倉重公太朗編集代表『民法を中心とする 人事六法入門』
倉重公太朗編集代表『民法を中心とする 人事六法入門』(労働新聞社)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.rodo.co.jp/book/9784897616155/
これはなんというか、労働法以外の法律の超簡便な入門書ですね。
労働法の本質的理解を進めるには、その基礎となる労働法以外の基本六法(憲法・民法・刑法・会社法・民事訴訟法・刑事訴訟法)を理解することが極めて有益です。しかし、基本六法については、法学部出身でもない限り、学んでいる方は多くないでしょう。
本書は、人事労務に携わる方や社会保険労務士の方向けに、上記の法律を「人事」向けに特化して解説しています。また、基本六法以外にも、人事労務に携わる方が体系的に勉強することが少ないであろう労働組合法や労働委員会規則、個別労働紛争の解決手続に関する解説もしています。
どれくらい入門書かというと、ここに試し読みできるページが載ってて、冒頭の目次に続いて憲法の総論があって、立憲主義とは何かとか個人の尊重とはそういうことかが、ごくごく簡単に解説されています。でも、よくわからずに勝手なこと言っている人にとってはいい勉強材料かも知れません。
http://mixpaper.jp/scr/viewer.php?id=57aab0a6355f7
まあでもそういう目的ではなく、これは労働法を扱う実務家、人事部員や社会保険労務士が、わきまえておくべき労働法以外の法律知識をコンパクトにまとめたものなので、分量的に一番多いのはやはり民法です。そのはじめの方で、権利濫用の代表的な例としてどっかの温泉とかどっかの松とかがでてきて、その昔法学部を出たきり真面目に勉強していない人にとっては懐かしいかも知れません。
本書はそういういわゆる六法だけでなく、個別労働紛争解決手続や労働組合法・労働委員会規則についても手際よく解説しています。たしかに、労働問題とりあえずのこれ一冊という感じです。
あと、目次には並んでいないのですが、コラムが結構面白いです。
編集代表の倉重公太朗さんは、安西法律事務所の若手俊英で、『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか 労働法の「ひずみ」を読み解く』(労働調査会)や『企業労働法実務入門』(日本リーダーズ協会)などで有名です。
所属する経営法曹会議の『経営法曹』185号で、拙著『日本の雇用終了』を書評していただいたこともあり、その見識にはいつも敬意を表しているところです。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/post-6182.html(倉重公太朗さんの『日本の雇用終了』書評)
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こういうコンセプトの本、確かにありそうでなかったですよね…。かつての私自身(経済学部卒)もそうでしたが、法学部出身でない人事労務担当者にとって最大のチャレンジは、やはり労基法を中心とする複雑難解な雇用法全般の理解です。とくに初学者が独学で学ぶ場合、本書のような参考書はきっと大いに役に立つでしょう。
その点、私は大変幸運でした…。二十代を過ごした日系化学メーカーの工場労務担当者時代、最初についた先輩が京大法学部出身の優秀な方で、丸一年マンツーマンで毎週off JT勉強会を実施して頂きました。ポケット六法を片手に労基法の条文と判例、それらと自社の労働協約と就業規則と個別労働契約の関係性…。体育会出身、入社一年目のまっさらな頭にここぞと労基法の全体像を刷り込んで頂きました。もちろん労基法は頻繁に改正されますので、その後は都度、自分で勉強してキャッチアップしていかなければなりませんでしたが…。
まあ、学習手段はともあれ、人事担当者はキャリアのできるだけ早い時期に体系的に雇用法全体を理解しておきたいものですね。Hamachan先生ご推薦のコラム欄も含め、私も初心に戻って本書に目を通してみたいと思います。
投稿: 海上周也 | 2016年8月27日 (土) 21時04分