このような外部労働市場インフラの整備をコツコツと進めていても、受益者となるはずの企業も労働者もあまりというか殆ど関心を持っていないかのように見えてしまうことです。それが何かよくわかりませんが何かあと「ひと押し」がないと、汎用性のある個人のエンプロイアビリティ(雇われる力)の必要性に対する国民的な関心あるいは危機感が育っていかない気がしています。
投稿: 海上周也 | 2017年4月 7日 (金) 18時45分
追記)都内の工科大学で機械工学を学んでいる息子が先日、超短期でフィリピン大学に研修留学に行き、向こうの学生と今もSNSで繋がっているようなのですが、今朝ほど私に「向こうの学生がよくアプレンティスシップ(徒弟制⁉︎)とインターンという言葉を使っているのだけど、インターンはわかるとして、前者の意味がわからない。」と興味深い質問を投げかけてきました。そうか、日本と違っていわゆる「就活」がない国では、アカデミックな大学卒業という資格は必ずしもある一定の職業資格を獲得したこと(つまりは就職)には直結せず、それゆえ実務経験(インターン)や職業訓練によるクォリフィケーションの取得(アプレンティスシップ)が学生の関心の話題にのぼるのだなぁと実感。そこで彼には「きっとそれはいわゆる職人の世界での昔からある徒弟制ではなく、英国やEUで広く制度化されている職業訓練とその資格制度のことだと思うよ。フィリピンでも同様にあるのかもね。誰しも学生の関心事は卒業後の就職だろうから、まずインターンで実務経験を積んで、その上でそれを公に証明できる職業資格を取得していかないと、いわゆる新卒という資格だけでは簡単にはジョブに就けないのかもね〜」とさらっと説明しておきました。学生が使う言葉一つから、改めて社会システムの違いによる学生の意識の差を考えさせられましたね…。
投稿: 海上周也 | 2017年5月 5日 (金) 12時45分
エンプロイアビリティに関する働く側の意識改革について〜当エントリ最初の拙コメント最後に記した「何かあとひと押しがないと…」の『あとひと押し』の正体が何なのか最近ずっと考えていました…。思うに、きっとそれは「テクノロジーの進歩によって人間の業務が代替される」「AIの導入で自分の仕事も将来なくなるかもしれない…」という、自らの実存を根底から揺るがしうる「危機意識」なのかもしれません。
厚労省が昨日掲載した「IoT. Big Data. AI 等が雇用/労働に与える影響に関する研究会」(佐藤博樹座長、大内伸哉委員 他)のレポートを読むと、改めて現在40歳前後(団塊ジュニア)のボリューム層への影響が大きいことがわかります。ただその一方で、スキルの再教育など今から必要な対策をきちんと打てば人間の仕事は簡単には奪われないという明るい希望も示されています。
すでに活発な会社グループ内部の人事異動(内部労働市場)と、これから活性化するであろう外部労働市場…。この2つのバランスのとれた労働市場の存在〜両者の緊張関係〜こそが強靭な日本の雇用社会を築いていくと信じています。
投稿: 海上周也 | 2017年6月 7日 (水) 06時10分
日本版O–Netの全体像が少しずつ見えてきました…。
もちろん「働き方改革」(長時間労働削減と同一労働同一賃金の「二本」柱ですよね…)が大事なのは言うまでもありませんが、同時に、来るべきジョブ型雇用社会あるいはデジタル就業社会に向けた中長期的インフラ整備が疎かになってはなりません。ジョブ型型雇用の近未来は意外と、気づいたらあっという間に現代人の常識や肌感覚に寄り添ってくるのかもしれませんから。以下ご参考まで、昨日の朝刊一面記事より抜粋します。
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(2018/2/16付日本経済新聞)
見出し〜 500職種から「最適な職」
サブ〜厚労省、19年度にも情報サイト 転職市場を活性化
本文 〜国内の転職市場を活性化するため、厚生労働省が経済産業省と連携して2019年度にも無料職業情報サイトを立ち上げる。転職希望者や大学生らが自身の関心やスキルなどを入力すると、約500職種の中から適職の候補を提示する仕組み。年収などの客観的な数値のほかに仕事に求められる課題なども示し、就職先で多くの人が定着できるように後押しする。
米国には政府が運営する職業情報サイト「オーネット」があり、仕事を探す人たちの多くが活用している。厚労省などはこの仕組みを参考にサイトを設計する。パソコンやスマートフォン(スマホ)で手軽に閲覧できるようにする。国内では民間の職業情報サービスがあるが、政府統計や地方自治体の膨大なデータを集約した客観性の高い情報の提供窓口はない。厚労省などはサイトの情報を民間にも開放し、きめ細かい就職支援につなげる考えだ。
日本版オーネットでは、転職希望者などが現在までの職業経験や身につけた技術や資格を入力すると、向いていると判断した職業やその詳細が提示される。「IT(情報技術)」「エネルギー」といった関心分野だけでなく、「オフィス街で働きたい」などの条件で細かく絞り込める。地域や企業規模ごとに平均年収や必要な知識や技術、労働条件などを網羅的に示す。例えばITの技能を持つ人が地方で仕事を探す場合、その地域での年収の情報などが得られるようになる。人工知能(AI)を活用して情報を更新し、最新の数値を反映することも検討する。システムエンジニア(SE)など技術の進展によって数年で待遇が変わるとされる職種でも最新の年収情報などを示す。既に経産省が実証試験を進めている。
米国のオーネットは現在の職業情報に加え、職業ごとに将来展望なども予測して示している。日本版のサイトでも同様のサービスができないか検討する。仕事を探す人が希望する職業にどのような課題があるかも示す。例えば保育士なら「安全な環境の確保」「子どもの着替え」など求められる役割を重要度とともに示し、働く人にとってマイナスになる情報も含めて判断してもらう。社会人の転職や学生の就職をめぐっては、自らの適性に合う職業を見つけられなかったり、入社しても想定と違い転職を繰り返したりすることが多いと指摘されている。
厚労省によると、転職して他社に移った「転職入職率」は16年で9.9%程度にとどまる。労働市場の逼迫が一段と強まるなかでも雇用の流動化は進んでいない。政府は客観性の高いデータを提供するサイトで職業選択を後押しする。厚労省はサイトをハローワークなど他の求職サービスとも連携させる。(記事引用完)
投稿: ある外資系人事マン | 2018年2月17日 (土) 07時18分
2019年2月1日に厚生労働省から「職業情報提供サイト(日本版O-NET)(仮称)」に係る工程管理支援業務及び調達支援業務一式 及び 「職業情報提供サイト(日本版O-NET)(仮称)」に係る設計開発等業務一式 の2業務が公示されました。これにより2020年3月31日までにシステムを完成させることとなりました。 求職者の情報には、自己中度、IQ、心理検査による性格タイプ等の従来提示されていない情報も入れるようにしていただきたいと思います。そうでなければ、既存の類似サイトとの違いがあまりなく税金で構築する意味が薄れてしまいます。自己中な人は会社への迷惑は気にせず自分の利益のためだけに個人情報、機密情報を持ち出して売ることもいといません。会社や他人に損害や迷惑を与えることを気にせず自分がフォローされるSNS投稿を平気で行います。つまり、自己中な人を採用することはリスクであり、自己中でない人を採用することは情報セキュリティ対策でもあります。そのような判断が可能となるからです。私も工程管理の方にでも参加できるものならしたいのですが、応札資格がありません。
投稿: 思いやりお願い人 | 2019年2月19日 (火) 11時46分