フォト
2024年10月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
無料ブログはココログ

« 性別・年齢等の属性と日本の非典型労働政策@『JIL雑誌』7月号 | トップページ | 捨ててあった本・・・・ »

2016年9月26日 (月)

鶴光太郎『人材覚醒経済』

357023鶴光太郎さんから新著『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版社)をお送りいただきました。

http://www.nikkeibook.com/book_detail/35702/

「一億総活躍社会」は政権の人気取り政策ではないかと考える人々も多いかもしれないが、人口減対応・人材強化が日本経済の次なる成長にとって欠かせない条件だ。だが、アベノミクス第2ステージには旧目標と新目標が入り乱れ、混沌の様相を呈している。こうした状況を脱するには「一億総活躍社会」を目指して新3本の矢を束ねる横軸が必要だ。それは「ひと」にまつわる改革。眠れる人材を覚醒させる、教育を含む広い意味での人材改革と働き方改革だ。
本書は、働き方改革の根本は多様な働き方の実現ととらえ、そのためにどのような改革が必要か、どのような社会が生まれるのかを明らかにするもの。

第2次安倍内閣成立後、規制改革会議雇用ワーキンググループの座長として広汎な雇用制度改革の議論をリードしてこられた鶴さんが、その立場から外れて一息入れて思いを書き下ろした本というところでしょうか。

オビに書かれている文句が、鶴さんの思いを結構ストレートに表現していて、左側にでかく「働き方だけで日本は変われる」とありますし、真ん中あたりに小さい字で

「成長のアキレス腱となった無限定正社員システム。

その問題点を解決できるのはジョブ型正社員だけだ。

実力派経済学者が労働改革の具体策を提示。」

という3行が。

この文句からも分かるように、この本は

「元兇は日本の無限定正社員システム」

という原認識から、ジョブ型正社員への移行によって女性、労働時間、高齢者、若者、非正規、等々あらゆる雇用問題を解決に導こうとする意欲的な本になっています。

序 章 人材覚醒――アベノミクス第三ステージからの出発

第1章 問題の根源――無限定正社員システム

第2章 人材が覚醒する雇用システム

第3章 女性の活躍を阻む2つの壁

第4章 聖域なき労働時間改革――健康確保と働き方の柔軟化の両立

第5章 格差固定打破――多様な雇用形態と均衡処遇の実現

第6章 「入口」と「出口」の整備――よりよいマッチングを実現する

第7章 性格スキルの向上--職業人生成功の決め手

第8章 働き方の革新を生み出す公的インフラの整備

終 章 2050年働き方未来図――新たな機械化・人口知能の衝撃を超えて

というところからも窺えるように、その基本認識や政策方向において、私が過去数年来書いたり喋ったりしてきたことと、(若干の違いはあるものの)ほぼ同じスタンスに立っているといってよいように思われます。

実際、本書を読んでいくと、かなりの頻度で私の著書への言及があり、どのあたりで両者の認識がつながっているかが分かるでしょう。

もちろん、法律方面から攻める私と違い、理学部数学科卒業でオックスフォードで経済学の博士号を得た鶴さんですから、随所にそれは現れています。

たとえば、よくわかっていない軽薄な経済評論家ほど「硬直的な労働法が岩盤規制だ」などと言いたがるところで、「我々の心に潜む雇用システムの「岩盤」の打破」という見出しで、雇用システムをゲーム理論を駆使して比較制度分析し、

・・・したがって、雇用制度改革の岩盤は、個々の労働規制というよりは、むしろ我々の心の中にあると考えるべきである。

そうであるのならば、無限定正社員にまつわる諸問題を解決するためには、我々の頭=「岩盤」に「ドリル」を向けなければならないのだ。・・・

と明確に言ってのけます。ここで用いられる「ナッシュ均衡」「共有化された予想」「制度的補完性」といった概念は、私が法社会学的な言葉を使って何とか表現しようとしていたことを、軽々と見事に言い表していて、やっぱ経済学者さすが、という感想を抱かせます。この辺は、鶴さんが以前在籍していた経済産業研究所の故青木昌彦さんの影響もあるのでしょう。

上記目次をみて、1章だけやや他と異なる匂いを醸しているのが第7章の「性格スキルの向上--職業人生成功の決め手」というものです。いやこれ、正直言って、鶴さんがなぜ本書にこうして盛り込んだのかよくわからないのですが。

« 性別・年齢等の属性と日本の非典型労働政策@『JIL雑誌』7月号 | トップページ | 捨ててあった本・・・・ »

コメント

はまちゃん先生!最終章の人口知能は人工知能?
トッドになっちゃうもんね(笑)。

ナッシュに予想の共有化とはアルゴリズム思考容認ですなあ。
上記の人工知能は我々でも定義すらバラバラで、たとえばAIとIAを別物とする研究者と、それは延長線上にあるものとする研究者に分かれ、しかし実用化の到達点だけは一致する、いわば100までのひとつ数字を選んでください(条件がありますが割愛)と言われた集団はゲーム理論に従いというか、美人コンテストで最高の知は0を選んだ人…こんな感じを性格スキルの向上で鶴さんは書かれたかなあ。制度的補完性なんて故青木先生というより、コメント以前にも複数回使ったトクヴィルに起源を見てしまいますね。
故青木先生は実に懐深い方思考法の持ち主でした。
小粒になったよなあ。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 鶴光太郎『人材覚醒経済』:

« 性別・年齢等の属性と日本の非典型労働政策@『JIL雑誌』7月号 | トップページ | 捨ててあった本・・・・ »