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2016年12月16日 (金)

大内伸哉さんのオピニオンペーパー 「AI時代の雇用の流動化に備えよ」

大内伸哉さんの『季刊労働法』の論文とかなり重なるオピニオンペーパーがNIRA総研のサイトにアップされています。

http://www.nira.or.jp/pdf/opinion27.pdf

来年1月にも出る『AI時代の働き方と法』の先行版ということなのでしょう。

ここで言われている諸現象については、ヨーロッパでは結構検討が進んでいて、私も昨年4月には『労基旬報』に載せた小文で若干紹介していますが、

http://hamachan.on.coocan.jp/roukijunpo150425.html(「EUの新たな就業形態」 『労基旬報』2015年4月25日号)

 労働問題における「新たな就業形態」という言葉自体が既に数十年来の歴史を経てきており、全然新しくはありませんが、同じタイトルがついているからといっていつまでも同じ内容であるわけではないというのも、また世の習いかも知れません。伝統的な「新たな就業形態」といえば、フルタイムに対するパートタイム、常用に対する有期、そして直接雇用に対する派遣という三点セットであるわけですが、これら3類型に対して既にEU指令で一定の規制を課してきているEUにおいて、もう一段新しい「新たな就業形態」が注目されつつあるようです。
 EUの労働問題のシンクタンクである欧州生活労働条件改善財団(ダブリン財団)が2015年3月12日に公表した『新たな就業形態(New forms of employment)』という報告書は、近年欧州諸国で拡大しつつある9種類ものより新たな就業形態を一つ一つ細かく分析し、今後の行方を検討していて、日本にとっても大変参考になります。ここでは紙幅の関係でごく簡単にしか紹介できませんが、詳しく知りたい方は、是非、
http://www.eurofound.europa.eu/publications/report/2015/working-conditions-labour-market/new-forms-of-employment
に全文アップされている報告書をご覧ください。
 本報告書が示している新たな就業形態とは次のようなものです。
・従業員シェアリング:企業が同じ従業員をシェアするという意味です。ある個別労働者がさまざまな企業の人材ニーズに対応するために、使用者集団によって共同に雇用され、それらを合わせると労働者にとっては常用フルタイム雇用になるという仕組みです。共同雇用といっても出向とか派遣とかではなく、ある労働者の時間の異なるパートタイム労働を複数の企業が分け合うということですね。
・ジョブシェアリング:こちらは以前から有名ですが、使用者が特定の職務(ジョブ)を遂行するために複数の労働者を雇用し、複数のパートタイム労働者を組み合わせてフルタイムのジョブになるという仕組みです。日本では職務(ジョブ)の感覚が希薄なので、ワークシェアリングと区別がつきにくいのですが、複数の労働者が一つのジョブをシェアするということです。
・臨時派遣経営者(interim manegement):インテリムというのは仏語圏で派遣労働のことですが、特定のプロジェクトや特定の問題を解決するために高度専門的な経営管理者を派遣するというビジネスです。これにより、企業組織の中に外部の経営能力を統合することができるようになります。
・カジュアル労働:これは、特定の労働時間を定めず、使用者の呼び出しに応じて労働する契約(「オンコール労働」)であり、呼び出しがなければ労働時間がゼロ時間ということもありうるので「ゼロ時間労働」とも呼ばれます。使用者にとっては常時遂行すべき業務を提供する必要がなく、その間賃金を払う必要がないので究極のフレクシビリティと言えます。その点では個人請負に限りなく近いのですが、その労働内容そのものは指揮命令下の雇用労働であるという点で、請負でもないのです。
・ICTベースのモバイル労働:これは日本でも近年話題になっていますが、情報通信技術を駆使して、いつでもどこでも職務を遂行するというものです。スマートフォンやタブレットの普及は全世界共通ですから、労働を時間的空間的な枠組みの中で考えることが次第に困難になってきつつあるという現象も、やはり全世界共通なのでしょう。
・バウチャーベースの労働:日本では一時教育バウチャーが話題になりましたが、EUでは福祉関係で注目されているようです。料金や社会保険料をカバーする公的機関が発行した福祉バウチャーによって個々の福祉サービスが提供されるのですが、そのケア労働者の雇用関係がバウチャーによる支払いに基づいているという仕組みです。日本でいえば、看護婦家政婦紹介所の仕組みでは各家庭が使用者になるのと同じで、それをバウチャー制で公的に担保しているのですね。
・ポートフォリオ労働:こちらは雇用労働ではなく自営業ないしフリーランスで、多数の顧客のために一つ一つは小規模の労働を提供するという仕組みです。
・クラウド労働:オンラインのプラットフォーム上で使用者と労働者をマッチさせるものですが、とりわけ非常に大きなタスクを細かく分けてお互いにネット上でしか知らない「バーチャル・クラウド」の労働者に配分するという点に着目してクラウド労働と呼ばれています。
・協同労働:これはフリーランスや自営業者、零細業者などが、協同して大規模な事業を遂行するというもので、協同組合という形をとることもあります。
 本報告書はそれぞれについて、その特徴を解説した上で、労働条件への含意や労働市場への含意を検討しています。既に日本でも目につくようになっている形態もあれば、そうでないものもありますが、将来の労働法政策を考えていく上で、こういった就業形態への目配りはますます重要となってくることは間違いないでしょう。

いよいよ日本でも労働法学の観点から本格的な検討が進められるべき時期になりつつあると思われます。

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