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2017年1月12日 (木)

日経新聞が1面トップで勤務間インターバル

なかなか感無量ですよ、私としては。

本日の日経新聞の1面トップが「インターバル制 導入機運 ユニ・チャームや三井住友信託 退社→出社に一定時間確保」と大々的に記事にしています。

http://www.nikkei.com/article/DGKKASDZ11HRL_R10C17A1MM8000/?n_cid=TPRN0001

従業員が退社してから翌日の出社まで一定時間を空ける制度を導入する企業が増えている。KDDIなどに次ぎ、三井住友信託銀行が昨年12月から導入したほか、ユニ・チャームやいなげやも今年から採用する。制度が義務化されている欧州に比べ、日本での取り組みは遅れている。長時間労働の是正が経営の重要課題になるなか、政府も同制度の普及を後押しする考えで、今後追随する企業が増えそうだ。

昨年末に同一労働同一賃金のガイドライン(案)が提示されたことで、当面働き方改革実現会議の焦点は長時間労働の是正になると思われますが、その一つのメニューとして、この休息時間制度、いわゆる勤務間インターバル制度が着実に地歩を拡大しつつあるようです。

改めて振り返ってみれば、例のホワイトカラーエグゼンプションで世間が大騒ぎしていたときに、残業代の問題と物理的労働時間の問題は分けて考えるべきで、労働法規制として真に重要なのは後者だと、ほとんど孤立状態で私が主張していたのがちょうど10年前でした。

51bee5vcxtl_sx230__1 http://hamachan.on.coocan.jp/sekaiexemption.html(「ホワイトカラーエグゼンプションの虚構と真実」 『世界』2007年3月号)

・・・「労働時間の長短ではなく成果や能力などにより評価されることがふさわしい労働者」であっても、健康確保のために、睡眠不足に由来する疲労の蓄積を防止しなければならず、そのために在社時間や拘束時間はきちんと規制されなければならない。この大原則から出発して、どのような制度の在り方が考えられるだろうか。

 実は、日本経団連が2005年6月に発表した「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」では、「労働時間の概念を、賃金計算の基礎となる時間と健康確保のための在社時間や拘束時間とで分けて考えることが、ホワイトカラーに真に適した労働時間制度を構築するための第一歩」と述べ、「労働者の健康確保の面からは、睡眠不足に由来する疲労の蓄積を防止するなどの観点から、在社時間や拘束時間を基準として適切な措置を講ずることとしてもさほど大きな問題はない」と、明確に在社時間・拘束時間規制を提起している。

 私は、在社時間や拘束時間の上限という形よりも、それ以外の時間、すなわち会社に拘束されていない時間--休息期間の下限を定める方がよりその目的にそぐうと考える。上述の2005年労働安全衛生法改正のもとになった検討会の議事録においては、和田攻座長から、6時間以上睡眠をとった場合は、医学的には脳・心臓疾患のリスクはほとんどないが、5時間未満だと脳・心臓疾患の増加が医学的に証明されているという説明がなされている。毎日6時間以上睡眠時間がとれるようにするためには、それに最低限の日常生活に必要不可欠な数時間をプラスした一定時間の休息期間を確保することが最低ラインというべきであろう。

 この点で参考になるのが、EUの労働時間指令である。この指令はEU加盟各国で法律となり、すべての企業と労働者を拘束している。EUでは、労働時間法政策は労働安全衛生法政策の一環として位置づけられており、それゆえに同指令も日、週及び年ごとの休息期間を定めるとともに、深夜業に一定の規制を行っているが、賃金に関しては一切介入していない。つまり時間外手当がいくら払われるべきか、あるいはそもそも払われるべきか否かも含めて、EUはなんら規制をしていないのである。労働者の生命や健康と関わる実体的労働時間は一切規制しないくせに、ゼニカネに関することだけはしっかり規制するアメリカとは実に対照的である。各国レベルで見ても、時間外手当の規制は労働協約でなされているのが普通であり、法律の規定があっても労働協約で異なる扱いをすることができるようになっている。たとえばドイツでも、1994年の新労働時間法までは法律で時間外労働に対する割増賃金の規定があったが、同改正で廃止されている。

 EUの労働時間指令において最も重要な概念は「休息期間」という概念である。そこでは、労働者は24時間ごとに少なくとも継続11時間の休息期間をとる権利を有する。通常は拘束時間の上限は13時間ということになるが、仮に仕事が大変忙しくてある日は夜中の2時まで働いたとすれば、その翌朝は早くても午後1時に出勤ということになる。睡眠時間や心身を休める時間を確保することが重要なのである。

 これはホワイトカラーエグゼンプションの対象となる管理職の手前の人だけの話ではない。これまで労働時間規制が適用除外されてきた管理職も含めて、休息期間を確保することが現在の労働時間法政策の最も重要な課題であるはずである。これに加えて、週休の確保と、一定日数以上の連続休暇の確保、この3つの「休」の確保によって、ホワイトカラーエグゼンプションは正当性のある制度として実施することができるであろう。

10年一昔と言いますが、10年前には土俵上で論じている人々の誰の口にもほとんど上らなかったインターバル制度が、日経新聞が1面トップで取り上げるところまできたのだな、という、まあただの感想です。

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コメント

>10年前には土俵上で論じている人々の誰の口にもほとんど上らなかったインターバル制度が、日経新聞が1面トップで取り上げるところまできた

2010年に出て結構売れた、大竹文雄『競争と公平感』(中公新書)にも「長時間労働の何が問題か?」という項目が立てられていたけれど、
結局そこで強調されていたのは、「ワーカホリック(仕事中毒)」をいかに防ぐか、ということでしかなかったことと照らし合わせても、やはり時代は移ろうもので、長時間労働の問題意識は漸進的ではあるが健全な方向に進んでいっていることは、実に喜ばしいことだなぁ。

(すみません、『競争と公平感』はとっくにブックオフに売ってしまっているので、ちょっと記憶を頼りに書いております。ご了承あれ。ちなみに早々と売ってしまったのは、「ワーカホリック」の部分は関係なくて、別のところの”パチンコ”を扱ったところが、のちにPOKKA吉田の”まっとうな”パチンコ解説本を読んだことで、その部分がちょっと不正確(デタラメチック)であることがわかったからでして。)

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