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2016年12月 1日 (木)

『働き方の二極化と正社員』

Jilpt185JILPTの労働政策研究報告書 No.185『働き方の二極化と正社員―JILPTアンケート調査二次分析結果―』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2016/0185.html

タイトルからでは、あまりよく内容が分かりにくいですし、目次をみてもいささか多様な方向を向いた論文が並んでいて、後回しにしようと思われるかも知れませんが、いやいや、騙されたと思って、これだけは読んで見てください。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2016/documents/0185.pdf

まず第5章の「若手正社員の仕事における心理的負荷の所在―業種による相違への着目―」。執筆したのは若手JILPT研究員の高見具広さん。

ていうか、これ実は、先日『ビジネス・レーバー・トレンド』に載った要約版を紹介したものの原論文なんですね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/bltjil-ccdb.html(高見具広さんの労働時間論文@『BLT』&『JIL雑誌』)

そのまとめのところをコピペしておきますが、是非これは原論文をじっくりと読んで見ください。

本章では、若手正社員の仕事における心理的負荷に関わる要因を考察した。特に、業種によって問題の重心が異なるのではないかという問題関心から、特徴的な業種に焦点を当てて分析を行った。本章の分析結果は、次のように要約することができる。

①仕事における心理的負荷の度合いは業種によって差があり、建設業・製造業よりもサービス業に属する業種、特に「宿泊・飲食サービス業」「教育、学習支援業」「金融業、保険業」で大きい。

②心理的負荷に関わる問題として、「業務量などに起因する長時間残業」「休日・休暇の確保困難」「成果管理に関わる問題」の3 つが切り出せるが、それぞれを中心的問題とする業種は異なる。

③業務量や責任感に起因する長時間残業は、「教育、学習支援業」で特徴的にみられる。ただ、メンタルヘルス上の問題は、残業の長さというより、むしろ「持ち帰り残業」という残業の性格にある。

④最低限の休日・休暇を確保できない問題は、「宿泊業、飲食サービス業」で顕著にみられる。休日が少ない場合、年次有給休暇を全く取得できない場合に、心理的負荷が大きくなる。この背景は、人手不足や要員管理に起因する部分もあるが、職場の非正社員比率の高まりも関係する可能性がある。

⑤成果管理にともなう問題は、「金融業、保険業」で特徴的にみられる。目標管理制度の適用それ自体と言うより、仕事量の裁量性を伴わない目標設定が心理的負荷を大きくするほか、個人の成果・業績を月給に反映する運用が激しい従業員間競争を呼び込み、働く者の心理的負荷を高めていた。

働く者のメンタルヘルスを保つ上で、長時間労働が解消されるべきものであることに異論の余地は乏しい。ただ、仕事における心理的負荷の背景として労働時間の「長さ」に議論をフォーカスしすぎると見過ごしがちな側面があることにも注意したい。この点、本章では、
「持ち帰り残業」「最低限の休日休暇取得」「成果管理の運用」の問題を取り上げて考察した。

これらは労働時間の長さとも多分にかかわるが、労働時間が「どのくらい長いか」というより、「どのように長いのか」といった「労働時間の質的側面」に関わる要素といえる。

本章では、業種別の分析により、上記の問題が先鋭化している業種では、残業時間の長さに問題を還元できないことを検討した。分析の結果、働く者のメンタルヘルスを保つために求められる対策の方向は、業種によってやや異なると示唆される。まず、人員不足や非正規化の進行によって正社員の休日・休暇確保に困難を抱えがちな業種40・職場では、要員管理を見直すなど、休日確保策が最優先で求められよう。また、厳しい成果管理や個人間競争により、従業員が精神的に疲弊しがちな業種41・職場では、従業員が過大なノルマを抱えないよう、業務負担の適正化を心がけるとともに、過度な競争主義による職場の疲弊が招かれないよう、管理者のマネジメント力が問われる。さらに、業務量のほかに責任感や仕事へのこだわりから長時間の残業を引き起こしやすい業種・職場では、働く者が多大な責任・業務を抱え込まないよう、管理者のマネジメントや、細やかなカウンセリング、健康管理の仕組みが重要と考えられる。

もう一つ、これに続く第6章の「情報通信業における長時間残業の要因とその影響」も大変興味深い論文です。これは一橋博士課程の三家本里実さんの論文ですが、①情報通信業における長時間残業が何によってもたらされており、②こうした長時間残業が、仕事全般に対する認識や満足度にたいして、どのような影響をもたらしているのかを探ったものです。

また、限定正社員について論じている第8章「基幹労働力としての限定正社員の可能性」や第9章「限定正社員は自身の働き方をどのように評価しているのか」も面白いと思います。

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コメント

JILPTの面目躍如たる300頁を超える大著ですね…。そこで、面白そうな第6章〜IT業界の長時間残業の要因と影響、7章〜成果主義人事と労働時間、8&9章〜限定正社員の可能性と自己評価、終章〜働き方の二極化解消へについて、PDFでは読みづらいのでプリントアウトして読んでみました。ただ、内容といいますか結論に関しては(ペーパーの分量の割には)さしたる新しい知見/発見はありませんでしたね…(笑)

つまるところ、働き方の「二極化」の解消に向けて「限定正社員」を量質ともに拡充していくこと、別の表現をすればメンバーシップ型からジョブ型へ少しづつシフトしていくこと、でしょうか。とりわけ258頁の「望ましい労働市場」の図(縦軸:職務レベル、横軸:労働負荷)がイイですね。象徴的にも「男性」の限定正社員が、今後増えていくことがポイントなのではないかと考えます。

そして最大の懸念は…、やはり日本企業の人材獲得力ですね。

外国人高度人材など、どれだけ優秀な人材が果たして無限定社員(正社員)や「限定正社員」というドメスティックな枠組みで採用できるのでしょうか?

新入社員が有給休暇申請してきたときに「この日はどこそこにいます、携帯番号は000-0000-0000です」と言ってきたのをたしなめた(いつでも連絡できる状態だと勤務してるとみなされるので)、という話をネットで見ました。社畜は新卒で入った会社から育成されるのではなくて、その前段階から始まっているのかもしれません。
(そもそも学校教育が、というのはまた別の話ですよ)

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