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2016年11月30日 (水)

定年、継続雇用制度とはそもそも何か?@『エルダー』2016年12月号

Dffb77be7ff6023c7324c9c1506ee03f『エルダー』2016年12月号に「定年、継続雇用制度とはそもそも何か?」を寄稿しました。

 本連載の冒頭、1回目(5月号)と2回目(6月号)で定年と(非定年延長型)継続雇用制度を取り上げましたが、今回その二つは本当に違いがあるのか? という理論的な問題を取り上げてみたいと思います。

「定年」の意義

 法律上「定年」を定義した規定はありませんが、行政解釈としては60歳定年を私法上の効力を持って義務化した1994(平成6)年改正後の通達(平成7年3月31 日職発第223号)において、「『定年』とは、従来、労働者が所定の年齢に達したことを理由として自動的に又は解雇の意思表示によってその地位を失わせる制度であって就業規則又は労働協約に定められたものというものとしてきたところであるが、今後、同様の制度であって労働契約に定められたものも含むものとする」と定義しています。この追加は就業規則の作成義務のない10人未満事業所を念頭に置いたものです。

 さて、もし本当に、定年という言葉が厳密な意味で「労働者が所定の年齢に達したことを理由として自動的に又は解雇の意思表示によってその地位を失わせる制度」のみを指すのであれば、定年後希望者全員継続雇用という制度において厳密にこの定義に該当する「定年」とは何を指すのか? という大きな問題が浮上してくるはずです。

 「定年後……」というときの「定年」は、無反省的に就業規則などに使われている言葉をそのまま用いてそう呼んでいるわけですが、その「定年」時に「所定の年齢に達したことを理由として」その意に反して「その地位を失」う労働者が制度上発生することがあり得ないのであれば、その日常言語としての「定年」は厳密な法学的概念としての「定年」ではないはずです。

 希望者全員継続雇用制度における法的に厳密な意味での「定年」は、「労働者が所定の年齢に達したことを理由として」その意に反して「その地位を失」う年齢、即ち継続雇用の上限年齢でなければなりません。「定年」を、「その法的効果の如何にかかわらず就業規則等で定年という名で呼ばれているもの」と定義するのであれば別です。

 しかし、「事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。」とする高齢法8条は私法上の効力を有する以上、そのような扱いをすることはできません。ある制度が高齢法8条に違反しているのか違反していないのかが一義的明確に確定するような解釈をする必要があります。

 たとえば、就業規則上定年を55歳としつつ、希望者全員を60歳まで継続雇用する制度は、高齢法8条に違反するのでしょうか。もし、違反するとしたら、そのような制度を否定しなければならない積極的な理由は何でしょうか。いうまでもなく、定年を60歳に引き上げつつ、旧定年の55歳から新定年の60歳までを嘱託社員の名の下に基本給を大幅に引き下げる扱い*1は、(労働契約法上の合理性判断はともかく)高齢法上は何の問題もないことは明らかですから、労働条件は理由になり得ません。同じように低賃金の嘱託社員として55歳から60歳まで雇用を確保する制度が、就業規則上の用語法の違いだけで一方が法違反とされ、一方は法を遵守していると解釈されるというのは、あまり合理的な解釈とはいい難いでしょう。

65歳定年と65歳までの希望者全員継続雇用制度の違いは

 この問題は、高齢法8条の60歳定年の義務について論じている限りはあまり政策に関係がないように見えます。しかし、年齢目盛りを5歳ずらして、60歳から65歳の部分について考えていくと、これは大きな影響を与えかねない論点であることがわかります。もし「希望者全員を65歳まで継続雇用するのと65歳に定年を延ばすのは何」も違わないのであれば、65歳定年は困難だが65歳までの継続雇用制度は可能という認識の存立根拠が根本から失われることになるからです。

 そんな莫迦な話があるか、そもそも今まで65歳定年と65歳継続雇用は別の制度として法律上も書き分けてきているではないか、という反論が当然予想されます。しかしながら、実をいえば2012年改正までは厳密な意味での65歳までの希望者全員継続雇用が義務づけられたことはなかったのです。2004年改正では、65歳定年、65歳継続雇用、定年廃止という3つの選択肢を選択的義務として課し、そのうち継続雇用制度について、高齢法9条2項で労使協定による対象者選定基準を規定しました。高齢法9条2項によって希望者全員でないことが可能とされているのですから、この場合には60歳が定年で(希望者全員ではない)65歳までの継続雇用の上限年齢は定年ではないことは明らかです。

 しかし、2012年改正により希望者全員の65歳までの継続雇用制度が義務づけられた以上、それは旧定年60歳を希望者全員がそこまで雇われ続けることができる65歳に引き上げたとしかいいようがないはずです。当該企業の就業規則に「定年は60歳」と書いてあることは、それが強制退職年齢でない以上、法的意義の「定年」であることをなんら意味するものではありません。

 しかしながら、このような厳密な法理論は法律学者自身によってもほとんど行われてはおらず、世間常識に従って、希望者全員継続雇用における継続雇用の始点に過ぎない60歳を「定年」と呼び続けているのが実態です。

 ここには、定年前に労働条件の不利益変更をすることがどこまで認められるのか、定年後継続雇用する際に労働条件を引き下げる場合とどの程度異なるのか、といった、それ自体は高齢法上の義務違反か否かの問題とは異なる、労働契約法制上の合理性判断の問題を、暗黙のうちに高齢法上の概念設定に潜り込ませてきた思考の惰性も見られるように思われます。その惰性に大きな衝撃を与えたのが、今年5月の長澤運輸事件判決だったのではないでしょうか。

 つまり、本来「労働者が所定の年齢に達したことを理由として自動的に又は解雇の意思表示によってその地位を失わせる」年齢である65歳に達する前の60歳という時点において、貢献と報酬の不均衡をいったん精算して新たな労働条件を設定することの合理性という形で論ずべきことを、60歳定年後再雇用という(厳密には大変怪しい)法形式に載せることで解決したことにしてきたことのツケということです。

*1協和出版販売事件。地裁判決(東京地判平18.3.24 労判917-79)と高裁判決(東京高判平19.10.30 労判963-54)があります。

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