藤森克彦『単身急増社会の希望』
みずほ情報総研の藤森克彦さんより近著『単身急増社会の希望 ―支え合う社会を構築するために―』(日本経済新聞出版社)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.nikkeibook.com/book_detail/35728/
▼単身世帯が急増している。特に今後、大都市圏を中心に「未婚」の単身者の急増が予想される。未婚者が高齢期を迎えると、配偶者のみならず子供もいないため、老後を家族に頼ることはほぼ不可能になる。これまで家族が担ってきた「支え合い機能」を、誰がどのように担っていくかが大きな課題となる。
▼そこで「地域」に注目して、地域のどの部分(機能)が、どのようにして家族の代わりとなる「支え合い機能」を担っていけるのかという点を考える。具体的には、
1血縁関係のない高齢者同士の同居・多世代同居
2高齢者向けの「生きがい就労」、孤立した現役単身者に向けた「中間的就労」
3高齢単身者が認知症になった場合などの対応。国内外(米国、ドイツ、スウェーデン)の先進事例を紹介。
▼日本はかつて家族の支え合い機能が強かったため、社会保障制度も家族を前提としている。したがって家族機能の代替に関する先進事例はまだ少なく、規模も小さい。しかし、地域社会がこの機能を代替し、しかもそれにより地域自身も強くなる「地域づくりのイノベーション」と呼ぶべき事例が現れ始めた。ほかの地域でも応用できる普遍的な手法を紹介。
▼前作『単身急増社会の衝撃』では、単身世帯の急増の実態を示して「衝撃」と示したが、今回は解決策として社会が取り組むべき方向性を考え、単身急増社会の「希望」を示し、未来は自分たちの力で変えられるというメッセージを込めた。
▼「単身世帯の実態」「いくつかの類型に分けた単身世帯の考察」「単身世帯の抱えるリスクの増大に対する社会の対応」の3部構成で、単身世帯を対象に「支え合う社会」の構築を考え、自助努力できる社会の前提を模索する。
本書は450ページ近い分厚い本ですが、内容的にも実に包括的にいろんな分野に目配りして書かれています。
第1部 単身世帯の実態
第1章 単身世帯の増加の実態とその要因
第2章 都道府県別にみた単身世帯の実態
第2部 類型別にみた単身世帯の考察
第3章 勤労世代の単身世帯が抱えるリスク
第4章 高齢単身世帯が抱えるリスク
第5章 単身世帯予備軍--親などと同居する中年未婚者
第6章 海外の高齢単身世帯との比較--米国、ドイツ、スウェーデンと日本の比較
第3部 単身世帯のリスクに対して求められる社会の対応
第7章 単身世帯の住まいと地域づくり
第8章 単身世帯と就労--「働き続けられる社会」の実現に向けて
第9章 身寄りのない高齢単身者において判断能力が低下した時
第10章 社会保障の機能強化と財源確保の必要性
第1部と第2部(これで全体の半分以上ですが)が詳細なデータを駆使して単身者の急増ぶりとそれがもたらす様々な問題を描き出した上で、第3部がこれも広範な分野にわたる政策提言を繰り出しています。
正直言って、鬼面人を驚かすような目新しい提言はありません。どれもこれも、専門家から繰り返し論じられてきたようなことばかりです。でも、それらをこれだけ広くかつ深くずらりと並べて見せている本は余りないように思います。
本書の中で言えば、第8章の中のいくつかの提言に関わって拙著のいくつかが引用され、ジョブ型正社員をはじめとした提言がされています。その前の第7章ではたとえば平山さんの本などが引用され、住宅手当の必要性が論じられていますし。
ある意味、今日の日本社会における生活保障に関わる問題点とその対策が単身社会という切り口から包括的に描き出されていると言っていいように思います。
ちなみに、2010年に出された前著は『単身急増社会の衝撃』というタイトルでしたが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-8566.html
7年経って「衝撃」が「希望」に変わったのか?
あとがきで藤森さんはこう語っています。
・・・そこには「どうしようもない現実」がごろごろしていた。社会の底が抜けていると思った。胸に突き刺さったのは「孤立」の怖さだ。孤立すると、小さな躓きが、思いがけないような大きな問題になっていく。もっと早く、誰かに声をかけたり、相談していれば、そこまで深刻な状況に追い込まれることはなかったのにと思った。・・・
・・・一方、「世の中捨てたものではない」という思いも強く持った。・・・こうした一つ一つの地道な活動が「希望」だと思った。
450ページ近い本書の大部分はやはり「衝撃」が描かれている本ですが、そのなかにちらほら、藤森さんの思いのこもった「希望」が少しは垣間見せているのかも知れません。
ちなみに、藤森さんは私がブリュッセルにいた頃ロンドンにおられ、ブレア改革の本も出しておられるなど、問題意識をかなり共有してきたと思っています。
いただいた送り状によると、来月から愛知県の日本福祉大学に転職されるそうですが、引き続き精力的な発信をされることを期待しています。
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