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2017年3月 8日 (水)

再就職援助努力義務の位相@『エルダー』3月号

Om5ru8000000ld61高齢・障害・求職者雇用支援機構の『エルダー』3月号に「再就職援助努力義務の位相」を寄稿しました。

http://www.jeed.or.jp/elderly/data/elder/q2k4vk000000qtop-att/q2k4vk000000qtr9.pdf

前回は「出口に着目した外部労働市場政策」として個別労働紛争における出口の年齢差別を取り上げましたが、現実に存在する労働法政策としては現高年齢者雇用安定法第3章第2節に規定されている「事業主による高年齢者等の再就職の援助等」の諸規定がまさにこれに該当するものです。とりわけ第15条の再就職援助措置の努力義務は、1986年改正(60歳定年の努力義務を規定)以来30年以上にわたって存在し続けています。ところが、第2章の定年規定や継続雇用等の高年齢者雇用確保措置規定が法政策としてスポットライトを浴び続けてきたのに比べて、ずっと日陰者のような扱いを受け続けてきています。一方で本連載(8月号)で述べたように、雇用対策法に規定された募集採用における年齢制限禁止政策は外部労働市場政策として注目を集めてきているだけに、この扱いの差は可哀想なくらいです。今回は、この地味な規定をその前身に遡って歴史的に振り返り、今日的意味を再考してみたいと思います。

定年退職者対策から高年齢離職者対策へ

 この規定の前身とみられるのは、1973年9月の雇用対策法改正で盛り込まれた再就職援助計画作成の規定です。同改正は初めて国の責務として定年引上げのため資料の提供等の援助を行うという宣言規定を盛り込みましたが、搦め手からの施策として、60歳未満定年の事業主に対し、「定年に達する労働者」の再就職援助計画を作成するよう職安所長が要請し、事業主は計画を作成、提出するとともに、再就職援助担当者を選任して業務を行わせるという規定が置かれたのです。興味深いことに、当時の通達(職発第380号)では具体的な措置として、①勤務延長、②再雇用、③関連企業等への再就職の援助、④職安等の措置への便宜供与が挙げられており、後の継続雇用に当たるものまで含まれていたことが分かります。
 日本の高齢者雇用政策の大きなエポックとなったのは1986年中高法改正による高年齢者雇用安定法で、60歳定年の努力義務とそれに係る行政措置の他、シルバー人材センターを法律上に位置づけたものです。こうした大きなトピックの影に隠れていますが、上記雇用対策法における再就職援助関係規定も若干の修正を受けて同法に盛り込まれました。若干の修正というのは、対象が(65歳未満の)「高年齢者が定年、解雇等により離職する場合、当該高年齢者が再就職を希望するとき」となり、かつ事業主が「その再就職の援助に関し必要な措置を講ずるように努めるものとする」と努力義務規定になったことです。この努力義務規定を受けて再就職援助計画の作成要請、作成と提出、再就職援助担当者の選任等の規定がそのまま受け継がれています。
 努力義務の対象となるのは55歳~64歳層の高年齢離職者です。この時の改正では60歳定年はまだ努力義務に過ぎないので、55歳定年による離職者も対象ですし、60歳定年による離職者も対象で、さらに60歳定年後例えば63歳まで再雇用する場合の63歳での離職も対象になります。また、こうした制度的な離職ではない解雇による離職も対象に入れる形で、かなり広範な努力義務規定となっています。逆に、対象は「離職者」なので、「離職」しない自社での勤務延長や再雇用で雇用される人は対象ではありません。もっぱら他社への再就職に純化したといえます。
 なおこのとき、①日々雇用・期間雇用の者、②試用期間中の者、③常時勤務に服することを要しない者は省令で対象外とされました。もっとも①は6カ月を超えて引き続き雇用されれば、②は14日を超えて引き続き雇用されれば対象になりますが、そもそも努力義務でもあり、非正規労働者も再就職援助の対象だという認識はほとんどなかったと思われます。

外部労働市場政策拡大への含意  

 再就職援助努力義務の対象が劇的に拡大したのは2000年改正ですが、条文上ではほとんど感知できないような改正でした。このとき「高年齢者」が「高年齢者等」になり、その「等」の中身として中高年齢者(45歳以上の者)が入ってきたのです。また、省令で「解雇」に「その他の事業主の都合」が付け加えられました。この背景には、1990年代半ば以降の厳しい雇用情勢の中で、特に中高年離職者の深刻さが指摘され、予算措置の上で中高年対策が繰り出されていたことがありますが、この含意は意外に大きいものがります。
 もともと高年齢者の定義が55歳以上とされていたのは、55歳定年が一般的であったからです。その意味では、1994年改正で60歳未満定年が禁止された後も高年齢者の定義を変えなかったことに疑問もあり得ます。しかし逆に言えば、定年前であっても解雇等で離職する可能性があるのであれば、再就職援助の努力義務をかける意味は十分にあります。60歳未満定年を禁止しながら高年齢者の定義を55歳以上のままにすること自体が、暗黙のうちに外部労働市場政策に若干シフトする効果を持っていました。その対象を45歳以上に広げ、解雇以外の事業主都合にも拡げるということは、このシフトをさらに進めるという意味を持ちました。
 2004年改正では65歳までの雇用確保措置が(労使協定による除外基準付きで)義務化されましたが、これにともない再就職援助規定も修正されています。まず、法制度上定年による離職者は(上記労使協定で継続雇用されなかった者を除けば)いないはずなので、法律の条文から「定年」が消え、省令に「当該基準に該当しなかったことによる退職」が加えられました。そして、それまでの再就職援助計画に代わって、求職活動支援書の作成・交付義務が規定されました。これは対象高年齢者等(中高年齢者を含む)の職務経歴や職業能力を明らかにする書面であり、「キャリアの棚卸し」のためとされています。
 2012年改正では労使協定による除外基準が廃止されて厳格に義務化されるとともに、一定のグループ企業への転籍が継続雇用制度の一つとして明記されました。これまでも親子会社については運用で認めていましたが、この改正で親子会社だけでなく関連会社まで拡げ、法律上も内部労働市場政策として位置づけられたことになります。そしてその分、グループ企業への転籍が再就職援助から抜けたことになります。

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