« メンバーシップ型学校教育の情意考課 | トップページ | これは買わないと・・・・ »

副業・兼業と労働法上の問題

今朝の朝日新聞が1面トップででかでかと「副業・兼業、拡大へ指針 政府、企業に容認促す」という記事を載せています。

http://www.asahi.com/articles/ASJBQ77GCJBQULFA009.html?iref=comtop_list_pol_n01

政府は、会社員が副業・兼業をしやすくするための指針づくりに乗り出す。会社勤めを続けながら、勤め先に縛られない自由な発想で新しい事業を起こしたい人を支援し、経済の活性化につなげるのが狙い。24日に開く「働き方改革実現会議」(議長・安倍晋三首相)の会合で、副業・兼業の環境整備を進める方針を打ち出す予定だ。

 日本では社員の副業・兼業を就業規則で禁止・制限する企業が圧倒的に多い。「働き方改革」を掲げ、柔軟な働き方への移行を目指す政府内には、一つの企業に定年まで勤める終身雇用を背景に「大企業が優秀な人材を抱え込みすぎだ」との見方が強い。就業規則を見直すときに必要な仕組みなどを盛り込んだガイドライン(指針)を策定し、企業の意識改革を促す。

 副業・兼業を容認するよう法律で企業に義務づけるのは難しいため、容認に伴って起きる問題への対応策などをまとめた手引をつくることで、労務管理の見直しを支援することにした。・・・

Bmbj273077116887x_1 官邸方面からのリークっぽい記事ですが、最近確かに副業に関する記事が目立ちます。東洋経済も本日発売の最新号で「副業のススメ」を大特集しているようですし、育休世代の中野円佳さんも、ヤフーニュースでこの問題を取り上げています。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakanomadoka/20161021-00063474/

(ちなみにこの一つ前では個人請負型就業についても取り上げていて、いずれも経済産業省の研究会のテーマであるようです)

そこで、せっかくなのでこの問題を考える際に最低限念頭に置いておくべきことを3ヶ月ほど前に簡単にまとめておいたことがあるので、ここで公開しておきます。

 ロート製薬が副業を容認するなど、最近また労働者の副業・兼業が話題になっています。政府機関でも、今年3月11日の経済財政諮問会議で、有識者議員4人(伊藤元重、榊原定征、高橋進、新浪剛史)から提出された「600兆円経済の実現に向けて~好循環の強化・拡大に向けた分配面の強化~」が、「生産性の高い働き方の実現」の②として「兼業・副業の促進」を掲げています。

・副業を希望する者は、近年増加(2012年合計368万人)。低所得者層と、男性の中高所得層で兼業・副業の意向を有する者が多くみられることから、所得を向上する観点と、高い技能を活かす観点の双方の理由があることが示唆される。

・後者について企業の中には兼業・副業を容認する動きもある(図表26)。キャリアの複線化、能力・スキルを有する企業人材の活躍の場の拡大や大企業人材の中小企業・地域企業での就業促進などの観点から、積極的に兼業・副業を促進してはどうか。

・その際、兼業・副業の場合における総労働時間の把握や雇用保険の適用関係など、兼業・副業に必要な環境整備について検討し、ガイドライン等を示すべき。

 これはマスコミでも結構話題となりましたが、今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2016~600兆円経済への道筋~」には結局盛り込まれませんでした。しかしこの問題は、今後政府の規制改革の課題として議論されていくことが予想されますので、今回はこの問題をめぐる法政策状況を概観したいと思います。

 まずもって、日本国の法律は民間労働者の副業・兼業を禁止していません。ただし、企業がその就業規則で従業員の副業・兼業を禁止することはあり得ます。というか、現実にはそれが圧倒的多数でしょう。

とはいえ、就業規則で兼業禁止だからといって、直ちにそれが有効と認められるわけではありません。むしろ累次の裁判例は、原則として兼業を認めるべきであり、例外的な場合のみ禁止できると判示しています。事件の多くは兼業した労働者に対する懲戒解雇の事案ですが、最近注目を集めた裁判例としては、マンナ運輸事件(京都地裁 平24.7.13判決 労働判例1058号21頁)が兼業を許可しなかったことを不法行為と認めた事案です(『ジュリスト』2013年9月号に筆者の判例評釈)。

 こうした判例の傾向を受けて、2005年9月の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告書」においては、兼業を禁止したり許可制とする就業規則や合意を原則として無効とすべきと提言されたこともあります。

労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であり、労働者は職業選択の自由を有すること、近年、多様な働き方の一つとして兼業を行う労働者も増加していることにかんがみ、労働者の兼業を禁止したり許可制とする就業規則の規定や個別の合意については、やむを得ない事由がある場合を除き、無効とすることが適当である。ここで、やむを得ない事由としては、兼業が不正な競業に当たる場合、営業秘密の不正な使用・開示を伴う場合、労働者の働き過ぎによって人の生命又は健康を害するおそれがある場合、兼業の態様が使用者の社会的信用を傷つける場合等が含まれることとすべきである。 

 ただし、一方では兼業を一般的に認めることにより現行労働法上生じ得る問題点も指摘しています。

ただし、兼業の制限を原則無効とする場合には、他の企業において労働者が就業することについて使用者の管理が及ばなくなることとの関係から、労働基準法第38 条第1 項(事業場を異にする場合の労働時間の通算)については、使用者の命令による複数事業場での労働等の場合を除き、複数就業労働者の健康確保に配慮しつつ、これを適用しないこととすることが必要となると考えられる。

これについては、労働時間の通算規定の適用を行わないこととすると労働者の過重労働を招き、結果として社会的なコストが増大するのではないかとの指摘も考えられるが、個々の使用者に労働時間を通算することの責任を問うのではなく、国、使用者の集団が労働者の過重労働を招かないよう配慮し、労働者自身の健康に対する意識も涵養(かんよう)していくことがより妥当ではないかと考えられる。

 この時は、労働契約法についても就業規則の不利益変更問題や解雇の金銭解決問題、さらには同時に審議された労働時間法制ではいわゆるホワイトカラーエグゼンプションが大きな論争点となり、結局兼業禁止の原則無効化といった相対的に細かな(とはいえ法的な突っ込んだ検討が必要な)トピックは、まともに議論されないまま先送りにされてしまいました。

 なお、上で指摘されている労働時間の通算規定というのは労働基準法38条1項です。

38条  労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

 同じ会社の別の事業場で働いても通算するというのは当然ですが、この条文について労働行政当局はかつてから、事業主を異にする場合も含まれると解釈してきているのです(昭23.5.14 基発769)。

 労働時間規制には、労働者の健康と安全確保を目的とした“物理的労働時間の規制”という側面と、賃金と並ぶ労働者の“労働契約条件としての労働時間の規制”という側面があります。前者の観点からすれば、事業主を異にするからといって保護すべき労働者の健康と安全への影響が変わるわけではないので、複数事業主間で労働時間を通算すべきことは当然かもしれません。一方、後者の観点からすれば、労働基準法37条に基づく時間外・休日労働の割増賃金のような労働契約条件は、個々の使用者と労働者の間の問題である以上、複数事業主間で労働時間を通算することはむしろ筋が通らないということになります。

 現在の日本においては、年少者や自動車運転手を除けば、一般的な物理的労働時間の上限規制は存在しません。しかし、労災補償法制および労働安全衛生法制において、脳・心疾患に関する認定基準(平13.12.12 基発1063)や医師による面接指導義務(労働安全衛生法66条の8)といった間接的な規定が存在します。

これらは直接的な労働時間規制ではないとはいえ、兼業禁止をめぐる議論において無視してよいものとも言いがたいでしょう。仮にこの認定基準に基づいて労災認定がされた場合、労災保険の法律上の根拠は労働基準法の労災補償責任である以上、その責任は誰にあるのか、という問いを避けられないからです。また、安全配慮義務に基づく労災民事訴訟の場合は、安全配慮義務と兼業容認義務との関係が問題となるでしょう。

 とはいえ、上記研究会報告もいうように、「労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由」であり、労働時間が問題となる雇用労働以外の、自営業やボランティア等で過重労働することには何らこの労働時間の通算規定は及ばないのですから、これを決め手とするのはやはり穴のあいた議論と言わざるを得ない感があります。それこそ、徹夜でネットゲームし続けることだってあり得るわけですから、広い意味での過重労働対策は「労働者自身の健康に対する意識も涵養」することにあるというのも確かです。

 ちなみに、多重就労者の労働時間通算等に係る米英独仏蘭5カ国の法制度をとりまとめた報告書(『多重就労者に係る労働時間管理の在り方に関する調査研究報告書』)が、2011年3月に三菱UFJリサーチ&コンサルティングより出されています。竹内(奥野)久、神吉知郁子、富永晃一、関根由紀、本庄淳志の各氏による詳細な紹介と分析がなされており、この問題を考える上で参考になります。

 労働法上の問題としては、労災保険、雇用保険といった労働保険上の取り扱いをどうするかという問題もあります。このうち、労災保険上の一つの問題だけは2005年の労災保険法改正で解決しています。それは、二重就業者が本業の勤務先から副業の勤務先へ移動する途中で災害に遭った時に「通勤災害」として認める――というものです。ただ、実はこの時、労政審労災保険部会では通勤災害だけでなく、労災保険給付の算定基礎となる平均賃金をどう考えるのかという問題も提起されていました。この時には決着は付かず、2004年12月の建議では、

なお、複数就業者に係る給付基礎日額の算定方法の在り方については、複数就業者の賃金等の実態を調査した上で、労災保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめに示された考え方を参照しつつ、専門的な検討の場において引き続き検討を行うことが適当である。

――とされており、そのままになっています。

 ここで引き合いに出されている「労災保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめ」を見ると、両事業場での賃金を合算すべきとしていました。

…労災保険給付額の算定は、被災労働者の稼得能力をできる限り給付に的確に反映させることが適当であると考えられることから、二重就職者についての給付基礎日額は、業務災害の場合と通勤災害の場合とを問わず、複数の事業場から支払われていた賃金を合算した額を基礎として定めることが適当である。

 しかし、この方向での改正は行われておらず、現在も「業務災害又は通勤災害による労働不能や死亡により失われる稼得能力は2つの事業場から支払われる賃金の合算分であるにもかかわらず、実際に労災保険から給付がなされ、稼得能力の填補(てんぽ)がなされるのは片方の事業場において支払われていた賃金に見合う部分に限定される」(上記とりまとめ参照)という状態が続いています。

 最近の裁判例では、国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地裁 平26.9.24判決 労働判例1112号81頁)が、同じ施設内で機械警備および設備管理と清掃業務を別の請負会社に雇用されて、1日のうちに続けて就業していた労働者が過労死した事案で、原告側の合算すべきという請求を退けています。現行法上はそうせざるを得ないのですが、法政策上はそのままでいいのか議論があってしかるべきでしょう。

 経済財政諮問会議有識者議員から指摘されている雇用保険の適用関係についても、同様に10年以上前から議論はされています。2006年2月の「雇用保険基本問題研究会」の「議論の整理」では、

いわゆるマルチジョブホルダーのうち、個々の就業においては短時間労働被保険者としての適用要件を満たさない者について、一定の範囲で適用することはできるか。仮に適用する場合、何をもって「失業」、「離職前賃金」、「被保険者資格取得」等ととらえるのか。

――という問題提起がされていました。しかしこちらもその後、雇用保険の見直しはひんぱんにされる中でずっと先送りされ続けています。こちらは、「失業」という保険事故をいかなる性格のものと考えるのか――という深く突っ込んだ議論が必要になるだけに、なかなかおいそれと手を付けかねるのでしょうが、やはりそろそろ本格的な議論をしなければならない時期が近づいてきているように思われます。

|
|

« メンバーシップ型学校教育の情意考課 | トップページ | これは買わないと・・・・ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/3288/68081296

この記事へのトラックバック一覧です: 副業・兼業と労働法上の問題:

» 社員の副業拡大等も「刃先のある有刺鉄線」 [シジフォス]
補選の結果を受けて、ネット等にも連合や民進党指導部批判が渦巻いている。新潟県知事選後の朝日川柳にも<連合の子分か「村」の政治部か><脱原発 脱連合とのセットかも>などが選ばれていたという(苦笑)。20年いた古巣であり、実情は誰よりも判り、もっと「批判」もできるが、解散総選挙むけの野党分断工作に乗せられるてはならない。参院選で示された統一したアベ暴走批判の流れを、市民を中心に再構築する必要があり、国会内外を含めて頑張ってもらうしかない。自分も少し綴りすぎたことを反省し、「労働課題」における統...... [続きを読む]

受信: 2016年10月25日 (火) 06時32分

« メンバーシップ型学校教育の情意考課 | トップページ | これは買わないと・・・・ »