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2017年2月22日 (水)

公益通報者保護法の改正へ@『労基旬報』2017年2月25日号

『労基旬報』2017年2月25日号に「公益通報者保護法の改正へ」を寄稿しました。

 去る2016年12月に、消費者庁に設置された「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」が最終報告書をまとめました。公益通報とはいわゆる「内部告発」のことです。2000年代始め頃、雪印や日本ハムなどで食品偽装事件が相次ぎ、また三菱自動車のリコール隠しなど消費者の信頼を裏切る企業不祥事が続発したことから、これらの犯罪行為や法令違反行為を知った内部労働者による公益通報を保護するために、2004年に公益通報者保護法が成立したのです。
 同法で「公益通報」とは、労働者が、不正の目的でなく、その労務提供先(派遣先も含む)またはその役員や従業員等について、法令違反行為が生じ、またはまさに生じようとしている旨を、一定の相手に通報することと定義されています。通報先として挙げられているのは、その労務提供先、処分勧告権限を有する行政機関、そして「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」です。この最後のものには報道機関も含まれます。労働者がこの法律でいう公益通報をした場合、解雇の無効(3条)、労働者派遣契約の解除の無効(4条)、不利益取扱いの禁止(5条)といった保護がかかります。興味深いのは、直接雇用労働者の解雇と派遣労働者の派遣解約解除とを同列に並べて無効と規定している点です。労働行政ではなく消費者行政の観点から法的介入をしようとしている立法のスタンスがうかがわれます。
 これらの保護の対象となる公益通報は、公益通報先ごとに要件が少しずつ異なっています。事業者内部への通報の場合、不正の目的でなく、法令違反が生じ、またはまさに生じようとしていると思ったということだけで保護されますが、行政機関への通報の場合、不正の目的でなく、法令違反が生じ、またはまさに生じようとしていると信じたことに相当の理由がなければなりません。事業者外部への通報の場合、これに加えて、事業者内部に公益通報しても調査が開始されない場合など5要件のどれか一つを満たすことが必要になります。公益通報の対象となるのは、個人の生命または身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他国民の生命、身体、財産その他の利益に保護に関わる法律に規定する犯罪行為です。別表には刑法から始まって食品衛生法、証券取引法等々の法律が掲げられていますが、政令にはさらに労働基準法等の労働法令も並んでいます。
 公益通報者保護法の成立後10年以上がたちましたが、最近も東洋ゴム工業の免震ゴム不正問題、東芝の粉飾決算、三菱自動車の燃費不正など企業不祥事は後を絶っていません。そうした中で、この法律の実効性をもっと高めるべきではないかという議論が盛り上がってきたのです。そこで2015年6月に消費者庁は「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」(学識者14人、座長:宇賀克也)を設置したことから始まりました。2016年3月に取りまとめられた第1次報告書は、かなり広範な領域にわたって、論点を洗い出しました。これを受けて同年4月からワーキング・グループが開催され、11月にワーキング・グループ報告書を取りまとめ、この両者を合わせて12月に最終報告書が取りまとめられたわけです。以下、報告書で提起されている法改正の方向性を概観しておきましょう。
 不利益取扱いを民事上違法とする効果の要件のうち、まず通報者の範囲について、現行法は保護される通報者を在職中の労働者に限定していますが、実際に法令違反行為を知って通報しようとするのは在職中の者に限らないことから、既に退職した労働者は「含めることが適当」と、会社役員等は「加える方向で検討する必要がある」と、取引先事業者は「加えることについて今後さらに検討する必要がある」と、微妙な差異をつけながら拡大の方向を示しています。なお、それ以外の者も含めて「何人も」と規定することも「今後さらに検討する必要がある」と述べています。
 次に通報対象事実の範囲について、現行法では「個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他国民の生命、身体、財産その他の利益に保護に関わる法律に規定する犯罪行為」ですが、刑事罰の対象となっていない行為についても対象に含めるべきではないかという議論が提起され、報告書では「当該事実に公益性や明確性があるかを踏まえた上で、今後さらに検討する必要」としています。一方特定の目的の法律という限定を外すことについては、税法や国家公務員法等への違反であってもこれを「追加するなど、通報対象事実の範囲を拡げる方向で検討する必要がある」としています。切迫性、つまり「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている」ことの要件の削除も論点に上がりましたが、「逐条解説等で具体的に示すことによって対応することが適当」とされました。
 通報先には労務提供先、行政機関、その他の3種があり、それぞれに要件が異なりますが、その見直しも焦点となりました。行政機関への通報には、現行法では一律に真実相当性、つまり「法令違反が生じ又はまさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由がある」ことが求められていますが、これを「緩和する方向で検討する必要がある」としています。一方その他通報先については、「真実相当性を緩和することについては、慎重に検討する必要がある」と否定的です。またその他通報先にのみ求められている特定事由該当性については「緩和する方向で検討する必要がある」としています。
 もちろんこれがこのまま立法化されるとは限らず、今後具体的な立法化に向けた作業が始まるわけですが、企業と労働者の関係に対して大きな影響を与えるものになる可能性があります。企業の人事担当者はこの報告書にぜひ一度目を通しておいたほうが良いと思います。

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