フォト
2024年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ

« とりもどせ!教職員の「生活時間」@連合総研 | トップページ | 北健一『電通事件』 »

2017年1月25日 (水)

『日本労働研究雑誌』2017年特別号

679_special『日本労働研究雑誌』2017年特別号は、昨年6月に開かれた2016年労働政策研究会議の報告です。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/index.html

総括テーマは「労働時間をめぐる政策課題」で、労働法から桑村裕美子さん、労働経済から黒田祥子さん、労働組合からUAゼンセンの松井健さん、人事管理から松浦民恵さんが報告し、討議概要からすると、仁田道夫、大内伸哉、中窪裕也といった錚々たる面子が入れ替わり立ち替わり突っ込みを入れていたようです。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/special/pdf/003-008.pdf(【パネルディスカッション・討議概要】)

たった半年前ではありますがその後の事態の推移の急激さから見ると、だいぶ昔の議論みたいに見えるところが不思議です。

今焦点になっている長時間労働問題について、桑村さんはこう言っていました。

次に一般的な長時間労働対策について,労働基準法改正案は,長時間労働の抑制について,限度基準に基づく行政指導と割増賃金支払いによる間接規制という従来の手法を徹底する内容となっている。しかし間接規制の効果は明らかではないこともあり,今後も引き続き,時間外労働の量的上限規制や全労働者を対象とした勤務間インターバル規制の導入を検討するべきである。またこれ以外に,労使協定の締結が時間外労働実施の条件であるにもかかわらず長時間労働が問題となっていることから,過半数代表による歯止めが機能していない可能性もある。新たな労働者代表制度の構築が急務である。

この討議概要はなかなか面白いので、是非リンク先をお読みください。

自由論題セッションは計6本ですが、ここでは高原正之さんの「解雇規制は本当に日本の就業率を下げているのか?」を紹介しておきます。

大竹・奥平(2006),奥平(2008)は,日本の裁判所の整理解雇事件の判決傾向を示す解雇無効判決変数を作成し,これを用いて実証分析を行ってこの変数が就業率に負の効果を持つことを示し,これから日本の解雇規制が就業率を引き下げる効果を持つと主張した。この変数は,年毎のデータを起点となる年からそれぞれの年まで加えたものであり,その作成に当たっても,利用に際しても細心の注意が必要である。

上記の分析には,理論的な前提とこの変数を作成するために用いられたデータに不整合がある,この変数作成のための起点の設定に根拠がない,測定誤差が存在し,それがランダムウォークする,過少定式化の恐れがある,想定されている企業の行動が現実的ではない,などの問題がある。これらの問題のいくつかはモデルの定式化を修正することにより対応することが可能であり,改善策を提示した。

現段階では,日本の解雇規制が就業率にどのような影響を与えているのかは謎のままである。今後データの整備,モデルの改善などによって,解雇規制の雇用に及ぼす効果を把握することが期待される。

この大竹・奥平論文は、もう10年ほど前になりますが、労働弁護団の雑誌『季刊労働者の権利』で批判特集号が出されるなど、この業界では大変話題を呼びました。この時には私も一文寄稿しました。

ただ、元論文を同じ労働経済学の立場からその手法に疑問を呈するようなものはあまりなく、その意味ではこの高原論文の意義は大きいのではないかと思われます。難しい数式がでてくるので私には論評能力はありませんが、関心のある向きは是非どうぞ。

« とりもどせ!教職員の「生活時間」@連合総研 | トップページ | 北健一『電通事件』 »

コメント

ざっと目を通させて頂きました。とても面白かったです。しかし、単線的な問題ではなく、複線的に考えなければと思いました。
文中に「労働時間は企業の競争にかかわる」との指摘が、とても重要だと思いました。
前回の教組の報告書に対する反応とも関係しますが、労働時間だけではなく、労働日も大切かなと感じました。営業日の規制は、自由市場経済においては難しい(強力な共和政であるフランスは例外)と思いますが、労働日の規制を設けることで、まずは長時間労働の外堀を埋めることが出来るのではないかと思います。あと余談ですが「国民の休日」というものが、最近?に感じます。その日に休めるのは、現実には公務員と大企業の。。国民の休日の増加と国民の労働時間の増加の乖離は皮肉ですが、現代社会の一つの特徴的な傾向のように感じられます。多くのサービス業の労働者は「国民」ではないのでしょうか?ここにも「ポピュリズム」発生の現実的根拠を見ることが出来ます。
労働日規制と労働時間規制(そして場合によってはその組み合わせ。例えば一日の労働時間が短時間の場合には労働日の規制を緩和するとか、その逆もまた。残業との関係で労働日を縮減するとか)の両者が必要かと。
でも、話を蒸し返してしまうかもしれませんが、そのためには、やはり働く側が、資本の論理ではなく、「怠けたい!でも仕事もキチンとしたい!」という欲求(私だけ?笑)を正面から掲げられるかどうかだと思います。怠けるためにも真面目に働く、くらいの気持ちがないと、やはり現実は改善しないかと。。
労働時間や労働日の規制も必要ですが、それらは外在的な要因でして、内在的な労働過程における労働強度の問題がやはり本質的かと。是非労組はそこに主軸を置きつつ外堀を攻めて欲しいと思います。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『日本労働研究雑誌』2017年特別号:

« とりもどせ!教職員の「生活時間」@連合総研 | トップページ | 北健一『電通事件』 »