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2017年2月13日 (月)

柴田悠『子育て支援と経済成長』

18827柴田悠さんから『子育て支援と経済成長』(朝日新書)をおおくりいただきました。ありがとうございます。

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=18827

経済効果は、投入予算の2.3倍も夢じゃない! ?
「子育て支援」が経済成長率を引き上げ、
財政改善する可能性が見えてきた!
経済成長の「足かせ」にならない、社会保障の新しいあり方とは?

純債務残高600兆円超の財政難に沈む借金大国ニッポン。
いま最も必要とされるのは「保育サービスを中心とした子育て支援である」。
保育サービスに1.4兆円つぎ込めば、経済成長率は0.64%上がり、
子どもの貧困率は2.2%下がる――。
「マツコ案」(保育費・教育費・医療費無償化)を試算した
若手社会学者が先進国の成功例をヒントに
独自のデータ分析から新提案。

目次は下の方にコピペしてありますが、一言で言えば昨年出た『子育て支援が日本を救う』(勁草書房)をより一般向けにわかりやすくした新書版ということになります。

227459前著の時に紹介したのと同じく、左右両派が一致して推進できる政策として、子育て支援を打ち出そうとする柴田さんの思いがみなぎっている本です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-0ab9.html(柴田悠『子育て支援が日本を救う』)

ただ、では前著の要約簡略化版かというと、そうではない本書独自の部分もありまして、そこは柴田さんのこれまであまり人に見せてこなかった部分がちらちらと垣間見えるところでもあり、なかなか興味深いのです。

それは、「第4章 社会保障の歴史から見るこれからの日本」というところで、いつもは徹底的にデータに基づいて語る柴田さんが、ここではかなり羽を伸ばして、思い切った議論をいろいろと展開しています。

この章は、柴田さんのお父様が障害者支援施設で働いておられたことから「適応」ってほんとに良いことなのかという本源的な疑問を提起し、さらに北欧諸国が高福祉国家になったのはルター派の影響だという議論が展開されていきます。

ここで面白いのは、世間ではプロテスタントとして一括されがちなルター派とカルヴァン派が、福祉国家という観点からすると対極的な影響を与えたという議論です。

貧しい人を救う活動は教会が行うのではなく、住民たちがお金を出し合って作る協働基金によって行うべきだというルターの思想が福祉国家の原点だというのですね。

これに対して、予定説のカルヴァン派が「資本主義の精神」を作ったというのが例のマックス・ウェーバーの議論ですが、これが一番純粋に実現したのがアメリカで、そのためここが一番の低福祉国家になったのだというわけです。

ちなみにカトリックの強い大陸ヨーロッパ諸国は、社会保障は手厚いが高齢者に偏っていて子育ては家族(女性)に委ねる傾向が強かったと評しています。

うーむ、あんまり暇はないけど、学生時代に読んだきりのマックス・ウェーバーや大塚久雄を引っ張り出して読み返さなきゃいけないな・・・。

と、この辺の議論はとても面白いのですが、それに続くところで(今日本で大流行の)エマニュエル・トッドの家族システム論も出てきて、正直いささか収拾のつかない感じになっています。トッドの議論では北欧、ドイツと日本は直系家族で共通しているはずなので、ちょっと媒介項が必要な感じです。

それはともかく、もう一つ柴田さんが肉声を聞かせているのが最後の「おわりに――分断を超えて」で、古市憲寿さんや駒崎弘樹さんとの出会いを語っているところです。

2013年に柴田さんが初めて一般向けに書いた記事「いま優先すべきは「子育て支援」を読んだ両氏と品川駅で会ったときのことを回想しています。

この記事については、本ブログでもその時に紹介していましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/g2-3c6c.html(柴田悠「いま優先すべきは「子育て支援」」@『g2』)

おお、私も古市さんのツイートを紹介してましたね。

(目次)

はじめに

◆第1章 財政難からどう抜け出すか
・お金がないのが大問題
・日本政府の懐事情
・社会保障支出に食いつぶされる超高齢社会・日本
・訪れなかった第3次ベビーブーム
・先進諸国の経験から学べ――統計分析という手法
・財政余裕に影響する三つの要素

◆第2章 働きたい女性が働けば国は豊かになる
・財政余裕は改善できる
・女性の心に響く商品を生み出すには
・正社員女性比率と利益率
・ラガルド発言の根拠
・「財源なし」でできる一手
・そもそも昔の女性は働きに出ていた
・女性の職場進出を後押しする
・「3年間抱っこし放題」は効果なし?
・育休より効果的な保育サービス
・保育の拡充が財政余裕を増やす?
・限られた予算を活かす政策を

◆第3章 「子どもの貧困」「自殺」に歯止めをかける
・高齢者より高い子どもの貧困率
・子どもの貧困がもたらす問題
・子どもの貧困を減らす政策
・ワークシェアリングより保育サービス
・家計に負担のかかる無認可保育園
・3歳以上は夕方まで保育無料のフランス
・児童手当も大事
・日本の自殺率を下げる
・自殺予防に効果的な政策
・離婚による孤立と自殺
・「一家の大黒柱」からの解放
・子育て支援が日本を救う
・それぞれが「幸せ」を感じられる社会

◆第4章 社会保障の歴史から見るこれからの日本
・子育て支援額は先進国平均の「半分」
・「経済成長を促す政府支出もある」
・障害者福祉サービスと「応益負担」
・「適応」って本当にいいことなの?
・適応概念の歴史
・社会保障の問題を数字で示したら
・高福祉国家・北欧とルター派の関係
・宗教改革が高福祉国家を生んだ
・17世紀に導入された救貧税
・カルヴァン派がつくった低福祉国家・アメリカ
・投資によって偶然儲かったら
・キリスト教の歴史と社会保障
・トッドの家族システム論
・日本はなぜ低福祉になったのか
・江戸時代からの新しい救貧文化
・バブル崩壊後の企業福祉

◆第5章 子育て支援の政策効果
・結局、待機児童はどれくらいいるのか
・子どもを持ったお母さんは一生パート?
・保育士が集まらない
・待機児童問題解消にはいくら必要か
・公立の認可保育所は縮小傾向
・子育て支援でどのくらい経済成長するのか
・本当に経済成長率は上がるのか
・待機児童の解消による政策効果
・長時間労働が引き起こす「保育の質」の低下
・フランス革命と出生率
・保育ママ以外の要因は?
・フランスから学べること
・保育所で解決したスウェーデン
・「マツコ案」で保育・教育の無償化を試算してみた

◆第6章 財源をどうするか
・財源のミックス案
・財源案の合意形成に向けて

◆おわりに――分断を超えて
・古市さん、駒崎さんとの出会い
・相手と共通の「暗黙の前提」からスタート
・子どもたちのための協力

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コメント

濱口さん、拙著のご紹介ありがとうございました!
北欧が高福祉国家になった経緯の部分に関心を寄せていただけてうれしいです。

トッドの家族システム論との接続は、まさにおっしゃるとおり「別の独立変数」が必要でして、それについての記述は当初の原稿には詳しく書いてあったのですが(トッドが京大に来たときに居酒屋にお連れするために2人だけで歩いたときにその変数について直接質問したエピソードなども)、字数の関係でかなり削ってしまって、分かりにくくなってしまいました…。

「別の独立変数」については、144ページで、「なぜ北欧と同じ直系家族でありながら日本は社会保障が乏しいのか」と問うて、「キリスト教やそれと同様の人類愛の宗教が江戸時代までは乏しかったから」と書いています。つまり、「別の独立変数」は「キリスト教やそれと同様の人類愛の宗教」だったと考えています。
(じつはこの隣人愛や人類愛という宗教もまた、家族システムの分布をもたらした地理的要因によって形成されたと考えているのですが、それはまた別の機会に…。)

ちなみに、京都で2人で歩いたときにトッドからいただいた回答は「日本だって企業福祉で、企業が大きな権威を持っているから、直系家族としての権威主義は健在でしょう?」といったものだったと記憶しています。

わざわざご来臨ありがとうございます。

そうか、トッドさんと二人で歩いて直接やりとりされたんですね。

その省略した部分は、是非何らかのかたちで書いていただければと思います。

最近の時ならぬトッドブームには正直「?」というところもあるのですが、彼の家族システム論はいろんなことを考える上で不可欠だとは感じています。

ありがとうございます。

最近のトッドブーム、たしかに、彼の基礎理論である家族システム論には言及せずに、予言の結果のみを取り上げる報道がほとんどで、なんだかなあと思います。
彼の家族システム論(とくに『新ヨーロッパ大全』『家族システムの起源』)はとても興味深いですよね。

これからもいろいろ考えていきたいと思います。
このたびはありがとうございました!

まさに、本年は、ルターの宗教改革から、500年目ですね。
http://www.germany.travel/jp/specials/luther/luther.html

凄い内容がコメントに書かれてますね。流石hamachanブログ!
しかしトッド氏も流石。企業福祉社会としての日本型福祉社会をしっかり理解しているのですから。思い起こせば90年代終わり頃には、日本型福祉社会としての企業福祉社会をジェンダー的に批判する論調が上野千鶴子氏や大沢真理氏から出され、それとは異なる文脈で00年代小泉政権を新自由主義規定した渡部治氏や二宮厚美氏などがポリティーク誌で新福祉国家路線を出し、とどめが民主党の普遍的福祉主義(大沢真理氏的な主張かなと思いますが)だったと思います。しかし、それが民主党政権がガタガタしてから全然見えなくなってしまったような。。
ついでに振り返ると、小泉政権の末期に社会保障費を毎年2200億円削減する方針に対して、高齢者、障「害」者が一致団結して反貧困ネットワークを作った時に、個人的に「潮目が変わった‼」と感じたものです。でも民主党(小沢氏?)が「埋蔵金」とか言うのを見て、多分すぐ自民党に変わってしかも長期政権になるなと思いました。嫌ですが予想通りでした。。
リーマンショック、震災、民主党の敗北、安倍政権による「成長路線」の影に隠れて、福祉は無論普遍的福祉主義自体が消えたかのような感がありますね。そして「保育園落ちた…」の登場。。
何か同じグランドを何周も走っているように感じます。権丈先生のご提案も放置されたままのような。。
もうそろそろ整理されないと、このまま永遠に政争の具にされグニャグニャし続ける気が。。うーん。世の中ソワソワしてますから、難しいのでしょうがね。。本立ち読みします。(笑)

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