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「雇用保険制度と年齢」@『エルダー』2016年7月号

Elder 『エルダー』2016年7月号に「雇用保険制度と年齢」を寄稿しました。

高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のサイトに雑誌の全文がアップされています。

http://www.jeed.or.jp/elderly/data/elder/201607.html

http://www.jeed.or.jp/elderly/data/elder/q2k4vk0000008was-att/q2k4vk0000008wd6.pdf

 日本の労働法政策の転換点は1974年末の雇用保険法(失業保険法の改正)であり、とりわけ雇用調整給付金(後に雇用調整助成金)がその象徴ですが、実は失業給付という本体においてもこの転換が起こっていました。今日に至るまで制度の根幹をなしている年齢階層別の給付日数という制度設計が、この法改正によって導入されたのです。

 もともと1947年に失業保険法が制定されたときには、適用においても給付においても年齢などという要件は一切存在していませんでした。原則として全ての労働者について一律に、6か月の被保険者期間があれば180日分の給付が支給されるという簡素な作りだったのです。その後半年働けば半年寝て暮らせるデカンショ保険などと批判されたため、1955年には給付日数を被保険者期間に応じて90日から270日まで段階化する改正が行われましたが、依然として年齢という要件は一切ありませんでした。

 日本型雇用システムの下においては若年層に求人が殺到し、中高年層は著しく就職が困難になるという現象は当時から今日に至るまで何ら変わりません。しかし、1960年代を中心とする「職業能力と職種を中心とする近代的労働市場」を目指した時代においては、だから年齢の高い層の失業給付を手厚くしようというような発想は労働行政にはみられませんでした。

 年齢と給付日数をリンクさせるという考え方を最初に提起したのは1962年の社会保障制度審議会答申・勧告です。「できる限り保険料と給付との比例関係を排し、保険料は能力に、給付は必要に応じる方向に進むべき」、特に「中高年齢層で受給期間中に就職できない者の場合等には実情に即した日数の延長が必要」等と論じていましたが、労働行政は長い間その考え方を採用しませんでした。しかし1973年に開かれた失業保険制度研究会において、当時の同盟が「給付日数は・・・年齢別に検討すべき」と主張し、報告書に「年齢等の就職の難易度に応じて給付日数を定める」と盛り込まれ、紆余曲折の結果1974年末に成立に至ったわけです。これにより給付日数は、30歳未満は90日、30~45歳未満は180日、45~55歳未満は240日、55歳以上は300日とされました。最後の枡目は「55歳以上」であって、上限はありませんでした。

 興味深いのは当時の総評・中立労連がこれを「保険原理の否定」だと批判していることです。担当局長による遠藤政夫『雇用保険の理論』(日刊労働通信社、1975年)では、「このような考え方は保険料負担と保険給付をできるだけ対応させようとする私保険的な考えであり、これに対して雇用保険の考え方は、必要に応じて手厚い給付を行うという社会保障の理念に沿ったものである」と反論しています。

 ところが、その「私保険的な考え」が10年後の1984年改正で再度導入されました。給付日数は年齢階層と被保険者期間の両方によって決まるマトリックス方式になったのです。その際に年齢区分の上限も65歳に設定され、最後の枡目は55歳~65歳未満となりました。そして、65歳以上の者に対しては高年齢継続被保険者として高年齢求職者給付金という一時金を支払うこととし、65歳以上で新たに雇用された者は適用除外とされたのです。その経緯を当時の解説書(加藤孝『改正雇用保険法の理論』財形福祉協会)で見ると、1983年4月27日付け北日本新聞の投書が載っていますが、これが当時の高齢者に対する一般的なまなざしであったことがうかがわれます。

 先日、私の友人は、ある工場で定年まで働き、その後もアルバイトとして68歳まで勤めましたが、寄る年波に勝てず、これが限界だと辞め、失業保険の手続に職安に行って驚いたという。それは、再就職の手続をとってくれといわれたことです。限界を知って辞めたので、他の会社で働くのなら辞める必要もない。以下に高齢者雇用といっても、人生の定年にまでいくらもない老人を、どこの企業が採用してくれるのか、…などと話したが「これは規則だから、一応書いてくれ」とのことだったという。こんな規則は、定年前の人に適用されても、68歳の老人に適用されるものか? 行革問題がやかましい折、こうした決まりが、高齢者に適用される行政に疑問を感じる。…

 こうした流れをみてくると、私保険的かどうかという理念よりも、現実の労働市場が年齢によって大きく条件付けられているという事実に対応することが制度改正の最大の動因であったことが窺われます。その意味で、年齢に基づく雇用管理を基軸とする日本型雇用システムを所与の前提とし、それに即した形で制度設計をするという点で、雇用保険制度は一貫して内部労働市場型であり続けているとも言えます。

 この1984年改正は、65歳前から引き続いて65歳以降も雇用されている者を一般被保険者ではなく高年齢継続被保険者として、一時金である高年齢求職者給付金を支給することとしました。また、65歳以上で新たに雇用された者は原則として被保険者とならないこととされました。これは、65歳以上の高齢者は労働生活から引退する者が大半であり、強制保険を65歳以上の者についても適用することは実態に合わない、という理由です。30年前の常識からすれば、確かにそうであったのでしょう。なおこの時に、雇用保険法で導入された保険料が免除される高年齢者について、60歳以上から64歳以上に引き上げられました。

 今年3月の雇用保険法改正では、失業者のセーフティネット確保の観点から、新たに65歳以上に雇用される者についても雇用保険の対象とされました。ただし、1984年改正前に戻すのではなく、同改正で導入された高年齢者求職者給付金の対象とするというやや中途半端な改正です。また高年齢者に対する保険料免除も経過措置つきで原則通り徴収することとされました。

 こうみてくると、年齢に基づく雇用システムが労働力人口の高齢化と矛盾を来しているその最前線においては、対症療法的にかつて導入された周辺的制度における年齢基準を解消しつつあるとはいえ、制度の根幹においてはなお年齢基準が維持され続けていることが分かります。これが今後どのような方向に向かっていくかは、日本型雇用システムの動向と密接に絡んでいるはずです。

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