高見具広さんの労働時間論文@『BLT』&『JIL雑誌』
例によってJILPTの出している雑誌『ビジネス・レーバー・トレンド』と『日本労働研究雑誌』の12月号が発行されましたが、今号は示し合わせたかのようにどちらも労働時間特集です。
http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/index.html
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2016/12/index.html
『BLT』は「過重労働の防止と健康経営―「働き方」の見直しに向けた課題」で、『JIL雑誌』は「今後の労働時間のあり方を考える」です。下の方にそれぞれの目次をコピペしておきましたが、今回はそのどちらにも論文を書いているJILPTの若手研究員の高見具広さんのを紹介しておきます。
まず『BLT』の方ですが、「若手正社員の仕事における心理的負荷 ――業種による問題の相違」という論文ですが、これはもうすぐ出る報告書の中の一章を特出ししたものです。
若手正社員の長時間労働や心理的負荷の重さは現下の最大課題ですが、それを業種別に観察してみると、全体像だけでは見えてこないさまざまな問題がくっきりと浮かび上がってきます。
たとえば教育学習支援業は確かに残業時間が長い業種なのですが、実は他の業種に比べて持ち帰り残業がダントツに多いのですね。持ち帰り残業はもちろんサービス残業と重なるというだけではなく、自宅に仕事を持ち込むことでメンタルヘルスに悪影響を及ぼしていると想定しています。
宿泊飲食サービス業は休日が少なく、年休も取りにくいという点で際立っています。その背景には人員不足がありますが、休み無く働くことがメンタルヘルスに悪影響を及ぼしていると思われるのです。
そして金融保険業。実は残業時間それ自体も持ち帰り残業も少ない方なのですが、目標管理制度が導入されている割合が一番多く、しかもそのうち仕事の裁量性なしという割合も高いのです。また業績評価を処遇に反映する度合いも高いことから、いわば成果主義によって心理的負荷が高まっているという実態が示されています。
このように、等しく長時間労働とか心理的負荷といっても、業種ごとにその態様はかなり異なり、それゆえ対策の方向の細かく考えていく必要がありそうです。
もう一つの『JIL雑誌』の方ですが、「働く時間の自律性をめぐる職場の課題─過重労働防止の観点から」という論文です。
これは冒頭に要約が載っているのでそれをそのままコピペしておきましょう。
本稿は、労働時間に関する職場管理の課題について議論する。特に、裁量労働制が適用され、制度上は使用者との関係で働く時間を自律的に決められる者でも、仕事・職場の性格によっては日々の仕事や時間のコントロールが思うようにいかず、多忙な状態になりうることを議論する。
分析の結果、まず、仕事量や期限を会社・上司が(一方的に)決めている場合、労働時間が長時間化するなど、過重労働になるリスクを抱える。しかし、労働者が多忙な状態になるのはこのケースだけではない。会社・上司との関係では業務の裁量性があっても、取引先・顧客都合への即応が求められる仕事で、上司が部下の進捗状況把握に消極的な場合、多忙な働き方になりうる。
過重労働を防止する観点からは、従業員が時間的なコントロールを発揮できない状態に陥ることのないよう、業務の適切なマネジメントが強く求められる。その点、まず、そもそも長時間働くことを前提とした業務量設定は防ぐべきであり、業務量の適正化のためには従業員の意見を踏まえて業務内容を決定することが必要であろう。しかし、注意すべきはそれだけではない。取引先・顧客との関係で具体的な業務内容が決まる仕事の場合、個々の従業員に進捗を任せきりにすると、顧客都合に即応するあまりの過重労働に歯止めがかかりにくいリスクがある。細やかな状況把握によって、個々の従業員が抱えている業務を把握し、時には壁となって顧客都合の働きすぎにブレーキをかけるのもマネジメントの役割なのではないかと示唆される。
まさに今「働き方改革」が国政の焦点となり、長時間労働や心理的負荷をめぐる議論が沸騰しつつある現在だからこそ、こういう丁寧に分析された若手研究員の論文が広く読まれることが求められます。
それ以外の『JIL雑誌』の論文では、
日本の労働時間はなぜ減らないのか?─長時間労働の社会学的考察 要約
と、結構錚々たる大御所の方々が顔を連ねておられます。
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日本企業の長時間過重労働の問題をどう解決するか? については、各論文に指摘されているような残業上限制限や割増賃金率アップや勤務インターバル制度の導入という「ハード」な取組みに加えて、高見氏が指摘されているようにマネジメント従事者の働き方の「意識改革」というハード&ソフト(法律と人の意識)からの両面アプローチが必要でしょうね…。
そこで、私自身の限られた外資系人事マネジャーの経験で。いま勤めるグローバル外資系ファームではアジア地域本社(@香港、マイナス1時間時差)の自分の上司が中国人、オーストラリア人、スウェーデン人と短期間にコロコロ変わりましたが、いずれの上司(全員女性です)も私が19時すぎまでオフィスで働いているのが分かると、有難いことに「シュウヤ、まだオフィスにいるの。働きすぎよ。家に帰って家族を大切にしなさい」と電話やチャットで軽く注意してくれますね(笑)…。
夜は早く自宅に帰って必要があれば家からメールで対応すれば十分という考え方が、どうやら私を取り巻く世界の常識のようです。
投稿: 海上周也 | 2016年11月26日 (土) 07時03分