ブラック消費者
労働調査協議会の『労働調査』1月号は、「ヨーロッパにおける最近の労働事情」が特集でこちらについては改めてきちんと紹介したいと思いますが、
http://www.rochokyo.gr.jp/html/2017bn.html#1
それよりも巻頭言が面白いので、こちらは是非読んでいただきたいと思います。UAゼンセン神奈川支部常任の千頭洋一さんの「ブラック・コンシューマー対策」という小文です。
http://www.rochokyo.gr.jp/articles/nw1701.pdf
ブラック・コンシューマーとはブラックな消費者のこと。同じ社内の上司や同僚であれば「パワハラ」として指弾されるようなことを、お客様という名の下にやっても、まかり通ってしまう。お客様商売のお店で働く労働者にとって、神様扱いしなければならない悪魔です。
その事例はリンク先をご覧くださいですが、千頭さんは、
言いがかりとしか思えない、あまりにも酷い顧客からの苦情や要求に対して、ひたすら謝り続けなければならないことは、それに対処する労働者の心身を蝕むこともあります。たまたま悪質クレームに接した労働者が、さらにこのことで上司にも叱られ、不当に自身の評価が下げられてしまうこともあり得ます。悪質クレームを甘受し続けることは、流通・サービス産業の地位を下げてしまうことにもなると思います。
と述べ、
・・・これは個別労使ではなかなか解決し得ない問題であり、社会運動として世論を喚起していくことが必要です。
と論じています。そして、今年6月にUAゼンセンの流通部門中央委員会で確認された「サービスを提供する側と受ける側が共に尊重される社会を目指す決議」を紹介しているのですが、そこに書かれているのは、
悪質クレームから労働者を保護する一方、私たち自身が同じような行動をしていないかを振り返る社会運動が必要だと考えます。
というかなり遠慮気味の文章です。
まあ、「お客様は神様」の日本でこういう運動をしていくのはなかなか大変ですが、こういうブラック消費者というか、お客様によるハラスメントの問題は、ヨーロッパでも近年取り上げられてきつつあり、いくつかの労働組合が取り上げつつありますます。
某所で使った解説ですが、何かの役に立つかも知れませんので、コピペしておきます。
(6) 職場における第三者による暴力とハラスメントに取り組むガイドライン
上記2007年のEUレベル産業横断的労使団体による自律労働協約は、形式的には「顧客、患者、生徒など第三者によるもの」も対象に含めているが、一方で「労使の権限の範囲内」のいじめ・暴力を取り扱うとも述べており、実際には副次的な扱いとされている。しかしながらとりわけサービス業、医療機関、学校など第三者による暴力やハラスメントが問題となる業種(広義のサービス関係業種)では、独自にこの問題への取り組みが進められた。
リーダーシップをとったのは、EUレベルのサービス産業労組であるUNI ヨーロッパ(欧州サービス・通信労働組合連合会)と、公共サービス関係労組のEPSU (欧州公共サービス労働組合連合会)である。両労組は、対応するEUレベル使用者団体、すなわちユーロコマース(卸売・小売業の事業者団体)、CoESS(欧州警備サービス連盟)、CEMR(欧州地方自治体協議会)、HOSPEEM(欧州病院・医療機関連盟)に呼びかけ、職場の第三者暴力に対する対応策の検討を開始した。教育関係の労使として、ETUCE(欧州教育労組委員会)とEFEE(欧州教育使用者連盟)も加わった。
欧州委員会の支援も得て議論が進められるとともに、傘下の各国レベル団体からの情報収集も進められ、その結果が2009年8月に報告書としてまとめられた。さらに、2010年9月30日には、これら8団体の連名で「職場における第三者による暴力とハラスメントに取り組む多業種ガイドライン」(Multi-sectoral Guidelines to Tackle Third-party Violence and Harassment related to Work)が正式に採択された。
多業種ガイドラインは職場の第三者暴力・ハラスメントとして、次のような広範な事例を挙げている。
a)身体的、心理的、言語的、性的
b)個人または集団による、一回きりの事件またはより体系的な行動パターン
c)顧客、患者、サービス利用者、生徒や親、公衆またはサービス提供者の行為や行動から生ずる
d)軽侮からより深刻な脅威や身体的侵襲に至るまで
e)メンタルヘルス問題から生ずる、または感情的理由、個人的嫌悪、性別、人種・民族、信条、障害、年齢、性的志向、身体イメージに基づく偏見が動機となる
f)労働者及びその評判、使用者の財産、顧客を狙った刑事犯罪を構成し、公的機関の介入を要請するもの
g)被害者の人格、尊厳及び統合性を深く損なう
h)職場、公共スペースまたは私的な環境で発生するが職場に関係する
i)広範な情報通信技術を通じてサイバーいじめ、サイバーハラスメントとしても生じる
そして、使用者のための政策枠組みとして次のような要素を例示している。
a)全段階における経営者と労働者及びその代表/組合との情報交換と協議
b)第三者による暴力とハラスメントの明確な定義とその例示
c)利用者、顧客、サービス利用者、一般公衆、生徒、親、患者への、被用者に対する暴力やハラスメントは許容されず場合によっては法的措置もとられる旨の適切な情報
d)さまざまな職業、地域、労働慣行を考慮したリスク評価に基づく政策が潜在的な問題の明確化につながる(警察等の当局との連携も)。
e)紛争を回避・管理する技術を含む労使への適切な研修
f)第三者による暴力/ハラスメントの訴えを監視、調査する手続
g)第三者による暴力/ハラスメントに晒される被用者への医療的(心理的を含む)、法的、金銭的支援
h)被用者に対する事件の報告の明確な要請とありうべき報復からの保護、そして警察等他の当局への対処依頼
i)他の使用者や当局と、保秘義務等を尊重しつつ、苦情を訴え、犯罪を報告し、情報を共有する
j)事実の記録と経過の監視の透明で有効な手続
k)政策枠組みが経営者、労働者、第三者によく知られるようにすること
なお、ガイドラインの採択後、これら8労使団体は引き続き傘下各国団体からの情報収集に努め、その結果を2013年11月21日の合同報告書で公開した。(7) 学校における第三者暴力・ハラスメント
上記ガイドラインに署名した8労使団体のうち、学校教育に関わるETUCE(欧州教育労組委員会)とEFEE(欧州教育使用者連盟)は共同で、「学校における暴力に関わる教育労使:いかにして学校における暴力とハラスメントを予防し緩和するか」というプロジェクトを立ち上げ、2012年10月「いかにして学校における暴力とハラスメントを予防し緩和するか:職場における第三者による暴力とハラスメントに取り組む多業種ガイドラインの教育分野における実施ガイド」(How to Prevent and Mitigate Third-Party Violence and Harassment in Schools: Implementation Guide for the Education Sector of the Multi-Sectoral Guidelines to Tackle Third-Party Violence and Harassment Related to Work)を公表した。
この中で、教育分野における第三者暴力・ハラスメントを他分野と区別する特徴として次のようなことが挙げられている。
・教育スタッフの役割:その人が教師、教員または教育分野の就労者であり、それゆえ権威ある地位にあると見なされるというただそれだけの理由で教育スタッフに対する暴力やハラスメントが行われること
・教育プロバイダーであると同時に生徒のパフォーマンスの評価者としての教育スタッフの緊張
・(生徒やその親、家族との)長期的関係
・公共財または法的義務としての教育:顧客が来店を禁止されるようにはたやすく生徒に登校を禁止することができない
このガイドを受けた実施状況報告では、生徒や親を含めた関係者に学校の基本的価値(相互尊重や民主的市民権)を早期に強化する取り組みが必要であると訴えている。
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コメント
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不条理な客は他の客にとっても迷惑(見苦しい)ので「お客様重視」の視点からも排除してもらいたい。
ただ、正当な批判・非難(例えば、今話題の佐川従業員による荷物への暴行)を、「労働者の不遇」を理由に弁護する風潮はおかしい。
労働者の待遇の不満は、その雇用者に言うべきだ。お客さんは、市場の中で安い者を買うのは当然で、客側に「意図して高い物を選べ」というのはダメ。
対等な取引には、どっちが偉いとか無いですね。
(ただし、犬HKのような対等かつ自由ではない取引には断固としてクレームいいます。)
投稿: 阿波 | 2016年12月28日 (水) 17時29分
> ただ、正当な批判・非難(例えば、今話題の佐川従業員による荷物への暴行)を、「労働者の不遇」を理由に弁護する風潮はおかしい。
配送員 彼自身を弁護してるってのはほんの少数かと。
https://goo.gl/CpLweu
> 労働者の待遇の不満は、その雇用者に言うべきだ。
ってことで上記のURLの内容では佐川急便と言う企業、それと経営陣が叩かれてますね。
> 市場の中で安い者を買うのは当然で、客側に「意図して高い物を選べ」というのはダメ。
上記、ド正論ですが、翻って違う味方をすると「廻り廻って、自分の首を絞める」(自身のベネフィット減少をもたらす)のであえて「適正な」価格の企業のものを選択する、ということもあります。
第一、「安いから」だけでは選ばれませんよ、人は自分のベネフィットが最大になるように行動するんです(ミクロ経済学)から、価格は品質保証も表現しますから。いうなら「お得」ですかね。
> 対等な取引には、どっちが偉いとか無いですね。
現状実質、書類を取り交わすまでは発注者と受注者は対等ではないですね。(予断ですが本ブログ的には雇用者と被雇用者も)
だからルールという意味で規制は必要なんです。
NHKについては現状の形態は全く時代遅れの無用の長物であると思いますが、イギリスBBCのように税金で運用しろ、という方向性が良いと思っております。
投稿: Dursan | 2016年12月29日 (木) 18時30分