高橋琢磨『21世紀の格差』、本田重道『なぜ、私の歳をきくの?』
昨日は、高齢者活躍支援協議会のシンポジウムで基調講演をしましたが、さっそくアドバンスニュースに記事が載っているようです。
http://www.advance-news.co.jp/news/2016/10/post-1999.html
・・・この日は、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎・主席統括研究員が「変わる中高年の雇用環境」と題して講演。濱口氏は、日本型雇用システムが生まれ、定着した歴史を紹介しながら、システムの中核に男性中心の「無限定正社員」モデルがあるとして、スペシャリストが育ちにくい就労環境がそのまま高齢者就労のネックになっていることを示唆した。・・・
そのうちYouTubeにも載るそうなので、見てみたいという奇特な方はどうぞ。
さて、講演後、聞きに来られていたお二人の方から直接御著書をいただきました。
お一人は高橋琢磨さんで『21世紀の格差』(WAVE出版)というかなりの分量の大著です。
http://www.wave-publishers.co.jp/np/isbn/9784872907599/
オビに曰く、「ピケティが書かなかった日本の格差問題と解決策」。
目次からも分かるように大変広汎な分野にわたって論じておられますが、その中には雇用労働政策に関わる提言がいくつも盛り込まれています。
まず「第1章 特殊な道を歩んだ日本の平等」が、戦前、戦時下、戦後という歴史的観点から日本型システムの特殊性を論じていて、私の視点と重なるところが多いです。
その第6節「労働市場の二層構造と生活の二極化」では、村上泰亮らのイエ社会論をベースに、ゲーム理論も使って論じていますが、その中に私の名もちらと出てきます。
・・・労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎は、就職活動が日本で以上に盛り上がりを見せるのは、村上のいう「イエ」への入居を求める、つまりメンバーシップ獲得競争だからとの見方を示す。つまり「イエ」メンバーである正規雇用者と、ノンメンバーである非正規雇用者という区別だ。・・・
・・・若者の労働報酬を押さえ込むことこそが、結婚できない、子どもを持てない、少子化、デフレ現象という悪循環を生んでいる。かつての「イエ」全盛の時代へ戻れる、戻るべきだといった硬直な考えを踏襲してきた日本社会はあまりにも無責任だったといえる。・・・
その次の第7節「若者を虐待する日本の雇用」では、POSSEの今野さんの『ブラック企業』を引きながら、ブラック企業が日本型雇用の「命令権」の濫用から生み出されていることを論じ、
・・・特に日本では、社会的な「イエ」にとどまった者と「イエ」から追放された者との二極化した生活スタイルが展開されている。・・・この二極の生活のミクスチャーの中で、日本の少子化は進展し始めたのである。
と訴えています。
次の第2章は金融緩和などのアベノミクス批判ですが、その後の第3章では再び「流動的な労働市場の構築」や「人生二毛作時代の対応策」「青年男女の最適な就業パターン」「新しい老化モデルと高齢者の労働参加」など、雇用労働政策に関する提言が陸続と繰り出されていきます。そのモデルとして示されているのはスウェーデン社民党政権のレーン・メードナーモデルです。
それを基準にして日本の現状をこう辛らつに批評しています。
・・・日本企業でも、頻繁にリストラが行われるようになった。欧米では勤続年数が短い者から解雇されるという慣行があり、労使の協約にもその点が明記されている。・・・しかし日本では図14に見るように、勤続年数の長い人は賃金の後払いにより生産性以上の報酬を受けている。このため、日本ではリストラと言えば中高年が狙い撃ちされる。
こうして日本企業でも、暗黙的な長期雇用の契約が反故になったと考えられるようになった。つまり「イエ」モデルに合致していないという意味である。
それにもかかわらず、期待値としての「イエ」モデルは有効であるとの前提で、春闘が行われている。そして春闘は、いつの間にか、家庭の再生産をするための闘争という原点を見失っている。・・・
高橋さんは、
1943年岐阜県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。MBA(カルフォルニア大学バークレー校)、論文博士(中央大学)。野村総合研究所時代には、ニューヨーク駐在、ロンドン支店長、主席研究員などをつとめた。北海道大学客員教授、中央大学大学院教授などを経て評論活動に。著書に『戦略の経営学』(ダイヤモンド社)、『中国市場を食い尽くせ』(中央公論新社)、『マネーセンターの興亡』(日本経済新聞社)、『アジア金融危機』(東洋経済新報社)、他多数。
という方で、金融をメインに経済全般を論じてこられた方のようですが、正直今まで雇用労働問題についてこれほどに見識のある方であるとは知りませんでした。
たまたま講演会でお目にかかる機会があったので、いくつか他の著書も読んでみようかと思います。
もうお一人は本田重道さんで『なぜ、私の歳をきくの? 年齢不問社会の提言』(飛鳥新社)という、タイトルからしてまさに年齢差別禁止を訴える本です。
http://www.asukashinsha.co.jp/book/b61291.html
「はじめに」によると、
・・・私は長年、日本のある弱電メーカーで、技術者として働いてきました。その折、常に頭の中にあったのは、社長であり師でもあった井深大さんが、ことあるごとに言われた「人のやらない事をやろう」という言葉でした。
一度しかない人生です。私は定年を迎えるにあたり、前々からの夢だった「水耕栽培」の研究をしようと心に決めていました。
そのため、庭に小さな温室を作りました。また、研究は基礎が大切だと、東京農大でセミナーを受けたり、放送大学に編入もしました。ところが学ぶうちに、「生体の成長」➜「細胞の成長」➜「細胞分裂中止」➜「細胞の死」➜「生体の死」➜「寿命」➜「加齢」➜「年齢」へと問題意識が発展しました。当初の植物学はどこへやら、これも人のやらない事だと、「年齢制度の是非」というテーマにのめり込んでいったのです。
その結果、これからの日本に必要なのは、年齢を問わない社会の実現だと、次第に意を強くしました。・・・
なんだか、限りなく風が吹いて桶屋が儲かったような因果関係ですが、そこからこうして一冊の本に結実するまでに年齢という問題に取り組んでこられたわけです。
実は冒頭で紹介した昨日の高齢者活躍支援協議会での講演資料の初めに出て来るのが「年齢に基づく雇用システム」がいかに形成され、法的強制され、再編強化され、転換が試みられたかという歴史的な話だったのです。
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