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2016年12月20日 (火)

高齢者活躍支援協議会・シニアセカンドキャリア推進共催シンポジウム基調講演

去る10月27日に開かれた高齢者活躍支援協議会・シニアセカンドキャリア推進共催シンポジウムの報告書が同協議会のHPにアップされており、そこにわたくしの基調講演「変わる中高年の雇用環境」が載っていますので、紹介しておきます。

http://jcasca.org/uploads/photos1/44.pdf

Hama_2≪第1部 基調講演≫「変わる中高年の雇用環境」

●濱口 桂一郎(労働政策研究・研修機構 労使関係部門主席統括研究員)

日本の雇用システムの歴史

 まず、日本の雇用システムを歴史的に見ると、明治時代の労働市場は極めて流動的で、当時の職工は「渡り職人」と呼ばれていました。その後大正から昭和にかけて、一部の大企業で定期採用、定期昇給、55歳くらいで定年退職する仕組みがはじまりました。新卒のまっさらな若者に企業内で教育訓練し、昇進させるという勤続奨励的な諸制度です。これと同時によそ者を臨時工として差別扱いする仕組みも作られました。今日の非正規労働の出発点といえます。

 雇用システムが法令で事細かに定められたのは戦時下です。1943年以降、国家総動員法に基づく雇用統制と賃金統制が実施されました。地域別、業種別、男女別、年齢階層別に時間当たり賃金を公定するという仕組みで、年齢別賃金体系が法定されたわけです。しかもホワイトカラーとブルーカラーに同様の規制がかけられたのです。戦後これらは全て廃止されましたが、産業報国会の改編としての企業別組合が続々と設立され、彼らの主導によって1946年の電産型賃金体系をはじめ、年齢と扶養家族数で賃金を決める仕組みが確立しました。戦時中の賃金制度が再構築されたわけです。これは政労使三者が作り上げたシステムといえます。ちなみに、当時制定された労働基準法では、原案では「男女同一価値労働同一賃金」でしたが、労働組合側委員が「年齢差別を認めないなら定期昇給が不可能で日本の賃金制度を破壊する」と批判したため、「男女同一賃金」に落ち着きました。

 50-60年代は、政府・経営側が年功制を否定し、同一労働同一賃金に基づく職務給を唱道していた時代です。とりわけ、1960年の国民所得倍増計画は、終身雇用制・年功序列制の廃止や企業を超えた労働市場の形成を唱えていました。1967年に日本政府はILO100号条約(男女同一価値労働同一賃金条約)を批准していますし、1967年の雇用対策基本計画は、職業能力と職種に基づく近代的労働市場の形成を目指していました。興味深いことに、60年代の中高年雇用対策は、職種ごとに中高年の雇用割合を定める職種別中高年雇用率制度でしたが、日本の現実と合わず消えていきました。

 1970年代以降は年金とのからみで定年延長が主なテーマになり、いまや65歳までの継続雇用が企業に義務づけられています。高齢化の進み方を見れば、年金の支給開始年齢の再引き上げが政策にのぼるのは目に見えていますが、一方ではいまの65歳継続雇用もすでに問題が出始めています。再雇用における賃金引き下げ、正社員だけを対象にした制度でいいのか、高齢期の身体・精神能力の多様化にたいする対応、などなどです。

高齢者の雇用問題は中高年の雇用のあり方と一体化して考える必要あり

 ここで、日本型雇用システムの本質について考えてみましょう。鍵になるのは、「人」と「仕事」をどう結びつけるか?という点です。先に仕事を決めて、それに合う人を当てはめるのが欠員補充方式であり、私は「ジョブ型」と呼んでいます。これに対し先に人を決めて、それに合う仕事をあてはめるのが新卒一括採用方式で、私は「メンバーシップ型」と呼んでいます。別の言い方をすれば、日本は会社が人の束になっている「入社型社会」です。対して欧米は、会社は仕事の束、つまり仕事をするために人間を入れる「就職型社会」です。日本の実定法はジョブ型ですが、現実社会はメンバーシップ型で動いており、そのため戦後の裁判所は累次の裁判例でメンバーシップ型に合うように判例法理を構築してきました。

 日本では、言われた仕事をやる代わり、定年まで雇用が保障されます。会社にとっては何でもやらせられるメリットが大きく、働く側には、雇用が保障されているメリットが大きいという、互いに得をする関係が成り立っていました。

 ところが、1970年代の石油危機や90年代のバブル崩壊後は、中高年に的をしぼったリストラが横行し、年齢差別を廃止すべきだという問題が浮上しました。現在、再雇用で賃金が下がるのは、中高年のときに生産性につりあわないほどの高給になってしまい、それに対処しないで定年を延長したためです。

 かといって、いきなり年齢に基づかない社会にできるわけはありません。ただ、中高年にかなり矛盾が蓄積されてきたにもかかわらず、対症療法的にだましだましやってきました。ですから私は、中高年の仕事や雇用のあり方とその先の高齢者の雇用の問題を一体で見ていく必要があると思っています。

 私が数年来提唱しているのはジョブ型正社員です。正社員として就職できなかった若者やワークライフバランスを考える女性の受け皿と考えています。入り口から就職型にするのは難しいのですが、中高年層に就職型正社員の枠組みを用意します。ただし、教育訓練システムや生活保障などの困難な問題もあります。しかし問題があっても放ってはおけません。高齢者の雇用システムを考えるなら中高年のところまで含める見直しが不可避です。それが女性も活躍できる社会につながるはずです。

 

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