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2017年3月 9日 (木)

平成28年度沖永賞に大木正俊さん

07044一昨日、労働問題リサーチセンターによる平成28年度沖永賞の授賞式があり、私も顔を出しました。

今年度は図書、論文ともに労働法学からで、図書部門は本ブログでも紹介した大木正俊さんの『イタリアにおける均等待遇原則の生成と展開 ―均等待遇原則と私的自治の相克をめぐって―』、論文は石井保雄さんのわが国労働法学の生誕 ―戦前・戦時期の末弘厳太郎―』及び『戦前・戦中期における後藤清の社会法学 ―時代の伴走者の記録―』 でした。

https://www.lrc.gr.jp/recognize

大木さんの本については、ちょうど1年ちょっと前にいただいたときに、こう述べておりました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/02/post-06cb.html

・・・均等待遇原則をめぐる推移を論ずる前に、「イタリアの労働条件決定システムと労使関係の特徴」を1章割いて論じています。ここが味噌です。そう、副題の「均等待遇原則と私的自治の相克をめぐって」の「私的自治」とは、もちろん企業と個別労働者との民法的個別自治も含まれますが、イタリア的文脈においてはこれは何よりも、全国的産業別労働組合が結ぶ労働協約で基本的な労働条件を決定するという集団的労使自治を指すのです。

そして、本書の大部分で大木さんが事細かに論じていくのは、まさにそういう集団的労使自治で賃金を決めるという社会の在り方と、それを破ってまでも裁判官が均等待遇を強制することが出来るのか?という意味での均等待遇原則との『相克』なんですね。

そして本書が描き出すのは、性別や人種といった差別禁止法とは異なり、そういう一般的な均等待遇原則は、むしろ否定される傾向にあるというイタリアの姿です。

こういう視点からの議論が(まったくなかったわけではないとはいえ)日本ではほとんど見られなかったのは、もちろん日本の労働組合が企業別組合でかつ多くの場合正社員組合であるため、『相克』を論じる土俵がほとんどなかったからではありますが、しかし今日ただいま目の前で進行しているように、集団的労使自治というもう一つの『規範』が欠如したまま、裁判官が絶対的判断基準を握るかのような形での均等待遇原則や同一労働同一賃金原則が声高に叫ばれるという事態に対して、そういう原則が生み出されたまさにヨーロッパ社会が、実はもう一つの(全国産業別レベルの)集団的労使自治という規範設定の仕組みが生きているということを、つい忘却させることになりかねません。

そういう意味で、ほんとに今大木さんのこの本が上梓されるというのは大変意味があることだと思います。

そこから今日の日本にどういうインプリケーションを導き出すかは、それぞれの読者に委ねられていますが、しかし本書をいったん読んでしまった人は、もはや集団的労働条件決定システムとの相克という本書が突き出す課題を知らんぷりしてこの問題を論じることはできなくなるでしょう。

ちなみに、同じイタリア労働法の先輩である大内伸哉さんもこう述べています。

http://lavoroeamore.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/post-919d.html(大木君おめでとう)

・・・イタリア法関係での受賞というのは,少数派のイタリア学派としては,このうえない名誉であり,よくぞ選んでくれたということで,選考委員には感謝の気持ちでいっぱいです。

この著書は,まさに基礎理論的な研究であり,しかもイタリア法が比較法の対象ということで,きわめて地味なものです。変わった業績ということで埋もれてしまっても不思議ではないのに,華やかな舞台に上げてもらったのは,とても有り難いことです。

あえて偉そうなことを言わせてもらえば,こういう地味だが,こつこつ研究している若手を応援しなければ,学問の発展はありません。それにイタリア法をやっていると,山口浩一郎先生や諏訪康雄先生のような個性的な大物が誕生することもあるのです。私はたんに個性的なだけの異端ですが,早稲田大学の正統な労働法の系譜を引きながら,柔軟にいろんなタイプの学問のエキスを吸い,魅力的な研究者に育ちつつある大木君の将来には,大きな可能性が広がっています。

確かに、イタリア労働法というのは、大内さん自身をまさに典型として「個性的な大物」ぞろいではありますね・・・。

さて、一昨日の授賞式には、大木さんの奥様(という言い方が適切かどうか分かりませんが、夫婦で研究者をされている配偶者の第三者からの呼び方はどういうのが適切なんでしょうか)の青柳由香さんもいらっしゃってました。授賞式後のパーティでちょっとお話をしたのですが、青柳さんはEU競争法の研究者なのですね。

近年の雇用類似の働き方の増加の中で、労働法と競争法が交錯する場面が増えていくことを考えると、大木さんご夫妻のそれぞれの研究の内容的なコラボというのももしかしたら出てくるかも知れません。

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