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2017年4月

宮前忠夫『企業別組合は日本の「トロイの木馬」』

9784780716115 宮前忠夫さんより『企業別組合は日本の「トロイの木馬」』(本の泉社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://honnoizumi.co.jp/single/971/

日本の常識となっている「労働組合」という用語・概念も、「企業別組合」という組織形態も、財界と支配階級が労働者・国民を欺くために、贈り物を装って送り込んだ社会的偽装装置・「日本版トロイの木馬」であり、世界の非常識であることを歴史的・理論的に検証。この視座に立って、戦前・戦後の内外の議論を批判的に分析・総括し、21世紀日本における企業別組合体制克服をめざす様々な「蠢動」を紹介しつつ総合的戦略の構築を訴える。

ということですが、400ページを遥かに超える大冊は、日本の「企業別組合」の特殊性を論ずるにとどまらず、それが「財界と支配階級が労働者・国民を欺くために、贈り物を装って送り込んだ社会的偽装装置・「日本版トロイの木馬」」であることを論証しようと試みたものです。

第1章 「日本にはトレード・ユニオンがない」 ――問題の原点・「団結体としての(個人加盟、職業別・産業別を原則とする)労働者組合」

第2章「トレード・ユニオン」が「労働組合」になるまで

第3章 企業別組合は誰が、どのように創り出したのか ――日本版「トロイの木馬」(その1) 第二次世界大戦期まで

第4章 企業別組合は誰が、どのように創り出したのか ――日本版「トロイの木馬」(その 2) 第二次世界大戦直後の法制化と法認

第5章 米欧主要国の団結権と労働者組合 ――世界の常識と「企業別組合」

第6章 外国から見た日本の「労働組合」とその実体としての「企業別組合」

第7章 「企業別組合」をめぐる21世紀の闘い(1) ――今日の「企業別組合」論

8章 「企業別組合」をめぐる21世紀の闘い(2)――新たな対応の開始

付録編 日本の「労働組合」運動に関する訳語・誤訳・不適訳問題

しかしながら、率直に言って、その論証は成功しているようには見えません。

いや、日本人が常識に思っていることが世界では常識じゃないことを縷々説明しているところは、いろいろなトリビア的な情報も交えつつ、とても面白く読めますし、役に立ちます。

問題は、終戦直後の政治過程、立法過程において、日本の支配層が意図的に企業別組合化を図ったと「論証」しようとしているところです。

宮前さんが一生懸命引用しているのは、賀来才二郎、松崎芳伸、飼手眞吾といった、占領下で労働法制の作成に携わった労働官僚たちの証言です。

彼らは異口同音に、宮前さんの基本認識と同様のことを述べています。日本の企業別組合がいかに特殊であるかを。だから引用しているんでしょうが、だとすると、その彼らが意図的に企業別組合化を図って、まさに成功したと主張していることになります。おかしいと思わないのでしょうか。

実はこのあたりは、私にとっても『労働法政策』を書く時にかなり詳しく調べたところですし、古くは遠藤公嗣さんの研究、近年は渡辺章先生らの共同研究で相当に詳しく明らかにされてきている分野ですが、GHQからアメリカ型の交渉単位制を入れろといわれて、よくわからないまま一生懸命そういう条文を作って検討していたところ、今度はGHQがいきなりそれを引っ込めたので労働省ははしごを外されたというのが大まかないきさつです。

宮前さんはこういう言い方をしていますが、これはどう考えても事実に反しています。

GHQ当局は「改正」に際して、企業別組合(日本型会社組合)を排除して、アメリカ型の交渉単位制を取り入れるように指示しましたが、日本の財界と政府当局は、この「全面改正」(49年法の制定)の過程においても、巧妙・狡猾な策を弄し、GHQ側の隙を突いて、ついに介入・指示を突破し、新「労働組合法」においても「企業別組合」の法認を確保したのです。・・・

もしほんとにそうだというのなら、財界は交渉単位制の導入に猛反対し、労働側は断固として支持していたはずですが、もちろんそういう事実はありません。

4623040720 も一ついうと、宮前さんはまったく言及していませんが、1949年改正の後、1952年改正の時も、賀来才二郎局長率いる労働省労政局は、(もはや占領軍の指示はなくなっていたにもかかわらず、自分たちの信念で)交渉単位制の導入を目指して労政局試案を公表しましたが、殆ど支持するものはなく、失敗に終わっています。詳しくは拙著『労働法政策』等を参照のこと。

これに限らず、宮前さんはほんとに細かな歴史的事実をいろんなところから発掘してきて、一つ一つはなかなか面白いのですが、それをはめ込んで作り上げようとする全体の絵図があまりにも歪んでしまっている感があります。

おそらく宮前さんは、企業別組合が本来の労働組合とは異なるものであり、それが諸悪の根源であるという、それ自体は十分成り立つ議論を、とりわけ自分が属する左翼運動の人々に訴えるという目的のために、それをもっぱら財界と政府当局というそもそもアプリオリに悪である(と、少なくとも思想的同志の間では論証抜きに通用する)連中の陰謀であることにして、説得しようとしているのではないかと思います。

実は本書の相当部分、多分半分近くは、戸木田嘉久氏ら主として共産党系といわれる研究者の議論に反駁することに費やされています。彼らが企業別組合という形態に容認的であるのを批判しているのです。

そのため、企業別組合を擁護するのは右派なんだという議論を一生懸命しているのですが、実は宮前さんが示している資料自体がそれを裏切っています。これもまた日本の労働史の研究者にとっては常識に類しますが、終戦直後に産業別の組織化を図った(がうまくいかなかった)のは右派の総同盟であり、工場委員会中心に急速な拡大に成功したのが左派の産別会議でした。

宮前さんは右派が企業別主義であることの証明として、海員組合出身の和田春生が1967年(!)に書いた文章をひっぱってきているんですが、これはあまりにもご都合主義でしょう。まさか宮前さんは、海員組合が戦後日本における殆ど唯一の個人加盟の純粋産別組合(まさに「トレード・ユニオン」の名に値する唯一の組織)であり、ゼンセン同盟と並んで戦後日本で長期闘争を勝ち抜いた数少ない組合の一つであることを知らないわけではないはずですが。

その和田氏といえども、同盟幹部としては、現実に圧倒的大多数である企業別組合を否定できないわけで、それをもってきてあたかも海員組合が企業別組合主義の右代表であるかのような議論をするのは印象操作も度を超している感があります。

そういう議論になる理由はだいたい想像が付きます。

企業別組合か産業別組合かという軸と、労使協調的であるか階級的戦闘的であるかという軸とは、本来まったく異なるものであるのに、それをあえていっしょくたにしようとして、無理に無理を重ねることになっているのではないでしょうか。

日本の企業別組合なんかトレード・ユニオンじゃない、という議論は大いに根拠のある議論であり、それとして十分に展開することができます。

労使協調主義はけしからん、労働組み合いたるものすべからく階級的戦闘的であるべし、という議論も、近頃はあんまり流行りませんが、それはそれとして論理整合的に組み立てることのできる議論です。

この二つを組み合わせて、企業別組合はけしからん、労使協調主義もけしからんという主張をすることも、論理的に十分あり得る選択肢です。

しかし、まったく違う軸をわざとごっちゃにして、企業別組合=労使協調、産業別組合=階級的戦闘的、というのは明らかに事実に反します。その証拠は、この宮前さんの大部の本のここかしこに散乱しているというのが、実は一番の皮肉かも知れません。

ちなみに、戦後日本の企業別組合の源流の一つは戦前の工場委員会から産業報国会に連なる流れですが、もう一つ工場ソビエト運動もその源流であり、だからこそ宮前さんの思想的同志の人々の中に色濃く企業別組合主義が脈々と流れているのだと思っています。

単純な話ではないんです。

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拙著評いくつか

最近もいくつか拙著への短評がネット上に載りましたのでご紹介。

131039145988913400963 まず、2009年刊行の『新しい労働社会』ですが、読書メーターでイケダアイさん。

https://bookmeter.com/reviews/63856872

「国際比較の観点」と「歴史的なパースペクティブ」で労働問題をまとめた一大叙事詩。著者の圧倒的な知識量と、どこかウィットに富んだ文章で、内容は決して簡単ではないけれどつい後を引くように読んでしまった。2009年初版だが、話題の同一労働同一賃金についてもかなりの頁が割かれていて、既に答えが書かれている気がする。雇用問題を勉強している人や、会社の労務管理、給与制度の設計に関わる人は絶対に読んでおいたほうがいい。

もう8年前の本ですが、当時よりもむしろいまの議論を先取りしていた本になっていると、本人は思っております。

Chuko 次は『若者と労働』について連続ツイート。

https://twitter.com/Takechi60439696/status/857249290455982080

濱口氏の"若者と労働「入社」の仕組みから解きほぐす"読了。数時間でさーと読んだが、少ないキーコンセプトを用いてすっきりとした議論がされいた印象。

本書を通して、現代日本のメンバーシップ型正社員から直ちにジョブ型正社員へ移行することは難しい印象を受けた。若年層をジョブ型正社員として採用することは難しくないように思うが、やはり中高年の正社員の処遇をどうするかはもめに揉める…または時間が解決する…後者だろうなぁ。

ドイツの某制度への言及も面白かった。僕は文系大学生への教育には知識が全くないのでコメントできないが、理系大学院生の教育にも関わる。大手企業へのインターンだけでなく、ベンチャー企業へのインターンがもっと盛んになればいいなぁと思ったり。

ブラック企業にも言及されていた。単なる倫理的な観点からの批判ではなかった点が新鮮、というか労働に関する仕組み作りをしている人はこう考えるのかぁ、と思える内容で本当に面白かった。 ネタバレは控えつつの感想…難しいなぁ。とにかくおすすめの本です

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時間外労働の上限規制

時間外労働の上限規制の議論は時間外にやらなければならない、などというルールはもちろんあるわけはありませんが、1回目の4月7日に引き続き、2回目の昨晩も18:00~19:30という(ヨーロッパなら「アンソーシャル」なと呼ぶであろう)時間帯に行われているようでありまして、この辺に労働時間問題の複雑さが垣間見えている感がなきにしもあらずですが、まあそれはともかく閑話休題、

そこに事務局から「論点について」という紙が出されていて、ほとんど大部分は実行計画の文言とそこから導き出される範囲の「・・・でどうか」という問いかけなのですが、一箇所、少なくとも文理上は必ずしも実行計画だけからは導き出せない項目が入っています。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000163726.pdf

さらに、休日労働についてもできる限り抑制するよう努めなければならないことを盛り込んではどうか。

これはおそらく、時間外労働の上限で、原則の月45時間、年360時間、特例の年720時間は休日労働抜きの数字であるのに対して、2-6か月平均80時間と単月100時間未満の方は休日労働を含んでいることとの整合性が結構議論になり、休日労働が抜け穴になるんじゃないかとか言われたことが背景にありそうです。

このこと自体は労基法の建て付けの問題なので、そこを作り替えるのでない限り、そうするしかなかったわけですが、そこを努力義務みたいなもので対応してみようということでしょうか。

これは議論していくと、そもそも時間外労働、労基法の言い方で言えば「労働時間の延長」と、休日労働とで、その敷居を超える難しさに差をつけるべきかという問題にもなります。日本の場合、少なくとも法律上は、両者に差はないのですが、そこをどう考えるかというのは、上限設定云々の話とは別にしても議論する値打ちのある問題であることは確かです。

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小畑明『労働者代表制』

51bwa9csosl_sx350_bo1204203200_ 小畑明さんの『労働者代表制の仕組みとねらい 職場を変える切り札はこれだ』(エイデル研究所)をお送りいただきました。ありがとうございます。

奥付けによると5月25日発行とだいぶ先の日付になっています。

著者の小畑明さんは運輸労連の中央書記長です。小畑さんはヤマト運輸労組の出身ですが、本書の冒頭に出てくるのは、組合のない多くの運輸業における労働者のひどい状況です。そこからまずは労働組合の意義を歴史をさかのぼっていろいろと説きます。

それを踏まえた上で、しかし組織率が17%弱、中小企業では1%未満という状況の中で、労働者代表制がいかに必要なのかを、丁寧に説明していくのが、第1部の「労働者代表制の機能と役割」です。

ここでは、JILPTの内藤さんの論文、私の論文、呉学殊さんの本なども引用され、そしてJILPTが2013年に公表した集団的労使関係研究会の報告も詳しく説明されています。

第2部は座談会ですが、これが40ページを充ててかなり詳しく細かい論点まで議論を展開しています。小畑さんが選んだ座談会の相手は、上記JILPTの集団的労使関係研究会の座長でもあった荒木尚志さんと、中小企業家同友会の平田美穂さんです。

第3部の資料編には、連合の労働者代表法案や関連文書、上記JILPT研究会報告の結論部分なども収録されています。

本書の中でも論じられているように、労働者代表制をめぐっては実にいろいろと考えなければならないことがありますが、連合の主要単産の幹部がここまで明確に労働者代表制の必要性を明確に訴える本を出したということは大きな意味があると思います。

P739 ちなみに、本書でも引用されていますが、同じエイデル研究所から一昨年出された『これからの集団的労使関係を問う』には、小畑さんを含む労働組合の方々と、私も含む研究者たちのコラボによる企画で、是非併せて読んでいただきたいものです。

http://www.eidell.co.jp/book/?p=4918

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週60時間以上の割合86.9%@『労務事情』5月1日号

Roumujijou_2017_05_01『労務事情』5月1日号に「週60時間以上の割合86.9%」を寄稿しました。

http://www.e-sanro.net/jinji/j_books/j_romujijo/

◎気になる数字 濱口桂一郎
 第2回 週60時間以上の割合86.9%

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小玉徹『居住の貧困と「賃貸世代」』

286358 小玉徹さんの『居住の貧困と「賃貸世代」 国際比較でみる住宅政策』(明石書店)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.akashi.co.jp/book/b286358.html

日本では格差・貧困の深刻化により低所得層の住居確保が課題となっている。本書は、国際比較により、欧米における持家重視政策の見直し、賃貸住宅の供給など住宅政策の再構築を考察し、世界的に進む「賃貸世代」に向けた住宅セーフティネットのあり方を探る。

なんでhamachanのところに住宅政策の本なんか送ってくるのかと思う方もいるかも知れませんが、いやいや住宅政策というのはすぐれて社会保障の一つの基軸であり、とりわけ本書の焦点となっている住宅手当というのは、日本に欠如している社会手当の典型でもあるのですね。

はじめに

序章 いまなぜ住宅手当か――新しい社会リスクと日本

 第1節 住宅手当はなぜ必要か――新しい社会リスクへの対応

  1 エンタイトルメントとしての住宅手当

  2 苦しむ若者、母子家庭、高齢者

 第2節 閉塞社会の構造的な理解――古い社会リスクへの対応

  1 「物への助成」から「人への助成」への転換

  2 パラサイト・シングル――親元へと戻る逆行現象

  3 強まる専業主婦願望――背後に母子世帯の貧困

  4 貧困ビジネスとしての「終の住み処」

  5 結びにかえて

第1章 閉塞化する若者のライフ・トランジション

 第1節 欧州における若者の生活移行と住宅手当

  1 教育から初職への移行

  2 親の世帯からの独立と住宅手当

 第2節 日本における若者の生活移行と住宅手当

  1 若者の教育から初職への移行

  2 若者のライフ・トランジションと住宅手当

  3 生活困窮者支援、求職者支援制度の評価

 第3節 パラサイト・シングル問題の日英比較

  1 イギリスにおけるパラサイトの増大――ONS調査から

  2 親との同居から離家への経路

  3 離家できない日本の若者――住宅手当の不在

 第4節 共稼ぎ世帯の構築にむけて

  1 カップル形成を阻むもの(その1)――所得、住居費のギャップ

  2 カップル形成を阻むもの(その2)――労働時間、住宅のギャップ

第2章 無視されている子どものアフォーダビリティ

 第1節 母子家庭の就労、貧困の再生産、住宅費

  1 母子家庭の収入、最終学歴、子どもの進学

  2 母子家庭の家賃問題、居住水準

 第2節 子どもの貧困は、どのように論じられているか

  1 「逆機能」による子どもの貧困と住宅手当

  2 子どもの貧困への対策――給付つき税額控除か住宅手当か

 第3節 子どもの居住水準向上と住宅手当(その1)――スウェーデン

  1 ミュルダールによる住宅手当の実験

  2 家族向け共同住宅によるソーシャル・マーケット

  3 ひとり親世帯の居住状況と住宅手当

 第4節 子どもの居住水準向上と住宅手当(その2)――フランス

  1 家族住宅手当の導入から社会住宅の大量建設へ

  2 「人への援助」への転換とソーシャル・ミックス

  3 ひとり親世帯、単身世帯の居住状況と住宅手当

第3章 「終の住み処」をどう再構築するのか

 第1節 「住まい」と「ケア」の分離と日本の課題

  1 エイジング・イン・プレイス(その1)――サ高住の背景と事業状況

  2 エイジング・イン・プレイス(その2)――オランダ、デンマーク、スウェーデン

  3 サ高住の狭小性を規定する住宅政策をめぐる論点

 第2節 最低居住面積水準を充足できない住宅扶助

  1 住宅扶助の拡大とその特性

  2 基準部会のねらい――生活保護の「適正化」

  3 住宅扶助にかかわる基準引き下げの意図

  4 居住実態調査が反映されない住宅扶助基準の見直し

 第3節 住宅手当と最低保障年金の連携にむけて

  1 高齢単独世帯の年金問題

  2 年金改革と住宅手当の導入

第4章 住宅政策としての住宅手当の不在――日本型デュアリスト・モデル

 第1節 住宅政策としての住宅手当――その歴史的な経路

  1 混成的(hybrid)な性格をもつ住宅手当

  2 欧州における家賃統制、建設補助から住宅手当までの経路

 第2節  福祉国家的な住宅政策の欠如と企業主義社会――イギリスとの比較で

  1 家賃統制の緩和と過少な公的住宅政策

  2 借家人運動の停滞と企業主義社会

 第3節 デュアリスト・モデルにおける日本の位置

  1 ケメニーの住宅モデルと社会住宅の特性

  2 社会住宅の様態と住宅手当との相関

  3 日本型デュアリスト・モデルと「閉塞社会」

第5章 ゆきづまる持家の「大衆化」とその再編――イギリスの動向

 第1節 イギリスにおける住宅手当をめぐる問題状況

  1 拡大する住宅手当と賃貸・労働市場の変容

  2 LHAの変更による居住空間の分極化

 第2節 「住宅への新たな戦略」による分析と提言

  1 急増する住宅手当と賃貸ストックとの相関

  2 テニュア変容による住宅手当の拡大

  3  民間賃貸、社会住宅のどこが問題か――国際比較の観点から

  4 「物への助成」と「人への助成」とのバランス

  5 ユニタリー・モデルとしてのドイツと住宅手当

 第3節 再構築にむかうイギリス住宅政策――スタージョン、コービンの出現

  1 賃貸世代の台頭とその苦悩

  2 持家民主主義の行方と分裂するイギリス

終章 閉塞社会からの脱却――「重層的な住宅セーフティネット」を超えて

 第1節 ゆきづまる日本型デュアリスト・モデル

  1 若年単独世帯の民間借家への滞留

  2 若者の世帯形成と公的住宅、民間賃貸

  3 ムリな持家取得と過重なローン負担

 第2節 「重層的な住宅セーフティネット」の概要と評価

  1 住宅セーフティネットの概要

  2 住宅セーフティネットの評価

 第3節 国土交通省の空き家対策とその批判――イギリスに何を学ぶのか

  1 国交省による「準公営住宅」の提唱

  2 「準公営住宅」における家賃補助の狭隘性

  3 転換するイギリス、滞留する日本

補章 ジェントリフィケーションと住宅手当――ニューヨークの動向

 第1節 ブルームバーグ前市長のもとでのアフォーダビリティ危機

  1 就業構造の変化による低賃金セクターの拡大

  2 低所得世帯の増加と過重な家賃負担

  3 家賃安定化住宅の減少

  4 シェルターを利用するホームレスの増大

 第2節 デ・ブラシオ市長の挑戦――最低賃金の上昇、家賃規制、ホームレス対策

  1 最低賃金の引き上げ

  2 家賃の規制(既存の借家、空き家)

  3 ホームレスへの支援

 第3節 ソーシャル・ミックスは可能か――セクション8、強制的・包摂的ゾーニング

  1 セクション8利用者の偏在化

  2 動きだした強制的・包摂的ゾーニング

 補節 アメリカ住宅政策のゆくえ――サンダースの登場

  1 離家できない若者――アメリカン・ドリームの崩壊

  2 困難となる持家取得への学生ローン負債の影響

  3 拡大する民間賃貸における過重な家賃負担

  4 住宅政策の動向と問題点

  5 閉塞化する政治――出口のない若者のサンダース支持票

 参考文献

 おわりに

 索引

本書のスタンスをよく示しているのは、やはり冒頭の「はじめに」のそれも最初のパラグラフでしょう。

サッチャーとレーガンに端を発した新自由主義は、政府の介入による分配でなく、自由な市場のもとでの経済成長がトリクルダウンすることで全体を潤すという構想に依拠していた。しかしながらOECDのレポート・・・にあるように、現実には富裕層と貧困層への所得分化が進み、中間層の収縮が明らかになる中で、新自由主義から決別し、分配政策を見直す政治勢力(・・・スタージョン、・・・コービン、・・・サンダースなど)が出現しつつある。こうした政治勢力は、不安定な雇用、学費の支払い、高い家賃に直面している若者の強い支持を取り付けている。彼らに共通するスローガンの一大項目は、市場主義に依拠した持ち家重視の見直しであり、アフォーダブルな賃貸住宅の供給に向けた住宅政策の再構築にある。・・・・

上の目次でいうと、終章の日本の政策への批判の直前に、第5章でイギリスの動向が詳しく書かれているのが役に立ちます。

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海老原嗣生『クランボルツに学ぶ夢のあきらめ方』

Shinsho1704_clanthumb150xauto577 海老原嗣生さんの『クランボルツに学ぶ夢のあきらめ方』(星海社新書)をおおくりいただきました。ありがとうございます。

http://seikaisha.co.jp/information/2017/04/11-post-clan.html

「夢はあきらめるべきものであり、だからこそかなうものである」

本書は、「常識を疑う」ことを信条とする人事・雇用のカリスマが、「夢はあきらめると、けっこうかなう」という一見矛盾した結論を導いているキャリア論の古典にして決定版「クランボルツ理論」について、わかりやすく、また、小気味よく解説した講演の模様を160Pに濃縮したものです。お話の題材となるのは、今をときめくお笑い芸人たち。テレビやネットでおなじみの方々のキャリアをベースに、図やイラストをふんだんに使って説明していきますので、本を読むのが苦手な方にも、気軽に読んでいただけます。夢にとらわれず、こだわらず――夢と上手に付き合って、人生の難易度を下げる方法をいっしょに学びませんか?

海老原さんのもう一つの顔であるキャリア論の実践書。

出てくる例がお笑い芸人だったり、どうなのかな、っていう感じもけっこうあります。

一番心の中で突っ込みが入ったのは、徳川(松平)譜代のうち3人に一人が大名になれているというところ。いやそれはたまたま仕えた相手が徳川(松平)さんだったからで、これが今川さんや武田さんや北条さんだったらそうは問屋が卸さないでしょ。

つまらない感想で申し訳ありませんけど。

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豊田義博『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?』

9784569832029 豊田義博さんの『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか? 職場での成長を放棄する若者たち』(PHPビジネス新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-83202-9

意識は高いが、目標は無難。まじめだけど、気が利かない。

 一見矛盾する若手の深層心理を知って自分から動く部下を育てる。

 まじめで優秀、自己実現志向で、意識と意欲も高い一方、報告・相談ができず、指示待ちでリスク回避志向な現代の若手社員たち。そんな彼らは、実は最初から職場での成長を“放棄”している!?――

 本書では、一見矛盾した若者の実態と彼らが生まれた背景を、30年以上にわたって日本の若者を見つめ続けてきた著者が丁寧に解説。

 「最近の若手社員が何を考えているのかわからない……」と若手育成に悩む管理職・マネジャーたちに向けて、職場で「生き生きと働けていない」新人・若手を、「自分から動ける人材」にするための処方箋を提示する1冊。

一見、近頃の若者を叱りつけている本に見えますが、基本スタンスは、その原因は彼らの側ではなく会社の側にある、というものです。

第1章 前向き、なのに頑張らない――若手社員の矛盾に満ちた実態

第2章 「新能力」「新学力」がもたらした大転換

第3章 「えもいわれぬ違和感」の正体

第4章 マネジャーへの処方箋――環境適応性を引き出す「問いかけ」の力

第5章 若手社員への処方箋――「天職探し」を捨てよ、外に出よう

そして、第2章、第3章あたりで分析していることは相当程度うなずけるものでもあります。

ところが、本書はレーベルの性格上からなのかわかりませんが、やや目先レベルの処方箋を並べることに性急になっている感があります。

何も具体的なスキルを持たない若者が試行錯誤して成果を上げられずに失敗を繰り返してもそれを見守ることのできる余裕とか、そういう若者をOJTと称して教育訓練することに相当のエネルギーを割けるような余裕を与えられていた中高年といった、いまではかなり希薄化したシステム的リソースが欠如したまま、「自分から動ける人材」に育てようというのはなかなか無理難題ではないかと思うのですが。

これは社会学的思考と心理学的思考の対立みたいなものかも知れませんが、リクルート系の方に時々感じられるある種の心理学主義的な何かには、正直どうなのかな、というところもないわけではありません。

まあ、この辺は、人によっていろいろな意見があるとは思いますが。

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雇用類似の働き方と集団的“労使”関係@『労基旬報』4月25日号

『労基旬報』4月25日号に「雇用類似の働き方と集団的“労使”関係」を寄稿しました。

 安倍内閣の下で働き方改革が進められる中、経済産業省は去る2016年11月に「雇用関係によらない働き方」に関する研究会を開催し、去る今年3月には報告書を取りまとめました。同報告書は雇用関係によらない働き方を日本型雇用システムの対極にあるものと位置づけ、働き方の選択肢として確立することを目指しています。全体として雇用関係によらない働き方を楽観的に描き出そうとする傾向が強いのですが、それでもいくつかの問題点を指摘し、この働き方が広がるための環境整備として、いくつかの提言をしています。
 まず働き手のセーフティネットの不十分さです。研究会での指摘として、「雇用形態で就業中であれば病気になられても給付金があったり、救済措置がとられますが、フリーの場合は全くありません。仕事が切れてこなければ何の保障もない、病気怪我で仕事ができなくなれば明日からは保障がないということになります」「やむを得ず休業しなければならない状況になったとき、もう少し補償が欲しい」といった意見が紹介されています。ここではとりわけ受注減または廃業時の公的な保障制度が不足していることが問題視され、「労働者であれば、失業によって収入がなくなったとしても、その後の一定期間、生活の安定と再就職の促進を目的として、雇用保険から基本手当(失業給付)が支給される。これに対して、雇用関係によらない働き手(個人事業主)は、雇用保険に加入できないため、受注がなく収入がなくなったとしても、あるいは廃業をして収入がなくなったとしても、失業給付の支給を受けることができず、その他の公的なセーフティネットも、特段存在しない」述べています。
 この問題に対して同報告書は、「休業時の公的な補償制度の不足を補充するものとしては、民間の保険が考えられる」とし、「今後、そういった民間保険の種類がさらに広がるとともに、保険料の点も含めてより使いやすいものとなることが望ましい」と述べるにとどまっていますが、経済産業省の政策としては既に具体化が進んでいるようで、そのすぐ後の日経新聞(3月14日)に「フリーランス失業に保険」というかなり大きな記事が載りました。それによると、政府はフリーで働く人への支援として所得補償を受け取れる団体保険を創設し、「損保大手と専用の商品を開発し、契約がなくなった場合にも所得を得られるようにする。今年発足した業界団体「フリーランス協会」に加入すれば、保険料が最大5割軽減される団体割引の仕組みとする」とのことです。
 今年発足したばかりの団体に政府がここまで肩入れすることにやや違和感も感じますし、マクロ社会的な問題としてセーフティネットの欠如が問題であるならば、労使折半による雇用保険とは異なる形での何らかの公的な「失業」保険的なものを考えることが正道のような気もします。周知の通り、労災保険については一人親方や家内労働者について、自分で保険料を払う任意加入の形で個人加入という仕組みが設けられていますが、今のところ、そういう発想は見当たらないようです。
 これと関連して、廃業に伴って生活資金が不足するリスクの軽減策として、小規模企業共済制度を活用することを提言しています。これは、事業を営んでいる間に資金の積立を行っておくことで、事業の廃業時に一定の共済金を受領できる制度です。
 次に報酬(受注単価)が定額であり、生活を成り立たせることが困難な場合が多いことを指摘しています。アンケートでもおよそ半数が「スキルに見合った単価で受注できていない」と回答しています。労働者には最低賃金法や労働基準法の保護が及びますが、雇用関係によらない働き方ではそうした保護は及びません。ところが現実にはそうした働き方であっても、発注者に対し(特に経済的な面で)従属的立場にあり、低い契約条件で業務を行うことを余儀なくされているようです。「個人対企業の図式で仕事の交渉をする際にやはり力の差というものを感じ」るという意見も示されています。
 この問題に対して同報告書は、まずは著しく低い対価を不当に定めることを禁止する下請代金支払遅延等防止法による規制を挙げます。しかし、下請法が適用されるのは一定範囲の取引に限られる上、そもそも雇用関係によらない働き手の場合は労働者同様、企業(発注者)との関係で対等な立場に立てないがゆえに、結果として、不当な対価であっても受け入れざるを得ないことが多々あることを考えると、「その従属的立場を踏まえて、一定の範囲で労働法制による保護を及ぼすことが、中長期的には検討されてよい」とも踏み込んでいます。
 ただ、そのすぐ後で急いで、「そのような保護を及ばせると、逆に労働時間や場所の柔軟性・自立性という・・・メリットを失わせることにもなりかねない」とブレーキをかけ、「検討に当たっては、慎重な考慮が必要である」と消極的な姿勢を示しています。
 また、報酬額をはじめとした働き手の契約条件を改善するという観点から、企業と働き手との取引環境の健全化や、働き手に変わってプラットフォーマーが働き手の契約条件の適正化を図ること等も重要と指摘しています。
 さらに、報酬の不払いが起こったときの交渉が難しいなど報酬回収の不確実性についても、上記下請法による代金の支払遅延の禁止の遵守とともに、実際に支払いの遅延や不履行が生じた場合のための金銭的補償手段が設けられることが望ましいとしています。既に企業向けには、代金受領遅延の場合をカバーする民間保険が存在するようです。
 さてここまで見てきて、この経済産業省主導の研究会では全く取り上げられていない分野があるのに気がつかれた方も多いと思います。それは、こうした雇用類似の働き方で働く人々が何らかの形で団結し、集団的な枠組でものごとを解決していくという筋道です。雇用労働者をめぐる法政策は、国家権力が直接労働者保護を図る労働条件法政策、同じく国家権力が労働者のためのセーフティネットを張り巡らす社会保障法政策と並んで、労働者自らが団結して自分たちの労働条件の改善を図っていく労使関係法政策が重要な柱でした。ところが、本報告書ではそういう関心は全く見当たりません。
 経済産業省所管の制度の中にそれに該当するものがないからというわけではありません。昨年の本連載「協同組合の団体協約締結権」(2016年11月25日号)で紹介したように、法制的には労働者性のない明らかな自営業者に対しても、組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結といった集団的労使関係システムに類似した法制度を用意しているのです。これはいささか意識的な無視に見えます。
 もっとも、集団的労使関係システムの適用という点では、労働組合法上の「労働者」概念を、労働基準法等のそれよりも拡大し、個人請負として働く人々にも適用していくという方向性が、最高裁の判例等により少しずつ見られるところではあります。ただ、それには限界がありますし、この働き方が社会の相当部分を占めるに至るという未来像を想定するのであれば、やはり正面から雇用類似の働き方における集団的“労使”関係のあり方を論じていく必要があるように思います。
 実は、労働行政が所管する雇用類似の働き方に係る法規制の先行型である家内労働法の制定過程においては、野党や労働組合からそうした提案がなされたことがあります。たとえば日本社会党が1970年4月に提出した家内労働法案は、その目的として工賃、安全衛生などの労働条件だけでなく「家内労働者が自主的に家内労働者組合を組織し、委託者と対等の立場に立って交渉すること及び家内労働関係の当事者間における争議行為についてのあっせん及び調停等」をも規定しようとする包括的な法制度となっていました。「家内労働者は、工賃等、安全及び衛生その他労働条件につき、委託者又はその団体と労働協約の締結等の交渉をするため、家内労働者組合を組織することができ」、労働組合法を準用するとともに、労働委員会が家内労働関係の当事者間の争議行為についてあっせん及び調停を行うという規定です。これは結局、家内労働審議会答申では「引き続き検討」とされ、そのまま半世紀以上にわたって顧みられることはなかった事項ですが、内容規制から手続規制へという今日的観点から改めて見直してみる値打ちはありそうです。

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日本的柔軟性の限定とデジタル柔軟性の拡大@WEB労政時報

WEB労政時報に「日本的柔軟性の限定とデジタル柔軟性の拡大」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=651

去る3月28日に働き方改革実現会議で「働き方改革実行計画」が決定されました。世間の関心は、先月取り上げた長時間労働の是正と、これまた今まで何回か取り上げてきた非正規雇用の処遇改善に集中していますが、この実行計画は10を超える多くの項目を盛り込んでおり、その中でも「柔軟な働き方がしやすい環境整備」などは、これからのデジタル時代の働き方という観点からも注目する必要があります。
そして、これら両者の政策方向は、働き方の柔軟性という意味で言うと、一方は“日本的柔軟性をできるだけ限定する方向”であるのに対して、他方はデジタル技術の発展により可能となってきた“柔軟な働き方を一層促進しようという方向”です。もちろんこれは相反するわけではありませんが、今日の労働をめぐる状況を絶妙に照らし出している感があります。

まず、前者の“日本的柔軟性の限定”です。 ・・・

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明治大学労働講座

E794bbe5838f20194 2010年からずっとやっている明治大学労働講座「未来の自分をつかめ~OB・OGの働き方をとおして考える」の案内がアップされています。

http://www.kisc.meiji.ac.jp/~labored/kifukoza/rodokoza2017.html

例によって、前半いろんな人が「職場のリアル」を語ったあとで、私は半ば頃に

6月6日 労働社会の改革(1) 日本の労働社会の成り立ちから現状を考える

という回を担当することになっています。

ところで、このページを見ていたら、今年は「火曜日5限(17:10〜18:50)」と書いてあるんですが、確か昨年までと同様2限と聞いていたような・・・。

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欧州社会民主主義に未来はあるか?

Royo_bio フランス大統領選が明日に迫る今日この頃ですが、ソーシャル・ヨーロッパ・マガジンからセバスチャン・ロヨの「欧州社会民主主義に未来はあるか?」を。まんまタイトル通りですが。

https://www.socialeurope.eu/2017/04/future-social-democracy-europe/

The response to the Great Recession from European social democratic/centre-left parties, with some notable exceptions like Portugal’s, was largely to implement the austerity policies of the right: they bailed out the banks and the bondholders, and they tightened fiscal policies and supported loose monetary ones. The economic and political consequences of these policies have been disastrous, particularly for Southern Europe: they led to brutal recessions that have left many of our countries in shambles, with deepening inequalities, increasing political instability, and a pervasive sense of fear and loss of hope about the future. These have led to the electoral defeats of centre-left parties and fueled the rise of populism all over Europe.

欧州社会民主主義/中道左派政党の大不況への反応は、ポルトガルのような例外を除き、おおむね右派の緊縮政策を実施するものだった。彼らは銀行と債権所有者に資金援助し、財政政策を締め上げ、金融政策を緩和した。これら政策の経済的政治的帰結は、とりわけ南欧諸国では惨憺たるものであり、多くの国を残酷な不況により不平等の拡大と政治的不穏の増大と恐怖と未来への希望の喪失の感覚の瀰漫とともに混乱を残した。これらが選挙における中道左派の敗北をもたらし、欧州全域にわたるポピュリズムの興隆を焚き付けたのである。

The biggest mistake, of course, was the acceptance and implementation of austerity, which turned social democratic governments into reactionaries. Centre-left politicians, convinced that elections were won from the centre, obsessed with a mission to prove that they could also be fiscally responsible, incapable of joining forces at EU level to counter Germany’s dogmatism, and complacent because they felt that leftist voters had no alternatives, jumped eagerly onto the austerity bandwagon, in some cases even doubling down to prove their bona fides to the markets, with all the consequences our countries will suffer from for years to come.

最大の失敗はもちろん、緊縮策の受容と実施であり、これが社会民主主義政権を反動へと転化した。中道左派政治家たちは中道からの票で選挙に勝てると信じて、彼らが財政的に責任あることを証明する任務に取り憑かれ、左翼の有権者にはほかに投票する先なんていないとおもって、熱心に緊縮政策の流行に飛び乗り、ときには市場への善意に倍掛けするほどだったが、そのあげくはこの有様だ。

・・・・・Rather than blindly supporting fiscal austerity and free trade agreements, which have hurt their core traditional constituencies, progressive governments need to find the right mix of monetary and fiscal policies, support public sector investment, and lower taxes to the middle class to encourage greater consumption. They also need to reform their tax and welfare systems to encourage a fairer distribution of wealth and reduce inequality, as well as invest in infrastructure and in their communities; implement industrial policies that help diversify our economies as well as apply labor standards that protect our workers, even if we need to change our trade rules; and enforce financial regulations that prevent the damage caused by short-term capital flows. Finally, they need to rethink how we educate and train our workforce to meet the demands of the future.

・・・・・伝統的な中核的支持基盤を痛めつける緊縮財政と自由貿易協定を盲目的に支持するのではなく、進歩的政権は金融政策と財政政策の正しいミックスを見いだし、公共部門の投資を支持し、消費拡大のため中間層を減税する必要がある。彼らはまた税制と福祉制度を改革して富の公平な分配と不平等の削減を促進するとともにインフラとコミュニティに投資し、経済のダイバーシティを拡大する産業政策を進めるとともに労働者を保護する労働基準を適用し、短期的な資本の移動で引き起こされる被害を防止するための金融規制を強化する必要がある。最後に彼らは我々労働力が将来の需要に対応できるよう教育訓練のあり方を再検討する必要がある。

And they need to accept that many of the solutions need to be implemented at the European level. The constraints imposed by EU rules are central to understand the predicament of centre-left parties because Eurozone members must abide by a plethora of strict fiscal rules that constrain national policies and have forced centre-left parties to worship at the altar of budgetary restraint and competitiveness to satisfy their Eurozone masters (as well as financial markets), often at the expense of social policies and their citizens’. Right now, for any country to escape the fiscal straitjacket of the Growth & Stability Pact, the only real option is to leave the euro. That is the solution offered by extremist parties. Rather, what we need is more fiscal flexibility and a Eurozone-wide investment plan funded by Eurobonds. While this is now opposed by Germany, centre-left parties need to find a way to come together and counter this rigid stance.

そして彼らは多くの解決策がEUレベルで実施される必要があることを受け入れる必要がある。EU規則で強制された制約は中道左派の苦境を理解する上で枢要である。というのは、ユーロ圏諸国は国内政策を制約する厳格な財政規則の多血症に従わなければならず、これが中道左派政党に社会政策や市民を犠牲にして財政制約の祭壇に跪かせた。いまや、成長安定協定の財政的拘禁服から逃れ出るために唯一の現実的な選択肢はユーロから脱出することだ。これは急進派政党から提示されている選択肢である。むしろ我々に必要なのは、財政的柔軟性の拡大であり、ユーロ圏全域でユーロ債でまかなう投資計画である。ドイツがこれに反対しているが、中道左派政党はこれを乗り越え道を見いだす必要がある。

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元アイドルほか(グループB)事件(東京地判平成28年7月7日)

昨日、東大労働判例研究会で上記判決を報告したのですが、

http://hamachan.on.coocan.jp/rohan170421.html

72 まあ、この事件自体、小学5年生の女の子にアイドルとして集団による歌唱・ダンスを中心としたライブ活動のほか、○○券を購入したファンとの交流活動(お散歩、コスプレ、プリクラ、ビンタ等)をやらせるといういささかいかがわしげな商売なんですが、それはともかく、労判の席上で渡辺章先生から思いがけない指摘を受けました。

Maxresdefault_1 それは、労働基準法56条が満13歳未満の児童の労働を認めているのは「映画の製作又は演劇の事業」だけであって、その他の「興行の事業」は含まれないのではないかということです。

条文を引いておきますと、

(最低年齢)

第五十六条  使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない。

2  前項の規定にかかわらず、別表第一第一号から第五号までに掲げる事業以外の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては、行政官庁の許可を受けて、満十三歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については、満十三歳に満たない児童についても、同様とする。

別表第一 (第三十三条、第四十条、第四十一条、第五十六条、第六十一条関係)

一 物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)

二 鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業

三 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業

四 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業

五 ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業

六 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業

七 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業

八 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業

九 金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業

十 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業

十一 郵便、信書便又は電気通信の事業

十二 教育、研究又は調査の事業

十三 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業

十四 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業

十五 焼却、清掃又はと畜場の事業

Maxresdefault ふむ、小学校5年生の女の子がアイドルグループとして歌ったり踊ったりすること自体が13歳未満の児童に認められる「映画の製作又は演劇の事業」には当てはまらず、労働基準法の事業分類ではそれと同類ではあるけれども、13歳未満の児童の労働が許されないその他の「興行の事業」なんじゃないか、という指摘です。

45ef45fd 確かに条文の規定ぶりからするとそういう解釈にもなりそうですが、そうすると、いまの芸能界は大変なことになっちゃうんじゃないかと思いますが。そもそも労働基準法ができた頃はテレビもなかったわけで、ある程度は「映画演劇」の拡大解釈でやらないと、とても持たないのでしょう。

O0640045213048887722 ちなみに、上記裁判例で小学5年生の女の子にやらせていた

・「20分散歩券」、「40分打ち合わせ券」を購入したファンと、Xスタッフの監視の下で、所定の時間一緒に過ごし、飲食店や買い物等に出かける。

・「撮影券」を購入したファンに対し、小道具を用いたり、簡単なコスプレをするなどして、写真撮影の被写体となったり、「2ショットチェキ券」を購入したファンと一定のポーズを作りツーショット写真を撮影したり、また、「プリクラ券」を購入したファンと近場のゲームセンター等へ出向いて二人きりでプリクラ撮影をしたりする。

・セーラー服・メイド服・サンタクロース・幼稚園児服・ナース服・警察官制服などを着用して、コスプレイベントに出演する。

・コスプレイベント等において、「ビンタ券」を購入したファンに対し、その要望に応じて設定されたシチュエーションに合わせてビンタをする。

てのは、いかに映画演劇を拡大解釈しても認めようのない「興行の事業」という感じですが。こういうアイドルの肉体そのものへの接近接触それ自体を営利の資源とするビジネスモデルというのは、いうまでもなく秋元康氏が作り上げたものですが、やはりその根底にいかがわしさが否定できないように思います。

ということで、あとはPOSSEのアイドル部長坂倉さんにバトンを渡した方がいいようです。

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『情報労連REPORT』4月号

1704_cover 『情報労連REPORT』4月号は「パワハラをなくそう」が特集です。

http://ictj-report.joho.or.jp/1704/

特集記事は、

あなたの会社にもいるかも!?「クラッシャー上司」への対処法は? 松崎一葉

「ブラック企業」の労働相談から読み解くパワハラ問題の背景にある社会構造とは?今野晴貴

過労死事件の多くで長時間労働とパワハラは同時に起きている 川人博

苦しみを声に出させない「ブラック部活」と「ブラック企業」の共通点 内田良

パワハラ防止措置を法制化する動き 民進党内で石橋みちひろ議員らが推進 石橋みちひろ

職場で人格を傷つけてはいけないパワハラ問題の核心は個人の尊厳の尊重 嶋﨑量

パワハラを発生させない労使コミュニケーションのあり方とは?呉学殊

「マタハラ」は異なる働き方を排除する働き方へのハラスメント 小酒部 さやか

1704_sp05_face 本ブログの読者にとってはおなじみの方々がおなじみの議論を展開しているのですが、その中でちょっと異色なのが、民進党の国会議員である石橋さんの法制化についての記事です。

http://ictj-report.joho.or.jp/1704/sp05.html

どういう法制化を考えているかというと、

現在、事務局で法案骨子を検討している段階ですが、大きな方向性としては、労働安全衛生法(安衛法)を改正して、パワハラを定義し、その防止措置や対策に関して雇用管理上の責務を事業者に課すことを想定しています。

現行の安衛法でも、事業者に対して労働者の心身の健康を守る責務のあることが規定されています。パワハラというのは、まさに心の健康や職業生活上の安心・安全を奪う恐れのある行為であって、結果、働く人を死に追い込んだり、働けない状態に追いやったりする可能性がある深刻なものです。このような観点に立てば、事業者には従業員の健康や安心を守るために、パワハラを防止して、適切な対応を取る責務があると位置付けられます。

とのことです。

そして注目すべきは、社内のパワハラだけではなく、違う企業間のものや顧客からのものも対象に考えていることでしょう。

第一に、同一企業、または事業所内でのパワハラがあります。これは、最低限、対象範囲に含めなければなりません。

しかし、パワハラが発生するのは同一事業所内の人間関係だけではありません。違う企業間でも、例えば親会社の社員から子会社の社員や、発注元から下請けの社員に対するパワハラもあるわけです。実は、民主党政権時代の2012年に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が取りまとめた「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」(図表1)というのがあって、私たちも参考にしているのですが、その中で定義したパワハラには、この企業横断的なものは対象としていません。私たちはこれを第二類型として、検討課題としています。

そしてもう一つは、昨今、問題が大きくなっていますが、消費者や公共サービス等の利用者などから労働者や公務員に対して起きるパワハラです。例えば、モンスターペアレントやモンスターペイシェントなど、教育機関や医療の現場などで度を超した悪質なクレームによる被害が拡大しています。いわゆる「感情労働」問題ですが、これを第三類型として議論の俎上に載せました(図表2)。

具体的な防止措置の内容としては、

まず、国に対して、パワハラ対策として事業主が講ずべき措置に関する指針を策定させます。その上で、事業者に対し、国の指針に基づいた行動計画の策定と、対策を実行するための部署の設置または担当者の任命を求めます。こうしたスキームを通じて、(1)予防的措置(2)問題の早期発見(3)問題発生後の迅速かつ適切な対応策─を講じることを求めます。

適切な措置を取らない事業者に対しては、セクハラやマタハラと同じように、指導・勧告、そして企業名公表などの措置を想定しています。また、紛争解決処理に関しては、個別労働紛争解決促進法に基づくあっせん、その他中立的な第三者機関による紛争処理を想定しています。その他の中立的な第三者機関としたのは、前述した第二類型、第三類型に対応させる必要があるためで、これは今後の議論でさらに検討を深めていきます。

とのことですが、第二類型やとりわけ第三類型になるとなかなか難しそうです。

この「お客様は神様」問題について、石橋さんは、

第三類型はもっと難しいです。というのも、例えば消費者保護法など現行の法体系では、「消費者は弱い立場」なので保護が必要だという前提で作られています。条件付きとはいえ、消費者を加害者と位置付けること自体にハードルが非常に高いのです。ただ、さまざまな産業分野で悪質クレイマーへの対策について要請があるのも事実ですので、何らかの対策を講じることができないか、引き続き慎重に検討していきたいと思います。

と、難しさを認識しつつ、取り組んでいきたいという気持ちを示しています。

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同一労働同一賃金部会

厚労省のHPに労政審の同一労働同一賃金部会の案内が出ています。4月28日、ゴールデンウィークの直前の金曜日に招集するようです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000162861.html

正確にいうと、

「第1回労働政策審議会労働条件分科会・職業安定分科会・雇用均等分科会同一労働同一賃金部会」

です。

ふむ、働き方改革実行計画では、労働契約法、労働者派遣法、パート労働法を一括改正すると云う事になっているので、3分科会のもとに一つの部会をこしらえてまとめてやってしまうと云う事ですね。

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年功給か職務給か? by 金子良事×龍井葉二

956b今月から月刊化した『労働情報』の4月号に、面白い対談が載っています。

http://www.rodojoho.org/index.html

●〈論争のススメ〉 第1回

 年功給か職務給か?

 …… 金子 良事(大原社会問題研究所 兼任研究員)

 …… 龍井 葉二(元連合総研副所長)

ちょっと短い対談なので、意を尽くせていないところもありますが、どちらもすごく重要なことをさらりと語っています。

近年の日本ではなまじ非正規労働者の格差是正という文脈のみで論じられてきてしまったため、職務給で格差がなくなるという誤解が生まれてしまったようですが、もちろん、そういうわけではありません。

たとえばこういう相談に対してどう答えるのか、とか。

龍井 実際にあった労働相談で、あるスーパーの勤続10年のシングルマザーから電話がかかってきて、昨日入ってきた高校生の女の子と何でほとんど同じ時給なのかって。・・・

龍井 ・・・まあ経験の違いはあるけど、同一労働とも言える。でも養ってもらっている高校生と、子どもを育てているお母さんと時給が同じというのはどう考えたらいいか。なかなか簡単に答えが出ないんだけど、考えさせられた相談だったよ。そこにはどうしても生活給、生計費という問題を避けて通れないわけです。

そう、そして、それこそが約100年前に呉海軍工廠の伍堂卓雄(なぜか対談では「貞夫」になってますけど)が考えたことでもあるのですね。

 由来給与と生活費は夫々階級に応じ各自の社会的自覚によりて比較的平穏に経過し来りたるものなれども、近時資本家生活資料供給者家主等の如き従来相当公徳を維持し来りたるものが順次利己的傾向を明かにするに至りたると又這次の生活上の大変動は一般に労働者の社会的地位に対し自覚を促したる状況にあるに関らず現状に於ては彼等の生活を調整するの組織なく此儘にして放任せんか終には思潮の悪化を誘導して社会的攪乱の禍因を醸成するの虞れなしとせず此際局に当るものは職工給与に関し慎重なる考慮を払い合理的なる制度の採用を促進するの最大急務なるを惟う。・・・
 彼等が生活費の最低限として当然要求し得るものは一人前の職工とし其職を励む以上自己一身の生活は勿論日本の社会制度として避くべからざる家族の扶養に差支なき程度のものならざるべからず。・・・
 最近生活費の上騰は「フィッキドウエージ」により一般に至当と認めらるる家族に要する生活費に達せしむる事は現状到底望み得べからざるを以て年齢と共に増加する式と改むるの外なきが如し此式による時は昇給は本人の技能の上達及び物価騰貴に全然関係なきものにして単に生活費の増加に応ずるものとなり給料の高低に関らず或る程度以上の高給者と未成年者を除き勤続者は常に一定の昇給率を以て昇給することとなるべし

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明治大学現代中国研究所日中雇用・労使関係シンポジウム

明治大学現代中国研究所主催の第3回日中雇用・労使関係シンポジウムの案内がアップされていたので、こちらでもご紹介。

http://www.kisc.meiji.ac.jp/~china/report/

Toplogo

明治大学現代中国研究所主催、明治大学労働教育メディア研究センター後援

第三回 日中雇用・労使関係シンポジウム──非正規時代の労働問題

(第三届劳动关系与劳工问题 日中学术研讨会──非正规雇佣时代的课题)

■5月20日(土)会場:明治大学駿河台校舎リバティタワー1012教室

09:00〜09:30 参加者受付、資料配布

09:30     開幕

09:30〜09:35 日本側代表挨拶:石井知章(明治大学商学部教授)

09:35〜09:40 中国側代表挨拶:楊河清(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

09:40〜10:40 記念講演1 花見忠(上智大学名誉教授)演題:「最近の日本における過労死問題」

10:40〜10:55 休憩

10:55〜11:55 記念講演2 常凱(首都経済貿易大学労働経済学院教授)演題:「中国における非正規労働政策と課題」

11:55〜12:20 質問と討論

12:20〜13:20 お昼休み

13:20〜15:00 セッション1 非正規雇用と法規制

  コーディネーター 馮喜良(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

  (発表時間:1人10分、通訳を含め20分以内)

  1.濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構労使関係部門統括研究員)テーマ:「日本における非正規雇用の歴史」

  2.陶文忠(首都経済貿易大学労働経済学院副教授)テーマ:「非正規雇用労働関係についての判断」

  3.易定紅(中国人民大学労働人事学院教授)テーマ:「中国の非正規部門およびその労働関係」

  4.劉誠(上海師範大学教授)テーマ:「Analysis on Anti-Labor Contract Law Viewpoints(反労働契約法的観点についての分析)」

  5.範囲(首都経済貿易大学労働経済学院副教授)

    テーマ:「独立請負人、あるいは労働者:中国ネット予約タクシーの法律身分に関する境界設定──判例を基礎として」

15:00〜15:20 質問と討論

15:20〜15:35 休憩

15:35〜17:15 セッション2  労使関係と団体労使争議の処理

  コーディネーター 藤川久昭(青山学院大学法学部教授)

  1.鈴木賢(明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授)テーマ:「日本における非正規労働者の増加と労働組合」

  2.早川智津子(佐賀大学大学院地域デザイン研究科・経済学部教授)テーマ:「日本の労使関係と紛争処理制度」

  3.王侃(中国労働関係学院講師)テーマ:「中国労働NGOの発展の現状」

  4.戸谷義治(琉球大学法文学部准教授)テーマ:「非正規労働者と団結権保障」

  5.石井知章(明治大学商学部教授)テーマ:「非正規雇用問題に関する日中比較研究」

17:15〜17:35 質問と討論

■5月21日会場:明治大学グローバルフロント・グローバルホール

09:30〜11:40 セッション3 非正規就業労働者の権利保護

  コーディネーター  楊河清(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

  1.龍井葉二(前連合非正規労働センター長)テーマ:「非正規雇用と労働運動~連合の取り組みを中心に」

  2.高須裕彦(一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センタープロジェクトディレクター)

    テーマ:「日本の非正規労働者と労働組合・労働NGOの取り組み」

  3.馮喜良(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

    テーマ:「インタネット・プラットホーム雇用モデルにおける労働者権益の保護研究」

10:30〜10:40 休憩

  4.葉迎(中国労働関係学院副教授)テーマ:「中国養老介護職の発展に係る問題研究」

  5.山下昇(九州大学法学部教授)テーマ:「能力不足を理由とする解雇の日中比較」

  6.阿古智子(東京大学総合文化研究科准教授)テーマ:「戸籍をめぐる雇用差別から考える中国の労働者の権利」

11:40〜12:00 質問と討論

12:00〜13:00 お昼休み

13:00〜15:00 セッション4 労働力市場の法規制

  コーディネーター 早川智津子(佐賀大学大学院地域デザイン研究科・経済学部教授)

  1.梶谷懐(神戸大学大学院経済学研究科教授)テーマ:「中国の労働問題と日中関係―歴史的視点から」

  2.馮彦君(吉林大学法学院教授)テーマ:「中国の非典型労働関係における報酬権とその実現」

  3.小玉潤(社会保険労務士法人J&Cマネジメントパートナー代表社員、特定社会保険労務士)

    テーマ:「日本における過労死問題と法規制」

  4.呂学静(首都経済貿易大学労働経済学院教授)テーマ:「中国における新業態就業と失業保険問題に関する研究」

  5.王晶(首都経済貿易大学労働経済学院副教授)テーマ:「経済労働関係の享有に関する挑戦」

  6.崔勛(南開大学商学院教授、博士課程指導教官)

    テーマ:「非典型労働者における雇用の安全感と公平感の組織アイデンティティに対する影響研究」

15:00〜15:20 質問と討論

15:20〜15:30 休憩

15:30〜16:50 セッション5 日中間における労働関係のホットイシュー

  コーディネーター 阿古智子(東京大学総合文化研究科准教授)

  1.章群(西南財経大学教授)テーマ:「インターネット:タクシーネット予約業界の労働関係についての境界設定」

  2.藤川久昭(青山学院大学法学部教授)テーマ:「労働裁判・労働審判手続において労働法学は有用か」

  3.王長城(中南財経政法大学労働経済研究所所長、教授)テーマ:「特殊気候条件下における労働保護問題」

  4.楊河清(首都経済貿易大学労働経済学院教授)テーマ:「中日両国における過労問題研究状況の比較」

16:50〜17:10 質問と討論

17:10〜17:30 総括コメント 常凱(首都経済貿易大学労働経済学院教授)

17:30〜17:35 閉幕のあいさつ 鈴木賢(明治大学法学部教授)

ということで、土日の二日間をフルに使った大シンポジウムですね。

わたくしは初日の午後いちで報告をします。発表時間:1人10分、通訳を含め20分以内てことなんですが、できるかな。

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玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』

24070そのものズバリ、聞きたいことをそのままタイトルにした本です。曰く:人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか?

https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766424072/

“最大の謎”の解明に挑む!

働き手にとって最重要な関心事である所得アップが実現しないのは、なぜ?
22名の気鋭が、現代日本の労働市場の構造を、驚きと納得の視点から明らかに。
▼企業業績は回復し人手不足の状態なのに賃金が思ったほど上がらないのはなぜか? この問題に対して22名の気鋭の労働経済学者、エコノミストらが一堂に会し、多方面から議論する読み応え十分な経済学アンソロジー。
▼各章は論点を「労働需給」「行動」「制度」「規制」「正規雇用」「能力開発」「年齢」の七つの切り口のどれか(複数もあり)を中心に展開。読者はこの章が何を中心に論議しているのかが一目瞭然に理解できる、わかりやすい構成となっている。
▼編者の玄田教授はまず、本テーマがなぜいまの日本において重要か、という「問いの背景」を説明し、各章へと導く。最後に執筆者一同がどのような議論を展開したかを総括で解題する。
▼労働経済学のほか、経営学、社会学、マクロ経済、国際経済の専門家や、厚生労働省、総務省統計局、日銀のエコノミストなど多彩な顔ぶれによる多面的な解釈は、まさに現代日本の労働市場が置かれているさまを記録としてとどめる役割も果たしている。

詳細な目次はこちらにありますので、ご参考までに。

玄田さんの編集なので経済学者がやや多いですが、人事労務管理論の人、労使関係論の人、社会学の人など、それぞれの切り口の違いが面白いです。

経済学系の議論ではやはり、第5章(山本、黒田)や第14章(加藤)が論じている賃金の上方硬直性の原因論が面白いです。

えっ?上方硬直性?そう、景気が悪くなっても賃金が下がらない現象を下方硬直性と呼ぶならば、景気がよくなっても賃金が上がらない現象は上方硬直性ですね。

その原因を、これら論文は下方硬直性にあるといいます。えっ?何のこと?

細かい議論は第14章でされていますが、第5章での表現を使えば、

・・・過去の不況期に賃下げに苦慮した企業ほど、景気回復期に賃上げを控える傾向にある可能性、すなわち「名目賃金の上方硬直性」は「名目賃金の下方硬直性」によってもたらされている可能性があることを指摘する。

という議論です。ちょっとアクロバティックな感じをかもしつつきっちりと経済学的な議論になっていて、とても面白いです。

一方、人事労務管理や労使関係の専門家がこの問題に取り組むと違った側面が見えてきます。

第6章(梅崎)は人材育成力の低下による「分厚い中間層」の崩壊が原因なんだと説きます。企業から見たら、人手不足だけれど本当に欲しい人材がいないからだと。

あるいは、JILPTの西村さんの第13章は、前に本ブログでも若干紹介しましたが、賃金表が変わってきて、積み上げ型からゾーン別昇給表になってきたため、ベースアップしてもそれが後に効果として残っていかなくなっているということを指摘します。

そして社会学の立場から第15章(有田)は、日本の非正規雇用が身分制が強く、生活保障の必要性が正社員との格差の正当化理由だったのに、能力という別の正当化ロジックで都合のよい使い分けがされてきたといいます。これについても、有田さんの本を紹介した時にやや詳しく紹介しました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/03/post-8659.html(有田伸『就業機会と報酬格差の社会学』)

事実認識として結構衝撃的なのは、第4章(黒田)が示す、就職氷河期世代が見事に低賃金のまま今に至ってきているというデータでしょう。

2010年から2015年にきま給の変化を学歴別年齢階層別に見ると、高卒と高専短大卒で35-39歳層、大学大学院卒で35-39歳層ととりわけ40-45歳層でぐっと落ち込んでいるのです。これはつまり上のコーホートよりも低賃金になったということで、就職氷河期世代が被った「傷痕」効果は極めて大きなものであったことが分かります。

ちなみに、この黒田さんの論文は連合総研が昨年11月に出した『就職氷河期世代の経済・社会への影響と対策に関する研究委員会報告書』の黒田論文のサマリーになっていて、そちらから、グラフを引用しておきますね。

http://www.rengo-soken.or.jp/report_db/file/1478760813_a.pdf

Diodio

他の論文もそれぞれに興味深い議論を展開しています。この問題に関心のある人々にとっては「買い」でしょう。

基本データ 人手不足と賃金停滞   玄田有史・深井太洋

 序  問いの背景   玄田有史

第1章 人手不足なのに賃金が上がらない三つの理由   近藤絢子
 ポイント 【規制】 【需給】 【行動】
  1 求人増加の異なる背景
  2 医療・福祉:介護報酬制度による介護職の賃金抑制
  3 「人手不足イコール労働力に対する超過需要」ではない可能性
  4 名目賃金の下方硬直性の裏返し
  5 複合的な要因解明が必要

第2章 賃上げについての経営側の考えとその背景   小倉一哉
 ポイント 【制度】
  1 賃上げ率と賞与・一時金の動向
  2 経団連の主張と主な特徴
  3 成果主義の普及
  4 経営環境の変化
  5 今後も不透明は漂う

第3章 規制を緩和しても賃金は上がらない
――バス運転手の事例から   阿部正浩
 ポイント 【規制】 【制度】
  1 バス需要の増加と深刻な運転手の人手不足問題
  2 バス運転手の仕事と労働市場の特徴
  3 バス運転手の賃金構造の変化
  4 なぜ賃金水準は下がったのか
  5 バス運転手の労働市場の問題か

第4章 今も続いている就職氷河期の影響   黒田啓太
 ポイント 【年齢】 【正規】 【能開】
  1 「就職氷河期世代」への注目
  2 同一年齢で見る世代間賃金格差
  (1) 学歴別・性別によるちがい
  (2) 雇用形態別の給与額
  (3) 給与額増減の要因分解
  (4) 「就職氷河期世代」の労働者数に占める割合について
  3 「就職氷河期世代」の賃金が低い理由
  4 氷河期世代の悲劇

第5章 給与の下方硬直性がもたらす上方硬直性   山本 勲・黒田祥子
 ポイント 【行動】
  1 下方硬直性によって生じ得る名目賃金の上方硬直性
  2 名目賃金の下方硬直性が生じる理由とエビデンス
  3 企業のパネルデータを用いた検証
  (1) 利用するデータと検証方法
  (2) 過去の賃金カットと賃上げの状況
  (3) 名目賃金の下方硬直性と上方硬直性の関係
  4 日本の賃金変動の特徴と政策的な含意

第6章 人材育成力の低下による「分厚い中間層」の崩壊   梅崎 修
 ポイント 【制度】 【能開】
  1 「欲しい人材」と「働きたい人材」のズレ
  2 「分厚い中間層」の崩壊
  3 New Deal at Workのジレンマ
  4 企業内OJTの衰退
  (1) 長期競争よりも短期競争
  (2) 経験の場の消失
  5 解決策は実現可能な希望なのか

第7章 人手不足と賃金停滞の並存は経済理論で説明できる   川口大司・原ひろみ
 ポイント 【正規】 【需給】 【能開】
  1 問題意識――パズルは存在するか
  2 企業の賃金改定の状況とその理由
  3 労働者の構成変化が平均賃金に与える影響
  4 女性・高齢者による弾力的な労働供給
  5 労働供給構造の転換点と賃金上昇
  6 賃金が上昇する経済環境を整えるために――人的資本投資の強化

第8章 サーチ=マッチング・モデルと行動経済学から考える賃金停滞   佐々木勝
 ポイント 【需給】 【行動】
  1 日本だけの問題なのか
  2 標準モデルから予想できること
  3 モデルは循環的特性を再現できるか
  4 なぜ賃金調整は硬直的なのか
  5 賃金硬直性の帰結と背景

第9章 家計調査等から探る賃金低迷の理由――企業負担の増大   大島敬士・佐藤朋彦
 ポイント 【年齢】 【正規】 【制度】
  1 世帯の側からの視点
  2 世帯主の勤め先収入
  3 世帯主の年齢分布
  4 高齢化・非正規化の影響
  5 増加する賃金以外の雇主負担
  (1) 上昇する社会保険料率
  (2) 非消費支出比率の上昇
  (3) 世帯主の勤め先収入
  (4) 1人あたり雇主の社会負担
  6 社会保険料率等の引き上げの影響

第10章 国際競争がサービス業の賃金を抑えたのか   塩路悦朗
 ポイント 【規制】 【需給】
  1 高齢化社会と「あり得たはずのもう一つの現実」
  2 パズルは本当にパズルなのか――国際競争に注目する理由
  3 イベント分析の対象としてのリーマン・ショック
  4 検証1:求職者は対人サービス部門に押し寄せたか
  5 検証2:求職者の波に対人サービス賃金は反応したか
  6 検証結果のまとめ
  7 労働市場で何が起きているのか? 図解
  8 今後の課題:なぜ対人サービス賃金は硬直的なのか

第11章 賃金が上がらないのは複合的な要因による   太田聰一
 ポイント 【正規】 【需給】 【年齢】
  1 原因は一つではない
  2 非正規雇用者の増大
  3 賃金版フィリップス曲線から
  4 誰の賃金が上がっていないのか
  5 議論――「世代リスク」にどう対処するか

第12章 マクロ経済からみる労働需給と賃金の関係   中井雅之
 ポイント 【需給】 【正規】
  1 日本的雇用慣行の特徴から労働需給と賃金の関係を考える
  2 労働需給と賃金は必ずしも連動しない
  3 需給変動と内部・外部労働市場
  4 雇用の非正規化と一般の時間あたり賃金の動向
  5 労働市場の課題と労働政策

第13章 賃金表の変化から考える賃金が上がりにくい理由   西村 純
 ポイント 【制度】
  1 賃金の決まり方
  (1) 賃金表
  (2) 三つの要素
  2 昇給の仕組み(三つの方法)
  3 昇給額決定の実際
  (1) 「積み上げ型」の賃金表
  (2) 「ゾーン別昇給表」の登場
  (3) ベースアップ
  (4)賃金表変化の背景
  4 賃金を上げるために

第14章 非正規増加と賃金下方硬直の影響についての理論的考察   加藤 涼
 ポイント 【正規】 【年齢】 【行動】
  1 なぜ賃金は上がりにくくなったのか――問題の所在
  2 賃金が硬直的な下での正規・非正規の二部門モデル
  3 賃金の下方硬直性と上方硬直性
  4 人的資本への過少投資と賃金の上方硬直性

第15章 社会学から考える非正規雇用の低賃金とその変容   有田 伸
 ポイント 【正規】
  1 社会学と国際比較の視点から
  2 日本の非正規雇用とは何か
  (1) 正規/非正規雇用間の賃金格差
  (2) 賃金格差の強い「標準性」
  (3) 非正規雇用の補捉方法の特徴
  3 なぜ日本の非正規雇用の賃金は低いのか
  (1) 格差の正当化ロジックへの着目
  (2) 企業による生活保障システムと格差の正当化
  (3) もう一つの正当化ロジックと都合のよい使い分け
  4 非正規雇用の静かな変容
  5 なぜ賃金が上がらないのか――非正規雇用に着目して考える

第16章 賃金は本当に上がっていないのか――疑似パネルによる検証   上野有子・神林龍
 ポイント 【需給】 【年齢】
  1 上がらない賃金?
  2 賃金センサス疑似パネルからみた名目賃金変化率
  3 賃金総額の変化の分解
  4 結論――上がらない賃金と人手不足傾向の解釈

結び 総括――人手不足期に賃金が上がらなかった理由   玄田有史

あとがき

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福田耕治編著『EU・欧州統合研究[改訂版]』

51rzab447fl__sx350_bo1204203200_引馬知子さんより、福田耕治編著『EU・欧州統合研究[改訂版]Brexit以後の欧州ガバナンス』(成文堂)をお送りいただきました。

http://www.seibundoh.co.jp/pub/search/030621.html

2009年に出た本の改訂版です。2009年にいただいた時のエントリはこちらです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/eu-6583.html

副題にもあるように、初版が出た時からのEUは疾風怒濤の時期を経験し、昨年は遂にイギリス離脱というところまでいきました。

はしがき…福田耕治
第1部 EU/欧州統合研究の基礎
第1章 ヨーロッパとは何か
―欧州統合の理念と歴史…森原隆…2
はじめに…2
第1節 「ヨーロッパ」の起源とギリシア・ローマ世界の
「ヨーロッパ」…3
第2節 聖書・初期キリスト教の「ヨーロッパ」…6
第3節 中世「キリスト教世界」の精神的統合と
近世「ヨーロッパ」の分化…10
第4節 近世ヨーロッパの勢力均衡,統合・平和思想…13
第5節 近代ヨーロッパの国民・文明・文化統合の動き…16
第6節 20世紀「ヨーロッパ連合・EU」前史…18
おわりに…20
第2章 EU・欧州統合過程と欧州統合理論…福田耕治…23
はじめに…23
第1節 欧州統合の起源とクーデンホーフ・カレルギー…24
第2節 欧州統合の目的と制度設計…26
第3節 欧州地域統合の歴史的発展…28
第4節 EU条約―マーストリヒト条約から
リスボン条約までの変遷…30
第5節 欧州統合理論アプローチ…34
おわりに…42
第3章 EU経済通貨統合と世界金融・経済危機…田中素香…47
はじめに…47
第1節 経済統合について…47
第2節 EUの経済統合発展の諸段階(経済統合の深化)…49
第3節 域内市場統合―経済統合の後期(広域国民経済形成)
その1―…53
第4節 通貨統合―経済統合の後期(広域国民経済形成)
その2―ユーロについて…56
第5節 EUの拡大…63
第6節 世界金融・経済危機とEU…67
おわりに…71
第2部 EU機構と政策過程
第4章 EU/EC法秩序とリスボン条約…須網隆夫…76
はじめに…76
第1節 EU/EC法秩序の基礎…77
第2節 「多義的な主権概念」と「主権の分割可能性」…78
第3節 国家主権とEC権限…83
第4節 統治権限の移譲の意味…87
第5節 リスボン条約の構造とEU法…91
おわりに…95
第5章 EU・欧州ガバナンスと政策過程の民主化
―リスボン条約による機構改革―…福田耕治…100
はじめに…100
第1節 EUにおける法制化と民主的ガバナンス…101
第2節 欧州ガバナンス:ハード・ローによる法制化と
デモクラシー…105
第3節 EU政策過程と欧州ガバナンスの類型…111
第4節 EU・リスボン条約における法制化と民主的ガバナンス…113
おわりに…120
第6章 欧州議会の機能と構造
―立法・選挙・政党…日野愛郎…124
はじめに…124
第1節 欧州議会の立法権…124
第2節 欧州議会の選挙制度…129
第3節 欧州議会の政党システム…135
おわりに…137
第3部 EUの持続可能なガバナンスとリスク管理
第7章 EU高齢者政策とリスク管理
―貧困・社会的排除とCSRによるリスク制御―…福田耕治…142
はじめに…142
第1節 EUの持続可能な社会の構築とリスク管理…143
第2節 EU高齢者政策と各加盟国の年金制度改革:
開放型年金整合化方式(OMC)による調整…147
第3節 EUの高齢者雇用・社会的排除のリスク制御と
EUのCSR政策…151
おわりに…154
第8章 EU対テロ規制と法政策…須網隆夫…158
はじめに…158
第1節 EUにおける国際テロリズム規制…158
第2節 国際テロリズム規制と基本的人権の保障…165
おわりに…173
第9章 EU不正防止政策と欧州不正防止局
…山本直…177
はじめに…177
第1節 EU不正防止政策の始動…177
第2節 欧州不正防止局の設置と捜査活動…180
第3節 EU政治システムにおける欧州不正防止局…185
おわりに…186
第10章 EUタバコ規制政策と健康リスク管理…福田八寿絵…189
はじめに…189
第1節 喫煙と健康リスク…190
第2節 EUのタバコ規制政策の形成…191
第3節 各加盟国のタバコ規制の取り組み…194
第4節 タバコ規制に係わるステークホルダー…199
第5節 タバコの喫煙率の現状と喫煙に対する市民の意識…201
おわりに…202
第4部 EUの域内政策の展開と課題
第11章 EU共通農業政策と東方拡大…弦間正彦…212
はじめに…212
第1節 共通農業政策と改革…213
第2節 東方拡大とCAP…219
おわりに…223
第12章 EU社会政策の多次元的展開と均等待遇保障
―人々の多様性を尊重し活かす社会の創造に向けて―…引馬知子…226
はじめに…226
第1節 EU社会政策と均等待遇保障…227
第2節 EU均等法…230
第3節 雇用均等枠組指令とEU全加盟国での置換…232
第4節 加盟国間の履行上の相違と収斂…234
第5節 EUによる均等施策・行動計画…243
第6節 EU均等法施策における「福祉アプローチ」と
「市民権アプローチ」の共存…244
おわりに…245
第13章 EU科学技術政策とジェンダー
―先端生命医科学研究政策を事例として―
…福田八寿絵…250
はじめに…250
第1節 EU科学技術政策の形成…251
第2節 EU科学技術政策(FP7)とリスボン戦略…252
第3節 EUにおける科学技術政策とジェンダー…254
第4節 女性と科学―生命医科学研究開発分野への
女性支援政策の形成と展開…256
第5節 生命医科学研究におけるジェンダー配慮の必要性…259
おわりに…263
第5部 EUの対外政策と課題
第14章 EU共通通商政策とWTO…須網隆夫…270
はじめに…270
第1節 共通通商政策に係る権限の性質…271
第2節 共通通商政策の範囲―WTO協定の文脈において―…273
第3節 WTO法の裁判規範性…279
おわりに…285
第15章 EUとアフリカ…片岡貞治…289
はじめに…289
第1節 EUの開発援助政策の特殊性と概略…290
第2節 EUの対アフリカ戦略…297
おわりに…304
第16章 EUの対西バルカン政策…久保慶一…308
はじめに…308
第1節 欧州の「挫折」―EUと旧ユーゴ紛争…308
第2節 EU加盟プロセスの発足…312
第3節 危機管理能力の向上―CFSPの発展と紛争後
平和構築…316
おわりに…319

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前田正子『保育園問題』

102429 前田正子さんの『保育園問題 待機児童、保育士不足、建設反対運動』(中公新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/04/102429.html

毎年2万人以上の待機児童が生まれる日本。厳しい「保活」を経ても、保育園に入れない子どもが多数いる。少子化の進む日本で、保育園が増えてもなぜ待機児童は減らないのか。なぜ保育士のなり手が少ないのか。量の拡充に走る一方、事故の心配はないのか。開設に反対する近隣住民を説得できるのか――。母親として、横浜副市長として、研究者として、この課題に取り組んできた著者が、広い視野から丁寧に解き明かす。

前田正子さんといえば、先月『大卒無業女性の憂鬱』を紹介したばかりですが、今度の本は前田さんの本領中の本領、保育所問題をこの上なく見事にまとめた一冊になっています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/post-1111.html

最近、中公新書こそがあらゆる新書の保守本流になっているという声をよく聞きますが、本書などまさにその典型、ちょっと斜め後ろから批判しているような本も良いけれど、この問題だったらこの一冊と何のためらいもなく人に勧められる本というのも、新書本の果たすべき一つの役割なのでしょう。

第1章で日本の保育制度を簡潔明瞭に説明したあと、第2章「待機児童はなぜ解消されないのか」、第3章「なぜ保育士が足りないのか」と、今日の保育制度が抱える難題を手際よく解き明かし、第4章「量も質ものジレンマ」では、副題にもある建設反対運動の問題から始まって、保育事故の問題にも言及し、親が過敏になっていることの問題点も指摘するという目配りの良さです。この章の最後では、ある種の経済学者が唱道したがるバウチャー制がもたらす問題点も見事に指摘されています。

第5章「大人が変われば子育てが変わる」は、大人たちの働き方に矛先が向かい、育児休業と0歳児保育の問題にも論究しています。

その中でちらちらと前田さん自身の体験に基づく記述が挟み込まれ、説得力を増しています。

保育所問題についてこの一冊といえば疑いなくこの一冊、と言える本でしょう。

一点だけよくわからないのは、本書の中では一貫して「保育所」と呼ばれているにもかかわらず、なぜか本のタイトルでだけ「保育園」になっていることです。

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安中繁『週4正社員のススメ』

51pbhkj9bal__sx351_bo1204203200_社会保険労務士の安中繁さんから『週4正社員のススメ』(経営書院)をおおくりいただきました。

最近、介護離職や、長時間労働が問題視されています。長時間労働の是正は、我が国における重大な政策テーマと位置づけられるようになりました。 本書では、「週4正社員制度」をはじめ、多様な正社員制度を導入した企業の先行事例を紹介するとともに、導入プロセスと導入に際して出てくる課題への対応、就業規則の規定例等をまじえ具体的に解説しています。

もちろん実務書の作りですが、はじめの方の社会を取り巻く環境変化の中ではメンバーシップ型雇用の説明なども出てきます。

著者の安中さん自身が、コラムによると「現在妊娠8か月で本稿を執筆中」とのことで、その辺が文章にじみ出ているのでしょう。

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右翼ポピュリズムと社会問題

例によって、ソーシャル・ヨーロッパ・ジャーナルから「右翼ポピュリズムと社会問題」という論考を。筆者はコヴァルとリントナー。

https://www.socialeurope.eu/2017/04/right-wing-populism-social-question/

Kowall_bio

・・・There is now a heated debate about whether right-wing populist support is mainly driven by social and cultural or by economic anxiety. However, both types are highly interdependent: socio-economic uncertainty is related to cultural anxiety. The loss or feared loss of well-paid jobs can lead to a general sense of identity erosion and the search for easy scapegoats. But while right-wing populists play up and upon socio-cultural anxiety, they also tend to offer economic certainty by drawing on traditional social democratic discourse. This discourse gains credibility and support because many feel that social democratic parties have embraced neoliberalism “light” in recent decades, thereby opening the political space for right-wing extremists to offer protection from an uncertain world.

・・・いま右翼ポピュリズムへの支持が主として社会文化的な不安によるものか経済的な不安によるものかという熱い議論が行われている。しかし、どちらも高度に相互依存的だ。社会経済的不確実性は文化的不安に関係している。高収入の仕事の喪失やその恐れは一般的なアイデンティティ溶解感覚をもたらし、安易なスケープゴート探しをもたらす。しかし右翼ポピュリストは社会文化的不安をかき立てているが、彼らはまた伝統的な社会民主主義的議論を引き出すことで経済的確実性を提供しようとしている。この議論は信頼と支持を得られる。というのも、多くの人は社会民主主義政党が過去数十年間ネオリベラルズムの「光」を抱きしめてきたため、右翼急進派が不確実な世界からの保護を提供する余地を与えてきたと感じている。

Linder_bio ・・・Right-wing extremists can justly claim that the nation has lost much of its control over economic, social and cultural developments. Indeed, one of the reasons German social democrats used to explain their cuts in labour market regulation and the welfare state in the early 2000s was globalisation and its impact on wage costs. Also, the centre-left’s steady promise to re-establish control over the economy at transnational level – for instance in the EU – sounds increasingly hollow when austerity and mass unemployment in many crisis countries was often advocated by leading European social democrats.

右翼急進派は国家が経済的社会的文化的発展へのコントロールの大部分を失ってきたという主張を正当化することができる。実際、ドイツ社会民主党が2000年代初頭に労働市場規制と福祉国家の削減を正当化した理由はグローバリゼーションとその賃金コストへの影響であった。超国家レベルで経済へのコントロールを再建するという中道左派の繰り返される約束-たとえばEUとか-は、多くの危機に陥った諸国における緊縮策と大量失業が欧州の社会民主勢力によって唱道されているときにはうつろに響く。

ここで一言。一昨日の金曜日、同志社大学でEUの労使関係と労働法というタイトルで講義した話は、まさにここのところに関わるんですね。閑話休題。

This has opened the door for right-wing populism and nationalism: right-wing populists seek to “take back control” by nationalistic means. Social democrats in the second half of the 20th century promised to protect workers within a nation through democratic policies. Now they have abandoned this promise, right-wing populists instead become increasingly credible by making the same promise.

これは右翼ポピュリズムとナショナリズムへのドアを開く。右翼ポピュリストはナショナリズム的な手段で「コントロールを取り戻す」ことを追求する。20世紀後半に社会民主主義者は民主主義的な政策を通じて国家の中で労働者を保護することを約束した。いまや彼らはこの約束を放棄し、その代わりに右翼ポピュリストが同じ約束をすることで次第に信頼を勝ち得てきている。

・・・・The strategy of offering national protection from the anonymous and malign forces of globalisation is not peculiar to the FPÖ: Marine Le Pen in France has adopted the same kind of discourse, promising to stop the austerity and deregulation demanded by European institutions and Germany.

匿名で悪意あるグローバリゼーションの力からのナショナルな保護を提供するという戦略はFPÖに限らない。フランスのマリーヌ・ルペンも同様の議論を採用し、欧州機関とドイツの要求する緊縮策と規制緩和をストップさせると約束している。

・・・Paul Krugman nicely summarized the promises of modern right-wing extremists as offering “herrenmensch social democracy”; “a welfare state but only for people who look like you”

ポール・クルーグマンは現代右翼急進派の約束を「支配民族社会民主主義」を提供するものと見事に要約している。福祉国家、ただしあなたのように見える人々のためだけの。

・・・The scary thing is that this modern right-wing strategy is not modern at all, but the very principle of 20th century fascism: it and national socialism already offered “herrenmensch social democracy” in the 1920s and 1930s. Widely overlooked today, this aspect explains much of its appeal at the time – when there was almost no welfare state in Europe and the economy was devastated by war, inflation and financial crises.

恐ろしいことに、この現代右翼戦略はちっとも現代的なんかじゃなく、20世紀ファシズムの原則そのものだってことだ。ファシズムと国家社会主義は既に1920年代と1930年代に「支配民族社会民主主義」を提供していた。今日では看過されているけれども、この側面こそが当時のファシズムの魅力の多くを説明するのだ。ヨーロッパに福祉国家なんて全然なく、経済は戦争とインフレと金融危機で破壊され尽くしていた頃の。

Fascists identified real economic and social problems of the time, using them to build nationalistic mass political movements while many socialists were still fighting each other over the right interpretation of Karl Marx.・・・・

ファシストがその時代のリアルな経済社会問題を明らかにし、それを使ってナショナリスト的な大衆政治運動を確立していた頃、多くの社会主義者たちはカール・マルクスの正しい解釈をめぐってお互いに争い合っていたのだ。・・・・・

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正社員ゼロという選択@『Works』141

Worksリクルートワークス研究所の機関誌『Works』141号が届きました。特集は「正社員ゼロという選択」と、なかなか鬼面人を驚かしています。

http://www.works-i.com/pdf/w_141.pdf

日本型雇用システムの核に存在するのは、言うまでもなく「正社員」だ。正社員は新卒一括採用に始まる長期雇用を前提としており、教育や税・社会保障、家族のありようなど、すべての日本の社会システムが正社員を守り、正社員を働きやすくするべく形成されてきたと言っても過言ではない。問題は、長期雇用という安心と引き換えに、働く時間・勤務地・職務のすべての決定権を会社に預ける無限定な正社員という働き方に、多くの正社員が疲弊感を持っていること、また、正社員を中心に設計された社会であるにもかかわらず、非正規雇用が増加し、恩恵を受けられる人の数が大きく減っているということだ。企業側の視点でとらえると、極めて解雇しにくい長期雇用慣行のもとでは、たとえ能力が陳腐化してしまった社員であっても雇用し続けるほかなく、雇用保蔵の問題が生じている。
もっと自由に、自律的に働きたいと考えている個人が存在する。その価値観の変容に応えようとしている人事も存在する。私たちはそうした変化をとらえ、無限定型の長期雇用でなくても人々が安心して働き、生活しているオランダとデンマークを取材し、新しい雇用システムのありようを模索してきた。シリーズ最終回の今回は、正社員中心の日本型雇用システムに代わるものを提示したい。

として、具体的に提示する次のような9の提言なのですが、

2-1 働き方に関する6の提言
2-1-1 雇用契約の期間は最長20年とせよ
2-1-2 すべての人を職務限定とせよ
2-1-3 採用はローカルから始めよ
2-1-4 転勤を廃止せよ
2-1-5 副業禁止を禁止せよ
2-1-6 職業能力を可視化せよ
2-2 未来の働き方を支える社会に関する3の提言
2-2-1 テクノロジーの力で人をつまらない仕事から解放せよ
2-2-2 ベーシックインカムを導入せよ
2-2-3 プロフェッショナル教育機関を充実させよ

多分同じことを感じる方も多いと思うのですが、さまざまな矛盾を示してきている特殊日本型雇用システム特有の「正社員」の話と、他の先進諸国でもある程度共通している「レギュラー・ワーカー」の基盤が揺らぎつつある話とが、やや意図的にごっちゃにされている感があります。

ここでいう「正社員ゼロ」というのが、特殊日本的「無限定正社員」を念頭に置いているのか、それとも過去100年間にわたって先進産業社会で発展してきた標準的労働関係モデルの話をしているのかによって、受け取られ方は大きく違ってくるでしょう。

しかし、あえてそこを曖昧にすることでいろんな議論を展開させようとしているのかも知れません。

今日の働き方改革なるものが、日本的な「無限定」正社員モデルのある意味で欧州型へのシフトの面と、標準的労働関係モデルの技術革新の中での世界共通の融解現象の同時進行という両面を持っているだけに、この戦略的曖昧さはきわめて両義的ですらあります。

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The Future of Work─仕事の未来─

Wcms_549961 来る5月12日、労働政策フォーラムとして「The Future of Work─仕事の未来─」が開催されます。

http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20170512/index.html

日時 2017年5月12日(金曜) 14時00分~16時30分(開場13時15分)

会場 国連大学ウ・タント国際会議場 (東京都渋谷区神宮前5-53-70 国連大学3階)

主催 労働政策研究・研修機構(JILPT)

共催 国際労働機関(ILO)

後援 厚生労働省(予定),日本ILO協議会

というわけで、ILOがいま力を入れている「仕事の未来」にかかるグローバルダイアローグのイベントの日本版です。

少子高齢化の進行、IoTや人工知能(AI)等の技術革新の発展は、人口構造・産業構造・就業構造や経済社会システムを大きく変え、働く個々の人々は、より多様で柔軟な働き方を求められることが予想されます。本フォーラムでは、ILO事務局長のガイ・ライダー氏の基調講演のほか、学者・企業等の立場からの議論を通じて、今後、企業組織や人々の働き方はどのように変わっていくのか、あるいは変わっていくべきかを考えます。

プログラムは以下の通りです。

開会挨拶 菅野和夫 労働政策研究・研修機構理事長

基調講演 ガイ・ライダー 国際労働機関(ILO)事務局長

基調報告 濱口桂一郎 労働政策研究・研修機構所長

パネルディスカッション

パネリスト

得丸洋 日本経済団体連合会雇用政策委員会国際労働部会長

安永貴夫 日本労働組合総連合会副事務局長

神田玲子 NIRA総合研究開発機構理事

濱口桂一郎 労働政策研究・研修機構所長

コーディネーター

大内伸哉 神戸大学大学院法学研究科教授

閉会挨拶 田口晶子 国際労働機関(ILO)駐日代表

わたくしが基調報告なるものをちょっと喋ったあと、大内伸哉さんをコーディネーターに、上のパネリストでパネルディスカッションをすることになっております。

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情報通信技術利用事業場外勤務

先週末に開かれた労政審労働条件分科会の資料がアップされたようです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000161262.html

労使が根幹部分で合意しちゃっている話ではありますが、なお細部で詰めるべきところもあるということなのでしょう。

ところで、茲に出されている資料の中に、「国家戦略特区における追加の規制改革事項等について」というのがあって、要は国家戦略特区にテレワーク推進センターなるものを設置するということなんですが、これによってわが国史上初めて「テレワーク」なるカタカナ言葉に正式の漢語的な法律上の用語が決められたようであります。

曰く『情報通信技術利用事業場外勤務』。

国及び関係地方公共団体は、国家戦略特別区域において、情報通信技術利用事業場外勤務(在宅勤務その他の労働者が雇用されている事業場における勤務に代えて行う事業場外における勤務であって、情報通信技術を利用して行うものをいう。)の活用を支援することにより、産業の国際競争力の強化又は国際的な経済活動の拠点の形成に資する事業の円滑な展開を図るため、国家戦略特別区域内に事業場を有する事業主若しくは国家戦略特別区域内に新たに事業場を設置する事業主又はこれらの事業主が雇用する労働者に対し、情報通信技術利用事業場外勤務に関する情報の提供、相談、助言その他の援助を行うものとすること。

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ギード・フィッシャー『労使共同経営』@『HRmics』26号

Image1海老原嗣生さんのニッチモが出している『HRmics』の26号が届きました。なぜかまだニッチモのホームページにアップされていませんが、その関係のHRicsレビューの案内は載っているので、何かの手違いかも知れません。

http://www.nitchmo.biz/

特集は「あーせい、そーせいいわない地域創生」で、なぜか高橋洋一氏とか古賀茂明氏といった「脱藩官僚」な方々が出てきて、いろいろと語っています。今度のHRmicsレビューもこのお二人のようですね。

それはともかく、わたしの連載「原典回帰」は、ギード・フィッシャー『労使共同経営』を取り上げています。

ギード・フィッシャーといってもほとんどの人は知らないかも知れませんが、ドイツ経営学の一つの頂点みたいな人です。

 前回のフリッツ・ナフタリ編『経済民主主義』に続いて、今回もドイツです。ただし、ナフタリの本がワイマール期の労働組合サイドの考え方を提示したものであるのに対し、今回のギード・フィッシャーはドイツ経営学の代表的な学者で、本書は「ドイツ的経営」の神髄をまとめた本として知られています。えっ?ドイツ的経営?そう、日本が毀誉褒貶はともかく「日本的経営」で特徴づけられるのと似て、ドイツの企業経営もアングロサクソン型の経営思想に対してドイツ的な経営思想で特徴づけられるのです。
 この点については、ミシェル・アルベール『資本主義対資本主義』(竹内書店新社)や有名どころではロナルド・ドーア『日本型資本主義と市場主義の衝突』(東洋経済新報社)などで、ライン型資本主義という言葉で知っている方も多いのではないかと思います。ただ、アルベールはフランス人だし、ドーアはイギリス人です。彼らがアングロサクソン型に比べて推奨するそのドイツ的経営を、ドイツ人自身が「こういう考え方なんだぜ」とまとめた本というのは、実はなかなか見つかりません。今回のフィッシャーの本は、原著が1955年、邦訳が1961年と半世紀以上も昔の本ではありますが、それだけに純粋にドイツ的経営の神髄を打ち出しているところが見られますので、ドイツの労働システムを前回のナフタリと合わせて労使両方の観点から眺める上でも、結構有用な本だと思います。

1 経営パートナーシャフト-生活の安定

2 公正賃金 

3 共同体メンバーとしての従業員

4 組織原則の違い

5 フィッシャー経営学とカトリシズム

で、最後に海老原さん曰く:

う~ん、深いなフィッシャー

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解雇の金銭解決制度の議論が本格的に始動@WEB労政時報

WEB労政時報に「解雇の金銭解決制度の議論が本格的に始動」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=646

厚生労働省に「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」が設けられたのは2015年10月ですから、もう1年半になります。この間、さまざまな紛争解決制度に関するヒアリング、「労働局あっせん労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」(労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書 No.174」)のデータを使用したさらなる計量分析などの議論が積み重ねられてきました。今年の1月30日の会合から、いよいよ本格的に解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性についての議論が始まっています。
 その次の3月3日の会合に事務局から提示された「検討事項の補足資料」では、これまでこの問題を議論していた枠組みを踏み出した新たな考え方の提起がされていて、大変興味深いものがありますので、その概略を紹介しておきたいと思います。・・・

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見られてた・・・

こんなツイートが・・・。

https://twitter.com/Ningensanka21/status/850276050319757314

帰りの電車でhamachan先生を見かけた。『世界史をつくった海賊』という本を読んでおられた(たぶん)

9784480065940 たぶん私です。だって、まさにその本読んでたから。

貧しい二流国家だったイギリスが先進国に成り上がったのは裏でやってた海賊と奴隷貿易のおかげだったという本。

山下ゆさんの書評はこちら。

http://blog.livedoor.jp/yamasitayu/archives/51772737.html

ちなみに、ブログを見て、こいつ送られた労働関係の本しか読んでねえのじゃねえか、とお思いの方もおられるかも知れませんが、大内さんみたいにいちいちブログに書きませんけど、自分で買ったそれ以外の本もそれなりに読んでますんで。

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竹内章郎・吉崎祥司『社会権』

280734 竹内章郎・吉崎祥司『社会権』(大月書店)をお送りいただきました。

http://www.otsukishoten.co.jp/book/b280734.html

社会権を軽視し、豊かな福祉の実現を阻んできた日本の法学・社会理論を批判的に検証し、社会権再生の意義を示しだす。

タイトルからすると、社会保障法学や労働法学の関係の本と思われるかも知れませんがさにあらず、かなりハードな哲学系の本です。

はじめに――社会権とは何か、なぜ再構築が必要か?

第Ⅰ部 近代主義的な権利思想の問題性――自由権・市民権の偏重と社会権の相対化

第1章 近代主義的な人権論の限界――社会的自由主義からの問い

第2章 市民権に呪縛された法思想の困難

補論 ハーバーマス思想の市民権/法依存

第3章 近代主義的な社会権論の隘路

第Ⅱ部 社会権思想の歴史的・現代的意義

第4章 自立・自律の再定義――社会的自由主義から社会権思想へ

第5章 格差・差別・不平等への対抗――人権論の再興に向けて

第6章 将来社会の展望と社会権

第Ⅲ部 社会権の新たな基礎づけに向けて――社会権再生の核心

第7章 社会権の歴史的・現実的根拠

第8章 社会権の再構築へ

冒頭から批判を浴びせられるのは、樋口陽一、奥平康弘といったリベラル左派の憲法学者です。個人の自己決定、個人の尊厳といった市民権、自由権を偏重し、社会権を二次的なものと見なしたとして批判されます。

次に批判の矢面に立たされるのは近年の社会保障法学、とりわけ菊池馨実らの自律規定的法理論。そのついでに西谷敏らの自己決定労働法学もなで切りです。

が、議論の大部分はむしろ社会思想、社会哲学プロパーの領域におけるかなり抽象度の高い議論です。その中にしばしば現代社会への極めて批判的な言辞が挟み込まれ、正直違和感を感じることも多いのは事実です。

大きな問題意識としては、「社会的なもの」の確立、ということになるのでしょう。ただ、著者らはかなりハードなマルクス主義的バックグラウンドを持っていることから、その理論的往還になかなかついて行けない面もあります。

何よりも疑問を持たざるを得ないのは、ここまでラディカルに市民的交換論のロジックを全否定してしまったあとに、いかなる根拠の上に、社会構成員たちの合意、納得の上に、「社会的なもの」を構築しうるのかが、逆によく見えなくなってしまうことです。

それは、繰り返しキーワードとして出てくる割に、「集団性」の具体的イメージが最後までよくつかみにくいことととも繋がります。

少なくともこれまでの産業社会の展開の中で「社会的なもの」の一つの重要な担い手であった労働組合という集団性は、まさにある種の社会主義者から批判されてきたように、そして本書の中での批判されているように、労働力を自ら商品として売る人々による利益のための集団性であったわけです。そこにそれ故の限界があるのも確かですが、しかしそういう基盤なくして現実に意味のある、つまり社会を変えるだけの力のある集団性を構築することはできなかったのもまた確かなわけで。

そこから改めて振り返ると、本書はそういう集団性こそが中核になる労働法という領域については、ちらちらとコメントする割に正面から議論したところがあまりないことに気がつきます。

国家権力のパターナリズム批判といって個人の自己決定ばかりいうのがけしからんというロジックの中に、労働の集団性というテーマは収まりにくいのかも知れません。

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『女性労働研究第61号 働く場のリアル』

9784863694965_600 『女性労働研究第61号 働く場のリアル』(すいれん舎)が届きました。

http://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784863694965

取り残される女性労働者の権利

ジェンダー視点から問う

政府主導の「同一労働同一賃金」論のまやかし

「働き方改革」でますます格差が拡大する!?

特集は昨年8月に開かれた女性労働セミナーですが、巻頭にわたくしの「日本型雇用と女子の運命」が載っています。

巻頭  日本型雇用と女子の運命 濱口桂一郎

特集1 「同一労働同一賃金」を問う            

     ジェンダー視点からみた同一価値労働同一賃金原則の課題 浅倉むつ子

     安倍政権の「同一労働同一賃金」批評 森ます美

     職務評価の実施と是正賃金 大槻奈巳

     「同一価値労働同一賃金原則」を実現させよう 北口明代

特集2 「働き方改革」と女性

     統計からみる雇用労働者の労働時間 水野谷武志

     女性正規雇用労働者の就業継続と長時間労働時間 渡部あさみ

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『人口減少社会における高齢者雇用』

Cover_no2昨日紹介した『「個人化」される若者のキャリア』とともに、JILPT第3期プロジェクト研究シリーズとして『人口減少社会における高齢者雇用』が刊行されています。

http://www.jil.go.jp/institute/project/series/2017/02/index.html

日本の人口減少が進展する中で、我が国の成長力を確保していくためにも、高齢者の社会参加を進め、生産性を向上させていくことが重要であるとの観点から、意欲ある高齢者が年齢に関わりなく生涯現役で活躍し続けるための課題を、「60代前半層を中心とした雇用の課題」、「60代後半層以降又は高齢者全般の雇用の課題」、「高齢者の活躍や関連施策の課題」に分けて整理し、それぞれの分析結果を掲載しています。

目次は次の通りですが、

  • 序章 高齢者雇用の現状と課題(田原 孝明)
  • 〈60代前半層を中心とした高齢者の雇用の課題〉         
    • 第1章 「実質65歳定年制」時代の定年制(今野 浩一郎)
    • 第2章 60代前半継続雇用者の企業における役割と人事労務管理(藤本 真)
  • 〈60代後半層以降又は高齢者全般の雇用の課題〉         
    • 第3章 65歳以降の就業・雇用を考える―職業生涯の総決算とセグメント(浅尾 裕)
    • 第4章 65歳以降の継続的な就業の可否を規定する企業要因の検討(鎌倉 哲史)
  • 〈高齢者の活躍や関連施策の課題〉         
    • 第5章 年金支給開始年齢引上げに伴う就業率上昇と所得の空白─厚生労働省「中高者縦断調査(2014年)」に基づく分析(山田 篤裕)
    • 第6章 中高年齢者におけるNPO活動の継続意欲の決定要因分析(馬 欣欣)
    • 第7章 高齢者の就業と健康・介護(三村 国雄)
  • 終章 各章の概要と今後の課題(田原 孝明)

このうち、是非とも読んでおくべき一編は、この3月末で学習院大学を退職された今野浩一郎さんの「「実質65歳定年制」時代の定年制」です。

「実質65歳定年制」とは何か?

周知の通り、2012年改正により現在は希望者全員に対して65歳まで雇用が確保されるようになっています。とすると、

・・・定年年齢をその歳まで雇用継続が保障される年齢と捉えると、わが国は既に「実質65歳定年制」時代になる。そうなると、これまでの60歳を定年年齢とする定年制とは何なのかが問題となる。・・・

このまことに率直な疑問から、

・・・第一に、「実質65歳定年制」のもとで、「伝統的定年制」が人事管理上、どのような機能を持つ制度に変化しつつあるのかを検討する。労働者は定年とともに会社を退職し引退する、あるいは、働き続けるにしても退職した上で他の会社で働くというのであれば、定年制の機能は雇用関係を終了させることということになるが、「実質65歳定年制」のもとでは雇用関係の継続が前提となるので、「伝統的定年制」は間違いなく、これまでと異なる機能を持つ定年制となるはずである。・・・

という検討を進めていきます。

本書の各論の劈頭を飾る一編として、実にスリリングな論文になっていますので、是非目を通す値打ちがあります。

あと若手の論文として、鎌倉哲史さんの「65歳以降の継続的な就業の可否を規定する企業要因の検討」も一読に値します。問題意識はタイトルの通りですが、結論としては、

50歳時正社員の50代後半時残存率が負の説明変数として有意

はあ?という人のために普通の日本語に翻訳すると、

50代の時に正社員があまり離職していない(残存率が高い)企業ほど65歳以降に希望者全員就業可能とはなりにくい

ということになります。

ちなみに本書は3月中に出版されたため、今野さんはまだ学習院大学教授になっていますし、鎌倉さんはJILPTアシスタントフェローという肩書きになっていますが、鎌倉さんはこの4月から正式に研究員として働いていますので、実際に本書が読まれるときのことを考えて「(4月から研究員)」とか書いておいた方がよかったかも知れません。

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日本版O-NETの創設

昨日のエントリに、海上周也さんが詳細なコメントをつけていただきましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-2183.html#comments

実は、日本でも再び職業情報システムを構築しようという動きがあります。

先月末に決定された「働き方改革実行計画」の中に、同一労働同一賃金や時間外労働の上限規制のように目立つ形ではないですが、こういう一節が盛り込まれています。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai10/siryou1.pdf(25ページ)

( 2)転職・再就職の拡大に向けた職業能力・職場情報の見える化

AI 等の成長分野も含めた様々な仕事の内容、求められる知識・能力・技術、平均年収といった職業情報のあり方について、関係省庁や民間が連携して調査・検討を行い、資格情報等も含めて総合的に提供するサイト(日本版O-NET)を創設する。あわせて、これまでそれぞれ縦割りとなっていた女性活躍推進法に基づく女性が働きやすい企業の職場情報と、若者雇用促進法に基づく若者が働きやすい企業の職場情報を、ワンストップで閲覧できるサイトを創設する。
また、技能検定を雇用吸収力の高い産業分野における職種に拡大するととともに、若者の受検料を減免する。

後ろの方の工程表を見ると、

Onet

2020年度から日本版O-NETを運用開始するという予定のようです。

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『「個人化」される若者のキャリア』

Cover_no3JILPT第3期プロジェクト研究シリーズの『「個人化」される若者のキャリア』が刊行されました。堀有喜衣さんが実際の編集・執筆者です。

http://www.jil.go.jp/institute/project/series/2017/03/index.html

かつて日本社会の若者の学校から職業への移行やキャリア形成は「集団」として行われてきましたが、90年代以降の産業構造と学歴構成の変化により、日本でも若者の移行やキャリアの「個人化」が進展しました。

本書では「個人化」された若者の移行やキャリアの実態を調査に即して明らかにすることを通じて、政策的な支援のありようを考えます。

学校やハローワークが関与する高卒に比べて大卒はより個別化してますし、中退者が増えるということは学校から仕事への移行がばらばらに行われるわけです。

  • 序章 「個人化」される若者のキャリア
  • 第1章 戦後における若年者雇用政策の展開
  • 第2章 大学等中退者の移行プロセス─「個人化」される移行の課題─
  • 第3章 ニートの背景としての世帯と親の状況:国際的な議論と日本の実態
  • 第4章 新卒採用正社員の早期転職希望の背景
  • 第5章 早期離職後の職業キャリア
  • 終章 「個人化」される若者のキャリアへの支援

終章で堀さんが提起しているのは3点あります。

一つは「集団」を通じた支援の再評価。なんといって個人化というのは若者にとって大変な負担で、集団に埋め込まれて同世代の若者みなでともに移行すること、すなわちみなでリスクを分け合うことのメリットは少なくないといいます。そこで、たとえば多くの普通科高校では就職者が少なくて「集団」を形成しないので、ハローワーク中心の支援でもって「集団」化することを提示します。

二つ目は「若者」概念の再考。この間、若者の定義が、25歳未満、30歳未満、35歳未満とだんだん上がってきて、いまやサポステは39歳まで、施策によっては45歳未満にまで拡大していますが、これは就職氷河期世代が年齢を重ねるのに合わせてずるずると引上げてきた結果で、いくら何でも若者とは言えない年齢まで若者対策に入れるのは限界なので、世代と年齢を区別し、若者カテゴリーを引き直すべきといいます。まあ、非正規問題も今では壮年・中年非正規が中心になってますね。

最後は労働政策と教育政策の架橋。今後は労働行政が学校と企業との教育内容のコーディネーションに以下に関与できるかが政策の焦点になるだろうと述べています。

本文150ページ弱で読みやすい本になっています。

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『日本の課題を読み解く わたしの構想Ⅱ』

E1490934958606NIRA総研編『日本の課題を読み解く わたしの構想Ⅱ』(時事通信社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

新ビジネスの波、働き方の変革、政治への参加、世界と日本という大きく4つの領域で、全部で12の問いかけに、それぞれにほぼ5つずつ、全部で61個の回答が各界の識者から寄せられているという趣向です。

働き方改革のところでは、金丸恭文さんの「企業組織や人々の働き方はどのように変わっていくのか」という問いに、松尾豊、峰岸真澄、入山昌栄、出雲充、御手洗瑞子の諸氏が、柳川範之さんの「シニア世代の能力はどうすれば発揮できるのか」という問いに、長田久雄、原田悦子、権藤恭之、藤原佳典、伊藤由紀子の諸氏が答えています。

正直、回答者の分野がどうなのかな、というところもありますが、ここでは最後の伊藤由紀子さんの回答を紹介しておきましょう。そのタイトルは、「米国“O*NET”のような職業データベースの構築を」というものです。

・・・アメリカでは、O*NETと呼ばれる職業に関するデータベースが米労働省により整備され、これが個人と企業のマッチングを革命的に向上させた。自治体や人材紹介会社もこのデータベースを活用している。働きたい仕事に求められるスキルや企業側のニーズ、職業訓練の機会などの各種情報をウェブで提供している。複数の職業間で類似して求められるスキルを知り、転職の参考にもできる。・・・

・・・日本特有の課題は、事務職・販売職の四割以上が、自分のスキルを自覚しておらず、また自分の仕事に専門知識は不要と考えていることだ。アメリカの同職者が、高レベルの専門知識が必要と考えているのとは対照的だ。若い世代も、いずれ高齢者になるときに備えて、市場のニーズと自らのスキルを自覚し、自分を売り込めることが大切となる。

日本の労働行政も戦後すぐから職務分析を行ってきましたし、その後職業研究所、雇用職業総合研究所、日本労働研究機構、労働政策研究・研修機構と名前は変わりながらその事業は受け継がれてきましたが、民主党政権時代に事業仕分けで不要と判定されてしまいました。

自分の仕事に専門知識は不要と思っている人々の認識をそのまま政治的に代表するとそういう結論になってしまうのでしょうか。

しかし伊藤由紀子さんもいうように、これからいよいよ日本でもO*NETのような職業データベースの構築が求められてくることになるでしょう。

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菅野和夫・荒木尚志編『解雇ルールと紛争解決─10ヵ国の国際比較─』

DismissalrulesJILPTから菅野和夫・荒木尚志編『解雇ルールと紛争解決─10ヵ国の国際比較─』が刊行されました。

http://www.jil.go.jp/publication/ippan/dismissal-rules.html

日本を含む10ヵ国における解雇の法的ルールと紛争解決システムを提示し、それらを整理、比較した。今後の日本における解雇ルールと紛争解決システムの構築に向けた議論に欠かせない一冊。

10カ国というのは下記目次のの10カ国です

  • 序章 解雇ルールと紛争解決─10ヵ国比較のアウトライン
  • 第1章 解雇ルールと紛争解決:日本
  • 第2章 解雇ルールと紛争解決:イギリス
  • 第3章 解雇ルールと紛争解決:ドイツ
  • 第4章 解雇ルールと紛争解決:フランス
  • 第5章 解雇ルールと紛争解決:イタリア
  • 第6章 解雇ルールと紛争解決:スペイン
  • 第7章 解雇ルールと紛争解決:デンマーク
  • 第8章 解雇ルールと紛争解決:韓国
  • 第9章 解雇ルールと紛争解決:オーストラリア
  • 第10章 解雇ルールと紛争解決:アメリカ
  • 終章 諸外国の解雇ルールの展開と雇用システム
  • 附録 解雇ルールと紛争解決─10ヵ国比較の整理表

これは、2014年度に行った9カ国の調査研究がベースになっています。この時の研究報告書は、山本陽大さんの書いたドイツ編は

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0172.html労働政策研究報告書 No.172 ドイツにおける解雇の金銭解決制度 ―その法的構造と実態に関する調査研究

細川良さんの書いたフランス編は

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0173.html労働政策研究報告書 No.173 フランスにおける解雇にかかる法システムの現状)

池添弘邦さんの書いたアメリカ編(解雇だけでなく雇用仲裁も主眼となっていますが)は

http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2015/157.html資料シリーズ No.157 アメリカにおける個別労働紛争の解決に関する調査結果)

それ以外の諸国も含めた全体版については、

http://www.jil.go.jp/foreign/report/2015/0615.html(解雇及び個別労働関係の紛争処理についての国際比較 ~ イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、 デンマーク、韓国、オーストラリア及びアメリカ ~

としてアップされています。

今回の本はそれらをアップデートするとともに、菅野和夫理事長自身による日本編を第1章として新たに盛り込んでいます。

厚生労働省の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」において、今年に入ってから解雇の金銭救済制度の本格的検討が始まっていることからも、本書をじっくり読んで基礎知識を完備しておくことはますます重要になりつつあると言えましょう。

500ページ近い大冊ですが、手元に置いて随時参照するには大変便利な一冊です。

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中窪裕也・野田進『労働法の世界〔第12版〕』

L14499中窪裕也・野田進『労働法の世界〔第12版〕』(有斐閣)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144996

1994年の初版以来、ほぼ2年おきに改訂し続けて12版に至るという労働法学界の偉業の一つです。

日々変化する「労働法の世界」の実像に迫る教科書。労働法の基本構造の転換と発展のダイナミズムを,最新の法状況や判例・学説の展開にも目配りし,確かな座標軸をもって描き出す。多彩なコラムも必読。時を重ね,世紀を超えて進化・発展をつづける,ロングセラー。

ですが、毎回少しづつ入れ替わるコラムも楽しみの一つです。前回は募集・採用の章の「ブラック企業」というコラムを紹介しましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/04/post-060e.html

今回は労働法のアクターの章の「法学部生にとってのブラックバイト」を紹介します。

前半はブラックバイトユニオンなどを引いていろいろと実態を述べていますが、その後におもむろにこう語りかけます。

・・・しかし、労働法を学んだ法学部生は、こうした状況に直面しても、決して途方に暮れたり泣き寝入りしたりすることはないはずである。上記の代表例でも、①と②は、一方的な労働条件の変更や辞職の自由の問題だし、③~⑤の問題は労働時間に関する紛争の典型例だし、⑥と⑦は賃金の支払規制に関わるし、⑧はパワハラの問題と言える。これらの問題について、労働法を学んだ法学部生は、適用スベキ法規範と判例をしっかり習得しているはずである。そして、これらの問題に適切に対処するために、ADR等の種々の解決システムがあることも勉強している。全て本書に書いてある。

「知ることは力である。」法学部生なら、バイト先のブラックな要求にひるんだり、詭弁に誤魔化されたりすることなく、堂々と法的主張を展開して欲しい。

「はずである」と言葉がぐさぐさと刺さる法学部生も一杯いるかも知れませんが・・・。

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上野千鶴子『時局発言』

9784866210445上野千鶴子さんの『時局発言』(WAVE出版)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.wave-publishers.co.jp/np/isbn/9784866210445/

毎日新聞に連載した書評をまとめたもので、拙著『働く女子の運命』も対象に入っていますので、お送りいただいたのでしょうね。

新聞紙上で書評されたときのエントリは:

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/05/post-35f8.html(上野千鶴子さんの書評@毎日夕刊)

拙著に対する批評は:

拙著「女たちのサバイバル作戦」(文春新書)で、「日本型雇用」が諸悪の根源と論じた。まったく同じことを、濱口桂一郎さんが「働く女子の運命」で書いている。同書には「そうか、やっぱり、そうだったんだ。ニッポンの企業が女を使わない/使えない理由が腑(ふ)に落ちた」と推薦の文を寄せた。日本型雇用とは、終身雇用、年功序列給、企業内組合の3点セットからなる。ひとつの組織に長く居すわれば居すわるほどトクをするというしくみだ。一見、性差上、中立的に見えるが、このルールのもとでは長期にわたって構造的に女性が排除される。これを間接差別という。日本型雇用はあきらかに女性差別的な雇用慣行だということを、濱口さんも立証している。そのとおり、均等法時代から、「男なみ」の労働環境に女も合わせろという「男女平等」がうまくいくわけがない、とわたしたちは警告してきたのだ。変わらなければならないのは女ではない。企業と男性社員の働き方のルールの方だ。

ちなみに、この上野さんとhamachanが初めて対談したのが、

http://hon.bunshun.jp/articles/-/4523 (働く女子は活躍できるのか? 濱口桂一郎×上野千鶴子、"組織の論理"と"女性の論理"が大激論!(前編))

http://hon.bunshun.jp/articles/-/4524 (働く女子は活躍できるのか? 濱口桂一郎×上野千鶴子、"組織の論理"と"女性の論理"が大激論!(後編))

です。掛け合い漫才を見るように読んでいただければ、と。

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「賃金の年齢差別」@『エルダー』2017年4月号

Om5ru8000000ld61 一方、昨年から1年間『エルダー』に連載していた「高齢者雇用施策を考える」はこの4月号で最終回を迎えました。

http://www.jeed.or.jp/elderly/data/elder/

http://www.jeed.or.jp/elderly/data/elder/q2k4vk000000trts-att/q2k4vk000000trwc.pdf

 本連載もあっという間に1年が過ぎ、最終回となりました。今までいろいろな論点を取り上げてきましたが、最終回にはやはり昨年人事関係者の注目を集めた長澤運輸事件の関係で、賃金にかかる年齢差別の問題を取り上げてみたいと思います。ただし、長澤運輸事件自体は実は年齢差別ではなく有期雇用であることによる不合理な労働条件であるかどうかが争点となったものなので、正面から賃金の年齢差別を争った昨年のL社事件(東京地判平28.8.25労判1144-25)を取り上げます。

 本件も自動車運転に関わる業種の事件ですが、普通の運輸業ではなく、企業等が保有する役員車等の運行管理関連業務全般を受託する自家用自動車管理業の被告会社と、その車両管理者として専任嘱託契約社員という雇用形態で採用された原告労働者との間の事案です。他の事案との違いは、この労働者が同社の定年退職者ではなく、他社を定年退職後に同社に採用されたという点にもあります。同じ車両管理者であるのに、60歳未満の者に比べて、原告の賃金は約74~81%であったことを、年齢による差別である、あるいは同一労働同一賃金原則に反すると主張して訴えたのがこの事件です。

 東京地裁は年齢差別の論点についてまずこう述べています。基本給与決定にあたり、「責任感と優秀な技能を有し、かつ、健康な若年層及び中年層の車両管理者をより多く擁する必要があるとの認識や、高年齢者は様々な健康問題を抱えている場合が少なくなく、また、自動車運転にとって必要な能力、技能等は加齢とともに低下していくとの認識の下、若年層及び中年層に対しては高年齢者層に対する場合と比べて手厚い処遇をすること」は、「専任社員につき満60歳での定年制を採用し、もっていわゆる終身雇用型の雇用制度を採用している被告が被告に採用された後はそのままより長い期間働く可能性が高いことを見越してより若い労働者を優遇するという点からも一定の合理性があるものということができ」る、と。この議論はいくら何でもひどいのではないでしょうか。

 実はこのあとの段落では、「我が国においては、ある企業において定年に達した者が同一の企業で又は別の企業で引き続き雇用されることを希望する場合、同人の賃金水準が同人が定年に達する前のそれと比べて相当程度低く定められることは一般的にみられる事象ということができる」と述べて、高年齢雇用継続給付の存在をその例証としてあげるなど、長澤運輸事件控訴審判決(東京高判平28.11.2労判1144-11)と同じような議論も展開しています。これは一言でいえば、高齢者の労働能力が若年層や中年層と比べて低下しているかどうかなどとは一切関係なく、日本の正社員の賃金制度がいわゆる年功賃金体系であり、定年前の中高年期には貢献よりも高い賃金を受け取っていることが一般的であることを所与の前提として、定年後にはその貢献に見合った賃金水準とするための低賃金化であるという論理です。

 長澤運輸事件のように、60歳まで勤務していた会社に引き続き再雇用されて賃金水準が下落したような場合には、この論理はかなり正当性があると思われます。もちろん、それでも同事件の原告はおかしいと思ったから訴えたわけですし、原審の東京地裁(平成28.5.13労判1135-11)はそれを労働契約法20条違反と断罪したわけです。一方で、労働契約法20条ははじめから有期契約で雇われた人が無期契約で雇われた人との間で差別されることを対象にしているのであって、正社員として長年勤務したあとに有期契約で再雇用された人に適用するのはおかしいという意見も大変有力で、控訴審はむしろそちらに与しました。同事件は現在最高裁に係っていますのでそのうち最高裁の判断が下されることになるでしょう。

 しかし、何回も繰り返しますが、正社員の年功賃金体系(を享受していたこと)を根拠に定年前よりもかなり低い賃金を正当化する議論が有効であったとしても、上に引用した本件東京地裁の判決はひどい議論になっています。そもそも本件では、原告は被告会社を定年退職したわけではなく、高齢の新人として新たに採用しているのです。別段、高齢法に基づく継続雇用の義務づけでやむを得ず採用したわけではありません。高齢であってもその車両管理者の業務を的確にこなせる人材であると考えたから採用したはずです。もちろん、他の再雇用された高齢の専任嘱託契約社員とのバランス上、彼だけ高く設定することも困難でしょうから、彼らに見合った低賃金とすることも非合理と言うことは難しいかも知れません。そういう論理なら、賛成するかしないかは別として成り立ち得ます。

 しかし、自社を定年退職した人の再雇用でもなく、その能力を評価したから採用したはずの原告に対して、「高年齢者は様々な健康問題を抱えている場合が少なくなく、また、自動車運転にとって必要な能力、技能等は加齢とともに低下していくとの認識」を根拠に持ち出すというのは、この判決の基本認識に疑いを投げかけます。実を言うと、本件は争点が二つあり、一つは原告がけいれんを起こしたりしたことを長時間労働のせいだとして会社の安全配慮義務違反を問うているのです。健康問題云々は、そうしたいきさつが影を落としている可能性があります。被告側としては、せっかく採用してやったのに健康問題で文句を言いやがって、という意識があったのかも知れません。しかし、もし本人の健康問題が原因だというのなら、それはそれとして対応すべきことであって、制度としての高齢の専任嘱託契約社員の賃金水準をどうするかとは直接関係がないはずです。

 とはいえ、本件は弁護士も立てずに行われた本人訴訟で、地裁判決で確定してしまっています。年齢差別との主張を認めなかったという結論自体は、今日の日本が未だに年功的な賃金体系の下にあり、それを前提にした高年齢雇用継続給付もなお廃止されずに活用され続けていることを考えると、やむを得なかったものと言わざるを得ないかも知れません。しかし、上記引用のように、まるで労働者は高齢期になると「様々な健康問題を抱えている場合が少なくなく、また、自動車運転にとって必要な能力、技能等は加齢とともに低下していくとの」ステレオタイプの「認識」を公認したかのような判決文がそのまま確定してしまったことは、今後ますます人口の高齢化が進み、その中で健康で活躍できる高齢者の雇用を推進していかなければならない時代にあって、いささか納得できないものを感じます。

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「違法な時間外労働43.9%」@『労務事情』2017年4月1日号

Roumujijou_2017_04_01 『労務事情』に「気になる数字」というコラムを連載することになりました。第1回目の2017年4月1日号では「違法な時間外労働43.9%」という気になる数字です。

◎〈新連載〉気になる数字 濱口桂一郎
 第1回 違法な時間外労働43.9%

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副業・兼業と過労死認定

先日策定された働き方改革実行計画には、同一労働同一賃金や時間外労働の上限規制のようにホットな議論の的となったものもありますが、必ずしもそれほど議論されないで盛り込まれたものもあります。そのうち、副業・兼業の促進について、労働ジャーナリストの溝上憲文さんがプレジデント・オンラインで「過労死・残業を認めない「副業推進」の罠」と題して論じています。

http://president.jp/articles/-/21768

このうち、労働時間の通算問題や労災保険の給付基礎日額の問題については政策論としても結構議論されており、私も昨年7月にWEB労政時報で簡単な解説を書いています。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=557

ただそのうち一つの項目については、実はあまりきちんと議論がされているとは言えず、かなり問題が残っているように思われます。それは、二重就業者の過労死認定における労働時間の算定はどうするのかという問題です。

溝上さんはこう述べています。

だが、過重労働で過労死したらどうなるのか。労災保険の補償が受けられる過労死認定基準は月平均80時間を超えて働いていた事実などが要件になる。ところが2社の合計残業時間が80時間を超えていても認定されない。現状では1つの会社の労働時間でしか判断されない仕組みになっており、本人が亡くなっても労災認定を受けられず、残された本人の遺族は救済されないことになってしまう。

ただこれは私の知る限りどこにも明示されていないように思います。下記裁判例からすると、厚生労働省はそのような立場に立っていると思われますが、処分庁(監督署長)は逆の判断をしていたことからすると、必ずしも明確なものではなかったようです。

もう8年前ですが、元監督官の社労士である北岡大介さんがブログでこう書かれていたことがあり、

http://kitasharo.blogspot.jp/2009/02/blog-post.html (人事労務をめぐる日々雑感)

・・・ここまでは労基法のおさらいですが、難問は同就労が1か月以上にわたり長期化した場合において、通算月間残業時間が80時間以上となっているケースです。仮に同ケースにおいて、過労死・自殺事案が生じた場合、副業先であるB社またはA社がどのような法的責任を負うことになるのでしょうか。とくに副業元・先がその事実を把握していない場合が問題です。大変な難問ですが、おそらくは労基署にしても裁判所にしても、まずは合算時間外労働時間数等を基に業務上外判断をすることになるのではないでしょうか。民事損害賠償の場合はA社・B社の責任割合が問題となりますが、一つの試論としては、損害発生への寄与度合などを考慮の上、責任按分を決することになると考えます(先例見当たらず)。

先例のない難問であったわけです。

国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地判平成26年9月24日)(労働判例1112号81頁)は、主として給付基礎日額の算定問題が論点となっていますが、この問題にも若干触れています。

給付基礎日額の問題はこの分野の専門家にはよく知られていると思いますが、2004年の労災保険研究会報告で合算という方向性が示されながら、2005年の法改正では盛り込まれず、、今に至っているものです。上記裁判例でも合算しないという立場が維持されていて、それはそれで今後立法論上の問題として審議されていくことになります。

なのですが、それとは別の、そもそも過労死として認定するかどうかという時に、複数勤務先における労働時間を合算するべきか否かという問題について、裁判に持ち込まれる以前の行政段階において、処分庁たる監督署長は合算し、厚生労働省はそれを否定していたようなのです。

この裁判例については、一昨年11月に東大の労働判例研究会で報告したことがあります。『ジュリスト』には掲載しなかったのですが、報告時のレジュメを拙ホームページに載せておりますが、その中で判決文にこういう一節があります。

http://hamachan.on.coocan.jp/rohan151113.html

・・・なお、確かに、Xが主張するとおり、処分行政庁は本件各処分の際に、A興業における労働時間とB社における労働時間を合算しているところ、これは、処分行政庁が判断を誤ったものというほかないが、訴訟において、Yが処分行政庁の判断と異なる主張をすること自体が許されなくなるものではない。

この問題については、正面から議論したものは殆ど見当たらないのですが、確かに労災保険法の労災補償は労働基準法の災害補償の担保なのですが、その労働基準法上の労働時間が複数企業でも通算すると(少なくとも現時点では)していることをどう考えるのかとか、今後副業・兼業を促進していくためにもそんな通算規定は廃止すべきだという議論との関係をどう考えるのかとか、いろいろとこんがらがるような論点が絡み合って、なかなか整理が付きにくいところがあります。

・・・ある事業場での勤務時間以外の時間について、労働者がどのように過ごすのかについては、当該労働者が自由に決定すべきものであって、当該事業場は関与し得ない事柄であり、当該事業場が労働災害の発生の予防に向けた取組みをすることができるのも自らにおける労働時間・労働内容等のみである。そうすると、当該事業場と別の事業場が実質的には同一の事業体であると評価できるような特段の事情がある場合でもない限り、別の事業場での勤務内容を労災の業務起因性の判断において考慮した上で、使用者に危険責任の法理に基づく災害補償責任を認めることはできない。したがって、先に挙げた場合には、いずれの事業場の使用者にも災害補償責任を認めることはできないにもかかわらず、両事業場での就労を併せて評価して業務起因性を認めて労災保険給付を行うことは、労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合に保険給付を行うと定めた労災保険法12条の8の明文の規定に反するというほかない。この点、Xは、そのうち少なくとも災害補償責任を肯定できる事業場が認められる場合には、災害補償責任が認められない他の事業場における平均賃金をも合算することができると主張するが、個別の事業場においていずれも災害補償責任が認められない場合との理論上の統一性を欠き、採用できない。そして、本件において、A興業とB社が実質的には同一の事業体であると評価できるといった特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

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労政審と三者構成原則

厚生労働省のホームページに、労働政策審議会の労働条件分科会の案内が出ています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000159793.html

第131回労働政策審議会労働条件分科会

1.日時

平成29年4月7日(金)18:00~19:30

2.場所

中央合同庁舎5号館20階 共用第8会議室

(東京都千代田区霞が関1-2-2)

3.議題

(1)時間外労働の上限規制について

(2)その他

しかし、労使それぞれのトップが既に官邸の働き方改革実現会議でかなり細かいところまで合意してしまっているわけで、この上審議の余地がどれだけあるのだろうか、という気もしないではありません。

これまで官邸主導の労働法制改革は、経済財政諮問会議にしても規制改革会議にしても産業競争力会議にしても、全て労働者の代表のいないところで結論が決められ、それが労政審に降りてきて、さあこれで議論しろといわれるから、そんなの三者構成原則に反するという正しい反論ができたわけですが、今回は官邸の会議自体が、人数的なパリティ云々という問題はあるとしても、ちゃんと労使双方の代表が入り、しかもその決定経緯が事実上労使間のサシの交渉に持ち込まれ、その結果として合意が成り立ち、それが首相の裁断で決定に至ったということからして、少なくともILOの精神からして何もおかしくない、むしろ三者構成原則の鑑みたいな政策決定プロセスになっているわけで、これはもう、今更労働条件分科会で労使どちら側も文句のつけようがないですね。上限を何時間にするかという労使交渉の一番キモになるところはもう終わっちゃっている。そこは、同一労働同一賃金をめぐる問題ともちょっと位相が違うところです。

ということは、これはもう殆ど中身のある議論の余地なく、すいすいと建議になり、法改正案になり、もしかしたら今国会に提出されてしまうということになるのでしょうか。

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医師の労働時間はEUでも大問題

一昨日のエントリで「医師は労働者にあらず!??」を取り上げましたが、これはもちろん、医師会の会長さんの発言をあげつらったものではありますが、医師の労働時間について特有の問題があること自体は、日本に限らず他の諸国、とりわけ厳格な労働時間規制で知られるEU諸国でも(同じではありませんが)似たような問題が生じていることも確かです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/post-4cf3.html

Eulabourlaw その経緯については先日刊行した『EUの労働法政策』でも詳述したところですが、ここではやや古いですが、2010年に経営法曹会議で喋ったものを引用しておきます。

http://hamachan.on.coocan.jp/keieihousoueu.html

(2)オプトアウトと待機時間をめぐる経緯

 ところが、それだけではなくて、もう1つ、労働時間をめぐる問題として起こってきたのが、「待機時間」をめぐる問題です。何かというと、どこの国にも病院があります、救急病院があります。救急病院は、夜中に患者が運ばれてくるわけです。ということは、そこで、すぐに医者やら何やらが対応しないといけない。これは、どこでも同じです。ということは、夜中にちゃんと病院の中にお医者さんやいろいろな人たちが待機していて、当然、対応しなければいけない。これも同じです。

 問題は、「待機」している間は労働時間法上、一体どういう扱いになるかというので、各国はどこでも、患者が運び込まれて実際に動き出してからそれが終わるまでの実際に動いている時間は労働時間で、それ以外は労働時間ではないというふうに扱っていましたが、それはけしからんと、スペインとドイツの医師や看護婦たちが訴えたわけです。

 そうすると、まず各国の裁判所でこの審議がされます、そして、最高裁まで行きます。そうすると、労働時間指令があるということは、各国の労働時間法はもちろんそれ以前からありますが、指令がある以上は、すべて各国の労働時間法制は、その指令を実施するための法律になって、各国法は下位法令になるわけです。そこで、各国の最高裁は、待機時間が労働時間であるかないかという解釈を勝手にすることは許されないので、「いかがでしょうか」と、ルクセンブルクの欧州司法裁判所にお伺いを立てないといけない。お伺いを立てたところ、「待機時間は労働時間である」と言われてしまったわけです。

 言われてしまうと大変です。この大変さを、日本人に理解してもらうのは、実は結構難しい。いろいろなところで申し上げますと、「それは金がかかって大変ですね」と言われますが、金がかかるだけの話ではありません。つまり、EUの労働時間指令は、実労働時間規制で、週48時間というのは、時間外を含めて48時間以内にしないといけないのであり、ということは、「待機時間」が労働時間だということは、「金を払えばいい」というのではなく、「待機している時間も全部含めて、週48時間以内にしないといけない」ということなのです。そこで、本当にそれを実行しようと思ったら、スタッフを倍以上に増やさないといけないということになります。これは大変で、そんなことは、実際にできるはずがない。「医療費をもっと上げて何とかすればいい」と日本人は直感的に思いますが、それはできない。医者の数が倍以上に増えないと対応できないのです。

 そうしたことが、欧州司法裁判所の判決により、欧州各国の置かれた状況といえます。ですから、困るわけです。そこで、各国はどうしたかというと、非常に皮肉ですが、「オプトアウト」しようということになりました。今まで、オプトアウトしていたイギリスはけしからん、直ちに22条のようなばかな規定はなくせ、と言っていたところが、国によって、オプトアウトを「医療機関」としたところもあるし、業界は関係なしに、「待機時間についてはこういう形で」というのを、オプトアウトという形でしたところもあります。いずれにせよ、オプトアウトを使わざるを得ない状況に、大陸諸国も追い込まれてしまった。それが、「労働時間指令」の改正が始まるときのそれぞれが置かれていた状況です。

 そうすると、イギリスでは、使用者側はオプトアウトを維持したい、イギリス政府は維持したい、労働組合側はなくしたい。また、大陸諸国は、オプトアウトを潰せと言いますが、と同時に、迂闊にオプトアウトだけ潰してしまうと、自分がやっているものがアウトになってしまうので、同時に、待機時間についての欧州司法裁判所の判例をひっくり返す立法をしないといけない、という状況に置かれたわけです。

(3)指令改正の失敗と今後

 ということで、当然のことながら、先ほどの条約の規定に基づいて、労使に協議をしました。ところが、結局、合意はしませんでした。とにかく労働側は、待機時間が労働時間でないというのはけしからんという建前論を、あくまでも振りかざして、「うん」と言わない。使用者側も、とりわけCBIは、「オプトアウト断固死守」という考え方なので、交渉は全然うまくいかずに、結局、決裂ということで、元に戻って、欧州委員会が「改正案」を出しました。

 「改正案」(労働時間指令の改正案)は、まず待機時間については、「第2a条 待機時間」のところで、「待機時間の不活動部分は(中略)別様に定めない限り、労働時間とは見なされない」としております。とにかく、各国政府としては、どうしてもこれを入れたい。それから、「職業生活と家庭生活の両立」という、きれいごとのような規定もありますが、重要なのは、第9項です。ここでは、「第22条を次のように改正する」としています。

この部分は、「改正案」の“修正案”であり、当初の改正案は、「恒久的にオプトアウトを残そう」というものでした。ただ、その適用条件を、もう少し厳しくするとか、オプトアウトする場合であっても、1週間の総実労働時間の上限(キャップ)をつけようという考え方でした。総実労働時間の上限規制には、欧州議会が反対したので、オプトアウト自体を、3年と区切り、ただし、もう少しその先に延ばすかもしれないという形の“修正案”になっています。

 これを延々と議論したわけですが、実は、この“修正案”に関しても、イギリスを初めとして、中東欧の諸国は、どちらかというと、なかなかそんな高いレベルのものはできないということで、イギリス派につきました。一方、もともとの大陸諸国は、どちらかというとフランス派というような感じで、拮抗していました。

 そして、一昨年の2008年6月になって、閣僚理事会レベルでは、何とか合意が成り立ちました。なぜかというと、各国政府レベルでは、とにかく「待機時間」を何とかしないといけない、欧州司法裁判所というこの上ないところが、じっとしていようが、横になっていようが、ごろんとしていようが、眠っていようが、とにかく、いざというときには、「ぱっと起きて治療しなければいけないということになっている以上は、労働時間である」という判決を下してしまっている以上は、「指令」を変えない限りは、それに逆らえない。したがって、「待機時間」を何とか変えたい、それが多分、すべてに優先したのだと思います。

 2008年に、一応、閣僚理事会レベルでの合意が成立しました。「待機時間」のうち、“動いていない時間”は労働時間ではない。オプトアウトについては、基本的には、「恒常的に期間を限らずずっと存続さていい」けれども、その場合は、「オプトアウトに合意しないことを理由として不利益取扱いをしてはいけない」、つまり、「いつでも労働者側はそれを撤回することができる」、「オプトアウトしている場合でも実労働時間は60時間あるいは65時間という上限を付ける、そこが安全衛生上のぎりぎりのところだ」ということになるのだろうと思いますが、そういう形で各国政府レベルでは、何とか合意ができました。

 閣僚理事会ですから、各国の労働大臣の間では、一応、そういう合意ができたわけですが、ここで一番最初に戻って、昔は閣僚理事会だけが立法機関で欧州議会は単なる諮問機関でしたが、今やそうではない。両者は対等の立場の立法機関であり、両方が合意しないと、「指令」はできないし、「指令」は改正されない。そこで、閣僚理事会で合意に達したものが、欧州議会に送られましたが、欧州議会は、こんなものは認めないということで、結局、ひっくり返ってしまいました。

 ひっくり返した後、どうなったかというと、条約に基づいて、閣僚理事会と欧州議会の間で「調停委員会」を置くことになっていますので、そこで、一応、2カ月ほどかけて議論しました。だが、結局、ここでも、合意に達することなく、決裂しました。昨年4月に最終的に決裂して、5~6年越しで延々やっていたものがパアになってしまったわけです。そして、今は、元に戻ったという状況になっています。

 元に戻ったというか、その“元”が大事で、要するに、欧州司法裁判所の判決付きの“元”ですから、結局、各国とも、救急病院のようなところは、オプトアウトで何とかしのいでいるというのが、現在の実情です。いろいろな意味で、非常に皮肉だといえますが、EUの立法システムが、今まで申し上げたような形になっているということから、結局、こうなっているのです。

 そして、実は今年の3月、ついこの間ですが、欧州委員会が、もう一遍、再び労使団体に対して「協議」をしました。これは、条約によってそう決まっているわけです。何かをやるときは、まず協議から始めないといけないと書いていますから、またそれを始めた。しかし、中身は、実は同じことを書いていて、前にやったのが2002年ですから、8年ぶりに、また同じことを言っているのです。「オプトアウトをどうするか」、「待機時間は今こうなっているけれどもどうするか」ということです。今月、ETUC(欧州労連)が、それに対する返事の手紙を送っています。だが、また同じことを書いており、「認められない」と言っています。また同じことを繰り返すつもりなのか、という感じです。

 非常に変な話ですが、労働時間規制については、今、そういう状況になっていて、今度はもう少しうまくいくのか、いかないのか、よくわからない。それが、今の状態です。

勤務医は疑いもなく労働者ですが、とはいえとりわけ救急医療という現場には、なかなか労働時間規制がそのまま適用しがたい現実があるというのもまた事実なのでしょう。

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