« 水川浩之『雇用が変わる』 | トップページ | ブランパン『ヨーロッパ労働法』 »

鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』

51ofieewurl_sx344_bo1204203200_ 鈴木亘さんの『経済学者 日本の最貧困地域に挑む 』(東洋経済)をいただきました。お送りいただいたのではなく、奥様の周燕飛さんから直接お渡しいただきました。

http://store.toyokeizai.net/books/9784492444344/

日本最大のドヤ街「あいりん地区」の再生はこうして始まった。大阪市特別顧問という当事者中の当事者である著者の筆によって描く。

この本は、中身を読まずに想像すると、橋下市長の下で特別顧問になったネオリベ経済学者が、労働者やホームレスたちの声を踏みにじってスラムをクリアしようと企むけしからんストーリーかと思うかも知れませんが、さにあらず、ある意味で全く逆です。

西成特区構想の仕掛け人がすべてを語る。

日本最大のドヤ街で、脱貧困の闘いが始まった!

本書のはじめの方で、特別顧問となった鈴木さんが集めた有識者座談会の面々は、マンガ「かまやん」で有名なありむら潜さんをはじめ、あいりん地域を現場から何とかしようとしてきた方々であり、鈴木さんの活動は彼ら現場の声をきちんとまとめ上げ、トップにつないでいくことであり、同時期に橋下改革で進められようとしていた事業仕分けで、あいりんの実情を知らないまま仕分けられた高齢者特別清掃事業の民営化や子供の家事業の一般事業化を、特別顧問という位置を活用して何とかかたちを変えて生き残らせようと努力する姿なのですね。

しかもそれを、声高に叫ぶのではなく、組織人の行動原理を測った上での要所要所の的確な行動によって実現していくという、ある意味湯浅誠さんにも共通するリアルな活動家としての振る舞いを示すのです。

はじめの方の記述によると、鈴木さんはかつて関西にいた頃、そうしたあいりんに関わるリーダーたちとのつながりを築いていたようです。橋下市長の下には数多くの特別顧問が名を連ねていましたが、おそらく頼んだ側も意識していなかったのではないかと思いますが、鈴木亘さんをあいりん地域の特別顧問にしたというのは、例外的にどんぴしゃの人事だったのでしょう。

著者の鈴木亘教授は、年金や生活保護など社会保障問題を専門とする経済学者。橋下大阪市長(当時)に年金問題のレクチャーをしたことをきっかけに、2011年3月「西成特区構想担当」大阪市特別顧問に就任した。誰も手を付けられなかった、日本最大のドヤ街「あいりん地区」の地域再生を構想・立案する仕事だ。

以来4年間、多いときには週2~3回大阪に足を運び、「特区構想有識者座談会」座長や、住民参加型の大集会「あいりん地域のまちづくり検討会議」の司会をつとめてきた。

特別顧問就任1年目は、解決すべき問題を列挙し、優先順位を付け、工程表を作成することから始まった。抵抗勢力に「抵抗する隙を与えない」ために驚くべき速さで工程表をまとめていく。2年目は、問題解決にあたるべき主体を「兎に角同じテーブルに着いてもらう」ことを目指し、地域住民、ホームレス支援団体などとの交渉に出かけていった。 彼らが話し合いのテーブルに着いて「あいりん地域のまちづくり検討会議」がスタートしたのが3年目。2014年9月から12月にかけて小学校の体育館を使って、6回の会議が行われた。傍聴席からの怒声が飛び交うなかで鈴木教授が会議をすすめていくさまは、すべてネット上の動画で見ることができる(The Voice of Nishinariホームページ参照)。

2015年1月にはようやく、一連の改革の「象徴」ともいえる、老朽化した「あいりん総合センター」(1970年竣工)の建て替えに道筋がついた。この一連の経緯を「当事者中の当事者」である鈴木亘教授が詳細に描く。あいりん地区には「人口減少、高齢化、貧困」という日本の大問題が凝縮されており、本書を通じて読者は、これらの問題について深く考え、地域が主体となってこれらの問題に取り組むヒントを得ることができる。

470頁に及ぶかなり分厚い本ですが、ページをめくるごとにはらはらどきどきが続き、途中でやめられない絶品のドキュメントになっています。

それを読み通した上で、最後の第20章の「直接民主主義の勝利」を読むと、そこで言われている「ハブになることの重要性」という言葉の意味がよくわかります。

|

« 水川浩之『雇用が変わる』 | トップページ | ブランパン『ヨーロッパ労働法』 »

コメント

>中身を読まずに想像すると、橋下市長の下で特別顧問になったネオリベ経済学者が、・・・

「賦課方式が諸悪の根源」などと、地に足のついていない議論をしていたあの鈴木亘氏が、おっしゃるとおり「全く逆」に、地に足をつけて物事の解決に当たっていたとは。

状況が人を変えるとまでは言えないかもしれないが、人ってわからないものですね。

kohchanさまも地に足がついた話がいつかできるかもしれませんから、勉強がんばってね。(ここのブログはもちらん、この本も熟読玩味するとかして。間違っても橋下ブレーンの親玉格・堺屋太一みたいのを見習ってはなりませんぞ~)

投稿: 原口 | 2016年10月19日 (水) 12時51分

原口さん
ありがとうございます。

投稿: kohchan | 2016年10月19日 (水) 18時11分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/3288/68013176

この記事へのトラックバック一覧です: 鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』:

« 水川浩之『雇用が変わる』 | トップページ | ブランパン『ヨーロッパ労働法』 »