東條由紀彦編著『「労働力」の成立と現代市民社会』
一言で言うと、東條由紀彦史観を全面的に展開した前半と、労務動員や東宝争議といった事例研究を一冊にまとめた本という感じ。
http://www.minervashobo.co.jp/book/b222297.html
前半は、その極めて特殊な用語法がいちいち引っかかるうちはなかなか読み進められないけど、筋道はある意味極めてすっきりとしているので、その掌の上に乗っかればわかりやすいと言えばわかりやすい。
個人的には、12年前に出した『労働法政策』の第1章「労働の文明史」で展開した議論と結構重なるものが多い気がした。
一昨日のユニオンサマーセミナーでもちらりと触れた「正社員体制の原点」を探る試みのうちで、恐らく現在の日本でもっとも深く考え詰めた人だと思う。
本書は市民社会における労働と人格の様相について、近代から現代の移行期を中心に、事例とそこから導き出された理論を展開する。具体的に第Ⅰ部の理論編では、近代および西欧との比較において、現代の雇用契約制、市民社会、国民統合、民主主義をテーマに検討する。また第Ⅱ部の事例編では、戦時期における労務動員の性格、終戦直後に起きた東宝争議、戦後占領期における中小炭坑の組夫と従業員を取り上げる。
このような社会の片隅に埋もれた出来事に光をあて、そこに隠された真実から「全体」を見渡すことを試み、独自の理論を構築した労作である。
« 公益通報者保護制度の見直し@WEB労政時報 | トップページ | 国民とは何か? »
コメント