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2017年4月24日 (月)

雇用類似の働き方と集団的“労使”関係@『労基旬報』4月25日号

『労基旬報』4月25日号に「雇用類似の働き方と集団的“労使”関係」を寄稿しました。

 安倍内閣の下で働き方改革が進められる中、経済産業省は去る2016年11月に「雇用関係によらない働き方」に関する研究会を開催し、去る今年3月には報告書を取りまとめました。同報告書は雇用関係によらない働き方を日本型雇用システムの対極にあるものと位置づけ、働き方の選択肢として確立することを目指しています。全体として雇用関係によらない働き方を楽観的に描き出そうとする傾向が強いのですが、それでもいくつかの問題点を指摘し、この働き方が広がるための環境整備として、いくつかの提言をしています。
 まず働き手のセーフティネットの不十分さです。研究会での指摘として、「雇用形態で就業中であれば病気になられても給付金があったり、救済措置がとられますが、フリーの場合は全くありません。仕事が切れてこなければ何の保障もない、病気怪我で仕事ができなくなれば明日からは保障がないということになります」「やむを得ず休業しなければならない状況になったとき、もう少し補償が欲しい」といった意見が紹介されています。ここではとりわけ受注減または廃業時の公的な保障制度が不足していることが問題視され、「労働者であれば、失業によって収入がなくなったとしても、その後の一定期間、生活の安定と再就職の促進を目的として、雇用保険から基本手当(失業給付)が支給される。これに対して、雇用関係によらない働き手(個人事業主)は、雇用保険に加入できないため、受注がなく収入がなくなったとしても、あるいは廃業をして収入がなくなったとしても、失業給付の支給を受けることができず、その他の公的なセーフティネットも、特段存在しない」述べています。
 この問題に対して同報告書は、「休業時の公的な補償制度の不足を補充するものとしては、民間の保険が考えられる」とし、「今後、そういった民間保険の種類がさらに広がるとともに、保険料の点も含めてより使いやすいものとなることが望ましい」と述べるにとどまっていますが、経済産業省の政策としては既に具体化が進んでいるようで、そのすぐ後の日経新聞(3月14日)に「フリーランス失業に保険」というかなり大きな記事が載りました。それによると、政府はフリーで働く人への支援として所得補償を受け取れる団体保険を創設し、「損保大手と専用の商品を開発し、契約がなくなった場合にも所得を得られるようにする。今年発足した業界団体「フリーランス協会」に加入すれば、保険料が最大5割軽減される団体割引の仕組みとする」とのことです。
 今年発足したばかりの団体に政府がここまで肩入れすることにやや違和感も感じますし、マクロ社会的な問題としてセーフティネットの欠如が問題であるならば、労使折半による雇用保険とは異なる形での何らかの公的な「失業」保険的なものを考えることが正道のような気もします。周知の通り、労災保険については一人親方や家内労働者について、自分で保険料を払う任意加入の形で個人加入という仕組みが設けられていますが、今のところ、そういう発想は見当たらないようです。
 これと関連して、廃業に伴って生活資金が不足するリスクの軽減策として、小規模企業共済制度を活用することを提言しています。これは、事業を営んでいる間に資金の積立を行っておくことで、事業の廃業時に一定の共済金を受領できる制度です。
 次に報酬(受注単価)が定額であり、生活を成り立たせることが困難な場合が多いことを指摘しています。アンケートでもおよそ半数が「スキルに見合った単価で受注できていない」と回答しています。労働者には最低賃金法や労働基準法の保護が及びますが、雇用関係によらない働き方ではそうした保護は及びません。ところが現実にはそうした働き方であっても、発注者に対し(特に経済的な面で)従属的立場にあり、低い契約条件で業務を行うことを余儀なくされているようです。「個人対企業の図式で仕事の交渉をする際にやはり力の差というものを感じ」るという意見も示されています。
 この問題に対して同報告書は、まずは著しく低い対価を不当に定めることを禁止する下請代金支払遅延等防止法による規制を挙げます。しかし、下請法が適用されるのは一定範囲の取引に限られる上、そもそも雇用関係によらない働き手の場合は労働者同様、企業(発注者)との関係で対等な立場に立てないがゆえに、結果として、不当な対価であっても受け入れざるを得ないことが多々あることを考えると、「その従属的立場を踏まえて、一定の範囲で労働法制による保護を及ぼすことが、中長期的には検討されてよい」とも踏み込んでいます。
 ただ、そのすぐ後で急いで、「そのような保護を及ばせると、逆に労働時間や場所の柔軟性・自立性という・・・メリットを失わせることにもなりかねない」とブレーキをかけ、「検討に当たっては、慎重な考慮が必要である」と消極的な姿勢を示しています。
 また、報酬額をはじめとした働き手の契約条件を改善するという観点から、企業と働き手との取引環境の健全化や、働き手に変わってプラットフォーマーが働き手の契約条件の適正化を図ること等も重要と指摘しています。
 さらに、報酬の不払いが起こったときの交渉が難しいなど報酬回収の不確実性についても、上記下請法による代金の支払遅延の禁止の遵守とともに、実際に支払いの遅延や不履行が生じた場合のための金銭的補償手段が設けられることが望ましいとしています。既に企業向けには、代金受領遅延の場合をカバーする民間保険が存在するようです。
 さてここまで見てきて、この経済産業省主導の研究会では全く取り上げられていない分野があるのに気がつかれた方も多いと思います。それは、こうした雇用類似の働き方で働く人々が何らかの形で団結し、集団的な枠組でものごとを解決していくという筋道です。雇用労働者をめぐる法政策は、国家権力が直接労働者保護を図る労働条件法政策、同じく国家権力が労働者のためのセーフティネットを張り巡らす社会保障法政策と並んで、労働者自らが団結して自分たちの労働条件の改善を図っていく労使関係法政策が重要な柱でした。ところが、本報告書ではそういう関心は全く見当たりません。
 経済産業省所管の制度の中にそれに該当するものがないからというわけではありません。昨年の本連載「協同組合の団体協約締結権」(2016年11月25日号)で紹介したように、法制的には労働者性のない明らかな自営業者に対しても、組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結といった集団的労使関係システムに類似した法制度を用意しているのです。これはいささか意識的な無視に見えます。
 もっとも、集団的労使関係システムの適用という点では、労働組合法上の「労働者」概念を、労働基準法等のそれよりも拡大し、個人請負として働く人々にも適用していくという方向性が、最高裁の判例等により少しずつ見られるところではあります。ただ、それには限界がありますし、この働き方が社会の相当部分を占めるに至るという未来像を想定するのであれば、やはり正面から雇用類似の働き方における集団的“労使”関係のあり方を論じていく必要があるように思います。
 実は、労働行政が所管する雇用類似の働き方に係る法規制の先行型である家内労働法の制定過程においては、野党や労働組合からそうした提案がなされたことがあります。たとえば日本社会党が1970年4月に提出した家内労働法案は、その目的として工賃、安全衛生などの労働条件だけでなく「家内労働者が自主的に家内労働者組合を組織し、委託者と対等の立場に立って交渉すること及び家内労働関係の当事者間における争議行為についてのあっせん及び調停等」をも規定しようとする包括的な法制度となっていました。「家内労働者は、工賃等、安全及び衛生その他労働条件につき、委託者又はその団体と労働協約の締結等の交渉をするため、家内労働者組合を組織することができ」、労働組合法を準用するとともに、労働委員会が家内労働関係の当事者間の争議行為についてあっせん及び調停を行うという規定です。これは結局、家内労働審議会答申では「引き続き検討」とされ、そのまま半世紀以上にわたって顧みられることはなかった事項ですが、内容規制から手続規制へという今日的観点から改めて見直してみる値打ちはありそうです。

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