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2017年2月14日 (火)

権丈善一『ちょっと気になる医療と介護』

253107権丈センセの「へのへの」シリーズ第2弾です。『ちょっと気になる医療と介護』(勁草書房)。

http://www.keisoshobo.co.jp/book/b253107.html

正確にいうと、第1弾の『ちょっと気になる社会保障』の方は、「へのへのもへじ」が真ん中にあって、右上に「へめへめしこじ」だったのが、今回のでは逆で、真ん中に「へめへめしこじ」で、右上に「へのへのもへじ」です。

それがどういう意味なのかはともかく、本書はハードカバーの「再分配の政治経済学」シリーズに比べれば一般向けのわかりやすい入門書という位置づけであることは確かなんですが、それでも前著よりは結構難しいです。

団塊世代が後期高齢者となる2025年以降、日本の医療介護ニーズの絶対量は高原状態となる。日本社会はそれまでに何をすべきか。医療と介護の正確な情報を踏まえ、医療介護の一体改革が必要である理由と、提供体制の改革こそが重要であること、改革の具体的な道筋を解説する。勘所をわかりやすく説く「ちょっと気になる」入門書第二弾。

もっとも、これはいわゆる年金問題が壮大な論壇と政界を貫くオレオレ詐欺みたいな話で、筋道をきちんと解きほぐせばするすると分かる程度の問題であるからかも知れません。本書のテーマである医療・介護というのは、それに比べて実体のある話で、本当に目の前にある難題を何とか解決しなければならないという意味では、これくらいわかりやすく書こう書こうとした本であっても、話に追いついていくのは世間の普通の人にとっては結構難しいのではないかと思います。

目次は下の方にコピペしておきますが、もう一つ本書をやや読みにくくしているのは、冒頭の第1章とか最後の第16章で、社会保障を考える上で必要な、とはいえ一般人にとってはかなり抽象的なレベルの経済そのものに関する総論的議論をそれなりに深く突っ込んで論じていることで、この辺は「ちょっと気になる医療と介護」に入れるテーマだったのかな、という気もしました。

いや、そこで論じられていることは私にとってはむしろ大変興味深い話で、冒頭いきなりアダム・スミスのいう生産的労働と非生産的労働というのがでてきて、これは戦後日本ではもっぱらマル経の学者によってああでもないこうでもないと議論されてきたテーマですが、だけど農業や製造業の生産性が高まった社会ではサービス業が拡大し、とりわけ現代社会では医療福祉産業がダントツに増えているわけです。そこに、生産性概念を持ち込んでしまうと、

・・・生産性という言葉が、専門家の手を離れて大衆のものとなる1950年代までは、生産性は、スミスが生産的労働と呼んだ産業における物的生産性しか指していませんでした。しかしながら、フーラスティエたち専門家の警告にもかかわらず、生産性という言葉は、大衆の間では付加価値生産性を指すようになり、その付加価値生産性によって、民間のサービスだけでなく社会サービスも語られるようになってしまったわけです。そして、医療介護の見た目の「生産性」は低く、そのことが経済の重荷であると断定されて、もっともっと働けとムチが打たれる。こうした根本的なところでの誤解に基づく社会観、経済政策観は、正すにはなかなか手強いものがあります。

と、何とか医療介護とつながるんですけど、あれ。このお話どこかで聞いたことがあるぞ、と本ブログの読者は思い当たるでしょうね。とても大事な話なんですが、ここから始めますか、と感じましたね。

第1章 働くことの意味とサービス経済の意味
 『国富論』における生産的労働と非生産的労働とは
 第1次,第2次産業における生産性の上昇とサービス産業の役割
 就業人口が増えている業種──医療福祉産業
 需要の担い手と生産性
 付加価値生産性と物的生産性
 対人サービスにおける生産性と第1次,第2次産業における生産性との関係

第2章 人口減少社会と経済政策の目標
 Output is centralという考え方と1人当たりGDP
 成熟社会における経済成長の姿を見るためには

第3章 今進められている医療介護の一体改革
 社会保障改革の本丸,医療介護の一体改革
 地域で治し,支える「地域完結型医療」へ

第4章 医療提供体制の改革とご当地医療
 目下進行中の政策のスピード感──2018年度は惑星直列?
 提供体制の改革が目指すもの
 あるべき医療介護の試算方法の進化
 データによる制御という理念の具現化
 都道府県単位への医療政策再編の動き

第5章 地域医療構想と地域包括ケアという車の両輪
 ご当地医療構築へ地域住民も積極的な参加を
 賽は投げられた,に込めた考え方

第6章 競争から協調へ
 社会保障制度改革国民会議におけるプレゼンテーション
 非営利ホールディングカンパニーから地域医療連携推進法人へ

第7章 医療・介護費用は誰がどのようにして賄っているのか?
 なぜ,この国では社会保険という制度に頼らざるを得ないのか
 少子高齢化と保険料──現役被保険者の間での財政調整額の算定方法
 産業構造の変化と財政調整

第8章 制度と歴史と政治
 韓国からみた日本
 組合主義とみんなで助け,支え合うという社会保障の理念の衝突

第9章 リスク構造調整の動きが国民健康保険にまでおよぶ2018年度
 なぜ,リスク構造調整というような言葉が世の中に存在するのか?
 リスク構造調整を組み込んだ画期的な国民健康保険制度改革
 リスク構造調整の展開を健保組合サイドからみれば

第10章 医療介護のマンパワー総数と偏在問題
 医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会
 医師養成をとりまく環境
 医療環境をとりまく社会性
 医療における専門職規範,そして公共政策とプロフェッショナル・フリーダム
 再び,医師総数について

第11章 高齢障害者向け介護保険と若年障害者向けの障害者福祉
 介護保険法第一条にみる介護保険とは
 介護保険と障害者福祉の関係

第12章 最近の介護保険改革の意味
 介護保険における居宅空間と「在宅医療等」という政策用語の意味
 なぜだか難しい,介護保険用語
 介護保険における傾斜生産方式的改革

第13章 福祉の普遍化の中での介護保険
 社会保障の歴史的展開
 措置制度
 福祉の普遍化と高齢者福祉と介護保険
 障害者福祉の普遍化と支援費制度
 障害者自立支援法と介護保険
 財源調達という難作業と介護保険の保険性
 年金と医療介護の類似性

第14章 租税財源は,どこに求めるべきなんでしょう──cool head but warm heartな財源調達論
 ゆたかな社会と付加価値税
 すべての税目を増税するプラスα増税の必要性
 累進課税の仕組みと日本の所得税の実情
 社会保障目的消費税の拡大はジニ係数を小さくして格差問題を緩和する

第15章 無い袖を振りつづけたらどんな未来がやってくるのか
 借金のストックと国債費という厄介な存在──ドーマー条件
 給付先行型福祉国家の宿命?
 奇跡の三党合意から増税はひとつの選択肢へ
 ドーマー条件と現実の金利と成長率

第16章 手にした学問が異なれば答えが変わる
 上げ潮派とかトリクルダウンとかの話
 手にした学問が異なれば政策解が変わる
 右側の経済学と左側の経済学
 経済政策思想の流れ

おわりに

(知識補給)
 診療報酬と介護報酬
 ガルブレイスの依存効果と社会的アンバランス
 「シュンペーター,イノベーション,成長戦略?」考
 QOLとQODについて
 医療費と経済のタイムラグ?
 国策としての健康増進で医療費が抑制できるのでしょうかね
 政治が変えた後期高齢者医療制度のかたち
 どうして,協会けんぽが総報酬割に反対するんだろうか?
 医療保険と保険者の政治
 2005年に「医療サービスの経済特性と保険者機能という幻想」と書いてしまっている!?
 前期高齢者医療制度における年齢リスク調整の仕方
 医師偏在を解決する政策技術
 医師偏在と医学部進学熱の本質
 介護保険における「特定疾病」
 国の法律が違憲とされた10の最高裁判決
 と言っても,累進税の強化は必要だよっという話
 指標と政策概念の間にあるギャップ
 カッサンドラのような誰も信じない不吉な予言
 いま何が起こっていて,これから何が起こるのかを考えるのに知っておいた方がいいかもしれない小選挙区制と内閣人事局
 限界貯蓄性向って言われても,分からないよっという人に
 ノーベル経済学賞って? それと平和賞が生まれたステキな話

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