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労働法の立法過程-三者構成審議会

厚生労働省が「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」を開催するそうです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000130984.html

平成28年7月26日(火)16:00~18:00に、一回目を開くとのこと。

一昨日の日経に、背景も含めて報じられていました。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC21H0Z_R20C16A7EE8000/ (労政審見直しへ有識者会議 厚労省、非正規労働者の声反映)

厚生労働省は21日、労働政策に関する厚労相の諮問機関「労働政策審議会(労政審)」のあり方などについて考える有識者会議を設けると発表した。増加を続ける非正規労働者などの声を政策決定に反映しやすくする。来年4月の委員改選の時期までに改革案をまとめる。

労政審は公益、労働者、使用者を代表する有識者各10人で作る。新たに設ける有識者会議は「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」。元厚労事務次官の村木厚子氏や、日立製作所会長の中西宏明氏ら13人が参加する。

労政審の見直しのために有識者会議を設けるやり方には「屋上屋を架すようなもので、民間企業ではあり得ない」と疑問視する声もある。

26日に第1回の会合を開く。塩崎恭久厚労相は6月の閣議後の記者会見で「色々な働き方をしている人たちの声がきちんと政策に反映されることが大事」と述べ、労政審の委員構成などを見直す考えを示していた。

この問題を考えるためには、まずは労政審の三者構成がどういう歴史的経緯の上に成り立ってきているかを知る必要があります。

この問題についてはじめに話をしたのはもう11年前になります。2005年10月に国会図書館の調査及び立法考査局で「行政機関における政策形成過程-労働法制を中心に」というテーマで講演したのが最初でした。

http://hamachan.on.coocan.jp/ndl.html

その後、経済財政諮問会議や規制改革会議でいろいろ論じられるようになり、2007年8月に連合に呼ばれてお話ししたのがこれです。

http://hamachan.on.coocan.jp/rouseishin.html (「労働法の立法過程-三者構成審議会」)

やたらに長いですが、一部だけコピペしておきます。

労働法の立法過程の特徴といえば、三者構成原則ということになるが、その歴史や意義については必ずしも明確に認識されているとは言いがたい。近年、内閣府の経済財政諮問会議や規制改革会議から、三者構成原則に対する疑問や批判が投げかけられているが、これに的確に反論するためにも、ここではまず、日本におけるその形成過程、展開過程、そして最近の変容過程を、具体的な例をお示ししながら、歴史的に振り返って説明していきたい。

Ⅰ 日本における三者構成原則の展開

1 ILOにおける三者構成原則の形成とその日本への影響

 そもそも政労使三者構成なる制度が世界に登場したのは、第1次大戦後にその処理を行うためにパリ郊外のヴェルサイユで開かれたパリ平和会議においてであった。この大戦において、日本が連合国の一員として参戦し、アメリカ、イギリス、フランス、イタリアと並ぶ五大強国の一つとして平和会議に参加した。日本の全権代表は西園寺公望侯爵、牧野伸顕男爵ら5人であった。平和会議には問題ごとに委員会が設置され、その一つとして国際労働立法委員会が設けられた。日本からは前農商務省商工局長で工場法制定時の担当局長である岡実ら2人が委員として入り、当時ロンドンに出張していた工場監督官で後に内務省社会局監督課長を務める吉阪俊蔵が補佐についた。

 各国からはサムエル・ゴンパースAFL会長(米)やレオン・ジュオーCGT書記長(仏)のような労働界の大立者が参加していた。ゴンパースが議長となり、イギリス提案の原案をもとに、労働条件の国際規制を促進するための常設機関を設置するための条約に向けて、審議が進められた。その中で特に議論となったのは国際労働総会に出席する代表の議席配分で、結局政府2名2票、労使各1名1票という案に落ち着いた。

 ところが、日本の方はそれ以前の問題があった。誰が労働者代表になるかという問題である。岡代表は「労働組合も使用者団体もない国ではどう選定すればよいのか」と質問している。1900年に治安警察法を制定して労働組合活動を抑圧していた政府では、(内務省内部に改革への志向が生まれ始めてはいたが)なお国際機関に労働組合を公的な代表として送るなどという発想は欠如していた。1919年6月、ヴェルサイユ平和条約が調印され、これに基づき同年10月、ワシントンで第1回ILO総会を開催することが決まった。

 さあ、労働者代表を選定しなければならない。条約第389条は加盟国に、「使用者又は労働者をそれぞれ最もよく代表する産業上の団体がある場合は、それら団体と合意して選んだ民間の代表及び顧問を指名する」ことを求めている。ところが政府は、わが国には未だ代表的な労働団体が存在しないとの見地に立って、総員75名(うち労働組合5名、残りは工場等の代表)の労働者代表選定協議委員会を設け、第3候補であった鳥羽造船所技師長の桝本卯平を選定した。ところがこれに対して労働組合側の反発は猛烈で、またILO総会でもその資格が問題となり、政府代表がわが国産業の実情を説明して何とかくぐり抜けた。

 第2回総会は海事総会で、逓信省が海員組合の代表を選定したので問題は起きなかった。第3回総会では政府が任命した松本圭一が自ら、条約第389条違反として自らの資格を否認されんことを求めるという異常な事態となったが、政府の弁明で何とか乗り切った。第4回、第5回総会でも同様の事態が続き、条約に従って選定すべしとの総会決議が繰り返された。

 こういう状況が、実は労働問題の主管官庁の変化の背後にあった。第3回総会でひどい目にあった農商務省は第4回総会を外務省に押しつけ、国際労働問題の主管官庁がないということを曝露した。当時農商務省の工場監督官として工場法の施行に当たっていた若き日の河合栄治郎は、この問題で上層部と対立し、「官を辞するに当たって」を朝日新聞に発表して農商務省を辞職した。結局、農商務省は国際労働問題を嫌ってこの問題をほっぽり出したと解釈され、農商務省は労働問題に熱意がないという印象を与えた。当時の水野内相は、労働問題のような大きな問題の所管が各省で分かれ、権限を奪い合ったり押しつけ合ったりしているのは遺憾なりとして、内務省に労働問題を統一的に所管する社会局を新設するという案を提出し、農商務省も労働問題を忌避した実績から反論できず、容易に閣議決定に至ったという。このとき労働問題をやりたいと農商務省に入っていた若手は一斉に社会局に異動した。

 新生内務省社会局は、労働組合のみを労働者代表の選定に参加させ(組合員1000人当たり1票)、日本労働総同盟会長鈴木文治を代表に選出した。これは、日本政府が少なくとも国際的には労働組合を含む三者構成原則を受け入れたことを意味する。ところが、日本にはまだ労働組合法がなく、三者構成原則の法的基盤が確立されていなかった。内務省社会局の課題は労働組合法の制定であったが、先進的な社会局案が政府部内で骨抜きとなり、議会までいっても若槻内閣時には衆議院で、濱口内閣時には貴族院で審議未了廃案となり、遂に制定に至らなかった。・・・

2 終戦直後の立法期における三者構成原則の急速な確立

3 日本的三者構成システムの展開

4 規制緩和の波と三者構成原則

5 直近の労働立法と三者構成原則-ホワイトカラーエグゼンプション

6 直近の労働立法と三者構成原則-就業規則の不利益変更

Ⅱ 三者構成原則の基盤としての二者構成労使自治原則

1 二者構成労使自治原則

 そもそも、マクロな労働政策決定における三者構成原則の基盤はミクロな二者構成原則、すなわち労使自治原則である。ミクロレベルで、利害が対立する労使当事者同士がカードを出し合い、どの措置がどちらにとって得でありどちらにとって損であるかということを明確に認識しあった上で、一方的にいずれかが得をし他方が損をするのではない形で妥協に達することを目指して交渉するという能力があることが前提である。

 他の社会集団には、このような二者構成的集団的自治の能力は認められていない。他の利益集団はすべて、特定の利害を代表する集団がそれ以外の一般社会ないし政治的意思決定過程に対して自分たちの利害を主張し実現を目指すというものに過ぎない。これは典型的な圧力団体モデルであり、それゆえミクロに自律した二者構成的自治とは全く異なる。もちろん、当該利益集団内部においては自治原則が働くが、それはあらゆる集団共通のものに過ぎない。問題は利害の明確に対立する二者による自治が存立しうるか否かである。ここが擬似的三者構成システムと真正の三者構成システムの違いである。医師ないし医療関係者と患者集団の間に二者構成的自治は存立し得ない。政府の診療報酬決定という公的メカニズムの上に、利害関係者としてそれらが擬似的に三者構成的に座席を与えられているに過ぎない。

 それに対して、労働関係の三者構成原則とは、本来自律的に決定能力を有する労使という二者構成の集団的自治に公的な権限を付与したものである。このことが明確に示されているのが、労働協約の一般的拘束力制度と最低賃金の三者構成的決定制度であろう。この両者は実は内容的にはほとんど同じものである。実体的にはそれは労使の賃金交渉と政府の公権力行使の組み合わせである。中味を決めるのは労使という自律的利害対立集団であり、そこで成立した妥協に法的拘束力を付与するのが政府の役割となる。

2 欧州諸国における二者構成原則と三者構成原則

3 EUにおける労使立法システム

4 差別禁止立法における集団的自治の困難性

5 三者構成原則への政治的攻撃の思想的基盤

6 参加民主主義としての労使自治

Ⅲ 集団的労使関係原理の再構築

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コメント

政労使による三者構成原則・・・これをニュートン力学のように瞬時に解を諮れる(あるいは、べきとしかとらえられない)と性向の人々(や、政治的組織的優位を目指すことに利用する人)がいらっしゃるとややこしくなりますね。
しかし相対性理論に依って社会や人も動くと考えることができると、原理的呪縛から解放されて、題の解に近づく可能性は断然高まり、その恩恵に最大限の効用を受ける人々から社会に新たな効用、つまりはプラスサム社会が思考実験の帰着として考えられるのですがね。三者それぞれの後ろに変なモノがくっついてると希少性の世界(ゼロサムあるいはマイナスサム)へ誘われますね。等価原理を教育成果のメルクマールにしてくれないかなあ。

投稿: kohchan | 2016年7月23日 (土) 15時26分

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