エマニュエル・トッド『家族システムの起源Ⅰユーラシア(上)』
最近はドイツをdisったり、フランスの反イスラムを批判したり、で有名なトッドですが、四半世紀前に『新ヨーロッパ大全』を読んだ時の衝撃は今でも覚えています。
そのトッドの、全世界の家族システムの歴史的展開を壮大にかつ事細かに描き出した大著。
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上巻のアジア編を読んだところで、いくつか感じた既視感をメモ。
まず一番マクロには、中国、ロシア、インド、中東の父系大家族共同体システムが、ユーラシアの遊牧民族と直系家族化していた農耕民族の接触から生まれた、というストーリーが、半世紀以上前に梅棹忠夫が唱えた文明の生態史観を思わせる。
中国自体については、春秋戦国時代には兄弟不平等の直系家族社会だったのが、北方遊牧民族の影響で兄弟平等の共同体家族にかわっていき、名残が南方の福建や客家に残るというイメージは、岡田英弘の中国史のイメージに近い。
日本については、今日ドイツ等とともに世界で数少ない直系家族型の代表である日本におけるその始まりが東国の農民貴族(武士)でそれが広がっていったというイメージは、『文明としてイエ社会』の歴史像によく似ている。
トッドがそれらに影響を受けたとは思えないので、偶然なのでしょうが。
序 説 人類の分裂から統一へ、もしくは核家族の謎
第1章 類型体系を求めて
第2章 概観――ユーラシアにおける双処居住、父方居住、母方居住
第3章 中国とその周縁部――中央アジアおよび北アジア
第4章 日 本
第5章 インド亜大陸
第6章 東南アジア
下巻はヨーロッパと中東。『大全』で近現代史を斬った道具立てで古代にさかのぼる歴史をどう料理するか楽しみ。
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藤原書店十八番の深~い、それもトッドですか。
読むのに体力がいりそうです。
歴史的文化的重層に依拠した分類史観は様々あれども、トッドが近著でははまちゃん先生記述のようにいささか欧州内の個別的文化現象、それもポジティブは一切なくネガティブに綴る書物に慣れている私にとっては「どうしたの?」という感じですね。
トッド自身によるわたくし物語で、仏共産党入党に始まる哲学的思想的遍歴本は興味深く読みました…が、昨今、とくにシャルリ批判に代表される変化?にも日本にもたまに見受けられる大物経営者の経営責任を離れ自由の身となったリタイヤ後に突如それまでの思想から進歩思想へ転向されるかのような社会現象も鑑みますると、存外に個別的な人生という時間軸の蓄積とはあるクリティカルポイントに到達した瞬間からいわば外から見る現象的には激変を起こす進化論的解釈も無視できず、しかし当のご本人からすれば無意識にデフォルトされた心地よいいわば母体の中にいる潜在意識に酔う姿なのかもしれないと、これは実証できませんが思われてこのトッドのエントリを眺めてしまいました。とするとトッドのこれまでの姿は自らが創った創造物で、今のトッドこそトッドなのかもしれませんね。
投稿: kohchan | 2016年7月 3日 (日) 07時18分