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2017年2月 6日 (月)

個別労働紛争における出口の年齢差別@『エルダー』2017年2月号

Q2k4vk000000nres『エルダー』2017年2月号に「個別労働紛争における出口の年齢差別」を寄稿しました。

http://www.jeed.or.jp/elderly/data/elder/201702.html

 本連載では日本の高齢者雇用施策が定年延長や継続雇用といった出口に着目した内部労働市場政策をメインとし、募集採用における年齢制限の禁止という入口に着目した外部労働市場政策をサブとしてらせん状に展開してきたことを説明してきました。

 しかしこの組み合わせは論理的に考えられる全ての政策をカバーしていません。入口に着目した内部労働市場政策と出口に着目した外部労働市場政策が論理的にはあり得ます。もっとも、前者は新卒一括採用に関わる問題なので高齢者雇用政策としては自己矛盾ですから外していいでしょう。これに対して後者の出口に着目した外部労働市場政策というのは論理的にあり得るだけではなく、その対象となる社会的現実は存在します。つまり、定年とか継続雇用制度といった内部労働市場型の制度とは関係なく、年齢に基づいて解雇されたり雇止めされたりといったことは、現実にかなりの頻度で起こっているのです。しかしながら、冒頭述べた政策の組み合わせで進められてきた日本の高齢者施策においては、それはまともに取り上げられることはほとんどなかったのです。

 年齢に基づく解雇その他の雇用終了事案は、私が2回にわたって調査した労働局あっせんにおける個別労働紛争事案に姿を現しています。1回目の2008年度調査では、全1144事案のうち労働者の年齢を理由とするものは11事案ありました。2回目の2012年度調査では、全853事案のうち労働者の年齢に関わるものは25事案でした。2008年度はリーマンショックのあった年で経営上の理由による解雇や雇止めが大変多かったことを差し引いても、年齢をめぐる雇用紛争は増加傾向にあるように見えます。

 拙著『日本の雇用紛争』から2012年度事案をいくつか見ておきますと、まず定年が概念上ないはずの非正規労働者にも「定年」を適用している例があり、また「定年」とはいわないにしても年齢を理由に退職させているる事例があります。

・10015(非女)定年等、その他労働条件引下げ(打切り)(卸小売、不明、無)

 デパート販売の契約社員、3か月前に突然60歳定年といわれ、定年後週2日で時給引下げに合意できず退職。本人は60歳定年を聞いていないと言い、会社側は労働条件を明示していないが、定年後再雇用を知っているはずと主張。ここでいう有期契約の「定年」とは、定年前の有期契約の更新と定年後の有期契約の更新で労働条件が引き下げられるという意味にしかならず、実質的には年齢を理由にした雇止め型変更解約告知であるが、正社員の「定年」が非正規労働者にも規範として作用していることが窺える。

・30217(非女)年齢差別・他の労働条件(不参加)(卸小売、不明、有)

 期間満了直前に65歳定年を理由に雇止めの通知を受け、人事部長と話し合って延長することとされたが、その間の勤務で差別的取扱を受け、退職後も足や腰に痛みを感じる。

・10049(非男)雇止め・年齢差別(打切り)(運輸、200-299人、無)

 事業所の一部移転に伴う事業縮小で65歳以上の者に勇退をお願いして雇止め。雇止め基準を年齢だけにしたことに納得がいかない。

・30207(非女)普通解雇(15万円で解決)(他サービス、10-29人、無)

 若い正社員を入社させたからという理由で解雇された。会社側によれば、クレームが幾つか寄せられ、正社員の定年が60歳であることもあり、世代交代の時期であることを伝えようとして、かえって本人の気持ちを逆なでしてしまった。

・30383(非女)普通解雇(50万円で解決)(製造、1000人以上、無)

 面接時には年齢制限はないということだったのに、年がいっているという理由で解雇された。会社側によれば、年齢を重ねるにつれて手元が危なくなり、現場からもとても危ないことが多いのでいつ事故が起きても不思議ではないという声が届くようになり、面談の結果退職を了解して貰ったもの。一定の年齢に達したからではなく、体力・能力的に業務に耐え得ないと判断したのだが、退職理由の記載が申請人に配慮して年齢しか書かなかったために誤解を招いた。

 こうした事案は、まさに出口における年齢差別というべきですが、現在の日本の労働法体系の中ではどこにも議論する拠り所がありません。正社員の定年も出口における年齢差別ですが、一定年齢以上の定年を許容しているのはそれが定年までの一定の雇用保障と裏腹の関係になっているからでしょう。定年までは雇用を守るというのも一種の年齢差別ですが、それはよい年齢差別であるという前提で成立しているわけです。ところが、こうした個別労働紛争に見られるような非正規労働者の「定年」や年齢に基づく雇用終了は、その年齢に達するまでの雇用保障があるわけではなく、いつ雇止めされるか分からない状況の下において適用されているものであることを考えると、そのようなものを許容しなければならない正当性がどれほどあるのか疑問が生じます。

 実をいえば、そういう問題意識はこれまでの法政策の議論の中で全く姿を見せていないわけではありません。2012年高齢者雇用安定法改正に向けた今後の高年齢者雇用に関する研究会の議事録を眺めていくと、とりわけ佐藤博樹委員からいくつか興味深い指摘がなされています。例えば、定年延長や希望者全員の継続雇用というときは、それまで期間の定めなく雇用されてきた人が定年がきても雇い続けようということのみが対象であって、有期労働契約の反復更新で働き続けてきた人が60歳になったことで雇止めされることは対象にならないという指摘です。そもそも年齢による強制退職という雇用形態に関わらない問題を、定年という期間の定めのない雇用形態の労働者に限った形で問題としてきたことの帰結ということもできます。しかし、この時もそれ以後も、こうした問題提起が受け止められ何らかの政策につながっていくということはありませんでした。そろそろそういう議論を再度提起してもいいのではないでしょうか。

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