EU労働法研究の次代を担う人
さて、先日遠藤公嗣さんの論文を紹介した『季刊労働法』256号ですが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/ilo100256-b316.html(遠藤公嗣さんの「ILO100号条約の審議過程と賃金形態」@『季刊労働法』256号)
実はこの号に、ある若手研究者の論考が載っています。
集団的整理解雇の局面における手続的規制の在り方
―EU集団的整理解雇指令上の被用者関与制度との比較法的研究―
同志社大学大学院博士後期課程 岡村優希
同志社大学の博士課程におられる岡村優希さんの論文ですが、これが、EU労働法それ自体に真正面から取り組んだ意欲的な論文です。
Ⅰ 問題の所在
Ⅱ EU集団的整理解雇指令序説
1 EU集団的整理解雇指令の概要
2 EU集団的整理解雇指令の立法背景・立法史
Ⅲ 指令の適用範囲
1 集団的整理解雇の定義
(1) 概要
(2) 整理解雇概念
(3) 事業所概念
(4) 使用者概念・労働者概念
2 適用除外
Ⅳ 使用者の義務
1 労働者代表との協議義務
(1) 協議義務の発生時期
(2) 協議事項
(3) 労働者代表概念
(4) 合意に達する目的の保持
2 情報提供義務
3 管轄機関への通知義務
Ⅴ 国際的企業グループにおける整理解雇
Ⅵ 義務違反に対するサンクション
Ⅶ 日本法への示唆
日本の労働法研究者はどうしてもそれぞれ自分のお得意先の国をもって、その国の労働法制の動きをあれこれ紹介するというのが中心になりますが、そうするとEUみたいなどこの国とも言えない鵺みたいな存在は常にどこかの国の分析に付け加えられるものみたいな扱いになります。いやもちろん、それが悪いというのではありませんが、EU労働法はそれ自体のロジックで展開してきた面もあり、EU加盟諸国との様々な相互作用の中で、影響したりされたりしてきたことを考えると、特定の国の労働法との関係だけで論じられるのはいささかもったいない面もあります。
そういう意味では、岡村さんのような若手研究者が、正面からEU労働法を研究対象としてぶつかっていく姿は、ようやくここまできたか、という感があります。
半ば冗談で、「私はEU労働法の第一人者だ、なぜなら第二人者も第三人者もいないからだ、いるというなら連れてこい」といってきた私ですが、去る1月に今までのまとめの本を出したこともあり、そろそろより意欲的で優秀な若手に第一人者の席を譲るべき時期が来つつあるのかも知れません。
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