祖父母たちのオフィスラブ伝説 by 西口想
西口想さんが、「マネたま」というネット上のメディアに「祖父母たちのオフィスラブ伝説」というエッセイを書かれていて、これがなかなか面白いです。拙著『働く女子の運命』もちょいと引かれているのですが、田辺聖子の長編小説『甘い関係』を素材に、今の若者たちの祖父母の時代、つまり高度成長期のころの職場における男女のありようをあれこれ考察しています。
https://www.manetama.jp/report/office-love-2/
今回は「甘い関係」を読みながら、東京オリンピック(1964年)が終わり、大阪万博(1970年)の準備を進めていた頃、日本の高度経済成長期のオフィスラブ模様を見てみたい。・・・
50年前のオフィスラブを知るために、ヒロインの一人、松尾美紀に注目したい。小説のなかで彼女の職種は「BG」と呼ばれている。「OL」という言葉が生まれる以前、女性の一般事務職は「ビジネス・ガール」の頭文字をとってそう呼ばれていた。
ほらほら出ました、BG、ビジネス・ガール。拙著でかなり詳しく解説したので、この言葉がOLに取り替えられた経緯はご存じでしょう。
美紀が連載時の1967年に29歳であったとすれば、彼女は1938年生まれ。いま生きていれば78歳くらいだ。美紀が働いていた当時の企業社会では、男女の人事コースは公然と区別された。男性事務職員は幹部社員に出世するのが前提で、女性事務員=BGは結婚退職を前提に採用された時代だ。
濱口桂一郎『働く女子の運命』(文春新書、2015年)によれば、当時の日本企業では、女性事務員の採用時に「結婚したときは自発的に退職する」旨の念書をとったり、あるいは結婚しなくても、女性のみを30歳・35歳定年とする就業規則が普通に見られた。企業側も「結婚前の娘さんを預かる」という意識だったのだ。
そうして「働くこと」の入口でジェンダーの枷を嵌められるBGにとって、生存・結婚戦略の一つとして、職場内恋愛(オフィスラブ)による結婚相手探しが入ってくるのは必然だった。会社内の女性のほとんどが高卒や短大卒の20代前半の未婚女子。そのなかで、美紀は破格のキャラクターを与えられている。
そうそう、この辺の感覚も、拙著で何回も引用した上坂冬子さんが当時山のように出していたBG本の中で繰り返し描いていたものですね。
56年ぶりのオリンピックがもうすぐ東京にやってくる。今、学校を出て就職する人たちの祖父母の世代が、ちょうど美紀たちの世代だ。「甘い関係」という小説を媒介にして、あなたの祖父母に、若かりし頃のオフィスライフについて聞いてみるのも楽しいと思う。きっと、想像を超える豊かで生き生きとした物語が、あなただけに語られるはずだ。
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