« 土田道夫『労働契約法 第2版』 | トップページ | 日本型雇用システム論と小池理論の評価(前編) »

2017年1月16日 (月)

ILO条約批准の意味

今朝の東京新聞の1面左側に「労働環境整備のILO189条約 日本批准わずか49 OECD平均以下」という記事が載っていますが、

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201701/CK2017011602000115.html

世界各国の労働者の待遇改善を目指す国際労働機関(ILO)が、労働環境整備の国際的なルールとして定めた条約(ILO条約)のうち、日本は四分の一しか批准していないことが分かった。批准した条約は国内で拘束力を持ち、国内法の整備を求められる。批准が進まないことで、先進国で定着している国際標準の労働法制の整備が遅れ、長時間労働がはびこる要因になっている。・・・

よくあるミスリードなんですが、部分的には正しい話もあるので、注意深く取り扱わなければならない典型的なトピックです。

で、無知だった自分がにわか勉強して初めて「わかった」ことを、平然と記事の中で一般論的に「わかった」なんて書いちゃう記者がうかつにこの問題を取り扱うとこうなってしまうという部分から。

まずもって、ILO加盟国のうち、真面目に国内法で担保できる条約だけを批准しようなんて殊勝な心がけをしている国は一部に限られています。

記事に載っているILO最優先8条約のうち、日本が批准していないのは強制労働条約と差別禁止条約ですが、後者は包括的差別禁止法制の欠如のゆえなので真面目な議論の対象になりますが、前者については、これは懲役刑の存在がネックになっているのです。公務員のスト権を禁止し、その違反に懲役刑を科していることが、条約違反になりうる可能性があるという、まことに法制局的厳密さでもって批准していないので、私などからすると、そんなことで批准しない悪評判の方がよっぽど問題じゃないかと思うのですが、まあそれくらい日本国政府のリーガリズムは極端に厳格だということです。

で、一方、この強制労働条約をどんな国が批准しているかというリストが、ILOのホームページに載っていますが、

http://www.ilo.org/dyn/normlex/en/f?p=1000:11300:0::NO:11300:P11300_INSTRUMENT_ID:312250

アルファベット順でいうと、アフガニスタン、アルバニア、アルジェリア、アンゴラから始まり、ベネズエラ、イエメン、ザンビア、ジンバブエに至るまことに人権を尊重する諸国がそろいもそろってこの条約を批准しているんですね。

すごいですね、日本はこれら諸国よりも強制労働を容認する人権抑圧国であるようです。

ILO条約を批准しているかいないかというのは、まあこういう類のはなし「でも」あるので、あんまりにわか勉強で「わかった」つもりになると危ない面があります。

というだけで終わると、これまた話が一方的になってしまうのが、この問題の難しいところであり、取扱いに注意しなければならないところです。

少なくとも先進国との比較では、どれくらい批准しているかいないかというのはそれなりの意味があり、とりわけ現下の政策課題として重要性を増している労働時間関係の諸条約についていうと、

 「労働時間」に関する条約は現在十八が有効だが、日本は一つも批准していない。十八条約には、工業労働者の労働時間を一日八時間、週四十八時間と定めたり、労働時間を週四十時間に短縮することを掲げるなど、労働時間規制の国際的な基本ルールとされてきたものが含まれる。

という記述は、かなり重要な問題に触れています。これは私も結構あちこちで喋ったり書いたりしているので、ご存じの方も多いと思いますが、もちろん日本国の労働基準法は原則となる法定労働時間はゆうゆうILO基準をクリアしています。ではなぜ批准できないかというと、記事にもあるようにごくごくふつうの労働者について、時間外労働の上限規制がない、つまり青天井であるためで、まあこれも日本国政府の厳格さのゆえではあるのですが、逆に日本の労働時間規制の問題点、何が欠落しているのかをくっきりと浮かび上がらせてくれるところでもあります。

その意味で、この記事の後半はまことに適切な記事になっているのです。こういう両面をきちんと理解してILOの問題を取り上げるというのは、なかなか難しいことかもしれません。

|
|

« 土田道夫『労働契約法 第2版』 | トップページ | 日本型雇用システム論と小池理論の評価(前編) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/3288/69262513

この記事へのトラックバック一覧です: ILO条約批准の意味:

« 土田道夫『労働契約法 第2版』 | トップページ | 日本型雇用システム論と小池理論の評価(前編) »