元アイドルほか(グループB)事件(東京地判平成28年7月7日)
昨日、東大労働判例研究会で上記判決を報告したのですが、
http://hamachan.on.coocan.jp/rohan170421.html
まあ、この事件自体、小学5年生の女の子にアイドルとして集団による歌唱・ダンスを中心としたライブ活動のほか、○○券を購入したファンとの交流活動(お散歩、コスプレ、プリクラ、ビンタ等)をやらせるといういささかいかがわしげな商売なんですが、それはともかく、労判の席上で渡辺章先生から思いがけない指摘を受けました。
それは、労働基準法56条が満13歳未満の児童の労働を認めているのは「映画の製作又は演劇の事業」だけであって、その他の「興行の事業」は含まれないのではないかということです。
条文を引いておきますと、
(最低年齢)
第五十六条 使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない。
2 前項の規定にかかわらず、別表第一第一号から第五号までに掲げる事業以外の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては、行政官庁の許可を受けて、満十三歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については、満十三歳に満たない児童についても、同様とする。
別表第一 (第三十三条、第四十条、第四十一条、第五十六条、第六十一条関係)
一 物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)
二 鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
三 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
四 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
五 ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業
六 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
七 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
八 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
九 金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
十 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
十一 郵便、信書便又は電気通信の事業
十二 教育、研究又は調査の事業
十三 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
十四 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
十五 焼却、清掃又はと畜場の事業
ふむ、小学校5年生の女の子がアイドルグループとして歌ったり踊ったりすること自体が13歳未満の児童に認められる「映画の製作又は演劇の事業」には当てはまらず、労働基準法の事業分類ではそれと同類ではあるけれども、13歳未満の児童の労働が許されないその他の「興行の事業」なんじゃないか、という指摘です。
確かに条文の規定ぶりからするとそういう解釈にもなりそうですが、そうすると、いまの芸能界は大変なことになっちゃうんじゃないかと思いますが。そもそも労働基準法ができた頃はテレビもなかったわけで、ある程度は「映画演劇」の拡大解釈でやらないと、とても持たないのでしょう。
ちなみに、上記裁判例で小学5年生の女の子にやらせていた
・「20分散歩券」、「40分打ち合わせ券」を購入したファンと、Xスタッフの監視の下で、所定の時間一緒に過ごし、飲食店や買い物等に出かける。
・「撮影券」を購入したファンに対し、小道具を用いたり、簡単なコスプレをするなどして、写真撮影の被写体となったり、「2ショットチェキ券」を購入したファンと一定のポーズを作りツーショット写真を撮影したり、また、「プリクラ券」を購入したファンと近場のゲームセンター等へ出向いて二人きりでプリクラ撮影をしたりする。
・セーラー服・メイド服・サンタクロース・幼稚園児服・ナース服・警察官制服などを着用して、コスプレイベントに出演する。
・コスプレイベント等において、「ビンタ券」を購入したファンに対し、その要望に応じて設定されたシチュエーションに合わせてビンタをする。
てのは、いかに映画演劇を拡大解釈しても認めようのない「興行の事業」という感じですが。こういうアイドルの肉体そのものへの接近接触それ自体を営利の資源とするビジネスモデルというのは、いうまでもなく秋元康氏が作り上げたものですが、やはりその根底にいかがわしさが否定できないように思います。
ということで、あとはPOSSEのアイドル部長坂倉さんにバトンを渡した方がいいようです。
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