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2016年12月21日 (水)

セリーナ・トッド『ザ・ピープル イギリス労働者階級の盛衰』

08514_big昨日の水島さんの『ポピュリズムとは何か』に、オーエン・ジョーンズの『チャブス』という本が出てきましたが、これはまだ翻訳はないようなので、若干似たような問題意識の本ということで今年8月に翻訳が刊行されたセリーナ・トッド『ザ・ピープル イギリス労働者階級の盛衰』(みすず書房)を紹介しておきます。

http://www.msz.co.jp/book/detail/08514.html

「産業革命のあいだ労働者階級は〈みずからの形成に立ち会っていた〉。炭坑労働者と職人は自分たちの利益を促進するために団結し、雇用主の利益に異を唱えた。しかし、ほとんどのイギリス人が自分たちは労働者階級であり、政治家と新聞から労働者階級として扱われていると認識するようになるのは20世紀になってからだった。労働者階級が〈人びと〉となり、その利害がイギリス自体の利害と同義となったのも20世紀において――とりわけ第2次世界大戦中と戦後――であった」。

「ゆりかごから墓場まで」の福祉先進国から「社会なし」「オルタナティブなし」の新自由主義先進国へ。1910年以来1世紀、ピケティのU字曲線上を「人びと」はどう生きてきたか。「自分たちの置かれた状況にいかに適応し、抵抗し、またいかにその状況を変えていったのか」。等身大の名もなき労働者群像が織りなすイギリス現代史。第2版後記「わたしたちの現状 2011-2015」収録。

第1部は労働者が「召使い」であった時代、第2部は労働者が「ザ・ピープル」になった時代、そして第3部はその栄光が再び奪われた時代という三部構成で、この100年間のイギリス労働者の社会史を描き出しています。

訳者あとがきがみすず書房のサイトにアップされているので一部引用しておきます。EU離脱が彼ら「奪われし人々」にとって何を意味したのか、考えさせる記述です。

・・・『ザ・ピープル』でトッドが描き出しているのは、働くふつうの人びとが自分たちの暮らしと労働を自分たちの手でコントロールするためにつくる労働組合(トレイズユニオン)をはじめとした結びつき(ユニオン)の歴史である。近所や地域のつながりを通して、労働運動を通して、戦時下の扶けあいを通して、また労働党を媒介とした福祉国家体制の確立によって、人びとの「ユニオン」は格差の縮減に寄与してきたが、グローバル化と新自由主義化が進むにつれてこうした「ユニオン」は抵抗勢力の元凶であるとされ、個人主義化と格差拡大に拍車がかかった。
そうした文脈においてEUや連合王国という「連合(ユニオン)」の危機が皮肉に響くのは、連合内部の「体制側の者たち」――エリート層やビジネス界、あるいは連合王国で言えばイングランド――が人びとの「ユニオン」を軽んじ、エスタブリッシュメントとふつうの人びとやイングランド以外の地域との分断を進行させた結果、「連合」破綻の危機を招来してしまったからである。

イギリスのEU離脱にしてもスコットランドの連合王国からの独立にしても、それによって期待されているのは自分たちの問題は自分たちの手でコントロールできるようになることである。これをナショナリズムや民族主義という言葉で説明することはたやすいが、離脱や独立を求めることが必ずしも移民の排斥や民族的アイデンティティへの固執を意味するのではないことには注意すべきである。
むしろ、EUやイギリスという「連合」が人びとの分断を進める排他的(エクスクルーシブ)なものであるのに対し、スコットランドの独立を求める自治政府与党の政策に明確に示されているように、ふつうの人びとにコントロールする力を与える福祉国家的政策の遂行によって格差を縮めつつ、ヨーロッパという大きなつながりに与してゆこうとする包摂的(インクルーシブ)な姿勢がそこにあることは看過されるべきではない。 ・・・

そう、EU労働法の研究なんぞしていると、毎回毎回大文字のユニオンが繰り返し出てくるんですね。それがどういう「ユニオン」なのか、考えさせられます。EUの前身のECも、毎回毎回大文字のコミュニティが出てくるのも、どういう「コミュニティ」なのか考えてみれば皮肉だったのかもしれませんが。

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