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透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会への大竹・鶴提出資料

今朝の日経新聞に、

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC06H0P_W6A600C1PP8000/(不当解雇の金銭解決、10年勤務で月収の8倍 厚労省検討会分析)

という記事が載っていますが、

厚生労働省の有識者検討会は6日、不当解雇の金銭解決の分析結果を公表した。労働審判で企業による解雇が無効と想定される場合、企業が支払った解決金は月収の0.84倍に勤続年数を掛け合わせた金額になっているとした。仮に勤続年数が10年であれば月収の8倍強になる。 

この記事の表現はいささかミスリーディングな感があります。というのは、これは厚生労働省のホームページの該当部分をみれば分かるように、

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000126428.html

あくまでも「資料No.1-1 金銭解決に関する統計分析(大竹委員・鶴委員御提出資料)」であって、有識者検討会自体の分析結果ではありませんし、有識者会議として「公表」したという性格のものでもないからです。あくまでも、労働経済学者である大竹文雄、鶴光太郎両氏の分析結果という位置づけです。

不当解雇の金銭解決についての具体的な水準や基準など「相場観」ともいえる内容が示されたのは初めて。大阪大学の大竹文雄教授と慶応大学の鶴光太郎教授が労働政策研究・研修機構がまとめた雇用紛争に関するデータを使って分析した。

お二人が分析に使ったデータは、昨年公表されたJILPTのあっせん、労働審判、和解の調査で得られたデータです。しかし、JILPTの研究報告書においては、その最後の考察のところで、

また、各制度間において解決金額に明確な違いがある一方で、各制度内においては、たとえば月収表示の解決金額において性別や雇用形態、勤続年数、賃金月額など一定の傾向が見られる要素もあるが、その中でも幅広い分布が見られ、ある一定の要件を満たす場合にはほぼこの水準で解決するといったような形にはなっていないことが確認された。これは、各当事者が具体的にどのような言動を行い、使用者側、労働者側いずれにより責任があると考えられる事案なのか(いわゆる勝ち筋事案なのか負け筋事案なのか)という、本調査研究においては調査対象となっていない事項が紛争の解決に当たっては考慮されているためではないかと考えられる。このため、これら制度における解決金額の水準が具体的にどのように決定されているかについては、こうした点からのさらなる調査研究が必要となるものと考えられる。

と書いてあるように、解雇有効の可能性が高いとか低いとかというような事案の内容に関わるデータは(少なくとも労働審判と和解については)含まれておらず、それは分からないとしか言いようがないことを明らかにしています。

ですので、記事にでてくる「労働審判で企業による解雇が無効と想定される場合」とか「企業による解雇が有効と想定される場合」というのは、少なくともJILPT調査のデータから得られたものではありません。

日経の記事では

ただ今回分析に使用したデータは解雇が有効か無効かについての詳しい情報がなく、あくまで想定であるため「特に正社員については精度の高い分析にはなっていない」(大竹教授)としている。

とありますが、そもそも「詳しい情報」であれ「詳しくない情報」であれ、解雇が有効か無効かについては、一切いかなる情報もないデータです。JILPTの提供したデータは、全体として金銭解決がどれくらいの水準であり、それが労働者の諸属性とどういう関係にあるかを示すデータではありますが、解雇の有効無効に関してはなんら有意な情報を提供するものではありません。

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コメント

確かに厚労省ウェブに公表された配布資料記載の実データから、この記事で表現された解釈レベルまで持ってくるには飛躍があり、「ある意図」を感じざるを得ません…。データの出処は資料P19「あっせん金額の推定結果 正規労働者 0.841」だと思いますが、回帰分析自体の有効性を示す決定係数r-square の値が0.153と極めて低く、妥当性に乏しい回帰分析データである物語っています。

投稿: 海上周也 | 2016年6月 9日 (木) 07時52分

データ(ある事実)はあるにせよ、人それぞれの解釈次第なのですよね。以前コメントしました通りです。
本コラムエントリ内容は、私にとってはほぼど素人な素材満載ですが、反応となるコメント分析はできるようです(笑)。
要は親和される人と懐疑される人の解釈の交差点であるとすれば、いずれの方々も自らに親和する優位性へのご提言が簡素に含まれますとはまちゃん先生も一段とやる気を見せ(笑)、私のような専門外(とはいえ深く関わらざるを得ない)の人間も便益高いブログへと進化する”三方よし”が実現可能なのですが、みなさまどうでしょ。

投稿: kohchan | 2016年6月 9日 (木) 10時10分

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