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2017年2月15日 (水)

諏訪康雄『雇用政策とキャリア権』

279904労働法学で一番世の中に影響を及ぼしたのは誰か?といえば、総合点ではもちろん現在第11版まできている菅野和夫『労働法』ということになるでしょうが、ある一つの概念、コンセプトが世の中に及ぼした影響という角度から見れば、本書の著者諏訪康雄さんの「キャリア権」という概念に匹敵する程の影響力を持ったものはないのではないかと思われます。

なにしろ、この概念をもとに「NPO法人キャリア権推進ネットワーク」というのが設立され、活発な活動が行われています。あの菊池桃子さんが理事ということでマスコミにも注目されましたが、なんにせよ、ある一人の学者が考案したある一つの概念がもとになって、こういう一つの運動が推進されるに至っているというのは、なかなか他では見られない現象ということができるでしょう。

http://www.career-ken.org/soshiki.html

ところが、その肝心の論文、有名な「キャリア権の構想をめぐる一試論」は、20年近く前にJIL雑誌に載って以来、今日まで本にまとめられることはありませんでした。その他の諏訪さんの諸論文も、今回の本でようやく一冊にまとめて読むことができるようになったのです。

http://www.koubundou.co.jp/book/b279904.html

職業上のキャリアの生涯にわたる形成と展開を基礎づける法概念=キャリア権。この提唱者である著者が、20世紀末から21世紀初頭にかけて、雇用環境が激変する過渡期のなか、人々のキャリアをめぐる主題に沿って労働法政策的な視点から考察を試みた画期的な論文集です。

第1部 これからの雇用政策―理論と枠組み
 第1章 雇用政策はどこに力を注ぐべきか
 第2章 労働市場法の理念と体系
 第3章 能力開発法政策の課題
 第4章 雇用政策をめぐる断章
 第5章 労働市場と法―新しい流れ
 第6章 雇用戦略と自助・共助・公助
 第7章 労働をめぐる「法と経済学」
第2部 キャリア権の提唱
 第8章 キャリア権の構想をめぐる一試論
 第9章 キャリア権とは何か
 第10章 キャリア権をどう育てていくか
 第11章 職業能力開発をめぐる法的課題
第3部 キャリア権の展開(Ⅰ)―社会人のキャリア形成支援
 第12章 エンプロイアビリティは何を意味するのか
 第13章 キャリアデザインとは何か
 第14章 中高年のキャリア展開
  第15章 内職と在宅就労
 第16章 テレワークの導入をめぐる政策課題
 第17章 テレワークという働き方がもたらすもの
 第18章 日本企業とテレワーク
第4部 キャリア権の展開(Ⅱ)―若者のキャリア形成支援
 第19章 グローバル化時代の若年雇用の方向
 第20章 キャリア考現学
 第21章 社会人基礎力とは何か
 第22章 大学におけるキャリアカウンセリング 
 第23章 アルバイトとキャリア教育

発表時に熱心に読まれたであろう論文と共に、意外なメディアに発表された今日的に見ても興味深い論文も入っていて、興味深いのですが、その中でも最後の「アルバイトとキャリア教育」は、2006年に『青森雇用・社会問題研究所ニュースレター』15号に掲載されたもので、その後ブラックバイトとかインターンシップとかいろいろ議論が沸騰したあとに読むと、また一段と味わい深いものがあったりします。今は熊本にいる紺屋博昭さんがまだ弘前におられた頃、「女学生らを研究員に仕立て研究に当たらせ」(紺屋さん自身の台詞)ていた頃のニュースレターですね。

4623040720ちなみに、冒頭で述べた「世の中に及ぼした影響」の中で逸することができないのは、現実の労働政策それ自体への大きな影響です。拙著『労働法政策』の中でも、90年代末から21世紀初頭の職業能力開発政策の動きについてこう述べています(p181)。

・・・90年代末から、職業能力開発政策は「キャリア」という言葉を愛好するようになる。これは、上記職業能力開発推進研究会の座長を務めた諏訪康雄教授が、1999年7月にキャリア権という概念を提示したことが大きく影響していると見られる。・・・

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コメント

キャリア権というと諏訪先生ですね。勉強したいと思います。

金子良事先生のブログで御高著「労働法政策」の改訂版の刊行をお願いします。と書かれているのを読みました。
あれだけの材料を扱われるわけですから並大抵なことではないでしょうが、私も首を長くしてお待ち申し上げます。

投稿: いーちゃん | 2017年2月15日 (水) 23時59分

ありがとうございます。

書物としての『労働法政策』は全然売れずに、未だに刊行元に数百部の在庫が積み上がっているようなので、改訂版をいうのはなかなか難しいかと思います。

中身自体は、毎年東大と法政の大学院での授業に合わせてこまめに改訂しており、既に原著の倍近い分量に膨れ上がっています。

投稿: hamachan | 2017年2月16日 (木) 09時07分

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