ドイツはジョブ型かメンバーシップ型か?
こういう言い方をこの私がすると、「お前が言うか、お前が」という非難の声がどっと襲いかかってくるような気がしないでもないですが、でもやはり、こう言わなければなりません。
ジョブ型とか、メンバーシップ型とか、頭の整理のための概念なのだから、あんまりそれにとらわれてはいけませんよ、と。
いやもちろん、ごちゃごちゃした現実をわかりやすく認識するためには大変役に立ちます。
でも、ある国の社会のありようを100%どちらかに区別しきらなければいけないと思い込んでしまうと、かえってものごとの姿をゆがめてしまうことにもなりかねません。
どういうことかというと、大杉謙一さんのこんなツイートが目に入ってきたからなんですが。
https://twitter.com/osugi1967/status/803107321643548672
先日、ドイツ人を呼んでシンポをやったのですが、どうやら経営層の人材はジョブ型で、ブルーカラー層はメンバーシップ型ではないかという感触を持ちました。
https://twitter.com/osugi1967/status/803111417092018176
ありがとうございます。「ブルーカラーがメンバーシップ型」というのは、私の憶測が入っているのでこれから知己を頼って検証したいと思います。
https://twitter.com/osugi1967/status/803111838682464256
(続き) ドイツ以外のヨーロッパでは、ジョブ型ゆえに若者の失業率が高いことは有名で、ドイツは職業教育が充実しているのでこの問題が生じにくいのですが、「型」はともかく、ブルーカラーの転職率は低いようです。
https://twitter.com/osugi1967/status/803112429487935488
私は、日本の大学の多くを職業教育型に転換していくことには反対ではないのですが、実は肝心の学生がそれを望んでいないようにも感じています。なぜ人は功成り名を遂げると教育(大学)改革の話をしたがるのか(溜息)
えーと、どこから解きほぐしたら良いのかよくわからないのですが、まず「ジョブ型」という概念のもとである、契約で職務が限定されており、賃金はその職務について決まっているという点では、ドイツは間違いなく「ジョブ型」です。
特にブルーカラー労働者の場合、企業を超えた産業別労働協約で賃金が決定されており、それが各企業に原則としてそのまま適用されるという点では、他のヨーロッパ諸国に比べてもより「ジョブ型」でしょう。
しかし一方で、とかく日本では「メンバーシップ型」の徴表ととらえられがちな企業がそう簡単に解雇できないとか、仕事がなくなっても雇用を維持しようとするという面では、これまたおそらくヨーロッパ諸国の中でもかなりそういう傾向があるのも確かです。そもそも、日本の雇用調整助成金のもとは、ドイツの操業短縮手当であって、景気変動には雇用維持で対応という面では相当に「メンバーシップ型」の面があります。
とはいえ、では日本みたいにどんな仕事にでも平気で変えるかというと、「この仕事」というジョブ意識は極めて強くて、企業が勝手に職務を変更できるなどということはありません。そこは強固に「ジョブ型」です。
さらに、集団的労使関係を見ても、産業別労働組合が産業別労働協約を結び、産業別の労働条件を決定しているという点では、これまた他のヨーロッパ諸国に比べても極めて典型的な「ジョブ型」である一方で、事業ごとに事業所委員会という労使協議システムを確立し、ある意味ではまさに日本の企業別組合がやっているような企業の中の労働関係の様々な調整を綿密にやっているという面は、これまた他のヨーロッパ諸国に比べても「メンバーシップ型」的な側面が強いという言い方もできます。そして、会社の監査役会に従業員代表がポストを占めるというかたちで、少なくとも法律上は日本よりもずっとメンバーシップ型になっていると言えないこともありません。
何が言いたいかというと、ある国の労働社会のありようというのはなかなかに複雑なもので、「ジョブ型」「メンバーシップ型」というようなある側面を切り取った切り口「だけ」で綺麗に説明し尽くせるというようなものではないということです。
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