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「労使自治と三者構成原則」@『損保労連GENKI』2016年8月号

123『損保労連GENKI』2016年8月号に「労使自治と三者構成原則」を寄稿しました。

 これまで3年間にわたり、本誌で「労働法制ニュース」を連載してきましたが、いよいよ今号が最終号となります。そこで、今までの連載を総まとめする意味も込めて、最近再び話題になりつつある労働法制の作り方に関わる問題を取り上げてみたいと思います。

 去る7月26日に、厚生労働大臣の私的諮問会議として「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」が設けられました。労働政策審議会のあり方を見直すということですが、この問題を考える上では、ILOに由来する三者構成原則の意義を改めてきちんと確認しておく必要があります。

 そもそも政労使三者構成なる制度が世界に登場したのは、第1次大戦後ヴェルサイユで開かれたパリ平和会議です。ここで労働条件の国際規制を促進するための常設機関(=ILO)を設置するための条約に向けて審議が進められ、その意思決定機関には各国から政府2名、労使各1名が出席することになりました。現在でもILOの総会や理事会は、政労使3者の席に分かれて議事が進められます。

 実はILO発足当初、日本政府はとんでもない恥をかいたことがあります。1919年ワシントンで開かれた第1回ILO総会への労働者代表として、条約では代表的な労働団体と合意して指名することになっているのに、わが国には未だ代表的な労働団体が存在しないと称して、鳥羽造船所技師長の桝本卯平を送り出し、労働組合から反発を受けたのです。第3回総会では政府が任命した松本圭一が自ら、条約違反として自らの資格を否認されんことを求めるという異常な事態となりました。こうした醜態が繰り返された挙げ句、労働問題の主管官庁がそれまでの農商務省から新設の内務省社会局に移され、日本労働総同盟会長鈴木文治を代表に選出することで決着しました。三者構成原則をおろそかに扱うととんでもないしっぺ返しを喰らうという百年前のこの教訓を、現代の政治家やマスコミ人がどこまでちゃんと理解しているのかがまず第一の論点です。

 戦後日本では労働組合法に基づき三者構成の労働委員会が設置され、さらに労働基準法等に基づき各種の審議会が設けられましたが、何れもILOの原則に従い、三者構成で審議し、立法や政策に関して決定してきました。ところが1990年代後半以降、規制緩和の波が押し寄せるようになり、労働省よりも上のレベルの政府機関が規制緩和路線を打ち出し、労働行政はそれの実行部隊という風に位置づけられてくると、労働省に設置された審議会でいかに三者構成が確保されていても、審議会で議論を始める前に既に外堀は埋まっているという状態になってきました。さらに2007年前後には、当時の規制改革会議からこのような議論が飛び出してきました(福井秀夫労働タスクフォース座長)。

現在の労働政策審議会は、政策決定の要の審議会であるにもかかわらず意見分布の固定化という弊害を持っている。労使代表は、決定権限を持たずに、その背後にある組織のメッセンジャーであることもないわけではなく、その場合には、同審議会の機能は、団体交渉にも及ばない。しかも、主として正社員を中心に組織化された労働組合の意見が、必ずしも、フリーター、派遣労働者等非正規労働者の再チャレンジの観点に立っている訳ではない。特定の利害関係は特定の行動をもたらすことに照らすと、使用者側委員、労働側委員といった利害団体の代表が調整を行う現行の政策決定の在り方を改め、利害当事者から広く、意見を聞きつつも、フェアな政策決定機関にその政策決定を委ねるべきである。

 労使団体は労働問題に関するもっとも切実な利害関係者であるからこそ、その意思決定への参加が必要だというILOの発想を真っ向から否定する議論です。とりわけ、労働者の声を排除してしまおうというこうした議論に対しては、思想的レベルできちんと批判していく必要があります。

 わたしが当時から繰り返し主張してきたのは、ILOが掲げる政労使三者構成原則とは、労使はその二者構成で、即ち労使自治で、労働条件を決めたりさまざまな問題を解決する能力を持っているからこそ、そこに政府を加えた三者構成でものごとを決めることができるのだということです。他の団体、たとえばNGOとかアドボカシーグループなどは、政府にある政策の採用を要求するための活動はできても、自分たちだけでルールを作ることはできません。労使自治こそが三者構成原則の基礎であるということも、政治家やマスコミ人たちに理解して欲しい重要な論点です。

 しかし同時に、ここで引き合いに出されている労働組合が正社員中心で、非正規労働者の声をきちんと代表していないという議論に対しては、労働組合のあり方を見直すことも含め、きちんと対応していくことも必要です。冒頭で述べた労政審の見直し論も、畢竟するところ現在の労働組合がどれだけ非正規労働者や中小零細企業労働者を代表しているのか、という問題に帰着するからです。

 とりわけ現在、非正規労働者の処遇格差問題をめぐって同一労働同一賃金原則が政府から提起され、議論が進められつつある中で、その基準を定め運用していく上で集団的労使関係の役割はこれまで以上に大きなものにならなければならないはずです。この点については一昨年、本誌2014年6月号で集団的労使関係の再構築について取り上げたところですが、労政審のあり方が政府から見直されようとしている今だからこそ、三者構成原則をきちんと守りながらそれができるだけ多くの労働者の声を代表するものとなるような方向に向けて、労働組合自身の覚悟も求められるでしょう。

 現在でも非正規労働者を積極的に加入させている産別もありますが、なお多くの労働組合の取り組みは消極的に見えます。労働組合の裾野を広げ、できるだけ多くの労働者の声を代表する存在になっていくことこそが、一世紀かけて構築してきた三者構成原則をこの日本で守っていく上で重要な一歩となるはずです。

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