フォト
2024年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

« 「定年後再雇用者の賃金格差と高年齢者雇用継続給付」@『労基旬報』2016年6月25日号 | トップページ | シュトレーク『時間かせぎの資本主義』 »

2016年6月25日 (土)

EUはリベラルかソーシャルか?

今日(もう昨日ですが)はイギリスのEU離脱国民投票で世界中大騒ぎでしたが、EU労働法政策などというタイトルを掲げている本ブログからすると、いろいろと感じるところがありました。

もともとEEC(欧州経済共同体)は名前の通り市場統合を目指すもので、ほとんどソーシャルな面のないリベラルなもの。

かつて労働組合がえらく強かった頃のイギリスは、保守党政権時代に勝手にECに加入したのはおかしいといって、1975年に労働党政権が国民投票をやり、離脱票が少なかったので残った経緯があります。ソーシャルなイギリスがリベラルなECを嫌がってた時代。ちなみに、いまのコービン労働党首はこのときの離脱派。

ところが、サッチャーが政権について、労働組合は徹底的にたたきつぶす、最低賃金から何から労働法護法は廃止する、福祉も住宅も教育も片っ端から叩く。ぼこぼこにぶん殴られた労働組合は泣きながらEUに駆け込んで、助けてくれと言い出す。「社会なんて存在しない」というサッチャーにとって、市場統合以上の余計なことにくちばしを入れたがるソーシャルなEUは邪魔者。いわゆる「ソーシャル・ヨーロッパ」の時代。

その後労働党政権になり、EUのソーシャルな労働法も持ち込まれる。これがイヤだという、反ソーシャル・ヨーロッパのリベラルUKという文脈も、一応細々とあって、日経新聞あたりに載る離脱派のEUの規制がどうのこうのというのはこの話。でもそれはメインじゃない。

むしろ21世紀になってから、EUは再び市場統合を旗印に自由市場主義を各国に強制する傾向が強まる。具体的には下記『社会政策』学会誌に書いた一節を参照のこと。

200901・・・ところが皮肉にも、これがEU全体の緊縮財政志向をもたらし、とりわけ南欧諸国における労働法、労使関係の空洞化をもたらしている。
 危機がもっぱら金融危機であった2009年頃までは、破綻した金融機関の救済や企業や労働者への支援、そして大量に排出された失業者へのセーフティネットなどのために多額の公的支出が行われ、それが加盟各国の財政赤字を拡大させた。ところが、その不況期には当然の財政赤字が、金融バブルの拡大と崩壊に重大な責任があるはずの格付け機関によって、公債の信用度の引下げという形で、あたかも悪いことであるかのように見なされるようになった。
 しかも、ここにヨーロッパ独自の特殊な事情が絡む。いうまでもなく、共通通貨ユーロの導入によって、「安定成長協定」という形で加盟国の財政赤字にたががはめられてしまっていることである。本来景気と反対の方向に動かなければならない財政規模が、景気と同じ方向に動くことによって、経済の回復を阻害する機能を果たしてしまうこのメカニズムは、自由市場経済ではなく協調的市場経済の代表格であるドイツの強い主張で導入され、結果的に市場原理主義の復活を制度面から援護射撃する皮肉な形になってしまっている。そしてドイツ主導で進められた財政規律強化のための財政協定が2013年1月に発効し、各国の財政赤字はGDPの0.5%を超えない旨を各国の憲法等で規定し、これを逸脱した場合には自動修正メカニズムが作動するようにしなければならず、これに従った法制を導入しない国にはGDPの0.1%の制裁金を課するという仕組みが導入された。
 このように事態がドイツ主導で進められる背景には、経済危機に対してドイツ経済が極めて強靱な回復力を示し、ドイツ式のやり方に他の諸国が文句を言いにくいことがある。しかしながら、ドイツの「成功」をもたらしたのは、危機からの脱却のために政労使がその利益を譲り合うコーポラティズムである。労働側は短時間労働スキーム(いわゆる緊急避難型ワークシェアリング)により雇用を維持するとともに、さまざまな既得権を放棄することで、ドイツ経済における労働コストの顕著な低下に貢献した。これにより、他の諸国と対照的に、ドイツの失業率はむしろ低下傾向を示した。
 このドイツ型コーポラティズムの「成果」がEUレベルでは緊縮財政を強要する権威主義的レジームを支え、ドイツにおける協調的市場経済の「成功」が結果的に他国におけるその基盤となるべき雇用と社会的包摂への資源配分を削り取っているというのが、現代ヨーロッパの最大の皮肉である。

 もっとも典型的なギリシャを見よう。債務不履行を回避するための借款と引き替えに強制されたのは、個別解雇や集団解雇の容易化だけでなく、労使関係システムの全面見直しであった。2010年の法律で有利原則を破棄し、下位レベル協約による労働条件引下げを可能にするとともに、賃金増額仲裁裁定の効力を奪い、2011年には従業員の5分の3が「団体」を形成すれば企業協約締結資格を与えることとした。これにはさすがにILOが懸念を表明するに至った。 ・・・

ギリシャのシリザとか、スペインのポデモスとか、南欧諸国の反EU運動は基本的にこれに対する対抗運動。リベラルなEUに対して各国のソーシャルな仕組みを守ろうというリアクション。そして、イギリスの反EUの気持ちの中にも結構これが大きい。イギリスはユーロ圏じゃないので直接関係ないのだが、労働党支持層の中でもEU残留に熱心になれないひとつの背景。

そして、どの国にもあるけれども特にイギリスに強い「ヨーロッパはドーバー海峡の向こう側、俺たちはヨーロッパじゃない」ナショナリズムがこれら錯綜するリベラルとソーシャルのぐちゃぐちゃとない交ぜになったのが今日(昨日)の結果なのでしょう。

(追記)

1024x1024 欧州労連のコメントを紹介しておきます。

https://www.etuc.org/press/brexit-vote-eu-must-take-action-improve-workers-lives

“This is a dark day for Europe, for the UK and for workers. It must be a wake-up call for the EU to offer a better deal for workers.

“There is deep disillusionment across Europe, not only in the UK. Austerity, cuts in public spending, unemployment, the failure of Government’s to meet people’s needs, the failure of the EU to act together are turning people against the EU.  Workers want an EU that takes action to improve their lives.

“The EU needs to act decisively to ensure this is not the start of the break-up of the European Union, and does not damage jobs and workers’ rights. 

“The European Union must start to benefit workers again, to create a fairer and more equal society, to invest in quality jobs, good public services and real opportunities for young people.

“The ETUC stands with the British TUC in saying that British workers should not pay the price for Brexit.

“The ETUC will continue and strengthen its fight for a fairer and more social Europe.”

今日は闇の日だ、欧州にとっても英国にとっても労働者にとっても。これはEUが労働者にもっと良い条件を提示せよという警鐘だ。

イギリスだけじゃなくヨーロッパじゅうに深い幻滅が広がっている。緊縮財政、公共支出の削減、失業、人々の必要に応えられない政府、これら全てがEUへの反発に転化している。労働者はEUが彼らの生活を改善するための行動を起こすことを求めている。

EUはこれが欧州連合の解体の出発点ではなく、雇用や労働者の権利を損なうことのないよう断固として行動する必要がある。

EUは再び労働者の利益のために、より公正で平等な社会を作りだし、質の高い仕事、良い公共サービス、若い者の真の機会に投資すべきだ。

ETUCはイギリスのTUCとともに英国労働者は英国離脱の代償を払うべきではないと主張する。

ETUCはより公正でよりソーシャルなヨーロッパへの闘いを続け強める。

(参考)

ちなみに、頭の中が80年代のサッチャー対ドロール時代のまま化石化してしまった人の「初歩的な事実誤認」の実例:

https://twitter.com/ikedanob/status/746734748702146560

初歩的な事実誤認が多い。そもそもEUが各国に「緊縮財政」を求める権限はない。ましてEUを「新自由主義」などという人はいない。その逆の過剰規制が問題だったのだ。

最近20年間のヨーロッパはまったくわかりません、と正直に言えばいいのに。

(おまけ)

なんだか労務屋さんの感想も、EUの規制がががが・・・・という話に集中してますね。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20160627#p1

報道などをみると英国人にとってはこうした規制を強要されることがかなり耐え難いことだったということのようです。・・・

保守党の一部ではそこを強調する議論が多かったのは確かですが、国民の選択の決め手としてはどうでしょうか。基本的には上で書いたように「メインじゃない」と思われます。

今回の結果は上の本文で書いたように、自由な統合市場という面で残留派である保守党の中に(大英帝国の残影を追う)ナショナリズムの側面が強く、他方EU規制を求め守るという面で残留派である労働党の中に(コービン党首を始めとする)そもそも市場主義的なEUへの懐疑派が根強いことなどが、二重三重に絡まり合った結果というべきでしょう。

なんにせよ、これを持ち出して

・・・そこでEU出羽出羽とEUがきわめて素晴らしいように語ることのヤバさというのが今回のbrexitの教訓かなあと、まあそんなことを考えたわけです。

というのは、いささか・・・・・・。

« 「定年後再雇用者の賃金格差と高年齢者雇用継続給付」@『労基旬報』2016年6月25日号 | トップページ | シュトレーク『時間かせぎの資本主義』 »

コメント

簡潔な総括、ありがとうございます。とても分かりやすいです。

リベラル=俺様は俺様だ!
ソーシャル=みんなでやっていこうよ
って理解でいいんですかね?

ええ、そうですね。
ですから、先エントリ紹介のバーニー大健闘は本家英国同様米連邦もぐしゃぐしゃ現象の魁とも思えましょうか。
なにせソーシャルは政治思想的禁句でそれをリベラルと言い換えた人工国家の思想が部分的に崩壊し始めているのですから、それに主に従い各論では独特なシステムで今を築き上げてきた日本も再創造する意味で本ブログをファンクションに一つの参照点として是と非をコメントさせていただいております。
毎度ながら気持ち悪いのは本ブログ称賛のみをすることです。
批判対象である各メインストリームシステムが現存する説明も実験科学とは違い実証とされる統計も解釈(恣意的サンプリング)しだいで正誤は変わり、最後は文化論で一義的に片づけてしまうことしかできないためでしょう。まだ未完成の段階ですがゲノム解析技術の進化が、ドーバー云々に民族別進化論的抽象説明を加えることが可能となればあとは社会科学お得意の「べき論」に進み社会システム論争霧が晴れるのだと思われます。
それまでは残念ながら見聞きに頼る定性的目的論の現代版アリストテレスさんの天下でしょう。アリストテレスさんとガリレオ、ニュートンさんの境界線を綴った(ご批判もありましょうが)端折ったコメントと考えていただけたらと存じます。
しつこいようですが、はまちゃん先生の「ドーバー論」はその通りだと思います。でもね、今に至るまでそれが適用される合理的説明は史実や文化論だけでは足りないのではと思われます。なんとなくそれ皆納得したら、解はありませんよねえ。便利な弁証法で発展法則を創り逃げることは可能ですが、すでにそれを補足強化、あるいは否定できる脳科学も進化中です。ただしこの進化は今まで慎重に避けられてきた民族の適応能力優劣問題を表に出しますから、いよいよ人類に知恵が本当に試される時期も近いのではと思われます(米でも欧州でもじつは顕在化しておりますからタブーではなくなりましたが)。ニュートンさんは2040~2300年頃の長い幅ですがまでに(確か?)人類の歴史は終わるといったような…。その因果も何によってかも知りませんが、確かなことは「地球」はなくならないことだけです。

コメント掲載順を見てびっくりぽんしましたので、その時差で誤解なくと思いましてスンマセン。あたかもコメントへの反応と誤解を受けないように掲載をお願いします。
私の冒頭、「ええ、そうですね」はエントリへの反応です。

グローバリズムに対するローカリズムの反乱

英国民のEUからの離脱という選択について、「グローバリズムに対するローカリズムの反乱」という視点からコメントする。

世界中で経済のグローバル化が進み、先進国は新興国に投資をして、新興国での事業展開を進めてきた。新興国は経済成長の伸び代もあり、利益率も大きいからである。経済のグローバル化は、新興国の発展にもつながった。

世界市場の拡大により、利益は拡大し資本家や企業は恩恵を受けるが、労働者は必ずしもそうではない。グローバル化により、技術が平準化され、労賃も平準化され、国際競争が激化し、その結果、労働者の賃金の抑制あるいは労働条件の悪化につながるからである。

国内の労働コストが高ければ、企業は国境を越えて海外に去ってゆき、国内の産業は空洞化する。その結果、雇用機会が失われる。

また、企業活動にとって国境を越えてヒトやモノの移動を自由にすることは、プラスの側面を持つが、労働者にとっては必ずしもそうではない。技術の平準化や労賃の平準化を促すからである。

まして、移民や難民の流入が、労働条件の悪化や雇用機会の喪失に対する懸念を倍増させている。今回の英国民によるEU離脱の投票結果は、グローバリズムに対して「ノー」をつきつけたローカリズムの反乱といえるだろう。

グローバリズムの問題は英国に限定されるものではない。米国においては、泡沫候補と目されていたトランプ氏やサンダース氏が躍進を遂げた。これも、ローカリズムの動きであろう。フランスでは、政府が雇用対策として労働法の改正を打ち出したが、改正案は労働条件を緩めて(悪化させて)雇用を促そうというもので、全土で抗議デモが続いている。ドイツでは多数の難民が流入して、極右政党が台頭している。

我が国においても、グローバリズムは企業の国際競争力の強化を促し、東京の一極集中から置き去りにされた地方経済が疲弊している。

グローバリズムはどこかでローカリズムと折り合いをつけなければならない。今回のイギリス国民によるEU離脱の投票結果は、グローバリズムの課題を露わにした。

上記記事の論理からは、なんで「ソーシャルな」スコットランドが、英国から独立したがり、EUに残留したがるのかはよくわらないでおります・・。

下記のブログがなかなか勉強になりました。

世界級ライフタイルのつくりかた
○Brexitというパンドラの箱
https://blog.ladolcevita.jp/2016/06/25/pandoras_box_called_brexit/

スコットランドは、エネルギーのEUへの輸出に活路を見ているせいではないですかね。
追記にある欧州労連の認識が的を得ているように感じます。

「緊縮財政、公共支出の削減、失業、人々の必要に応えられない政府、これら全てがEUへの反発に転化している」

あと、「失業」についてはどうでしょう。以下のURLを見ると、失業については、今回の英離脱の要因には因果が薄いように思えます。フルタイムにしろパートタイムにしろ、労働者の多数は残留を望んでいて、その一方、年金世代の多数(特に公的年金受給者)が離脱を望んでいるということなので、より大きな問題は、年金がどんどん削減されそうな予想といった、社会保障削減の部分ではないかと。
EUの緊縮志向に添ってキャメロンが続けてきた緊縮政策が、今回の結果の主因に思います。

移民問題に関しては、年金や社会保障費がどんどん削減されそう(パイがどんどん小さくなる)というなかで、パイを奪い合う人の数を減らしたくなった、というところで関係してくるのではないでしょうか。ですから移民問題はむしろ副次的というか。

http://lordashcroftpolls.com/2016/06/how-the-united-kingdom-voted-and-why/

ありすさんの仰るとおり、EU全体の反EU感情のメインストリームは、ユーロ導入以後のネオリベラル政策と緊縮財政の強制。南欧型反EUはほぼこれで説明可能。
 
しかし、イギリスはそもそもユーロに入っていない。むしろ、もともとEUのソーシャル路線に反発してきた保守党の流れのキャメロンは、自国のコンテキストでリベラルな福祉(再)削減や緊縮政策をやってきたので、それは他の諸国の文脈とまったく別。
 
なんだけど、それが、(80年代的感覚の延長線上で、EUのソーシャルな規制から少しでも逃れるためのマヌーバーとして、EU離脱国民投票という火遊びに手を出してしまった)キャメロン自身の意図を超えて、キャメロン的市場リベラリズムに対する感情的反発の都合の良い標的としてふくれあがってしまったというのが、イギリス(イングランド)におけるメインの流れ。


スコットランドは、まあいろいろ歴史がありましてね。20年前にエジンバラに旅行した時に、本屋に『なぜスコットランドは独立すべきか』なんて本がたくさん並んでましたし。

ほほう、今観たら追記が・・・で、参考でました。
Iさんに味方するわけではありませんが、いつも申すように解釈次第じゃないですかねえ。でも素直じゃないねえとのはまちゃん先生の妙に優しいエスプリ・コメントはいいですねえ。
自然科学と違い、事象は一つではあれど人の数と等しく解釈があることが社会科学系の問題解決の発展の礎なのでしょう。ややこしいですけどね。
欧州問題は大方中東圏までを含む歴史の時間に含有され後世に残されてきたままの支配と被支配の歴史を基にした諸変数をバサッと解に結びつけるには複雑すぎるように思われます。政治団体・国際経済機関・企業・労組、そして民が絡み合う覇権の椅子取りゲームの基である国家を越える国際資本を一概に悪役としても英国の今回の現象はその事実的過去が今現れただけで本質的な問題となるテクノロジーとの共生克服が例えば労組ならば労組ならではの役割であると思われます。そうした取り組みが最近のエントリ内容からも欧州では取り組まれていることが理解できますね。
むろん、本ブログの主旨に絞られた解が必要であることは理解し賛同いたします。

yunusu2011殿

ご指摘の記事を読みましたが、著者は日本でいうとヒルズ族という感じがしました(”全額ポンド建ての我が家の家計資産”とか”私たちにとってベストな都市としてロンドンを選んでシンガポールから移住した”とか”(離脱派の根拠か誤っている事は)全部The Economistに書いてあるから、新聞読めよ”等)
残留派の1つの典型だとは思いますが、イギリスの多数派とは思いません。

反対に離脱派の心情を述べた記事として、
ttp://bylines.news.yahoo.co.jp/bradymikako/20160625-00059237/
”地べたから見た英EU離脱:昨日とは違うワーキングクラスの街の風景”
があります。
  この記事の内容は基本的にはhamachan先生が仰っている事(EUや英政府のネオリベや緊縮への反発)と同じですが、以下の記述が印象に残りました。

・「大企業や富裕層だけが富と力を独占するようになるグローバリゼーションやネオリベや緊縮は本当に悪いと思うけど、それを推進しているEUには残りましょう」と言っても説得力がない。
・ある男性「(投票前に)俺はそれでも離脱に入れる。どうせ残留になるとはわかっているが、せめて数で追い上げて、俺らワーキングクラスは怒っているんだという意思表示はしておかねばならん」
・別の男性「(投票後に、これから大変な事になると言われて)おう。俺たちは沈む。だが、そこからまた浮き上がる」
・残留派の「経済的な脅し」戦略は、失う資産を持っている層には効果的だが、すでに緊縮財政で貧しい生活を強いられている労働者階級には効かないということだ。後者にとってそれよりも大きいのは、現政権やエスタブリッシュメントへの憎悪だ。

10年近く前に”「丸山眞男」をひっぱたきたい”という投稿が話題になりました。
今回の投票では、”あいつら(エスタブリッシュメント)をひっぱたきたい”と思って離脱に投票した人(特に労働者)が多かったのかもしれません。

グローバル化の弊害の克服

世界のグローバル化は後戻りのできない潮流であろう。

グローバル化は、世界的には経済を平滑化するものであるが、局所的にはリソースの集中をもたらす。グローバル化によって新興国は豊かになったという意味で世界的にはリソースは平滑化されたが、世界各国の国内で格差が拡大したという意味で局所的にはリソースの集中が発生した。

国際競争はリソースの集中を促進し、資本家や企業に富が集中した。リソースの東京やロンドンへの一極集中も、局所的な集中の事例だろう。実際、ロンドン市民はEU残留を支持した。

グローバル化がリソースの集中をもたらすからといって、グローバル化を否定するものではない。富の傾斜があるから、経済の成長もあるので、富の傾斜がない平坦な世界などあり得ようはずもない。

グローバル化による行き過ぎた富の集中は、格差の拡大をもたらし、それが経済の不安定化に留まらず、移民の急増や急進的な右翼の台頭などをもたらし社会の不安定化につながる。

また、リソースの集中は、健全な経済の成長を阻害する。グローバル化による富の集中は、国際競争に拍車をかけ、労働者の労働条件を悪化させるとともに、価格競争による物価の下落(デフレ)を招く。また、リソースの集中は地方経済の疲弊を招く。

企業の国際競争力を上げれば、収益の増大が労働者に還元されるというトリクルダウンは成り立たないということが、我々がこの10数年間経験してきたことである。

同じようなことが、世界でも同時に起こりつつあるのではないだろうか。実際、先進国の潜在成長率は2000年代以降下落傾向にある。労働分配率も低下し、労働者の生活を圧迫している。特に、中国やロシア、あるいはブラジルといった新興国の経済が落ち込むと、グローバル化の問題が顕在化して、社会の不安定化につながる恐れがある。

格差の過大な拡大を阻止する必要がある。企業が成長の恩恵を受けるとするならば、労働者に対して、あるいは社会に対して成長の対価を支払わなければならない。世界中の企業が手元資金を蓄積し、成長の成果が労働者にあるいは社会に対して還元されていない。まして、パナマ文書が明らかにした税金逃れなど論外である。

世界のグローバル化が後戻りのできない潮流であるとするならば、我々はグローバル化の弊害を克服する手段を真剣に考えなければならない。一国だけで、解決できる問題ではなく、特にG7諸国が率先して取り組んで行く必要がある。

まず、グローバル化の弊害に対してG7諸国の指導者が共通の認識を持つ必要がある。オバマ大統領も英国民のEU離脱の投票結果に関連して、グローバル化の課題に言及していた。また、グローバル化の先頭にあるEU諸国の首脳こそグローバル化に対して危機感を抱いているはずである。

グローバル化の課題を可視化して、具体的な諸問題をブレークダウンして言語化する必要がある。

筆者は、企業情報の開示によるコーポレートガバナンスは有効な手段ではないかと考えている。コーポレートガバナンスというと、企業の株主に対する責任を問うというのが一般的な認識である。しかし、企業のステークホルダーは、株主にとどまらず労働組合、市民社会、取引先、下請け、金融市場の代表者、監督機関なども含んでいる。

GRIサステイナビリティ・レポーティング・ガイドライン(GRIガイドライン)は、マルチステークホルダーに対して、ガバナンス、企業戦略などの一般開示項目の他に、特定開示項目として経済、環境、社会、人権、製品責任などに関する報告事項を定めている。これらの情報開示により、企業がマルチステークホルダーに対してどのような責任を果たしているのかを問うべきである。

企業情報の開示により、パナマ文書が明らかにする税金逃れを防ぐ必要がある。企業トップが年収10億円以上の報酬を得ている一方で、多くの非正規労働者が時給1000円以下で働くことが正当なのだろうか。企業の社会的な役割を再確認する必要がある。

いろいろと意味付けはできましょうが(私もいたしました。すんません)、大衆の発作的帰結かどうかは検証もなくそうとはいえず、ただいまいえることは歴史に学び「ギロチンを忘れるな!」をキャメロンがうっかり忘れちまってデモクラシーという近代ギロチンボタンを押させちまったということでしょうね。

追記ながら。

まさかですが、私のセクターでも無批判に感染中のエビデンス主義も所詮はノイズ主観を免れません。先人・巨人の肩に乗っただけの文化論的推論ではなくこれは思考実験である!とのコメントであれば皆さまスゴいなあと思います。
国際金融資本は落ち着きを取り戻しておりますから、騒ぎを起こしたい輩への作用反作用リソナンスは無意味かと?長期は解りませんですね。でも選んだんですからね、インナーで。一人ひとりの帰結ですから功利主義のご本家らしくてと思いますが、J.Sミルは否定しますかね(笑)。ピグーもいたか。

シリザやポデモスを支持する層はEUが有っても無くても、規制が強くても弱くても貧乏な人なので、反EU・反メルケルは見せかけでしょう。シリザがEUに妥協しまくって右派とほとんど変わらない改革を受け入れたのも、EUに反対することが自国経済に何の利益もないからです。

グローバル化は貧困層や経済左派や民族主義者にとって分かりやすい敵になっていますが、グローバル化で自国が搾取された(国境閉鎖状態より損をしている)わけではない。配るお金がないのだから貧乏になるのはしょうがない。

EUは、各国が福祉や再分配を増やすことに制限を課していない。それは国家主権の範囲内の話。

労働者に有利な条件云々というのは、基本的に各国政府が決めること。

EU自身が再分配しろという強硬なソーシャルの意見では、イギリスは損をする側。分配についてEUにできることは極めて少ないし、それゆえ責任もほとんど無いと思う。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: EUはリベラルかソーシャルか?:

» グローバル批判がもっとあって然るべきEU離脱 [シジフォス]
さすがに昨日は、開票状況に見入ってしまった。参議院選挙への影響などという「下心」に自己嫌悪を覚えつつ…。TV報道では「日本経済への影響」ばかりが強調されるが、当然、本質はもっと根深い。各紙がどこまで書くかわからないが、自分なりの「感想」を綴ってみたい。なお、左派の正論は金子勝さんのツイッター「英国のEU離脱やトランプ現象などを見ていると、グローバリズムとイラク戦争が、移民難民排斥の極右ナショナリズムを生み、それが政治を壊し、今度は経済をも壊し、それがまた彼らの増殖をもたらす。まるでマッチポ...... [続きを読む]

« 「定年後再雇用者の賃金格差と高年齢者雇用継続給付」@『労基旬報』2016年6月25日号 | トップページ | シュトレーク『時間かせぎの資本主義』 »