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2016年9月16日 (金)

フランス労働法の「破棄確認」

254_hp『季刊労働法』秋号ですが、特集記事は別にして、興味深い論文があります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/post-c6df.html

フランスにおける破棄確認(prise d’ acte)の確立と展開

同志社大学大学院博士前期課程修了 吉井謙太・同志社大学准教授 荻野奈緒・同志社大学教授 土田道夫

一言でいうと、長時間労働やハラスメントなどブラックな職場環境に耐えかねて、形の上では自己都合退職したような場合に、その責任は使用者側にあるんだぞお、といって、不当解雇の補償金を得られるという仕組みです。

これが、過去十数年の判例でいかに確立してきたかを詳細に追いかけた論文ですが、そこはプロ仕様の部分なので関心ある人が読んで下さい。

ここで重要なのは、日本にどうインプライできるか。

不当解雇には金銭補償が原則のフランスと異なり、法律上不当解雇には「無効」という効果を与えてしまっている日本では、自己都合退職が無効だと言ってみても仕方がない。そもそも、そんなブラックな会社に戻りたくはない。

実際は、労働局のあっせんや労働審判では金銭解決が大部分なので、まさにこういう職場環境による自己都合退職を一定の金銭支払で解決しているケースが結構あるわけですが、それが正面からきちんと位置づけられにくくなってしまっているわけです。

しかし、そういう労働契約法的思考だけで論ずるべき問題でもないのです、この問題は。

そう、これは雇用保険の特定受給資格者問題と表裏一体なんですね。そして、現実にハローワークの窓口では、使用者の書いた離職票では自己都合退職になっているけれども、実はこれこれの理由で云々、というトラブルが日々絶えないわけです。

労働契約法の世界でこの問題を取り扱おうとすると、解雇の金銭解決制度をどう仕組むかというしちめんどくさい話をくぐり抜ける必要がありますが、雇用保険法上の特定受給資格者の要件の局面で考えると、この仕組みは結構応用可能な面がありそうな気がします。

ちなみに、使用者側が一定のお金を払うという意味では金銭解決ではないけれども、結果的に離職労働者が貰えるお金が増えるという意味ではそれに準ずるような解決として「離職理由の変更」というのがあります。自己都合退職を会社都合に変えるという解決です。

Koyoufunsou私の調査では、労働局あっせんでは324件中2件(0.6%)、労働審判では452件中6件(1.3%)、裁判上の和解でも193件中2件(1.9%)ありました(『日本の雇用紛争』78ページ~79ページ)。

これをもう少し公式的なものにするというやり方はあり得るのではないでしょうか。

(参考)

Rishoku

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コメント

Bloombergに「賃金アップより安定志向 転職に消極的な日本 デフレ脱却の足かせ」という記事が本日アップされております。
何ともそれを読んだ後でエントリを見ますと、賃金アップに政権維持の運命をかけてきたかのような今日、上記記事とともに日本のこんがらがった慣習の打破は不可欠と思われまして・・・しかしその安定志向という帰結のプロスペクト親和性というか、家計負債経済を含めた解決法がないと、当事者たち自身がテコでも動かない心理的要素の解釈にわたくしは親和してしまいます。
フランスとは違い、擬制中間組織がすっぽり抜けてしまった今の日本ですから、その再構築は望まれますねえ。
大企業はガチガチに監視されヘマはやれませんから、要は過小資本の使用者と労働者の関係が本エントリの日本での対象物ということになるのでしょうかねえ、はまちゃん先生?

投稿: kohchan | 2016年9月16日 (金) 15時12分

久しぶりのコメントです 〜年度末のパフォーマンス評価とそのトレーニングやら、次年度報酬改定に向けたマーケットのサラリー調査やら、果てはXmasパーティ会場の検討やらでテンテコ舞いの2週間でした…。

さて(初っ端から)論点は少々ズレますが…、働き方がジョブ型かメンバーシップ型かを問わず、やはり離職するワーカーにとって最大の関心事は「次のいい仕事がいかに早く見つかるか?」ではないでしょうか。もちろん、先立つ物としてのcashは〜会社からも失業保険からも〜少しでも多く貰えるに越したことはありませんが…現役引退者は別として カネが多少増えても次の仕事に就けなくなるリスクがそれ以上に増えるようであればそっちを避けたいと考えるのが自然でしょう。

その点、どんな状況であれ「会社都合」による離職が複数回ある人をわざわざマーケットから雇い入れる理由は会社側にはありません…。また、統計データを調べた訳ではありませんが、おそらく離職期間が長引けば長引くほど次の仕事に就ける確率は逓減するでしょう。

すると、よい会社で職を得たいと思う人には、会社都合というワイルドカードは人生で一回しか使えないのですね。二回目以降は使えば使うほどキャリア上の評判を落としてしまう。よって、たとえそれが本当に「会社都合」に相当するブラックな理由であっても、常識的に考えればわざわざバカ正直に自らをハイリスクにさらす失態は避けるはず…。

どの世界でもその社会にしっかり食い込んでジョブを得て生き抜いていくためには、いっときのカネより大切なものがある…それはきっと自分の「評判」であり、履歴書では隠せてもレファレンスチェックで明らかになってしまうものです。

やはり自分の評判を落とさないためにも、入りたい会社がブラック企業かどうかの見極め(会社の評判)はクリティカルでしょうね。

投稿: 海上周也 | 2016年9月16日 (金) 22時15分

どこでもOKキャリア攻撃型セクターと、決まった労働で安定して長期を見通したい主義型セクターは、ガラッと違いますねえ。
悪さをするであろう企業性悪説に依って上記のように社会契約の大網をかけることは、ミクロ部分での安定剤として投薬すべきですね。

レファレンスチェックは使用者側にある固有のものであった時代を、これまた社会契約により汎用化させるといいのです。クリティカルは自己責任の言い換えになりますから、労使の力関係が偏在する日本でそれを求めるのは、大学に対して「真っ当な奴を社会に出せよな」論と同じでしょう。でも真っ当な大学ってそもそもどれくらいあると思われます?教員が学力不足で苦労している様を報道されているでしょ?
わたしは関わりたくありませんよ、そのレベルの学生には。そここそまずは大学問題の肝だと思われますが。

投稿: kohchan | 2016年9月17日 (土) 08時43分

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