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2016年7月20日 (水)

産別最賃は再生できるか?

1607_cover情報労連から機関誌『情報労連REPORT』7月号をお送りいただきました。特集はズバリ「同一労働同一賃金 格差是正をもっと前へ」。

http://ictj-report.joho.or.jp/1607/

特集記事は以下の通りで、おおむねおなじみの皆様によるものですが、

処遇全般を含めて雇用形態間における均等待遇の実現をめざす 安永貴夫 連合副事務局長

正社員とパートタイマーの「宿命」の違いに目を向けて 渋谷龍一 労働ジャーナリスト

「同一労働同一賃金」は「ブラック企業」で働く正社員の処遇を底上げする 今野晴貴 NPO法人POSSE代表

労働契約法20条違反で初の判決 労使に与える影響は? 宮里邦雄 弁護士

「同一価値労働同一賃金」へ「基本給」に踏み込んだ議論を 浅倉むつ子 早稲田大学教授

職務評価の導入こそ格差是正の国際スタンダードだ 遠藤公嗣 明治大学教授

産業別最低賃金の引き上げが「底上げ」の次なる突破口になる 神吉知郁子教大学法学部 国際ビジネス法学科 准教授

1607_sp07_face_2この中でトピックとしてひと味違っているのが最後の神吉さんの文章です。え?いまどき産業別最賃?と思った人も多いでしょうが、賃金論の根っこを論じようとすれば、そこに一つの論点があるのも確かです。

http://ictj-report.joho.or.jp/1607/sp07.html

・・・そこで私は、産業別という規模に注目しています。産業という規模は、国と個別企業の間に位置します。産業規模であれば、個別企業の雇用保障問題とは一定の距離を保てます。また、国のように、ターゲットが広がりすぎて利害が拡散することもありません。このように、産業という規模は、適度な規模感で賃金底上げに役割を発揮することが期待できます。

その際、産別最賃は、地域別最賃の「代わり」になる必要はありません。その産業の労働者のために、公正な賃金を追求することを目的とすべきです。そもそも最賃には、セーフティネットや公正競争、経済発展などさまざまな目的があり、どのような水準が適切なのかを判断することが困難です。これがネックになって、長年、地域別最賃の引き上げは、従来の金額にプラス何円という議論しかできませんでした。生活保護との逆転現象解消という最賃引き上げのエンジンが弱まりつつあるなか、目的とターゲットを絞りこむことが、突破口となるはずです。

・・・高い最賃をアピールできれば、良い人材が集まり、労働者のモチベーションも向上し、企業の業績もアップするという好循環を生み出すことが可能です。企業の支払い能力にとらわれて、低賃金で労働者を使い続けることは、その産業にとって長期的に見ればマイナスです。

そのことを実証するためにも、産業の労使には、一度、思い切って産別最賃を引き上げることを提案します。そのうえで、当該引き上げがどのような属性の労働者にどのような好影響・悪影響が生じたかを検証していただきたいのです。最賃引き上げの実証研究は、日本ではほとんどありません。実は、最賃引き上げによる影響が誰にどの程度及ぶのかよくわからないまま、雇用の減少を心配して抑制的になっているのが現状です。変数が多すぎる地域別よりも、産業ごとに分析したほうがクリアな分析ができます。実際にアメリカでは産業別の実証研究が重ねられ、政策に生かされています。

日本で産業別最賃の大幅な賃上げを実現し、その影響がフィードバックされてきちんと分析されれば、それがモデルケースとなり、地域別最賃引き上げの次なる突破口になるはずです。労使が主導する産業別最賃の意義を再確認することが、底上げの実現になるのです。最賃引き上げが経営や経済全体にとってもプラスであることを示すためには、具体的な成功例が何より有効ではないでしょうか。産業別労組こそそれを実践できる主体として、皆さんに大いに期待しています。

産別最賃の歴史を振り返ると、なかなかそう楽観的な議論をしにくいのも事実ですが、二つに分断された賃金論を結合する道がそこにあるのも確かなので、この議論は是非深めていってもらいたいところです。

(参考)

最低賃金と業者間協定(『生産性新聞』2016年2月15日号)

http://www.jpc-net.jp/paper/zokunihonjinji/20160215zokunihonjinji.pdf

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コメント

各執筆者の掲載記事を拝見しました。やはりというかまだまだ一部の労働学者はILOが推進するジョブ型政策や賃金制度(職務評価と職務給)や産別最賃制に期待を寄せているのですね(hamachan 別エントリの「職業能力の見える化」、外部労働市場諸政策も然り)…。昨今は変わり果ててしまった「経団連」の姿(かつて職務給導入という理想を掲げるも、ある時代の「日本型雇用モデル」の成功に寄りすがったまま90年代以降は「非正規」を確信犯的に推進し、今やメンバーシップ型雇用(属人給)の大礼賛へと転向し開き直ってしまった姿…)を見ていると、この国(ニッポン企業)で働く人たちにいつ社会正義やワークライフバランスが訪れるのかと半ば絶望的な思いがしていましたが、まだまだ労組も学者も奮迅奮闘されてらっしゃる方々がそれなりにいらっしゃるのだなぁと感心しました…。

人も組織も、理想を捨てて変化を拒んだ(現状満足した)段階から緩やかな退化が始まるものだと思います。

投稿: 海上周也 | 2016年7月22日 (金) 06時20分

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